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25-14.雨に濡れない体質(1)

挿絵(By みてみん)


『勇者は、後で考える。それより、唯ちゃんが、あっちの子ってどういうことだよ』


『唯は、だいぶ、育ちました。お父さんの気配を感じることができます』


育ちました?

その言い方だと、俺が子供を攫ってきたみたいじゃ無いか。


攫ってきたのか?


『俺は、あっちの世界から、赤子を盗んできた?』

『違います』

『うん。俺もそう思った』


さすがに攫ってきたりはしないと思うのだ。

だとしたら、“育った“と言った意味はなんだ?


『洋子が勇者であるとき、お父さんは神です』


また、神と勇者の話だ。小泉さんが勇者?

俺は、単に、小泉さんのことが好きだったから、死んでしまって絶望したと思っていた。

もしかして、そんなのはどうでも良いくらい、何か特別な関係があるのか?


『小泉さんが勇者だとして、それと、唯ちゃんに何の関係がある?』

『神は願いを叶えます』


俺は、唯ちゃんの病気を治して、妻の形見を持って、オーテルの世界に行くことになっている。

小泉さんが、唯ちゃんの治療を望むと俺が神になるのか?


『俺が唯ちゃんの病気を治すんだな』

『治せるのはお父さんだけです』


どうも、俺が治す必要が有って、その都合で唯ちゃんがあっちの子なのか?

俺には理解できないような、難しい問題があるようだ。

そのあたりの経緯は分からないが、確かに、唯ちゃんには他の人間とは違う気配がある。


『まあ、確かに、唯ちゃん、ちょっと気配あるみたいだし。

 それにしても、オーテルとそっくりだな。オーテルのが写ったのか?』


『お父さんは遺伝だと言いました』


ん? 俺は過去にオーテルと唯ちゃんの気配の話をしたことがあるのか。

それにしても、なんで、オーテルから遺伝するんだ?


『なんで、オーテルから遺伝するんだよ』


『私は分かりません。ですが、お父さんは遺伝だと言いました』


ぬう。意味を理解しているわけでは無いのか。


----


唯は、日頃からの寝不足もあり、いつのまにか寝ていた。

栫井(かこい)の傍は、安全地帯と言う感じで、気が抜けやすかった。


その理由が、気配と関係あることに気付く。


そして、気配に気付けば、さらに、音では無い話し声にも気付く。

さっきまでよりも、はっきり聞こえる。


『ですが、お父さんは遺伝だと言いました』


栫井(かこい)と誰かがしゃべっている。


寝ぼけつつも、話相手が誰だか気付く。ベスだ。


え? これってベスなの? 敬語で話してる。

凄い違和感がある。


唯の知るベスの口調は、“妾がそのようなこと知るか、このたわけが!!“

みたいなもので、敬語を話せるとは思わなかった。


”あっちの子”って何だろう? 遺伝?


ときどき聞き取れる、この声のようなものはなんだろうか?

栫井(かこい)とベスは声無しで会話している。


おそらく、唯についての話だ……


----


『もしかして、俺が俺の娘を無理やり連れてきたから病気になるのか?』


『違います。お父さんと同じ病気です。もっと特別なものです』

『特別? あ、俺が連れて来たんじゃ無くて、自力で転移するのか?』

『それは、特別が過ぎます』


『で、病気なら、病院に行けば』

『行きました。洋子が言ってました。

 この国は病院が高額何とかだから、貧乏人でも病院に行くことができるのです。

 でも、無駄でした。行きましたが死にます。

 でも、行けば、死ぬのが少し遅くなるかもしれません』


年々自己負担が増えてはいるが、医療費が一定額を超えると、残りは公費で負担してくれると言う制度がある。

この社会をほとんど理解していないオーテルが言うとリアリティーがある。


この話は事実だ。元々オーテルは嘘を付かないが、確実にオーテルが見たことだということが良く理解できた。


俺は、いずれ、小泉さんに、この話をしなければならない。

そして、唯ちゃんを治療して、オーテルの成仏を見届けてから、あっちの世界に行く。

小泉さんのパンツを持って……


なにか特別な意味があるのかもしれない。ボロボロで洗ってないことにも。


パンツの意味が分からないが、あれの威力は身をもって体感した。

おれはあれを受け取ると、異世界に行ってしまうのだと思う。


小泉さんは勇者なのかもしれない。


大鎧の書の一部分を思い出し、納得する。


”勇者は神に力を与え、

 神は一番大きな竜になった”


小泉さんが勇者で、勇者が俺にパンツを渡すと、俺は一番大きな竜になる。

一番大きな竜は、神殿に住む神様だ。

凄く……極めて残念な神様だけど、もし、仮に、俺が神様だとしたら、初老女性のパンツをもらって竜になる神様かもしれない。


俺は、神龍(シェンロン)になって、ギャルのパンティを所望される役かと思ったが、逆なようだ。


小泉さんはギャルどころか、初老(=40歳)だけど、パンツが妻の形見になるなら、俺は俺に人間の妻が居た証拠に、それを持って逝っても良いと思うのかもしれない。


もしかしたら、俺が覚えていないだけで、俺が神龍(シェンロン)に、妻のパンティを望んだ結果発生したクエストが、今の俺の人生なのかもしれない。

俺は、女性のパンツではなく、妻が欲しかった。

もっと言えば、小泉さんに妻になって欲しかった。

だから、その望みが叶うなら少々苦労しても良いと言ってしまったのかもしれない。


なんとなく、それなら俺らしいと思った。



ギャルのパンティを所望される役ではなく、貰える、或いは無理やり押し付けられる役なのだと思い、栫井(かこい)が安心している頃、唯は混乱していた。


遺伝?

転移……栫井(かこい)さんと同じ病気……


遺伝……転移って? 癌?


転移して治らない病気といえば、(ガン)


そして、唯は、病院に行っても延命にしかならない。


唯は話を聞いて、どんどん心配になる。


治せるのは、この人だけ。そして、病気は遺伝性の物……


もしかして、本当のお父さんは、この人?


答えは、そこに収束する。

唯の中で、いろいろな疑問が一気に解決した

※誤解です


この人は、母の高校の同級生。

ただの同級生が、そのさらに娘のことを見守ってくれる意味が分からなかった。

だけど、本当の父親であれば意味が分かる。


ただし、逆に母の態度に違和感を持つ。


同時に、凄いネタを持ってしまった。


あっちの子、遺伝、転移。同じ病気、病院に行くと長生き。


でもわかった。栫井(かこい)はガンで、唯もガンになる。

病院に行っても、少々の延命しかできない。


でも、この人(栫井(かこい))なら治せる。

恐らく金やコネ(権力)では無いだろう。

だとすると、唯は、やっぱり栫井(かこい)は神様の一種なのだと思った。


神様で思い出す。栫井(かこい)の気配が、また戻っている。

元がその大きさで、気を抜くと戻るのだ。


あとで、ベスに聞いてみよう。そう思ったが、周りを見て、違和感を持つ。


人が居ない。

公園から人が居なくなっている。


さっきまでは、何人かいたのだ。


その理由はすぐにわかる。


雨だ。既に降り始めているようだ。

でも、唯は濡れていない。


これにも、思い当たることがある。


ベスは元々、雨に濡れない特技を持っている。

栫井(かこい)も、雨が降っていることを気にしていない。

濡れないから気付かない?


「天気悪いですね」


「ああ、唯ちゃん起きたか」


俺は寝ておっさん力を発揮しようと思っていたのに、先に唯ちゃんが寝てしまった。


「ベスは前から不思議な犬で、雨に濡れないんです」

『犬ではない。ベスだと言うておろうが』


何故唯ちゃんに、変な話し方をするのだろうか?

ベスのキャラ付け? でも、唯ちゃんには聞こえてないし、変な言葉遣いだなと思う。


唯ちゃんは苦笑いした。

なにがあった? 聞こえてる?


それより、雨の話しだ。

なんで急に、雨の話なのだろう?

まさか、雨漏りの神様のことを知っている?


唯ちゃんに訊いてみる。


「雨に濡れない? 急に何の話?」


神様は雨に濡れないんだったか?


『ベスも神様なのか?』

『神様はお父さんです』


ベスは神様ではないらしい。なんで俺だけ神様なのだろうか。

『人前で使っちゃまずいだろ』


『私は雨が嫌いです。それに、その程度は人間でも使えます』

『魔法の一種だったっけ? だったら、なんで、オーテルは使えるんだ?』

『お父さんはもっと凄いです』


もっと凄い。俺も使えるのか?


すると、そのタイミングで、唯が言う。

「魔法って知ってますか?」


え? 聞こえてるわけじゃ無いんだよな?

魔法か。魔法と言って普通にイメージするのとちょっと違うが、魔法の一種だった気はする。


「ベスは雨に濡れない魔法が使える?」


「それが、ベスの世界には魔法があって、

 雨に濡れないんです」


『ベスの世界って言ってるぞ。そんな話したのか』

『そんな話をした記憶がありません。ベスが生まれた世界の話をしました』


してるじゃねーか!!


『ですが、魔法の話はしていません』


『だったら、唯ちゃん、小泉さんの石読めるんじゃ?』

『そうかもしれません』

『もしそうなら、色々なことを知っているかもしれません』


だとしたら、何と答えるべきか。


----


”小泉さんの石”? お母さんが石を持っている?

石から何かを知ることができる?


まずは、今言うべきことを言う。


「でも、雨に濡れない魔法は、この世界でも使えるのだと思います。

 ベスだけでなく、栫井(かこい)さんも」


----


やばい、俺が雨漏りの神様だと知っているのか?


「例えば、今雨が降ってるとするじゃないですか。

 ベスは濡れません。私も栫井(かこい)さんも濡れないとするじゃないですか?」


「なんだそれ」


何を知っている?


「雨が降ってるのに、私、濡れないんです。栫井(かこい)さんがやってるんですか?」


雨? ああ、気付かなかった。


なんだ、心配して損した。それに、失敗した。

雨が降ってても気付かないとは……


「本当に神様みたいな人ですね」


「え?」


俺は、この公園には、おっさんだと思われるために来たのに、大失敗じゃないか!!!

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