25-3.悪夢、横浜でも、おっぱい星人
『お父さん。私はいつもお父さんと一緒に居ました』
小泉さんの家から離れても会話できる。
ベスに触れた時、話ができるようになった。
離れた時どうなるか心配だったが、ベスには一度触れれば良く、あとはベスとの距離は関係なく、オーテルとは、いつでも話ができるようになったようだ。
『お父さん。お話ができるようになって嬉しいです』
時間を戻すたび、数十年もオーテルは誰とも話ができない状態で過ごすことになる。
正直申し訳ない。
『ごめん。でも、今回はまだ早めに会えた方なんだよな?』
『はい。うまくいかない場合、唯が死んで洋子が絶望するときか、
洋子が死んでお父さんが絶望したときに話ができます』
ベスに会わないと、ろくな結果にならないじゃないか……
『そもそも、俺の記憶はなんで欠けてるんだ?』
『転移する竜は、転移するとき、大事な記憶を置いて行くと聞きました』
”転移する竜”なんか、いきなりすごい設定を聞いた気がする。
いきなり少し萎える。
だが、そのくらいのことで、へこたれたりはしない。
『転移する竜?』
『お父さんは、他の世界に行くことができる、特別な竜です』
『竜ってなんだ?』
『人間が竜と呼ぶ生き物です。私は竜です』
『人間とは別の生き物なのか?』
『はい。人間はとても小さな生き物で、寿命も短く、すぐに死んでしまいます』
なんてこった。
俺はその、人間とは別の、でっかい生き物に生まれ変わるらしい。
『お母さんも竜なんだよな?』
『はい。とても偉大な竜です』
ぬう。俺はまず、人間の妻が欲しかった……いや、だから妻の形見が必要なのか!!
俺に人間の妻が居た証拠が必要なのだ。
そして、俺はそれを持ってオーテルの世界に行って竜になって、竜の妻を持つのか。
『で、記憶が無いのは、転移するとき記憶を置いていくから? 転移ってのはなんだ?』
『私の世界に行きます』
記憶が無いのは、オーテルの世界に行ったから?
『じゃあ、俺は既にオーテルの世界に行ったのか』
『はい。何度も行ってます』
『何をしに?』
『時間を戻すためです』
あ、なんか思い出した。
『そうか、異世界から戻るときに、時間を遡って戻ったのか』
『はい』
『転移する竜ってのは?』
『転移できる特別な竜のことです』
『俺がそれなのか』
『はい』
俺がそんな特別なやつだってのは信じがたいけど、俺は時間を戻したと思う。
まあ、でも、転移する竜とか言うやつじゃないと、オーテルの世界に行けないしな。
わざわざ娘が呼びに来たくらいだから、行けるのだろう。
そもそもどうやって探したのだろう?
『オーテルが俺を探して呼びに来たのか?』
『大きな竜に導かれてやってきました。会いに来たのです。
満足したとき、私は成仏します』
どうやって探したかはオーテルは知らず、大きな竜というのが絡んでるらしい。
成仏って、異世界に仏教あるのだろうか?
『成仏ってなんだ?』
『私は満足したとき消えると言います』
意味的には俺が使うのと一緒だ。
『誰が言った?』
『大きな竜だと思います。もしかしたら、石の記憶かもしれません』
『石?』
『お父さんの骨です。記憶が入っています。読むと思い出します』
ああ、骨か。石と呼ばれている?
でも、いくらなんでも、石は無いだろと思う。
名前はともかく、記憶を伝えることのできるアイテムが有るようだ。
そう言えば、ベスに触れてすぐにオーテルの名を思い出した。
ベスが石を持っている?
『ベスと会ったとき、オーテルの名前思い出したんだが』
『お父さんは石を一つ持ってます』
石を持ってるのは俺かよ! 自分で突っ込みを入れる。
俺が持ってるなら、ベスと会う以前に思い出しても良いように思うのだ。
だが、ベスと会ってはじめて名前を思い出した。
それに、そもそも俺の骨なのだから、俺が自由に読めないのは、おかしいのではないかと思うのだ。
『1つってことは何個もあるのか』
『はい。洋子が1個、私が4個持っています』
『ちょっと待て、小泉さんが1つ持ってる?』
『はい。持っています』
まずいな。何かのきっかけで、思い出してしまうかもしれないってことか。
『まずは、俺と小泉さんが持ってるという石について教えてくれ』
『はい。でも、私の持ち方と異なるので、正しく説明できるかわかりません』
…………
…………
なるほど、ベスに会ってオーテルのことを思い出すように、何かしらの、きっかけや、キーワードが必要なのか。
『石は俺の体のどこかにあるんだな?』
『はい』
『小泉さんの石も?』
『はい』
『どこかにあって取り出せないやつは、体を通して読めるんだな』
『そのようです』
だとしたら、ひざまくらは、小泉さんの石の情報じゃないか?
ひざまくらをすると、俺はその相手を妻かもしれないと思うように細工されていたら?
あれは罠だった?
どう考えても、ひざまくらを誘っているように見えた。
そして俺は妻かもしれないと思った。
『ひざまくらをすると、何かを思い出すようにすることもできるのか?』
『はい。予め、何をするかが分かっていれば、そのときに思い出しやすい情報を用意することもできます。
お父さんは40の同窓会には行くことができません』
『ああ、あれは石の力だったのか』
『そのようです』
『そのようです?』 そのまま、訊き返す。
『時間を戻しても、いつも同じです』
なるほど。毎回同じだから、おそらくそうなっているという推測か。
『尾骨痛。なんで尾骨が痛くなる?』
『お父さんは竜です。尻尾があります』
『尻尾が生える?』
『尻尾が生えようとして痛くなります』
よくわからないが、尻尾が生えようとして、生えることができないから痛むということか。
とにかく、尾骨痛は石で誘発できるようだ。うまく仕込めば、俺の行動を制限できる。
実際に、俺はその制約で、40の同窓会に行かないように細工されている可能性が高い。
恐らく、俺自身が設定したのだろう。
まずいな。お姫様抱っこで、小泉さんが何か思い出したりしてないだろうな?
幸せな記憶なら良いけど、嫌な記憶だったら……
『時間を戻してすぐにオーテルと話をする手段はないのか?』
『その方法は見つかっていません。
ベスの体で会うか、絶望したとき声が通じます。
それか、樹海のあの場所に来た時です』
『あの場所?』
『はい。特別な場所があります』
特別な場所……わかる。石の記憶か?
これは石の記憶の中でも、特別なものだと思う。
大きな倒木のあるところ。そこに何かがあるのか?
なんだろう? 始まりの場所?
俺はたぶん、樹海には行ったことが無いと思うのだ。
なんとか俺の部屋まで帰ってきた。
ようやく楽な格好に着替えることができる。
軽く話を聞いて、ひとまず寝ようかと思っていると、妙な話が出てきた。
…………
…………
なんでだよ!!!
『お父さんは、おっぱい星人です』
『だから、なんだよ、それは!!』
俺についての情報を聞いていたら、オーテルが、いきなり”おっぱい星人”言い出した。
それはそんなに重要な情報か?
それに俺は、異世界に行ったら竜だから、おっぱい星人関係無いと思うのだ。
『人間の女のおっぱいが大好きだと言います』
ぐぬぬ、わざわざ言うことか?
『男なら、普通好きだと思う。変態では無い!断じて!』
『お父さんは、小さなおっぱいが好きです』
なんだ? 何か誤解があるような気がする。
俺は、ちっぱい好きではない。もちろん、嫌いでは無いが。
『それは、俺の好みじゃないと思う』
そう言いつつ考える。
何故にちっぱい? ちっぱい好き要素があるか?
普通”おっぱい星人”と言えば、巨乳好きのことを指すように思う。
俺はまあ人並みくらいには、おっぱいが好きだ。でも、たぶん人並みくらいだ。
確かに、巨乳好きではない。
巨乳は重力に弱そうだから、垂れたらガッカリしてしまう。
小さければ垂れないかもしれない。だが、俺は、柔らかそうだから好きなのだ。
小さいと柔らかい部分が少なそうじゃないか。
だから、俺は、ちっぱい好きではないと思う。
『お母さんは、お父さんの好みに合わせて、おっぱいの小さなダミーを作って、お父さんを誘き寄せました』
それは、俺がちっぱい好きである根拠にならないと思うのだ。
なぜなら、俺は、大概のおっぱいには釣られる自信がある。
小さいからと言って、門前払いみたいなことはないと……
うん??
『オーテルの世界での話だよな?』
『はい』
未来の話なのは、まあ、ある程度は納得だ。俺が時間を超えるくらいだ。
それにオーテルは俺の娘と言う設定だ。
だが、種族的にまずくないか?
俺は竜なのに、人間の女のおっぱいに釣られてしまうのか!!
まずいな、変態じゃないか?
ゲームとかマンガで、異種族が、愛玩或いは、エロ目的で、人間の女を生贄よこせみたいなやつがあるが、あんなのおかしいだろとか思っていた。
だって、異種族好きなんて、何と言うか、まあ変態だ。
それをだ、よりによって俺自身がやってしまうのか!!
なんてガッカリな異世界なんだ!!
俺はそんなガッカリことを、やりに行かなければならないのか!!
俺は絶望した。
あと、ほんとに、ちっぱい好きと言う訳では無くて……
でも、もしも、自由に複数選べるなら、大中小あったら幸せかもしれないけど……
いや、できれば5段階くらいで。
俺は、おっぱい星人では無い!!!!
※おっさんの魂の叫びが若干漏れた