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第14話 メイドと聖女が激突しました

なめていた。

ルシエスにかけてもらったので、回復魔法というものがこの世界に存在することは知っていた。

だが、使えば気力や体力の消耗が激しく、大して実用性のあるものではないと高をくくっていたのである。

まさか、多数の人を治した実績のある回復術師が来るとは予想外だった。


俺がガイアスとして目覚めたとき、既に起きられないレベルの怪我を負っていたにもかかわらず、回復術師を呼ぶという話は出なかった。ということは、貴族として最高位の公爵家といえども、そうそう気軽に呼べる存在ではないのだろう。それが今ここにいるということは、公爵父が何か横紙破りをやったか。


まあ、そんなことは今どうでもいい。今はどうやって治療を阻止するかである。怪我を治されてしまったら、ルシエスに嫡子を譲る計画が全部おじゃんだ。

どうする……?


考え込んでいると、公爵父がパトリシエに言った。


「しっかりやるのじゃぞ。首尾よくガイアスを治せば、そなたは次期公爵の愛人じゃ。そなたの父、サンウァール男爵も喜ぶじゃろうて」


また訳の分からないことを……パトリシエは小さく「は、はい……」と答え、サキリアとエイノンは「はあ!?」と声を上げた。

いや待てよ。俺は考え直す。これは使えるのではないか。

パトリシエも、ガイアスの粗暴さは噂で聞いて知っているだろう。それでも愛人になることを了承するのは、自分を犠牲にしてでも実家と公爵家のコネをつなぎたいからに違いない。

だが、ここでもっとパトリシエに嫌われたらどうなるか?

さりげなくガイアスの鬼畜外道ぶりをアピールし、とてもついて行けないとパトリシエに思ってもらうのだ。そうすれば公爵家とのコネは諦め、治療を止めて帰っていくのではないだろうか。


とは言え、具体的にはどうしようか。じっくり考える時間も、サキリアやエイノンと相談する時間もない。

そうだ……

俺はふと思い立ち、口を開いた。


「あ、あのっ、パトリシエさんは帝都からいつお着きに?」

「たった今です。御隠居様が帝都にいらして、一刻も早くガイアス様の治療をと仰せになったので馬車を走らせて来ました」

「そ、それではさぞ、お疲れになったことでしょう。治癒魔法は気力や体力の消耗が激しいと聞いております。今夜はお休みいただいて、明朝、治療をしていただくのはいかがでしょうか……?」

「まあ……お気遣いありがとうございます、ガイアス様。とてもお優しいのですね……」

「え? あ……やばっ」


しまった。時間を稼ごうとして墓穴を掘ってしまった。早くも減点1である。


「ですが、御心配には及びません。これでも帝国軍に所属する回復術師です。いついかなるときでも治癒ができるよう修行をしております。今この瞬間から、治療を始めさせていただきます」


おまけに時間稼ぎにも失敗している。最悪だ。

剣が峰に立たされた俺は、「お、お待ちを!」と言ってパトリシエを制した。それから「サキリア」と呼んで近くに来させる。


「はい、ガイアス様。何なりとお申し付けくださいませ」

「あ……ちょっと……」


言いにくい素振りを見せると、サキリアは耳を近づけて来た。俺は小声で、「何でもいい。粗相をしてくれ」とささやく。


「かしこまりました、ガイアス様」


そう言ってサキリアは姿勢を正すと、ベッドの側に置いてあった水差しからコップに水を注ぎ、俺の口元に運んだ。そして「あっ」と言いつつ少量を俺の顔にこぼす。


「何をやっているこの馬鹿者が!」


演技をして怒鳴り付けると、サキリアはすぐに調子を合わせて床に跪いた。


「ま、誠に申し訳ございません! どうかお許しを……」

「いいや許さん! 鞭打ちだ!」

「そ、そんな……またわたくしを全裸に剥いてから吊るして鞭打ちに……」


サキリアは、パトリシエに嫌われたいという俺の思惑にすぐ気付いたようだ。罰を酷めに増幅して復唱した。


「ああ……そ、そうだ。後で裸にして鞭打ってやるから覚悟しておけ!」

「ふええ~ん!」


どーですか? 水をこぼされただけでこの横暴さ。

これだけ暴力的な性格を装っておけば、俺の治療をして愛人になろうなんて思わないだろう。

すると、パトリシエはこう言い出した。


「ガイアス様……彼女に悪気はありません。どうか許してあげてください」

「いや、そういう訳には……」

「分かりました……そこまで言われるなら、私が身代わりになります」

「えっ……?」


バサッ……


パトリシエは、あっという間に修道服を脱ぎ捨てた。下着姿が目に入ってしまい、俺は慌てて顔を背ける。ちなみに、彼女は凄く着痩せする体型だった。


「さあ、鞭打ち係の方を呼んでください!」

「いや、あの、それはそのう……」


予想外の反応に、どうして良いか分からなくなる俺。パトリシエは言われている以上に本物の聖女だった。そしてサキリアは立ち上がってパトリシエを制する。


「お下がりくださいパトリシエ様! 御主人様の鞭打ちはメイドのわたくしが受けますのでお気遣いなく!」

「無理をなさる必要はありません! ここは聖女と呼ばれる私が!」

「いいえわたくしが!」


実際にあるわけでもない鞭打ちを巡って言い争う2人。だんだん収拾の付かないことになってきた。

とはいえ、これはこれで時間稼ぎになっている。俺はあえて2人を放置し、次の手を考えようとした。

だが、その考えがまとまる前に公爵父に割って入られてしまう。


「フォッフォッ、2人ともその辺にせい」

「大旦那様……」

「御隠居様……」

「鞭打ちは半分ずつにでもすれば良いじゃろう。それよりもまずガイアスの治療じゃ」

「かしこまりました。それではガイアス様、改めて治療を始めさせていただきます」

「わああ!!」


パトリシエは俺の布団に手を掛け、取り除けようとした。

絶体絶命の縁に立たされる俺。そのとき、エイノンがパトリシエを制した。

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― 新着の感想 ―
[一言] 一応ガイアスの元性格と評判的に考えると、聖女さん覚悟してここに来てるんだろうからすぐに脱いだんだろうなぁ……
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