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第7話 メイドに正体がバレました

「……様」

「ん……?」


サキリアとエイノンを下がらせ、就寝していた俺は、耳元でささやく声に起こされた。


「……様、ガイアス様、お目覚めください」

「サキリアか……」


声で相手の見当を付ける。目を開けると、部屋は暗かったが、くっつきそうな至近距離にサキリアの顔が迫っていた。驚愕して思わず声が漏れる。


「はうあ!」

「このような時刻に申し訳ございません。お伺いしたいことがございまして」

「それはいいけど……もうちょっと普通に起こせよ。びっくりするだろうが」

「…………」


俺のクレームを、サキリアは華麗にスルーした。そしてベッドの脇の椅子に腰かけて姿勢を正す。


「……それで、聞きたいことって? 明日の朝じゃ駄目なのか?」

「はい。他の者に聞かれたくないと思いまして」

「…………」


どういうことだろうか。何も言わず、サキリアの次の言葉を待つ俺。そして彼女は口を開いた。


「お怒りを覚悟でお尋ねいたします。あなたは、どなた様ですか?」

「ははっ……」


俺は苦笑して目を閉じ、枕に後頭部を預けた。この体に入って目覚めたのが、昨日の真夜中である。おおむね24時間で別人と発覚した格好になるか。


「お分かりになりましたか、サキリアさん……」

「……!」


いきなり言葉遣いを改めて話すと、サキリアは少し戸惑ったようだった。だが、すぐに落ち着きを取り戻して話し始める。


「……元々、不自然には思っておりました。いくら記憶を失っておられるとは言え、以前のガイアス様の振る舞いとあまりに違っておられましたので。前のガイアス様なら、わたくし共使用人にも、弟君のルシエス様にも、お優しい言葉をかけたりは決してなさいません」

「やはりそうでしたか……それで、別人だと確信を?」

「……いいえ。実は先程から、ここでガイアス様の寝顔を拝見していたのですが、寝言で“でざいんれびゅー”とか、“うぉーたーふぉーる”とか、わたくし共が一度も聞いたことのない言葉を何度もおっしゃっていました。それで思ったのです。やはりガイアス様が記憶を失っているのではなく、別のどなたかなのではないかと……」

「なるほど……」


おそらくサキリアは、動けない俺に夜の間何かあってはと、近くで待機してくれていたのだろう。そこへ俺が、前の人生の仕事を夢に見て、専門用語をいくつか寝言に口走ってしまったというわけだ。


「ご明察です、サキリアさん。改めて、初めてお目にかかります。自分は日本という国の生まれで、熱沢遼吉と申します」

「ニホン……リョウキチ様……」

「はい……」


もはや、何も隠し立てすることはない。「信じられないかも知れませんが……」と前置きしてから、俺は話し始めた。仕事をしていたら隕石に当たって死亡したこと、ポルペネルと名乗る女神に出会ったこと。そして気が付いたら、このガイアスの体になっていたこと……


「まさか、そのようなことが……」

「正直言って、自分でも信じられないくらいです。しかし、どうやら現実のようです。本当ならもっと早くお話しするべきでした。どうかお許しください」

「いえ、そのような……ところでガイアス様は、やはり亡くなられていたのですね」

「それについては、何とも言えません。天に召されたのか、あるいは自分と同じように、別のどこかに転生したのかも……」

「…………」


サキリアは言葉を失っていた。俺は続けて言う。


「サキリアさん。お願いしたいことがあります」

「なんでしょうか……?」

「自分はここを去ります。ついては、外への出方を教えていただけませんか?」

「はあ!? 何を言って……?」

「別人である以上、このままここでお世話になるわけには……」


俺は体を起こそうとした。サキリアがそれを押さえる。


「お止めください! そんな体で出て行って、どうなさると言うのです!?」

「しかし……」

「とにかく落ち着いてください。そんなつもりでお伺いしたわけではありません」


押し合っているうちに、あっけなく俺の体力は尽きた。サキリアに押し倒される格好で、再びベッドに体を横たえる。

そして、俺に覆いかぶさった体勢のまま、サキリアは言った。


「失礼いたしました。リョウキチ様……」

「い、いや、こちらこそ……」

「わたくしはただ、真実を知りたいと思っただけなのです。旦那様や奥様に、このことをお話しするつもりもございません」

「えっ……? でもそれじゃ、公爵殿下ご夫妻を裏切ることに……」

「ではお伺いしますが、『ガイアス様の体に別の世界の方の精神が宿っています』と申し上げたとして、すんなり信用されると思いますか?」

「そ、それは……」

「とりあえず、わたくしに対しては今まで通りに接してください。その上でどうされるかは、リョウキチ様のお考えに従いますので」


当面は秘密を守り、俺の考えを尊重してくれるということか。主である公爵への報告を怠ってまで、どこの馬の骨とも知れない俺のためにそこまでしてくれるとは、ありがたい限りだ。


「ありがとうございます……決してご迷惑はおかけしません」

「敬語」

「えっ……?」

「今まで通りに接してくださいと申し上げたはずですが? 何ですかその敬語は?」

「えっ、でも、今は2人しかいないですし、そこまでこだわらなくても……」

「…………」

「わ、分かったよ、サキリア。これからも俺の世話をしてもらう」


明らかに不機嫌オーラを出し始めたサキリアを見て、俺は慌てて言い直した。すると機嫌が直ったらしく、彼女は立ち上がって恭しい口調で言った。


「かしこまりました、リョウキチ様、いいえ、ガイアス様。どんなことでも、このサキリアに遠慮なくお申し付けくださいませ」

「あ、ああ……」


俺は頷いた。さて、これからどうしたらいいだろうか……

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[一言] (思ったより正体バレ早かったですね……!)
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