表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/27

第8話 奴隷にも正体がバレました

そのときである。不意に部屋の隅の方から声がした。


「やはり、そういうことでしたか」

「!」


サキリアが息を呑む。俺も驚いて視線をそちらに向け、声をかけた。


「だ、誰だ……?」

「私です」


声の主はこちらに歩み寄って来た。そして窓から差す星明りに照らされると、エイノンであるのが分かった。


「これは……エイノン王女殿下」

「王女殿下はお止めください。今は王族ではなく貴方様の奴隷です」

「ええと、あの……」

「それで、その奴隷がそんなところで何をしていたのです?」


不機嫌そうなサキリアが俺の代わりに尋ねると、エイノンも見下したように答えた。


「あなたが御主人様に不埒な行いをしないか、見張っていたのです。これでも王国のために剣を取って戦場に出ていた身、気配を断ってメイド風情に気付かれないようにすることぐらい、造作もありません」

「……盗み聞きとははしたない。元王族が聞いて呆れますね」


エイノンはサキリアの侮蔑を無視すると、もう一歩俺に近づいて言った。


「最初からおかしいとは思っていました。ハミルディウス公爵家のガイアスと言えば、粗暴で下劣な放蕩息子だと、アガナ王国まで噂が聞こえていたのです。それが蓋を開けてみれば慈悲のあるお方で、私を大事に扱ってくださったのですから、どうにも解せずにいました。やはり、別人だったのですね」

「ええ、まあ……」


俺は頷くしかなかった。


「それで……王女殿下、いや、エイノンは、このことを公爵殿下に話すつもりで……?」

「まさか! 私は御主人様に引き取られた奴隷ではあっても、ハミルディウス公爵家には何の義理もありません。それどころか、ハミルディウス公爵家は我がアガナ王国への侵略にも関わっています。仮に御主人様がこのまま公爵家の嫡子になりすまして家を乗っ取るなら、私は喜んでそれに協力する立場です」

「言うなあ……」


とんでもない度胸である。王家出身だからか、それとも戦場に出ていたからか。どちらにしても俺は感心してしまった。もちろん、公爵家を乗っ取るつもりは俺にはないが……

エイノンはさらに言った。


「ところで……そこのメイドは公爵家に仕える身であるにも関わらず、嫡子の体が乗っ取られたのを主に報告する気も無いようですね。ローランディア帝国のメイドは、どうやら質が低いようで……」

「……その質の低いメイドの国に、むざむざ滅ぼされた間抜けな王国があると聞きましたが?」

「何を!?」

「何ですか!?」

「待て待て待て!!」


今にも殴り合いの喧嘩が始まりそうな雰囲気である。俺は慌てて2人を押し留めた。


「2人とも言い過ぎだ。国のことまでとやかく言うのはやめろ。そこまで行くと洒落にならないぞ」

「「……申し訳ございません」」


相次いで俺に頭を下げるサキリアとエイノン。とりあえず場が収まり、俺はほっとした。


結局、2人に正体がバレたわけだが、どちらも人に話す気はないらしい。

ということは、後は俺次第ということだ。


「……2人とも、御苦労だった。俺は大丈夫だから、今日は下がって休んでくれ。こんなところで徹夜することもないだろう」


俺がそう言うと、彼女達はお辞儀をした。


「かしこまりました、リョウキチ様」

「お休みなさいませ、御主人様」

「…………」

「…………」

「?」


だが、姿勢を元に戻しても、どちらも中々出て行く気配がない。


「エイノンさん、お先にどうぞ」

「いえいえ。サキリアさんこそお先に」

「お先にどうぞ」

「どうぞお先に」


たまりかねて、俺は提案した。


「……あの、2人とも同時に出たらどうかな?」


…………………………………………

………………………………

……………………

…………


どうしてこうなった……?


結局、折衷案として最終的に、サキリアとエイノンは俺のベッドで休むことになった。俺から見てサキリアが右側、エイノンが左側、3人がメザシのように並んで寝転がっている。

ベッドの横幅はそれなりにあるので3人寝られるが、距離は十分開いているとは言えない。少し手を動かしたら触れそうだったが、怪我のためそれができないのは幸なのか不幸なのか。


「…………」


当たり前だが、前の人生ではこうやって美女2人に挟まれて寝たことなどなかった。初めての経験に、どうにも眼が冴えて眠れなくなってしまう。


……いや、寝られないのは2人がいるせいだけではない。

俺は、明日のことを考えていた。


ついさっきまで、少なくとも怪我が治るまでは公爵家の息子のふりをして様子を見ようと、甘っちょろいことを考えていた。だが、こうやってサキリアとエイノンを巻き込んでしまった以上、そうも言っていられない。俺が公爵家の人達を騙したら、彼女達も共犯になってしまう。


やっぱり筋を通そう。朝になったら、自分はガイアスではないと公爵家の人達に伝えるのだ。それでどうなるかは、運を天に任せるのみ。

だが、どう転んだとしても、勝手な都合で俺をここに転生させた神界とやらに一矢報いられると俺は思っていた。


悪いな、ポルペネル。俺はお前の思い通りにはならないよ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ