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第11話 今後について話しました(前編)

入って来た公爵に対して、俺は「父上」とも「公爵殿下」とも呼びかけず無言で出迎えた。


「お前達は下がっておれ」


公爵はサキリアとエイノンに退出を命じる。2人は俺の顔をちらりと見たが、俺も頷いたので黙って一礼し、部屋を後にした。

そして公爵と老人は、普段サキリアとエイノンが座っているベッド脇の椅子に腰かける。俺は老人の顔には見覚えがあった。確かこの世界で目覚めた最初の夜に、公爵と一緒に入って来た人だ。


「ええと、あなたは……?」


呼びかけると、老人は俺に問い返した。


「リョウキチ様、でよろしいのですな?」


どうやら公爵はこの老人に、俺のことを話したようだ。俺は頷いた。


「はい。アタザワ・リョウキチと申します」

「ハミルディウス家にお仕えしております、家令のグラッセンでございます。お目にかかるのは二度目、ということになりましょうかな」

「ええ、目覚めたとき以来ですね……」

「旦那様からお話は伺っております。別の世界からいらしたとか」

「その通りです。信じられないかも知れませんが……」

「はっはっは。旦那様が信じたものを疑うなど、家臣としてありえませぬ。このグラッセンも、リョウキチ様のお話を信じますぞ」

「ありがとうございます……」


快活に笑うグラッセンに礼を言ってから、俺は公爵に尋ねた。


「殿下、お話をされたのは、このグラッセンさんお一人にですか?」

「妻とルシエスには話した。2人とも最初は取り合わなかったが、最後には信じた。妻もルシエスも、様子がおかしいのには薄々感付いていたらしい」


ルシエスはともかく、公爵夫人とは目覚めたときとケンプ先生の診察を受けたときに少し顔を合わせただけだった。それでも違和感を覚えたということは、余程よくガイアスを見ていたのだろう。


「……お二方の御様子は?」

「妻はさすがにふさぎ込んでおるな……ルシエスは……ガイアスを恐れる反面、どこかで慕っているところもあった。気持ちは複雑であろう。いずれにせよ、2人とも今はそっとしておく(ほか)あるまい」

「…………」


正体を明かしたことを、俺は初めて少しだけ悔やんだ。こういう気持ちにさせるのは、折り込み済だったはずなんだけどな。


「……それで、お父上……先代の公爵殿下には?」

「父上には話しておらぬ。そなたも知っていようが、父上は頑固なところがあるでな……私がどう話しても受け入れぬであろう」

「……分かりました」


俺は頷いた。確かにあの公爵父では、とても話が通じる気がしない。


「さて……」


ここでグラッセンが口を開いた。


「リョウキチ様、旦那様に正体を明かした訳をお聞かせ願えますかな? いくら旦那様や奥様、ルシエス様が違和感を覚えたとしても、リョウキチ様からお話しにならない限り、ガイアス様としてお暮しになれたと思うのですが……」

「はい……」


俺は答えた。


「ガイアス様がこの世におられぬ以上、爵位はルシエス様が継ぐべきと考えたのでございます。皆様を欺き、ガイアス様になりすまして爵位を継ぐような真似は、わたくしにはできません。ルシエス様は兄から邪険にされようとも、その兄の怪我を我が身を顧みず治されようとした、心優しいお方。公爵殿下、どうかルシエス様を新しい嫡子となさってください!」

「「おお……」」


公爵とグラッセンがため息を吐く。やがて公爵が尋ねた。


「……して、リョウキチよ。そなたはどうするつもりだ?」

「表向きは元嫡男で長男のわたくしがここにおれば、何かと揉めるかと思います。わたくしはここを去ります。公爵殿下と奥方様に頂いたこの体があれば、平民として生きても、どうにかしのげるでしょう」

「ううむ……」


公爵が唸る。グラッセンは何度も頷いてから言った。


「リョウキチ様のお志、しかと承りました。旦那様、いかがでございましょう?」

「うむ……ルシエスに爵位を継がせたいというのは分かったが……」


何だか煮え切らない。俺は尋ねた。


「何か……?」

「リョウキチ様。公爵家はそれ以外の貴族と少々違いましてな。跡取りを代えるには皇帝陛下のお許しを賜らねばならないのです」

「そ、そうなのですね……」


俺は頷いた。公爵の一存では、後継ぎは決められないということか。

それなら、嫡男を代えるための説明が必要になる。もちろん、『長男が異世界人に憑依されたので次男に爵位を譲ります』とは言えないだろうから、当たり障りのないものでないといけない。


その説明を、俺は3つばかり用意していた。


1つ目は、ガイアス本人の意志で公爵位を辞退するというもの。


2つ目は、今回の怪我を生かしたものだ。実際は3ヶ月で回復するということだが、それよりも重く見せて再起不能ということにし、爵位を継げないから弟に譲ることにする。


3つ目は、元のガイアスの素行に関するものだ。メイドへの度重なるセクハラにパワハラ、領民への暴行に加えて領内の畑に放火したという所業まで重なれば、廃嫡の理由になり得るだろう。


さて、どれで行くか。

1つ目は少々不自然なところがある。横暴で自分勝手だと外国まで聞こえているガイアスが自ら爵位を辞退するようなことがあれば、どういうことかとあらゆるところから疑いを呼ぶだろう。


2つ目は皇帝陛下とやらを始め周囲を欺かなくてはならないのが難点だ。バレたら大事だし、バレなくても、本当は動けるのに再起不能を装うのはいろいろ負担になる。


できれば3つ目で行きたい。次点で2つ目か。

俺は意を決し、口を開いた。

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