19話 古びた商店と炊き出し
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もうお昼を過ぎた位だろうか私達の上に有った太陽は真上へと昇り、焼け付くような暑さになっていた。とりあえずタクヤのアパートへと着いたタクヤは部屋の前で自転車をチェーンで手摺へと繋げた。そしてポケットから部屋の鍵を取り出して先にサオリを部屋へと入れた。すると暫くしてサオリは指でOKサインを出してタクヤと私を部屋へと案内した。
長い間同じ服だったのでサオリは着替えたかったらしく、いつものミニスカートからストレッチジーンズへと履き替えて上着も動きやすいTシャツへと着替えていた。言われてみれば私は着替えていたので、そこへの気遣いのなかった自分を少し恥じた。
私達はこの電気が消えてしまった状態では逞しいタクヤと一緒に居た方が安全だと考えて、これからは三人で行動を共にしようと決めたのだ。そこでタクヤもサオリも大切な物と着替えを纏めて持ち運ぶことにした。
タクヤはキッチンの床に置いた段ボールからペットボトルの水を取り出して私とサオリへ渡した。気温が上がり汗をかいた私達は直ぐに水を飲み始めた。そして荷物を確認するとタクヤも水を飲みながら
「どうにかうちは大丈夫みたいだ。後はサオリの家も確認しないとな。」
そう言って荷物を入れた大きめのリュックサックを担ぎ肩を通した。そして私達は次にここから直ぐの所に在るサオリのアパートへと向かった。サオリのアパートはここから200メートル程しか離れていないので私達は直ぐに辿り着いた。
サオリのアパートも特に変化は無く、今日はサオリのアパートへ一泊することに決めた。そして明日は喫茶店の店主の家を一度訪ねて私のアパートへ行く事にした。
お昼を過ぎた頃合いでお腹を空かせたタクヤはリュックサックから携帯用のガスコンロを取り出して古い火打ち石を使ったライターで火を点けた。そして
「このライターなら火が点くな。」
と自慢気にアウトドア用具を次々と取り出して、ペットボトルの水を携帯鍋へと移して沸かしながらカップラーメンを並べた。サオリは
「こんな暑い日に部屋の中で窓も開けないで火を起こさないでよ。せっかく着替えたのに。」
そう言ってベランダの扉を全開にした。さっきまで自慢気だったタクヤはサオリに少し怒られて凹んで小さくなって、私はそれを見ていたら何だか可笑しくなって笑った。サオリも私の笑う姿を見て連れて笑い
「ごめんタクちゃん。そんな怒ってないから。頼りになってるから。」
そう慰め始めると、タクヤは機嫌を戻してカップラーメンを作り始めた。今はこうして電気が有る時に作った食料が有るけれど、この食料も何れ作られない限りは無くなってしまう。私はそんな事を考えると少し不安になってきた。冷蔵庫が使えない以上は食料の保存も出来ないので、カップラーメンや缶詰に頼る他に無いけれどそれも何時まで持つのか判らない。私はそこでサオリとタクヤへ食事が終わったら町を散策することを提案した。何か生き残るヒントが欲しかったのだ。
カップラーメンを食べ終えた私達は揃ってベランダへと出て風に当たっていた。そして町を見下ろし眺めている。サオリはベランダの手摺へ両肘を置いて不安気な表情で焼けた町を見て
「ねえ。やっぱり電気が無いって正直キツイね。私達これからどうなるんだろうか? 」
「大変だけど俺が何とかするから。変な心配するなよ。」
タクヤはサオリの言葉に迷わずにそう答えた。サオリはタクヤと私の顔を見ると軽く微笑み
「そうだね。まだそんなに日にちも経っていないのに弱気な事を言って。」
気を使った言葉を言った。私は何故かその弱気を見せたサオリの事が気掛かりだった。私はそんな気持ちを抱えたまま町を眺めていると古びた商店が目に入った。私は
「あの商店知ってる? あそこだったら海辺の喫茶店みたいに開けてたりするんじゃないかな? 」
そう指差すとサオリとタクヤも初めて知ったらしく、皆でその商店へと行く事になった。
私達は三人でアパートから見えていた商店へと向かう為に歩いた。近くに見えていたが歩くと意外と遠く、焼けた住宅地を抜けてもう少し歩く事になった。焦げた木材とプラスチックの臭いが混ざり鼻を付くような不快な気持ちを煽った。私は焼けた家屋へ目を向けながらも、建物の中までは見れずにいた。すると私は突然背中に激しい衝撃を受けて転んでしまい、ロングスカートをはだけさせて路上へ座り込んだ。
「すまない。少女よ。大丈夫か? 」
そのぶっきらぼうな謝罪の言葉を口にして手を差し伸べたのは、女の私が驚く程に綺麗な顔立ちをした長い黒髪の女性だった。その女性は大量の荷物を置いて私の手を掴むと笑顔で引き起こして私のスカートや服を手で叩いて埃を落とした。呆気に取られた私へその女性は
「余りに荷物が多くてな。前が見えずにぶつかってしまった、すまない。」
凄く爽やかに笑って謝罪をして、それを受け入れた私は
「いえ、大丈夫なんで気にしないでください。それより荷物が多いのですね。どうかされたんですか? 」
「ああ、これか? これは昨日この住宅街が燃えてしまって、そこの集会所へ住民達が集まってるから炊き出しをやろうと思ってな。」
「...... 。それ、私達も手伝わせてください。」
そう言ってサオリやタクヤへ了承も得ずに女性へとお願いしてしまい。古びた商店へは行かずに火災に合った住民達の居る集会所へと行く事になった。しかしサオリもタクヤもその事に不満も持たずに
「相変わらずツムリンは見掛けに寄らず強引よね。」
そう言って笑っていた。私にぶつかってしまった女性は眩しい笑顔を見せながら
「私は夢前と言う。君達の名前を教えてくれないか? 」
「私は紬って言います。糸島紬です。」
「私は東宮サオリです。」
「俺はタクヤって言います。」
「そうか、ツムギにサオリにタクヤか。皆良い名前だな。」
「荷物、自分が持ちますよ。」
「助かる。すまないな。」
こうして私達は夢前と言う女性の荷物を手分けして持ち、近くの集会所へと辿り着いた。夢前は辿り着くと壁に立て掛けていた長机の脚をテキパキと準備してガスボンベをガス台へとセットした。そして玉ねぎを私へと、じゃが芋をサオリへ渡して采配を振り鍋の準備を始めた。タクヤは大量の水を持たされ、ガス釜でお米を炊く準備を任された。その他にも数人の人間が手伝いに待機していた。




