25-10.洋子の股の布回収(6)神様は仲間外れ
日曜日、今日は、事故で(?)家に持ち帰ってしまった小泉さんの下着を返しに行く。
とはいえ、昨日は小泉さんの家でお昼をごちそうになって、家に着いたのは16時頃だった。
そこから、2度寝したので、なんだか、家には寝に帰っただけという感じだ。
オーテルとは、電車の中でも、どこでも頭の中で会話可能だ。
場所や距離の概念が無意味な距離に関係無く……なものかと思ったが、どうやら、俺に憑いているようだ。
その割には、ベスが見ているものも見えているようだ。
ベスは小泉さんの家に居るので、プライベート丸見えだ。
至近距離からの無用な報告をしてくるので困る。
『お父さん。唯は今、股の布と胸の布だけです』
うお、いきなり何を言い出す!
(ぽわわわ~ん) ※効果音です
なんとなく、イメージが浮かんでしまう。
そんな話聞いたら、唯ちゃんと会いにくくなるだろ!!
まったく。
いや、いかんいかん、ちゃんと言って聞かせる。
『いや、そう言うのは報告しなくて良いから』
『お父さんは、股の布が好きです』
なんでじゃーー!! ”俺が好きかどうか”と、”報告の要否”は別だと思うのだ。
『オーテル、好きか嫌いかはともかくとして、誰が今何をしているかを他人に話すのは、基本的にあまり良くない』
『お父さんは何かあったら教えろと言ったのです』
そうか。確かに言いそうだ。言ったのかもしれない。
正しく伝わるよう言い方を変える。
『それは、俺の言い方が悪かった。危険や困りごとがあったら教えてくれという意味だ』
『はい。わかりました』
ちゃんと、伝わったようだ。これでひと安心。
ところが、帰ってきた言葉はコレだった。
『お父さん。唯は今、股の布と胸の布だけです』
なんでじゃーー!!
『おい、俺の話聞いてるか?』
『良く聞いています。唯は今、どの布にすれば良いのか困っています。
迷っているので、今身に着けているのは、股の布と胸の布だけです。
まだ、重ねる布は着けていません。肩も腕も腹も足も丸々見えています』
なるほど。確かに困っているから伝えたわけか。
そして、さらに、肩とか腹とか、詳細に報告してくれるのか。
ならば仕方ない。さらに制限を追加する。
『一時的な困りごとなら、報告しなくていいよ』
『でも、お父さんは、股の布が好きです』
なんでだよ!
『好きだからって、見られていないことが前提の物事を、他人に伝えちゃダメだ……』
そこまで言って気付く。
あ、そうか。この子は竜だと言っていた。
竜がどんなものかはよく分からないが、とにかく異種族だ。
竜と言う種族には、プライバシーの概念が無いか、或いは、有っても、ここの人間が、それをどれだけ重視しているかは知らないかもしれない。
それを説明しないと、分からないだろう。
『ここで生活する人達には、プライバシーと言う考え方があって、それを重要な事だと考えている』
『はい』
『人間は、他人から見える部分と見えない部分を、明確に分けて行動している。
人から見える場面では、常に人から見えても良いように行動しないといけない。
そのかわりに、他人から見えない部分では、ある程度自由にしても良いし、
わざわざそれを覗くような行為をしてはいけない。
例えばだ、俺が自分の家の中で裸になっても問題無い。
そのまま、他人が居る場所に出て行くと、罪になる。
俺が素っ裸で、外を歩くとたったそれだけで罪になる。
そのかわり、もし俺の家の中を覗いて、家の中で素っ裸でいる俺を不愉快だと
言う人が居ても、覗いた方が悪くて、俺は悪く無い。
覗く方が悪い。
見せないようにしているし、見ないようにしている。
だから、見えないのが前提な部分でやられていることは、例え目にしたとしても、
口にしてはいけない』
『元々人間は裸です。布は後から付けたものです。
もとの状態で外に出ることが罪ですか?
それはおかしいと思います』
『確かに、一見おかしいようにも感じる。
ただ、多くの人間が密集して過ごすために、長い時間をかけて、考えられて、
運用されているのが現在のルールだ。
理論的な正しさが通用しない部分もある。
自然の状態に、無理やり後付けで、理屈を付けているから、こうなる』
だから、しばしば理論的に正しいはずの極端な法律を作って破綻したりする。
『人間はわかりにくいです』
俺にもわかりにくいので、よくわかる。
『まあそうだろうな。
とにかく、日頃から家の中で起こっていることで、
特に危険の無いことは報告しなくて良いから』
『そうですか。それでは、今報告することが無くなってしまいます。とても残念です』
オーテルは肩を落とした……ような気がした。
ああ、報告が仕事だと思っているから、報告して役に立ちたいと思っているのか?
だったら、聞きたい話がある。
『報告することが無いなら、オーテルの世界の話をしてくれよ。
オーテルがはじめて俺に会ったときの話』
『人間の体で会ったときの話ですか?』
オーテルは、自分で竜だと言っている。
なのに、こんな感じで、初っ端から意味が分からない。
『そうだ。わけがわからないから、聞いてみたい』
オーテルは、俺が死んだ後に生まれた子供で、母親は竜。俺も竜だったらしい。
なのに、オーテルは俺と会ったことがあると言う。
しかも、人間の体で会ったと言うのだ。オーテルは竜だった。
よくあるお気楽ファンタジーのように、人間に化けることができるのだろうか?
『オーテルが生まれた時には、俺は死んでたんだろ』
『私が会いに行きました。人間の体を使いました』
『どういうことだ?』
『私が竜の体を持っていた頃、ときどき過去の人間の見たものを見ることができました。
そして、お父さんと会う人間を見つけたのです』
『過去の人間の見たものが見える?』
『はい。私は時を超える竜です』
『ああ、人間の目で見つけて、そこに時を超えて会いに来たのか』
『いいえ。私は私の体を、お父さんの居る時に持って行くことはできません』
『生まれるより前には行けないのか?』
『だから、お父さんに会う人間の体を使いました』
???
とにかく、自分の体で俺のところに来ることができなかった。
だから、人間の体で代用した。
『それが、人間の姿で会ったってやつか』
『はい』
『俺はその時、どんな格好なんだ? 人間と会うことがあるのか?』
『人間が見て、人間だと思う姿です』
おお、そういうことか。俺は人間の姿に化けることができるのだ。
『俺が人間の姿の時に、オーテルも、人間の姿で現れたのか』
そう言って気付く。
いや、人間が見て人間だと認識するのであれば、実際にどんな姿なのかは関係ないのかもしれないな。
『はい。会うことができました。でも、過去は変わりました』
『会っちゃいけなかったのか』
『はい。私が行きたいのはお父さんの居る時代でした。だから、私は未来に行きました』
まただ。一見筋が通ってそうなのに、意味が分からない。どういうことだ?
”未来に行きました”だから、言葉通りに取れば、時間は超えたようだ。
俺は、転移を使って時間を超えた。俺は”俺が時を超える竜だと思う”。
だが、俺は転移する竜。オーテルは、時を超える竜。俺も時を超え、オーテルも時を超える。
だが、オーテルは転移はできない。俺は転移しないと、時を超えることができない。
時間を超える方法に差があるだけなのだろうか?
『2日でお父さんは消えてしまいました』
『消えた? 転移?』
『私が時を変えてしまいました。
変えないようにしようとしましたが、変わってしまいました』
『俺が消えたって、もしかして、来なかったことになった?』
『これだけでよくわかりますね。さすが私のお父さんです。とても頭が良いです』
またそれかよ!! そう思いつつ、そこはスルーする。
『…………』
少し待つが、続きが進まない。
『続きを話してくれるか』
『…………』
だが続きを話してくれない。
アレやらないと、話進まないのかよ!!! とか思いつつも、仕方がないのでやる。
『ふっ』
すると、ちゃんと話の続きがはじまる。
『私が竜の時……』
よくわからないが、”さすがですお父さん”と言われたら、”ふっ”で応じないと話が進まないという恥ずかしい手続きが必要なのだ。
まあ、このやりとりは他人に聞かれてないから良いんだけど。
まあ、このやりとりは他人に聞かれてないから良いんだけど!!
※誤記ではありません。大事なことなので2回書きました
『私が竜の時、私は神ではありませんでした。過去が変われば、私は飛ばされます』
オーテルは未来に行ったと言った。
『飛ばされる……未来にか』
『はい』
『今は神と共にあります。私は、お父さんがいる時間に居ます。お父さんは時間を移動することができます』
『俺は過去を変えても、また戻ることができる』
『はい。私のお父さんは神様です』
オーテルはこう言った。
”私が竜の時、私は神ではありませんでした。過去が変われば、私は飛ばされます”
ああ、神ってそういうことか。
俺は過去を変えても、その反動で飛ばされていない。
なんか、その世界の流れから落第したみたいな気がする。
俺は劣等生みたいな気持ちになって来た。
俺は戻ってきたとき、記憶が混濁する。あれは、歴史を変えた反動では無い。
『俺はもう、この世界を変えても……』
『飛ばされません。変わった後の世界に自分で飛んできたからです』
俺的には、異世界を行き来するときには、いろいろなこと……特に、記憶を無くしたりと、それなりにいろいろあるように感じているが、
この世界の時間を行き来することに対する反動は受けていない。
作用があれば反作用がある。
だが、俺は、この世界に作用をもたらせても、その反作用、代償を受けていない。
もう、この世界の中の存在では無い。
『神様の意味は、少しわかった気がする』
『はい』
『俺が時を超える竜だったら、過去を変えたら未来に行くんだな』
『過去を変えることができれば、そうなります』
『どういうことだ?』
『お父さんには、転移を使わず過去を変える力がありません』
『転移せずに過去を変える力?』
それを言ったら、オーテルには過去視みたいのがあるし、ベスに乗り移ったりできる。
ベスで過去を変えても代償を払って無いように見えるから、オーテルも神みたいなものだと思うのだが。
『私は、あのとき、人間の体でお父さんに抱き着きました。とても嬉しかったです。
いつか再び触れ合いたいと思っていました』
あのときと言うのは、俺と初めて会ったときのことだろう。
俺は、記憶を置いて来るので覚えていないが。
『それがやっと叶ったのか』
『はい。今はベスの体が有ります』
『そうか、じゃあ、今のうちに触れ合っておかないとな』
『私がベスの体で、お父さんに会える回数は限られています』
……でも、神様と言うのは、その世界を管理したり見守ったりする存在じゃ無くて、もうその世界から仲間外れにされてる人のことではないかと思うのだ。凄い落第生、劣等生気分だ。
俺の心のエネルギーが、ごそっと減った。
『オーテルだって、ベスを使って過去を変えても反動受けないんだから、神様みたいなもんだろ』
『ベスがしたことは私がやったことかもしれませんが、私は戻った時間の中で動いただけです。人間達と変わりません』
『俺なんか、時間戻したこと忘れて、歴史変えずに、毎回同じこと繰り返してるんだぞ』
『時間を戻したのがお父さんです』
『でも、戻った世界で、以前の記憶持ってるのはオーテルだろ』
『はい。その意味では私も神に近いのかもしれません。でも、時間を戻すことができません。それに私はもう、自分の体を持っていません』
ああ、和風に言っても、死ねばみんな神様だな。
『お父さんは体を持ったまま神様になりました。
だから、私より、もっともっと凄い力があります。さすが私のお父さんです』
また、スルーする。
『…………』
『さすがです。お父さん』
さらにスルーする。
『…………』
やはり、”ふっ”をやらないと話が進まないようだ。
オーテルは凄いと思っているようだが、俺は、俺が神様とかは、嫌いなんだよ!!
俺は竜の神様になって、”ギャルのパンティおくれ~!”とかお願いされても困る。
合格祈願とか、交通安全とか、安産とかお願いされても困る。
カップルがやってきて、縁結びとか祈願されても、俺はむしろ、邪魔したい気持ちでいっぱいになると思うのだ。
それじゃ、邪神じゃねーか!!
なんだかとっても、心が疲労した……




