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第13話 聖女が癒しに来ました

翌日の午前中、俺、公爵、そしてグラッセンはケンプ先生を俺の部屋に迎えていた。

サキリアとエイノンは今回も外で待機である。どうせ決まったことは後で話すから、いてもらっても別に構わないのだが、公爵家の大事を話す場であるため、建前上、使用人や奴隷を同席はさせられないのだろう。

公爵は俺が異世界人であることは伏せ、ルシエスに嫡子の座を譲りたい旨を話した。


「そういうわけで、公爵家の嫡子変更を皇帝陛下にお願い申し上げたいのだ。ついては、ガイアスは怪我が思いの(ほか)深刻で、回復の見込みがないとしてはくれぬか? ルシエスに嫡子を譲ることは、ガイアスも納得しておる」

「ケンプ先生、無理なお願いであることは重々承知ですが、弟ルシエスが爵位を継げるよう、お力添えください。先生だけが頼りなのです」


話を聞き終わったケンプ先生は、少しの沈黙の後に答えた。


「……お話は承りました。私めも公爵家にお仕えする身。公爵殿下と御長男ガイアス様の御意見が一致しているとあらば、お断りする理由はございません。しかし、よろしいのですかな? ガイアス様の御記憶が戻らぬうちに決めてしまって……」

「確かに、まだ記憶は戻っておりません。しかし、自分がどんなことをしてきたかは少しばかり耳にしました。やはり、次期公爵にふさわしいのはルシエス。ですので、万が一記憶が戻ったときには、私が何を言い出そうとも絶対に嫡子には戻れないようにしておきたいのです」

「何と、そこまで仰せになるとは……」


ケンプ先生は驚いた様子だった。それから頷いて言葉を続ける。


「いや、ガイアス様のお気持ち、良く分かりましたぞ。どうかこのケンプめにお任せください」

「ケンプ先生……感謝いたします」


こうして、最初のハードルであるケンプ先生の説得は無事完了した。


…………………………………………


昼食の時間になり、サキリアが食事を取りに外に出た。やがてワゴンを押して戻ってくる。


「リョウキチ様、部屋の外に見張りの人が立っていましたよ」

「見張り?」

「ええ。旦那様のお許しがない限り、わたくしとエイノン以外は中に入れないよう命じられているそうです」

「そうか……」


おそらく、公爵父を俺に会わせないよう、公爵が手を打ったのだろう。後は公爵父が大人しくガイアスの廃嫡を受け入れてくれれば一件落着だが……


だが、そんな期待は脆くも打ち砕かれることになるのだった。


…………………………………………

………………………………

……………………

…………


「&%~~!!」

「@&!!」


うとうとしていた俺は、部屋の外が騒がしいのに気付いた。ドアが閉まっているので見えないが、誰かが言い争っているようだ。窓からは赤みを帯びた光が差し込んでいる。夕方か。


「何だ……?」


俺が疑問を口にすると、傍らのエイノンが体を起こす。エイノンは今日の午後から、不意の来客時に俺への絶対服従を装うため、例の裸同然の格好でベッドに入り俺に抱き付いていた。これに対して、下品過ぎる、見張りがいるのに不意の来客なんかあるわけないと言ってサキリアは反対したが、エイノンは不測の事態に備えると主張して譲らなかった。


それはそうと、部屋の外の喧騒は収まる気配がない。エイノンは「見て参ります」と言ってベッドを抜け出し、置いてあったガウンを羽織るとドアまで行って開け放った。


「鎮まりなさい! ここに誰がおられると思って……」


そう怒鳴りかけたエイノンだったが、急に黙ってしまった。


「ガイアスよ、大丈夫か!?」


エイノンを押しのけて入ってきたのは公爵父だった。続いて、部屋の外で見張りに立っていたと思しき2人の男が部屋に入り、なおも公爵父を阻止しようとする。だが、公爵父のお供らしい数人の男達によって逆に取り押さえられ、部屋の外に出されてしまった。


「お祖父様! 一体何を……?」

「ガイアスよ、聞いたぞ。マリヌスの奴めが怪我を理由に、そなたを廃嫡しようとしているそうだな!」

「あ、はい。ケンプ先生の診断によれば再起不能とのことで……爵位はルシエスに譲るしかないかと」

「安心いたせ。そのようなことはこの儂がさせん!」

「え!? それはどういう意味です……?」

「入れ!」

「失礼いたします」


公爵父が部屋の外に呼びかけると、女性が1人入ってきた。年齢は20歳になるかならないかぐらいだろうか。紺色の、元の世界で言う修道女のような服を着ていて、髪は赤っぽい。

今度は誰だ……?

もしかして、また奴隷を買って来たとか言い出すんじゃないだろうな。そう怪しんでいると、女性が口を開いた。


「ガイアス様ですね? お初にお目にかかります。パトリシエと申します。どうぞよろしく」

「ガイアスです。こ、こちらこそよろしく……」

「こやつは帝都から連れて来た回復術師でな。聖女と呼ばれるほどの腕前じゃ。先のアガナ戦役では多くの帝国軍兵士を治癒し、我が帝国の勝利に貢献しておる。今からこやつにお前の怪我を治癒させる。そうすれば廃嫡の話は無くなるじゃろうて!」

「え!? か、か、回復術師い!?」


やばっ。マジやばっ。

たちどころに、俺の全身の毛穴から冷汗が噴き出した。

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