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26-6.妻の許可下りず(2)

挿絵(By みてみん)


オーテルから、気になる話を聞いた。


”お父さん。お父さんは、お父さん自身の願いを忘れています。

 お父さんにも、人間だった頃があるのです”


これじゃ、俺は、”俺が人間だった頃のこと”を忘れているように、聞こえるじゃないか。

でも、俺は覚えている。一時的には忘れたかもしれないが、今は記憶を持っている。

石の記憶を読んで思い出した。


俺が人間を辞めてしまったのは、時間を戻したからだ。


最初に転移する前、オーテルと話したころは、まだ時間を戻していない。

人間だった。


俺は、そのときの願いも覚えている。

俺は、小泉さん(洋子)が死んでしまった世界が嫌だった。

だから、樹海に行こうと思い、オーテルの声が聞こえるようになった、はずだ。


オーテルは、いきなり話しかけても、返事をくれることが多い。


「俺は小泉さん(洋子)が死んでしまって絶望したから、オーテルの声が聞こえるようになった。

 それは合ってるよな」

 

『はい』 オーテルは肯定した。


ここまでは合っている。


「俺は、小泉さん(洋子)が生きてる時間に戻りたかった。だから、時間を戻した。そうだよな?」

『はい』


これも、正しい。


確認を進める。

「俺は、”俺自身の願い”を忘れてしまったのか?」


『はい。お父さんが人間の頃の願いは、違いました』


俺が人間だった頃の願いは別のもの?

それはいったい何だ?


「俺自身の願いって何だ?」


『お父さん自身が知らなければ、願いが叶いません』


聞いても、はっきり教えてくれない……

俺の願いは、”小泉さん(洋子)が、生きてる時間に戻したい”だったと思う。


俺は、何度も行き来するうちに、”元々の俺の願い”を忘れてしまったのだろうか?

マンガのメモを読んで、歴史を変えたいってのは、有ったけど、あれは忘れたわけじゃ無い。


毎回失敗するだけだ。


それに、唯ちゃんが生きてる世界でなければならない。

それは、小泉さん(洋子)が望んだから。


俺自身の願いとは何だったのだろう?

たぶん、俺がオーテルに言ったことがあるのだろう。


もしかして、”富士の樹海よりもっと良い森に行きたい”か。

でも、あれは、小泉さん(洋子)に、二度と会えないと思ったからで、生き返らせる方法が有るなら、別に重要ではない。


でも、なんか、合わない。

そもそも、オーテルに言ったことが、本当に正しいかどうかは、わからないように思う。


まあ、俺が満足すれば行けるらしいから、それまでには思い出すのだろう。


========


また、小泉さん(洋子)の家に行く。


”今から家を出ます”とメールを送る。

手土産に何か……と思うが、まだ、スーパーは開いていない。


”スーパー”って、変な名前だよなと思う。

スーパーマーケットの略だが、”スーパー”の方を残しても何を指しているのか、さっぱりわからない。


※このおっさん。実は、なんでスーパーなのか、非常に良く理解してます。

 また忘れているだけです。21-4.スーパーなお店(1) 参照


まあ、あっちに着く頃には、開いてるだろうから、あっちで買うか。


それにしても、小泉さん(洋子)とは、一気に距離が縮まった気がする。

連続して、先週2回と、今週も土曜早々から。


ここまで高頻度でなくても良いから、たまに会う機会があると嬉しい。

いつの日か、唯ちゃんを治療して、俺はオーテルの世界に行かなければならない。


それが、いつになるかは、わからないけれど……

それまでの間、会う機会が度々あると嬉しい。


考え事をしているうちに、最寄り駅に着く。


今日も、唯ちゃんと、ベスが駅まで来てくれた。

ベスの散歩のついでだ。


「すみません、たびたび」

唯はそう言いつつ思う。やっぱり、巨大な気配がある。

どう考えても、他の人達と違う気配だ。


それを指摘すると、気配を小さくしてしまうので、指摘はしない。


----


あ、そうだ、手土産。

「なんか買って行こう。ケーキとか売ってる店とかある?」

「お店はありますけど、気を使ってくれなくても……」


『お父さん。私も、ケーキを食べてみたいです』

ベスは尻尾をブンブン振っている。


「犬にケーキあげて良いんだっけ?」

俺がそう言うと、ベスの尻尾は止まった。


「あまり良くないですけど、少しなら」

唯がそう答えると、また尻尾を振りはじめる。


そして、いつも通りこういう。

『犬ではありません、ベスと言う生き物です』

言うだけで、さほど大きな問題では無いようだが。尻尾を見る限り。


…………


「やっぱり、読むと疲れが出るみたいで。

 でも、金曜の夜まで元気だったので、大丈夫です」


小泉さん(洋子)は、ちゃんと、金曜の夜まで待って読んだようだ。

それなら安心だが。

石を読むには、力を使う。その力は、使うと無くなるので、俺が補給しに来る。


「ごめんね。せっかくの休日に」

「いや、俺はべつに」


俺は、どっちにしろ、たいしてやることなんか無いからな。

小泉さん(洋子)と会えて嬉しい。


「何が見えた?」

「うん。あとで話す」

まあ、あとでゆっくり聞けばよい。


「これ、ケーキ買ってきた」

「ああ、ありがとう。わざわざ来てもらって、お土産なんて気にしなくても」

「洋子、さっそく食べるのじゃ」

※ベスの”さっそく食べる”という意見は無視された


「ベスのリクエストもあって」


こういうとき、ベスが居ると言い訳に便利で助かる。

ベスは、小泉さん(洋子)の家の飼い犬だが、俺を”お父さん”と呼んでいる。

『お父さん、犬ではありません。ベスと言う生き物です』


そして、なぜか、口に出さなくても、これを言う。


…………

…………


栫井(かこい)君、唯の病気知ってる?」


病気になることは知っているが、何の病気なのかは知らない。

なので、こう答える。

「病気になることは」


栫井(かこい)君と同じ病気」


同じ病気になることも知っているようだ。

同じ病気って、そもそも何の病気だ?


『オーテル、どんな病気だ?』

『お父さんは、もう、だいぶ大きな竜です。体が耐えられません』

『なんで、唯ちゃんと同じ病気なんだ?』

『唯は一番大きな竜ではありませんが、とても大きな竜になります』


竜? 竜って生き物の種類じゃないのか?

『唯ちゃんが、なんで竜と関係あるんだよ』

『お父さんは、忘れています』


忘れてる? 俺が思い出す必要のあることが、何かあるのか。


そこに、洋子の質問が、

「放置すると、唯は死ぬんでしょ。栫井(かこい)君は?」


そうだ。唯ちゃんと同じ不治の病で、唯ちゃんが死ぬなら、俺も死ぬと思うのが普通だ。


「あ、ああ、病気の種類はともかく、不治の病でも俺は関係無いから」


「関係無い?」


「俺、人間辞めちゃってるから、その……死んでも関係無いみたいで」

「関係無いって、どうなるの?」


オーテルから聞いただけで、実際どうなるのかは、知らない。


「オーテル、俺は死ぬとどうなる?」

「お父さんは、死んでも自分で治せます。そんなことよりケーキを食べましょう」


「ケーキは後だ。俺は死んでからでも治せるから、手遅れにはならないみたいだけど」


なんでだ? 俺は、唯ちゃんと同じ病気。そして、俺は竜がでかくなって体が耐えられない。

俺は、爪が揃えば竜になる。竜は、でかい生き物で、人間とは別のものだったはずだ。


唯ちゃんとは関係無いと思う。


----


このとき、唯もショックを受けていた。

唯にも、栫井(かこい)とオーテルの会話は聞こえていた。


”唯は一番大きな竜ではありませんが、とても大きな竜になります”


先週、がんが転移すると聞いた気がしていたが、そうでは無いようだ。


唯は思った。体が耐えられない。

竜になる=人間としては死亡。

栫井(かこい)は、唯が竜になるのを、止める方法を知っていて、それを実行することもできる。


遺伝しているのは、ベスが竜と呼んでいる何か。


竜とは何だろう? なんで遺伝なのだろう?


----


栫井(かこい)も、唯も、考え込んでしまった。


それを見て、洋子は切り出す。

「早速で悪いけど、力貸してもらっていい?」

そう言うと、クッションを置いて、床に座る。


また、ひざまくらだ。短時間ならともかく、足が痛くなると思うのだ。


「体の一部が、触れてるだけで十分みたいだけど」

「いいわよ」


唯ちゃんも居るのに、なんか気まずい……けど、まあいいか。


俺には、変な性質があって、ひざまくらしてもらうと、なんだか妻のような気がしてしまうのだ。

俺は、小泉さん(洋子)に妻になって欲しかった……でも、なんか、こうしてると、既に俺的には脳内妻なのだ。


寝転がると、ベスが、べろんと舐めに来る。

「うわっ」

「美味しい味がします」


それは誉め言葉なのか?


「オーテルさん竜なんだってね」小泉さん(洋子)が言う。


竜のこと、どこまで知ってるのだろう?


「知ってたのか。俺、竜に生まれ変わるみたいで」

「ええ」


こんな、頭おかしいみたいな話をしても、反応が薄い。

それも知っているのだろう。オーテルが竜で、俺はその親だしな。


「あっちの世界の話、聞かせてくれる?」


「え? あっち?」

「オーテルさんと、栫井(かこい)君が行く世界」

※オーテルは、向こうからやって来た。二度と行かない


ん? なんで、そんなことに興味持ったんだ?

少し疑問に思いつつも、話しはじめる。きっと、聞きたい理由があるのだ。


何から話せばいいか……異世界な割には、こことの共通点が多い。

動物も似ている。


「熊と鹿とウサギと鳥がいた。魚も。

 そのへんの生き物は、こっちと一緒だった。

 案外普通の世界だった。

 ああ、魔法があるんだけど。雨除けの魔法があるくらいで。

 ただ、電気とか自動車とか無くて……」


そこまで話して思い出す。

そういや、武器、剣とか持ち歩いてた。よく考えたら、物騒だな。


「ああっ!!」

「え?」


「調味料が無い。塩しかない」

「何それ」

急に何を言うかと思えば、調味料。


「無いんだよ、本当に。砂糖も無い。料理の味が寂しくて。野菜はだいたい雑草風味。

 調味料が無いことが、どれだけ厳しいか」


この話を聞いて、洋子は急に現実味を感じてきた。


栫井(かこい)君は何してたの? 竜だったの?」


「俺は人間だったと思うけどな。

 そもそも、竜なんて居たかな?」


そう言うと、ベスが口を挟む。


「お父さんは、お母さんと会っています」


(おれ)は、”(おれ)(りゅう)の妻”と会ったことがある?


そのとき、石の情報が読めた。

何かでかいやつに、でかい物を強奪された。


「ああ、そうか。でっかい熊を強奪された気がする」


「お父さんは、お母さんにプレゼントしたのです。求愛の行動です」


ベスはこう言うが、俺的には、そんな気はぜんぜんしていない。


いや、俺は求愛のつもりは無かったと思う。騙された。

騙されたと言う気持ちが強く残っている。


そう思ったとき、小泉さん(洋子)が、言う。

「騙された?」


「え? もしかして、俺が考えてることがわかる?」


「う~ん? やっぱり、もしかしたら、栫井(かこい)君に反応して、石が読めてるのかな?」


”やっぱり”……思い当たることがあるようだ。

ああ、だから、あっちの話を聞きたかったのか。

ってことは、先週の時点で、俺を通して何かが読めてたってことか。


なるほど、逆に、俺が、小泉さん(洋子)を通して、小泉さん(洋子)の石の情報を、得ることも、できるかもしれないのか。

本格的に、石の内容を読むつもりなのか……


もしかして、もう一度時間を戻すつもりなんじゃ?


----


洋子は、違和感を感じていた。

栫井(かこい)は神様をやっていて、今はこの世界に居る。

そして、次に、オーテルの世界に行くのかと思っていた。


”石には未来の出来事も入っている”

だから、未来の出来事が見えたと思っていた。


ところが、オーテルの世界のできごとも、既に現在の栫井(かこい)にとって、過去の出来事のように思える。


唯が、神様を返せと言われたのも同じで、オーテルの世界から、一時的に戻ってきている状態なのかもしれない。

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