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24話 アイスコーヒーとパンケーキ




 私は店主の朗次へアイスコーヒーを頼むと、Azamiは辿々しく


「あっ、あのコーラ...... いやアイスレモンティーを一つ。」


と迷いながら注文すると顔を赤くしながらカウンターから見えない様に窓の外を眺めた。私は以前朗次から聞いていた『いつも海を眺めている』との言葉が本当は照れ臭くて外を見ていただけだと解り、なんだか可愛らしくて自然と笑みを浮かべてAzamiの事を見ていた。Azamiは私の視線に気付き少し斜め下を見ながら


「ツムギ君、そんなにジロジロと見ないでくれ。そうだよ私が可笑しな事ぐらい気付いているさ。」


「そんな可笑しいだなんて、ただ私はそんなAzamiさんが可愛らしくて好きだなぁって思っただけです。」


「き、君はアイツが好きなんじゃないのか!? 私はそんな趣味は無いぞ! 」


「そんな意味じゃないですよ。Azamiさんと友達になりたいな。って思ったんです。私の友達のサオリが言ってた意味が今なら解る気がします。」


私は自然と微笑んでいた。そして波がきらびやかに陽光を反射して私を照らしている事に気付いて窓の外へと視線をやった。Azamiはそんな私を見ると気の抜けた表情で


「そんなツムギ君も良い顔を出来るじゃないか。私も君と友達になりたいと思った。」


私とAzamiは目を会わせると照れ臭くなって笑っていた。するとその間をバターの焼ける甘い香りが通り抜けた。カウンターからはジューッと焼ける音がしだして、頼んでもいないパンケーキを朗次が焼いている。前にもこんな事があったのを私は思い出し、朗次はきっと私達と話したい事が有るのだと気付いてAzamiをチラリと見た。朗次は先にアイスコーヒーとアイスレモンティーを私達のテーブルへ運ぶと何も言わずに、またカウンターへと戻った。サプライズのつもりだろうがバレバレな状況に私は気付いていない振りをすることにした。


 幸せに成りそうな雰囲気の中で、私は窓の外で揺れる波と佇む灯台を眺めながらtime writeの事を思い出した。彼は今どこで何をやっているのだろうか。そんな単純なことを考えながらアイスコーヒーへミルクとガムシロップを注ぎ込み、少し太めのストローでゆっくりと混ぜた。


 すると予想通りに朗次がパンケーキの乗った平皿を二枚と、コーヒーカップをテーブルへと置いた。そして空いた席へ腰掛けると私の方を向いて


「このパンケーキは僕からのサービスです。そこでまたお二人には僕の話しに付き合って貰いたいと思ってね。」


そう言ってノートと鉛筆をズボンの後ろポケットから取り出してテーブルへ置いて肘を乗せて手の甲へ顎を置いた。Azamiは少し緊張を交えながらも嬉しそうに頷きながらレモンティーを飲んでいる。私も


「どうしたんです? 話しって。」


「こないだの紬ちゃんの言っていた都合が良いって話しを考えていたんだ。電気が消えたのなら僕達が生きている事がおかしいってヤツ。」


朗次はコーヒーを啜りながらゆっくりと飲み込み、カップをテーブルへ優しく置くと


「まるでSFだけどね。今僕達が受けているこの電気が消える現象を何かの影響だと考えていると、むしろ誰かの影響ではないのかと考えたんです。」


そう言いながら一輪挿しの向日葵の位置を整えた。私とAzamiは朗次の話しを黙って聞いていると、朗次は私達に気を使い


「ごめん、ごめん。気にせずにパンケーキ温かいうちに食べてください。」


私達はその言葉に頷いてナイフとフォークを手に取ってパンケーキへとナイフを入れた。パンケーキは相変わらず柔らかく簡単に切れていく。私はパンケーキの切れ端を口に入れるとバターの甘い香りが口の中に広がった。そして朗次は私達がパンケーキを食べているのを確認すると


「例えば君達の間でさ、この電気が消える現象を全く気にしていない様な人は居ないかな? まるでこの現象を体験していないかの様にしている人は。」


私は特にその様な人物は思い浮かばずにAzamiの方を見たが、Azamiも何も浮かばなかったみたいで考え込んでいた。私はそんな時にふと彼と出会った時の事を思い出した。彼は真っ暗な中で『最近、停電が多いみたいですよね。』そう言っていた事を。確かに彼は『停電が多いですよね。』ではなく『多いみたいですよね。』と言っていた。それはまるで彼自身の体験ではなく人伝に聞いた風な言い回しであった。他人事の様に。


 しかしそれも私の思い過ごしであろうと考えた。それにそもそも朗次が言っている事も根拠の無いSFの様な話しであって、そこまで真剣に考える内容でもないと一蹴した。ただこの電気が消える現象を止める事が出来るのであれば藁にも縋りたい気持ちも確かにあった。考えれば考える程解らなくなっているとAzamiは突然口を開いた。


「もしマスターが言う様に誰かの影響だとするなら、その人の気持ちは電気が消えた様に暗闇に居るのだろうか? 」


朗次はその言葉に何かを見付けた様に目を開いて訊ね返した。


「良いね。Azamiちゃん。少しだけど徐々に繋がっていく感じがするよ。何かに連動するとすればそんな事だよね。それに何か心当たりは? 」


「心当たりは無いが、例えば電気と言えばエネルギーだ。そのエネルギーを消してしまうのであれば、それは凄く消極的な事では無いだろうか? 」


私は二人の会話が悲惨な状況を巻き起こした電気が消える事態を楽しんでいるかの様に感じて、少し嫌な気持ちになった。そして二人へ


「お二人の気持ちは解りますが、私はあまりよもやま話で進めると真実から遠退く気がします。」


そう言うと水を注された朗次とAzamiは二人で私の方を見て、二人で飲み物を口にして


「普通じゃない現象が起きているんだから。真実も普通じゃないだろ! 」


声を揃えて言った。二人はそれに気が付いて目を合わせると恥ずかしそうに、また飲み物を同じタイミングで口にした。私はそれを見て可笑しくて笑いそうになったが、とりあえずアイスコーヒーを飲んで三人で黙って飲み物を飲んでいた。それからは少し無言が続いて私とAzamiは中断していたパンケーキを食べ始めた。私の中で二人が話していた事はどんどんtime writeへ繋がっていく。しかし私はその事をパンケーキと一緒に飲み込んだ。



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