表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
90/115

25-21.特別な場所、樹海の神殿

挿絵(By みてみん)


”あとで話すから”

そう、唯はいきなり聞かされたのだ。

唯が死んだこと。てっきり、これから死ぬものと思っていた。


「お母さん、さっきの話だけど……」

「ええ」

「私死んじゃったの?」

「ええ。たぶん2回」


覚悟はしていたが、唯はショックを受ける。

「死ぬとバツが付くの?」

「え?」


いきなり言われて戸惑う。

バツが付く? 死ぬとバツが付くなら戸籍のこと?

「戸籍の話?」


「うん。たぶん。わたしはバツ2ってこと?」


「え?」

まさかの、この答えに、洋子もちょっとショックを受ける。


確かに、2回死ねば、戸籍上×が2回付いたので、累計ではバツ2になる。

だが、それを言ったら、洋子は2回の離婚と1回の死亡でバツ3になってしまう。

それに、時間を戻しているのだし、同じ書類に死亡による×は二度付かない。


「死んだときのバツはカウントしないし、一回死んだらリセットよ」

少し声が震える。

※実は、洋子はけっこうバツイチを気にしていた


誰がそんな下らないことを教えたのかと思うが、栫井(かこい)しか居ない。

時間を戻したり、唯が死んだことを知る者が居ないわけで、栫井(かこい)以外考えられない。

だが、栫井(かこい)が、わざわざ、唯にそんなことを言うだろうか?


もしかして、石の記憶? 唯も石を読んでいる?

そう思うが、その割には唯は肝心のことを知らない。


栫井(かこい)君ね、時間を戻したのよ」

「え?」

唯は、いきなり話が変わって驚く。


ところが、その続きにも驚く。

「私が死んだとき悲しんで」

「死んだとき?」


唯だけでなく、母(洋子)も死んでいた。


「ええ。私が死んだとき、栫井(かこい)君が悲しんで、時間を戻した。

 でも、次もうまく行かなくて、あなたが死んだあと、私も死のうとしたら、助けられて。

 そのときオーテルさんと話をして、また時間を戻した。


 そして、今度は、ようやく死なずに会えた」


ようやく死なずに会えた。……今までと何が違ったのだろう?


「ベスと会えたからじゃ」


「え?」

ベスがベスと会えたからと言った。


「そう。ベスと会えたから」

さらに、母(洋子)も言った。


「妾が頑張ったおかげじゃ。ほほほ」


唯は若干イラっとした。


「嘘みたいでしょ。私はね、石を持ってて記憶が読めたの。

 普通だったら、そんな記憶が蘇っても、頭がおかしくなったかと疑うのだけれどね。

 喋る犬と雨に濡れない神様が居るんだから」


「ベスの体が無いと、人間の言葉を喋ることができぬ故」

「ベスの助言が無いと、栫井(かこい)君に会えないみたい」


「唯にもわかるじゃろ。神は気配だけで分かるわ。

 それがわからんとは人間は愚かじゃの」


「え? わかるの?」 洋子が反応する。


「私は分かる。栫井(かこい)さん、たぶん人間で居たい神様なの。

 でも、神様で結局バレちゃう」


洋子は、自分より唯の方が今の栫井(かこい)を良く知ってそうで、微妙な気持ちになる。

なんで……そうだ。あれの情報源を聞いておかないと。

気持ちを切り替えて尋ねる。

「あなたは、なんで、モテモテなこと知ってたの?」


唯は、妙なことを気にすると思いつつ答える。

「ああ、あれは、公園で寝てたとき、雨漏りの神様を囲って集まってる

 女の人たちがいるのが見えて……神様を返せって言われた」


「え?」

「お母さんは返せって言われなかった?」


「ええ」


記憶からメッセージを受け取るということは、唯の方が洋子よりも、石の記憶をより深く読めるのかもしれない。


「なんで”返せ”なのかしら?

 私が解放したら、その世界に行くのかと思ったのに。

 ベスならわかる?」


「妾も、順番は、ようわからぬ。

 お父さんは、妾の世界に来るとき、はじめは人間の格好をしておるのじゃ」


「はじめは?」


「お父さんは、一番大きな竜、史上最強の竜じゃ。さすが妾のお父さんなのじゃ」


「竜って?」


「妾は竜じゃ」 喋る犬が言う。見た目的に、あまり説得力が無い。


ただし、唯はちゃんと覚えていた。

ベスは確かに初めて会った頃、竜だと言っていた。”竜は竜に名を付けないと”。

「ベスは、竜は竜に名を付けないって言った」

「そうじゃ、竜は竜に名を付けぬ」


「じゃあ、オーテルの名前は?」

「お父さんがそう呼ぶのじゃ」


「竜は竜に名を付けないけど、栫井(かこい)さんは別なの?」

「どうかの? お父さんは、自分が竜だと気付いておらぬ故」


「私には人間に見えるけど」

洋子が言うが、唯は、この洋子の言葉に引っかかる。


唯は気付いてしまったのだ。

栫井(かこい)の姿は、見えている物と異なるかもしれないことに。


「唯の病気を治したら、お父さんを解放して欲しいのじゃ。

 洋子、お主が許可しないと、お父さんは何もできなくなるのじゃ。

 お主が先に死んだら何もできぬ。

 故に、時間を戻すしか手が無いのじゃ。

 お父さんは、お前の神じゃ。妻が良いと言わねば死ぬこともできぬ」


そんなことを言われても、洋子は困る。

「奥さんが死んでもいいよって言うの?」


「妾の母も言うことになる。言わねば死ねぬ」


「そんなこと言えない」


「はじめに言うのは洋子じゃ」

「私は嫌よ」


「言わねば死ねぬ。お前が良いと言わねば、永遠に死ぬことができぬ」

「なんで私なのよ」


「お前が神にしたからじゃ」


確かに神にしたのは洋子だ。時間を戻せば、人間では無い。


「早う思い出せ」


この言い方、栫井(かこい)君の寿命には時間制限がある?


栫井(かこい)君、寿命が迫ってる?」


「妾の話を聞いておったか? お主の許可が無ければ、死ぬことができないのじゃ」


それだと急かす意味が分からない。思い出せば納得できる理由がある?


「お母さん、私の病気は?」

「それが、病院に行っても、助からなかったことしか、わからなくて」


栫井(かこい)さんと同じ病気で死ぬんでしょ」

「そうじゃ」

「遺伝なんでしょ?」

「そうじゃ。妾は遺伝の意味は知らぬが、お父さんが、遺伝だと言うておった」


「なんで、栫井(かこい)君の病気が唯に遺伝するのよ」 洋子が突っ込む。


「そんなこと妾が知るか! お父さんに訊くが良い」


さすがにそれは、敷居が高いと言うものだ。

洋子が裏切って、他の男と結婚してできた娘が唯なのだ。


唯も、さすがにそれは聞けないと思った。

……そもそも、高校一年生に、まだちょっとこの話はキツイ。


栫井(かこい)が父親だったら、いろいろ繋がるのに、母(洋子)には、全く心当たりがないという状況だ。


結局、話は聞いたものの、よく分からない。

唯の病気でわかるのは、栫井(かこい)と同じ病気で死んだこと。病院に行っても助からなかったこと。


栫井(かこい)さんは、その病気で死なないの?」


「神は死んだくらいのことで死なぬ」


妙な話だが、死んでも生き返るのかもしれない。

死んでも、死んだという事実が消されてしまうのかもしれない。


栫井(かこい)は、自分は死なないし、唯を治すこともできる……洋子が頼めば。

でも、そのかわりに、形見を渡して解放しなければならない。


…………

…………


あまり目新しいネタは無かったが、石について分かったことがあった。

洋子が持っている石のことだ。

その石は、体のどこかにあって取り出すことはできない。

唯が死んだあと洋子が絶望して後を追った。洋子が死のうとした時、石が体の一部になった。

その石は、唯が死んだとき握りしめていたもので、唯たち母娘を助けてくれること。

オーテルが現れて、栫井(かこい)が洋子が死ぬのを阻止した。

そして、時を戻した。


「ベスは? 前回ベスは何してたの?」


「失敗して、他の人間に捕まってしまったのじゃ。

 逃げだしたのじゃが、唯と会う前に車と言うのに殺されてしもうたのじゃ。

 妾に竜の体があれば、あのようなもの踏みつぶしてやるのじゃが」


竜って、そんなに大きなものなんだと納得した。


栫井(かこい)さんも、そのでっかいのになるの?」


「お父さんは一番大きな竜、でかいぞ。間違いなく一番強い。

 じゃから、戦うことはあまり無いのじゃ。

 勝てない戦いをするような者など滅多に居らぬ故。

 しかも神じゃ、妻が良いと言うまで死ぬことはできぬ」


「お母さんとオーテルは、どうやって話をしたの?」


「あのときは話が出来たんだけど、どうやってたのかしら?」

洋子は話の仕方を忘れているようだ。


「声でなくとも話ができるのじゃ」


ああ、アレのことだ!

唯にはすぐわかった。あれを洋子も使うことができたのだ。


…………

…………


今日はベスが良く話すので、いろいろ聞きだした。

ただ結局、オーテルの言うことは同じで、洋子が思い出せば、唯を助けることを栫井(かこい)に望み、

形見を渡して栫井(かこい)を手放す予定になっている。


洋子には心配事が増えた。


栫井(かこい)はだいぶ先のことのように言っているのに、オーテルは急ぎのようだ。

ただし、ベスは我慢できない子なので、あまり時間の感覚がしっかりしていないだけかもしれない。


散々苦労して、ようやく会えたのだ。そんなに簡単に手放したくない。


========


一方、こちらは、栫井(かこい)とオーテル。

この日はあっさり帰る。


『洋子は、お父さんを解放します』


「オーテルが娘で、これから生まれるなら、まあ、そうなるのだろう」


『そうなります』

「なんでお願いされないとできないんだ?」


『お父さんが神であるとき、人間の勇者が居ます。勇者はお父さんを送り出すことができます』


大鎧の書か。

やっぱり、そこに行きつくのか。


「それって、オーテルの世界の話だよな」


『お父さんのことを書いたものです』

「俺の話で、俺が世界を移動しただけで、どっちの世界でも一緒なのか」


勇者が小泉さん(洋子)だったら、俺を神にしたのは小泉さん(洋子)だ。

正直、勇者の話は引っかかっている。

時間を戻したから、俺は人間では無くなってしまった。


だから、小泉さん(洋子)が勇者で俺が神様だとしたら、いつか一番大きな竜になる。


でも、俺は自分でも変だと思っているのだ。

俺は時間を戻した。そんなことができるのは人間では無い。

だから、自動的に神になる。そこは、まあ置いておこう。


俺は、小泉さん(洋子)が死んだことを知ると時間を戻したと言う。


だが、好きだった人が死んだとして、俺は時間を戻したりするだろうか?

そんな自分勝手な理由で時間を戻すような存在が居るとすれば、それは人間では無く神であるような気がする。


でも、俺は自分から神になったりはしないと思う。


だから、問題はその前だ。


小泉さん(洋子)が死んだら、俺は絶望するかもしれない。

でも、俺は恐らく、生きていることが嫌になったら、死を選ぶなり、どこかに行くなりすると思う……


神になることを選ぶことは無いと思う。


たぶん俺が時間を戻した理由は、小泉さん(洋子)が死んだからじゃない。

俺がなぜか延々小泉さん(洋子)に執着するのは、何か理由がある。


大鎧の書に関係がある?


----


 神がいる場所が神殿であり、神が住めば聖域となる。

 勇者は神が選ぶ。

 神殿には竜が住む。神殿に住む一番大きな竜が人になった。


 一番大きな竜が人になるとき、尾は剣に、牙は盾に、爪が鎧と兜になった。

 決して壊れることは無い。


 迷宮の竜が導く。


 勇者は神に力を与え、

 神は一番大きな竜になった。


----


そもそも、どこがはじめで俺はどの段階に居るんだ?


「俺が住んでいても、俺の部屋は神殿じゃない。聖域でも無い」


『はい。お父さんは、この世界の神様ではありません』


「この世界に神殿は無い?」


『神殿は有ります。新しい神殿が作れません。

 お父さんは、この世界で竜の神様だったことが1度だけあります』


「俺は、この世界で完全な神であったことがある……

 そのときに1つだけ神殿を作ったということか」


『はい。この世界には、神殿は1つだけです』


それが特別な場所……樹海か。

俺が行き来できるのが不思議だったが、俺の神殿がある世界を行き来してるのか。


『お父さんは、自分が神であることを忘れています』


俺は認めたくないが神様になってしまったとは思っているのだ。

忘れたくても忘れられないと思っている。


一体どういうことだ?


「俺は元々こっちの人間で、こっちでの用事が終わったらオーテルの世界の神様になる。

 これで合ってるよな」


『はい。その通りです』

「人間の頃の俺は自由に死ぬことができたんだよな。今は死ぬことすらできない」


『はい。そのとおりです。今のお父さんは死んだくらいで死ぬことはできません』


言い回しが変だが、要するに不死ということだ。

だったら簡単だ。


俺は、小泉さん(洋子)が死んだから神様になったわけでは無い。

この世界で完全な神だったことが一度だけあるとすれば、それが俺が人間を辞めた時。

小泉さん(洋子)が死んだのではなく、他の理由があったはずだ。


ただ、場所が樹海だと言うのがおかしい。

俺は樹海に行くと、小泉さん(洋子)を、生き返らせようとするような気がする。

一般的に言って、樹海は人を生き返らせるために行くところではない。


俺は何度も小泉さん(洋子)を生き返らせて……どうも、形見を貰うために生き返らせている感がある。

俺が唯ちゃんの病気を治すことができるのなら、勝手に治せば良い。


小泉さん(洋子)が唯ちゃんを助けてと願う必要が有るというところがおかしい。

勝手に治すことができないという制約があるのではないだろうか?


「もしかして、俺が異世界に行く許可を貰うのが目的なのか?」


『なぜわかりましたか。さすが私のお父さんです。

 お父さんは、洋子の許可が欲しかったのです』


元々、小泉さん(洋子)が許可をくれなかったから?

いったい何の許可だ?


俺が時間を戻してまで必要とする許可。

そもそも俺と小泉さん(洋子)は何なんだ?


俺が小泉さん(洋子)を勇者にしてしまった。

小泉さん(洋子)は俺に力を与え、俺は神になった。

神殿は樹海にある。


樹海か……あんまり観光で行くとこじゃないよな……


※実は凄く観光地です。自殺専用みたいに思っちゃいけません。

 自殺しに行っても、観光地でしらけますよ!


「オーテル。俺も小泉さん(洋子)も唯ちゃんも幸せになるのか?」

『はい。そして、人間も竜も幸せになりました』


「オーテルは?」

『私も幸せになります。お父さんが来ないと私は生まれることができません』


そうか……


俺は勇者とか神様とか嫌いだ。

でも、やるか……仕方が無い。小泉さん(洋子)と唯ちゃんとオーテルが幸せになるなら。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ