23-9.大鎧出現(2)
暇なので、鎧を調べる。
俺が触れるのは石と、この鎧だけだから。
大鎧の伝承的には、”鎧”の他に、”剣”と”盾”、”兜”があるはずだが、ここには、鎧の上下だけしかない。
”大鎧”、たぶんこれのことだと思う。
さっきの石から読めた、”大鎧の伝承”は、こうだった。
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神がいる場所が神殿であり、神が住めば聖域となる。
勇者は神が選ぶ。
神殿には竜が住む。神殿に住む一番大きな竜が人になった。
一番大きな竜が人になるとき、尾は剣に、牙は盾に、爪が鎧と兜になった。
決して壊れることは無い。
迷宮の竜が導く。
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”装備全部集める話だったら有りがちだな……”
そんなことを、考えながら思った。
これってフラグか? 俺はこの装備、全部集める旅でもするんだろうか?
この大鎧というやつは、俺が着けるのに、ちょうど良い大きさだ。
これ着て丁度良いなら、俺が大鎧じゃないか?
そんなことを考える。
竜が人になった神様とか、中二っぽくて萎える。
そういうのには、年齢制限があると思う。俺の歳で中二病持ちはアウトだ。
暇なので、装着してみる。
ぬう、装着にもコツが要る系だ。
こんなん着たら歩きづらい。幸い重くはない。
まあ、動けないことはないが。
……あれ? もしかして、これってアレか、幽霊ホイホイ的なもので、暇で着ると捕まっちゃう?
俺が”一番大きな竜”なのか?
ここが神殿で、俺が人になったから鎧が出てきた……なんてことはあるのだろうか?
俺には、日本に住んでて、人間だったという記憶がある。
そして、竜だった、という記憶は無い。
竜と言うのは何かの例えで、”凄く強い何か”くらいの意味なのだろうか?
まあ、俺が強かった記憶も無いが。
もう一度、石に触って確認する。
”神がいる場所が神殿であり、神が住めば聖域となる。”
ここが神殿だとして、俺が、ここに居る。
”一番大きな竜が人になるとき、尾は剣に、牙は盾に、爪が鎧と兜になった。”
やっぱり、”俺が人になるとき”出てくるのが、この鎧なのではないか?
だんだん心配になってきた。
俺は、竜だか神だったのが、人になったのだろうか?
俺には尾が無いが剣は無い。
それと、勇者というのが分からない。
俺は今まで竜だった?
俺的には、横浜で、サラリーマンやってた記憶しかない。
いや、住んでたのが横浜で、職場は東京だから、東京のサラリーマンと言うべきか。
つまらないことで悩んでいたら、何かが動いた。振り返ると人が居た。
そのときふと気付く。
竜が人になった者?
今の俺は、いったい、どんな姿をしているんだ?
俺は竜が人になったやつなのか? 自分の体がはっきり見えない。
そもそも俺、服着てるのかな?
何故か、俺は、俺自身が服を着ているかわからない。
体は有るのに、形がはっきりわからない。
やっぱ幽霊だから仕方ないのか?
視界の端に、走り去る人影が見えた。
見ると、さっきの女の子が逃げていくところだった。
ん? 俺を見て逃げたのか? 見える?
外を見ると、女の子と目が合う。
いや、鎧を見てる?
物陰から凄い勢いで見てる。
なんか、女の子が増える。
俺を見てる?
見えるのか?触れないのに……
良かった。この鎧があって。
仮に、俺が服を着て無かったとしても、大事なところは、ちゃんと隠れてるから安心だ。
女の子たちが何か喋ってる。俺には聞こえないけど。
なんか、ますます人が集まってきた。
ああ、俺が見えなくても、鎧は見えるから、むしろ、おかしなことになってるんだな。
手を振っても、視線が動かないけど、歩くと視線が追ってくるので、たぶん空の鎧が動いてるように見えているのだろう。
この鎧は胴だけで、腕や足のパーツは無い。
だから、自由に動けるわけだが、しゃがむのは難しい。
うん? けっこう動けるな。なんだこの鎧。
腹のあたりとか、腰のあたりは、だいたいジャラジャラした可動パーツで、良く動く。
目立つところが一体成型でフルプレートに見えるだけで、これをフルプレートとは呼ばないのかもしれない。
俺が鎧に詳しいわけもなく、この鎧が分類上、何になるかはわからないが。
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一方、その場に居た女達は、急に現れた鎧に驚く。その上、鎧が動く。
もちろん、この場に居る女達は知っていた。
ここは、いつか来ると言う、大鎧様を、お迎えするための施設だ。
それでも、予想外のことに驚く。
「キャー! よ、鎧、鎧、出た」
「なに?」
「鎧が?」
「鎧だけじゃない、大鎧様よ!」
「どこ?」
「あの鎧、誰かが着てるでしょ」
「え? 大鎧様も? 見えないだけ?」
てっきり、鎧を着た男が来るか、鎧だけが来るかと思っていたら、"鎧"と"見えない男"が来たのだ。
「たいへん、早くお知らせしないと」
「本当に来た……ただの御伽噺じゃないんだ」
皆、大鎧様、あの鎧を着ている者を、見ようとするが見えなかった。
「ええ? 見えないの?」
「どんなお姿なのかしら?」
世話役の女達は緊張した。
竜が人になった者。どんな姿をしているのか、誰も知らない。
憧れと恐怖の、両方があった。
世話役たちの、この反応には理由があった。
ここ、神殿跡地と呼ばれる場所は、竜と何らかの関係のある場所だ。それは皆知っていた。
その中でも、ここは特別だった。
実際に、"竜が訪れたことが確認されている場所"なのだ。
通常、竜は人と関わらない。竜は人と約束などしない。
ところが、あるとき、竜の遣いが現れ、大鎧を探すことを条件に、
"領地に危機が訪れた時には助太刀に入る"という普通に考えたら有り得ない約束をした。
領主は、即、大鎧捜索の準備を進め、それに対する交換条件として、約束を守ると言う証拠に実際に竜を見せろと迫ったところ、あっさり竜がやって来た。
この竜は、迷宮の竜、ディアガルドと呼ばれていた。
その迷宮には、以前から竜が住み着いているという噂があったが、実際に、迷宮内で竜を見たものは居なかった。
竜というのは、ときおり目撃されることはあるが、ほぼ伝説上の生き物だった。
ところが、この、”迷宮の竜ディアガルド”は人の前に姿を現した。
この場所に、実際に姿を現したのだ。
実際の目撃者は、周囲の警備や住民を含めても30~40人程度だったが、この人数が同時に目撃したとなると、もうそれは確実に事実として扱われる。
目撃者には、行商人や、ダルガンイスト側に近い者も含まれていた。
竜が出たことは、瞬く間に広がり、誰もが知ることとなった。
領主にとっては、竜を呼び、密偵に目撃させることができれば、ひとまず作戦は成功だった。
ダルガンイストは、過去、竜の攻撃を受けたことがあり、その絶大な破壊力を恐れていた。
だから、竜が森の側に付いていることを示せれば良かった。
そして、約束自体については、この時点ではまだ秘密にされていた。
大鎧は人間の妻を持つ。
そして、人間の妻を大変大事にしていたので、森の者が、妻に選ばれれば、森は当分安泰だということを現領主は知っていた。
そのため、大鎧を捕捉し、一早く森で妻を娶らせるための計画が実行されていた。
その第一段階が、このオーテル神殿跡地のトラップであった。
そこに若い女を多く集めた。
簡単な仕事で報酬が良いので、多くの女が集まったが、ここでやる必要性の低い仕事内容と、若い女だけというところで、どうも様子がおかしいということに気付く。
おまけに、水浴びしてから来いなどと、どうも、女達の容姿や身だしなみに関する縛りが多い。
そこに、大鎧の人間の妻の話が、中途半端に漏れ、生贄の噂が流れる。
いつか竜が現れて、ここで働く女たちは生贄になる。
一度流れた噂を消すのは無理だったため、大鎧は、人間の若い女を好むが、元気な女達を見るのが好きな、大人しい神様だと説明された。
仕事の内容と説明が一致していたため、女達は説明に納得し仕事をつづけた。
人知れず神殿の中から、自分たちの仕事っぷりを、眺めているものだと思っていた。
ところが、本当に大鎧が現れたのだ。
生贄の不安が蘇る……ところが、大鎧は女達を見ているだけで、何もしてこない。
本当に、元気な人間の女達を見るのが好きなだけの神様なのではないか?
むしろ、今こそ元気な姿を見せるべきなのではないか……と騒ぎ始めたのだった。
「せっかく見に来てくださったんだから、いつも通りに」
「そうね。いつもどおり」
と、いつも通りが戻り始めたことろに、突如、踊り出す女が。
”大鎧様が出た!! 何かお喜びになることをしなくちゃ”
その娘は変な方向に、はっちゃけた。
「やめなさいよ」と、止めに入るが、
「でも、元気な姿をお見せしないと」
そう言われると、どうするべきか悩む。
いつも通りの元気な姿を見せるのと、下手な踊り見せるのとでは、いつも通りの方が大鎧様がお喜びになるのでは?と思うが、大鎧様は踊りを見ているように見えた。
そのとき、大鎧を着けたおっさんは、ぼけーっと、その光景を見つつも、実は心では大変大きな衝撃を受けていた。
何の前触れもなく、女が一人踊り始めた。
余程緊張しているようで、左右互い違いに動かすところが、揃ってしまって、ちょっとスリラーに似ていた。
どうやら、自分を歓待するために、一生懸命下手な踊りを披露してくれているようだ。
その健気な姿に、心打たれた。
このおっさんは、今まで自分のために、誰かが踊ってくれるという体験をしたことが無かった。
※一般的に、そういうのは、あまり無いと思いますが
多くの人に向けての、上手い踊りなら、テレビでいくらでも見られる。
下手でも、頑張って自分のために踊ってくれるのを見る機会と言うのは無かった。
超若い女の子が、しかも下手なのがツボに嵌ってしまった。
自分の名前も忘れてしまった、このおっさんは、たちまち踊りに魅了される。
魅了の魔法かと思うほどに、効果覿面だった。
ぐふっ(エア吐血)、超かわええ。
このスリラーの娘、超かわええ。攫ってしまいたい気持ちでいっぱいになる。
やべえ、こんな娘に”私を助けて”とか頼まれたら、絶対に断れない……
「大鎧様、あの子の踊り見てない?」
「そうみたい。私も踊った方が良いのかな?」
ひとり、またひとりと、踊りの女が増えていく。
「わたしも。どうやって踊るの?」
踊り自体はテキトーなものだったが、時間と共に、だいたい揃ってくる。
少し時間が経つと、ローテーションがはじまる。
後から加わった目立ちたい女が、元から踊っていた女を追い出す形だったが、はじめに踊り出した娘はもうバテバテだった。
最初に踊り始めた娘は、一度始めた踊りを、いつ辞めて良いのかわからず、困っていたのだ。
裏を回って踊りの列の最後に付き、しばし休む。大鎧様の前だけ、女が絶えず踊り続けるようにした。
そのとき、おっさんは、釣られまくって、”もう、この森の守り神になっても良いかもしれない”とか思いつつも、ちょっと困っていた。
踊りに気を取られているうちに、足が固まったかのように、動かなくなってしまったのだ。
”しまった、罠に嵌った”
罠に嵌りつつも、謎の決意をする。
”俺は、この娘達の踊りが続く限り、見続ける!!”
おっさんは、良くわからない方向に闘志が湧いたようだった。
※後に、おっさんが、事あるごとに、女達の踊りを見る刑に悩まされる原因はコレです。