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25-2.塩の天動説(1)

挿絵(By みてみん)


結局、お昼まで、ご馳走になった。


ファミレスは、ベスが”入れないから嫌だ”と言ったため。


結果的には、その方が良かった。あまり、人に聞かれたくない話ができた。

ベスのこととか……


唯ちゃんも聞いてたけど、意外に、子供に聞かせたくない話は少なかった。

離婚の話くらいか。


唯ちゃんは、今井さんと、杉のことは知っていた。

特に今井さんとは、旅行にも一緒に行ったことがあるという。


小泉さんは、元旦那さんとは早々に離婚していた。

俺と最後に会った、あのダイ君の二次会の後、何年もせずに離婚している。

だったら、連絡してくれれば良かったのに、と思う。

いや、”連絡できなかった理由”は、昨日聞いた。

でも、俺は連絡して欲しかった。


離婚には、今井さんも、協力してくれたそうだ。

「玲子には本当に助けられた。私一人だったら、どうなっていたか」


離婚協議では、女性側が気力を失って、不利になることが多いらしい。

日本の法はゼンゼン男女平等ではない。


親権に限らず、基本は女性の方が圧倒的に有利と聞いていたが、

それは【強い意思があれば】という前提がクリアされての話だった。


結局、協議なので、双方が”これで手打ちにしましょう”で、合意すれば良い。

話する気力を無くして、”とにかく早く終わらせたい”とか思っていると、非常に不利な条件で合意することになる。


今井さんは、そうならないように、支えてくれたのだそうだ。

しかも、今井さんの結婚の時期と、非常に近かった。


「玲子は、私が離婚することになるのを知ってたみたいで。

 それまで、私、玲子に避けられてたの。

 バーベキューにも行けなかった」


「は?」

”バーベキューにも行けなかった”

どういうことだ?

そういえば、あのとき、今井さんは微妙な反応していたような……


「私が、栫井(かこい)君を裏切った上に、元旦那は玲子に……」


ああ、避けられって、そういうことか。

俺は、そのことを知らずに、小泉さんに会いたくてバーベキューに行って、あんな酷い目に遭ったのか!!!


今更ながら、自分の馬鹿さに腹が立つ。


俺は、あの時、そんなことには、まったく気付かなかった。


今井さんが避けるというのは、だいたい男絡みだ。今井さんは、望まないのに男が寄ってくる。

おそらく、元旦那がどこかの時点で、今井さんに対して、何かをやらかした。


でも、だから、特に離婚に協力的だったのか。

気力さえ何とかなれば、女性側が有利。

やっぱり賢いな……今井さんは。

自頭が良いので何に対しても効果的に行動できるのだ。


”裁判は基本、女性が優遇されている”と言っても、

その前の調停は、裁判に発展するのを、めんどくさがっているかのように、テキトーに手打ちにされやすい。

そういうことだったようだ。


小泉さんの時は、基本歩み寄りを勧めてくるだけで、そのままだと相当不利だったようだ。

今井さんに相談したら、それはおかしいと、今井さんが出てきたということらしい。


養育費を貰うのは子どもの権利、払うのは親の義務だ。父親だけが払うわけでは無い。

父母の両方に、払う義務が発生する。


日本は特に、デフォルト母親とセットなので、一見父親だけが払うものに見えるが、そう見えるだけだ。

養育費は、収入に応じての相場があるので、揉めるとそれに近い金額になることが多いが、気力が萎えて、いくらでもいいよ……となってしまうと、相場から外れた金額になることもある。


双方が合意すれば良いので、それで手打ちとなるが、後々苦労する。

後から増額は、よほどの理由がないと難しい。


それに、小泉さんの場合は、離婚の理由が元旦那の浮気なので、慰謝料もらって離婚になる。

その金額は、交渉で大きく変わる。


慰謝料は、過失のある方が払うことになるので、母親側に過失があれば、慰謝料を払うのは母親側になる。

ところが、どう言う訳か、自分が浮気して離婚するのに、慰謝料貰えると思っている女性が、ある程度居るらしい。


まあ、実際は、そのくらい世間知らずな女性だと、慰謝料の支払い能力なんか無く、まともな金額にならないことも多いようだが。


元旦那も、最初はぬるい事を言っていたが、そこに、今井さんが出てきたので、観念して、一気に解決ということのようだ。

まあ、過去に今井さんと何かあって、浮気が原因の離婚に、今井さんが出てきたら観念するだろう。


裁判は、かなり母親側に有利になっている。

もめた場合、親権なんか、母親が親権欲しいと主張すれば、父親はほぼ取れない。

なので、特に女性側は、裁判やっても構わんと言う勢いで挑むと強い。

親権なんか、明らかに、男女不平等だ。


まあ、もちろん、父母が同程度の知識を持って、裁判に挑んだ場合の話だが。


海外で結婚して子供が生まれた場合、日本と同じ感覚で、子どもを連れて帰ると、誘拐になる。

これは実際、度々、国際問題になっている。母親が誘拐犯。

日本では問題にならないが、海外では問題になる。


俺的には、女性側は裁判で多少優遇されても良いと思う。

つまり、そもそも平等と言って、同一のものとして扱うのには、無理があると思っている。


べつに、男女平等を主張する人が居ても、当然構わないわけだけれど、もし、平等を主張するなら、こういう所も含めて平等を希望しろと思うのだ。


男女平等と言いつつ、母親が主張すれば、ほぼ確実に親権取れるってのはおかしい。

どこが平等なんだ?どう考えても不平等だ。


男女平等と言うなら、こんな露骨な男女不平等を放置せずに、そこを改善するよう行動しろと思う。

専業主夫を増やそうともしないし、不平等が激しい部分を放置したままだ。


なので、男女平等言っている人は、男女平等を望んでいるようには見えないことが多い。


まあ、今後、男女平等が進むのなら、こんなところも変わっていくのだろうか。

男女平等推進が多くの女性の希望なら良いのだが、専業主婦が憧れの職業の上位にあるあたり、そうではないように思えるのだが。


それにしても、今井さんも凄いな。


今井さんは、その当時、小泉さん……当時は小泉じゃないけれど、小泉さんの離婚を支援しつつ、自分の結婚準備を進めていたのだ。

そこまでして、協力してくれるのはありがたい。


「バーベキューの話何か聞いた?」


「焼きそば美味しかったって」

「それは良かった」


あのときは、元々は今井さんたちと俺は、別の火を囲んでいた。

炭火ばかり人気なので、俺は薪を消費するために、鉄板料理を作っていた。

ただ人気が無い。薪と鉄板にも俺にも……

だが、海外留学組が荒れて、今井さんたちが、俺のところに避難してきたのだ。


そして、俺は何かを話した。俺は、あの時何かを言ったのだと思う。

俺は酔っ払った上に、体調崩して、何を言ったか覚えていない。


それから5年以上後になって、今井さんは、小泉さんの離婚後、河原のバーベキューの話をした。

俺は確かに、バーベキューには行った。


あの時、炭火と薪の両方が用意してあったが、網で焼くのに、薪はあまり適さなかった。

皆、炭火焼きに行ってしまい、俺は不人気な薪番をしていた。


薪+鉄板が不人気で、大量の麺が余って絶望したことを覚えている。

ただ、あのとき、何を話したかはよくわからない。


俺は、来る予定の無い、小泉さんを待ってたけれど、結婚したいとか、そんなことを思っていたわけでは無い。

いや、結婚したかったかもしれないが、略奪婚とか、そういうのは望んでいなかった。

さすがに、そのくらいの分別は付く。

既婚者に対して、好きだからどうだということはない。


俺が行ったのは、”マンガのメモの話をしたかった”というのが理由だったと思う。


だからたぶん、”小泉さんと超結婚してぇ”とかは言っていないと思う。


だとしたら、俺は、あのとき何を話したのだろうか?


塩不足で倒れてしまったので、酷い目に遭ったという記憶しかない。

あのとき、塩のことをちゃんと知っていたら、あそこまで重症化しなかったのに。


当時は、バカみたいに、世の中が”塩は悪”みたいな扱いだった。


考えればわかる話なのに、俺も含めて、バカみたいに、塩はすぐ摂り過ぎになってしまうと思っていた。

俺は、実は日頃から不足してるなんて思いもしなかった。


「あのときは、塩分不足で、脱水で苦しんだ」

「うん。飲みすぎて、早めに帰ったって」

「当時はまだ、塩は悪の時代だったから」

「塩が関係あるの?」

「あのときは塩不足にやられた。酒には塩入ってないから、

 暑い中、火を燃やして酒飲んでだと、脱水症状になるから危ない」


「そう……なの?」


ん? なぜ疑問形。


「あのときは、凄く暑かったから。

 それに、あの当時はまだ、昭和の迷信みたいのが生きてたからな」


「昭和の迷信?」

唯ちゃんだ。

唯ちゃんが知らなくてもしょうがない。


「ああ、唯ちゃんは知らないよな」

「昭和の迷信?」


小泉さんは、知ってるはずだ。突っ込みを入れる。


「いや、小泉さんは、そんなに若く無いから、俺と一緒だから」


ところが、返ってきた答えはコレ。


「昭和の迷信て何?」


ん? あれ?


「減塩信仰みたいなやつ」


「減塩信仰?」


別の言い方だったか? でも、”減塩信仰”でも通じるはずだ。


「塩分摂取量は少ないほど良いみたいなやつ」

「昭和の迷信なの?」


なんで洋子さんが知らないんだ? 運動しないから?

なんだか、だんだん嫌な予感がしてきた。


「脱水症状で、水だけ飲むと脱水症状が加速する」

「それは聞いたことあるかも」

「世紀の大誤報って……塩の天動説」

「何それ」


本当に、知らないのか。

待てよ、今は、少し時代が戻ってるから?


いや、大誤報とか言う前から、ニュースでも塩は実は大事とか、そんなことを言ってたはずだ。

あれは何年頃だ?


「いや、塩の天動説はいいや、とにかく、体液は基本塩水だから、

 塩を取らずに水分ばっかりとると、脱水症状になるんだよ。

 あのときは、それを知らずに、体調崩して……あのとき何話したのか覚えて無くて」


そう説明するが、何かおかしい。あとで記憶を整理してみよう。


「焼きそばの後、しばらくしたら、今井さんと杉しかいなくなって。そこまでは覚えてるんだけど」


…………

…………


「玲子と杉には、何度も連絡しろって言われてたの」


今井さんと、杉は何度も、俺に連絡するよう言ってくれたそうだ。


「その頃だよね、ベス来たの」


離婚後、割とすぐにベスも合流していたようだ。


俺はその間ずっと、人生消化試合状態で過ごしてきたわけで……

頼ってくれれば、こんなに痩せさせなかったのに。痩せ過ぎで心配だ。


「今回は本当に助かりました」


そこに、ベスが口を挟む。

「だから、早う連絡しろと言うたであろう。母子揃って愚か者じゃ」


洋子と、唯が凍り付く。

次の瞬間、栫井(かこい)を凝視した。どんな反応をするか。


「うおっ、急に喋るなよ」


”急に喋るなよ”

喋れることは知っていた? 昨日の夜喋った?


洋子も唯も、おそらく栫井(かこい)とベスは、何かしら関係があるだろうとは思っていたが、ベスは、洋子と唯以外の人間の前で喋ったことは無かった。

今日も喋らないから、てっきり栫井(かこい)に対しても喋らないと思ったのだ。


「ああ、ベスね、特別な犬で人間の言葉を喋るのよ……」

「犬では無い」

「私とお母さん以外の人が居ることろでは喋らないし、もともと時々しか……」


小泉さんと唯ちゃんが、言い訳的に教えてくれる。

と言っても、俺は念話みたいので喋れるのだが。


さすがに、小泉さんも、俺がベスに会えば、オーテルと話せるようになることは知らないからな。


困りつつも、ちょっと言い訳する。

「俺、ベスに会ったのは、はじめてなんだけど、

 そういう生き物が存在してるのは知ってて……」


「なんで?」


「説明が、極めて難しくて……」


そもそも、あまりよく知らない。

元は知っていたかもしれないが、忘れてしまっている。

小泉さんを助けるために協力してくれていて、その願いが叶ったら、俺はオーテルの世界に行く約束をしている。


そのくらいしか覚えていない。


========


ようやく小泉さんの部屋を後にする。


「これからも、困ったことがあったら、呼んでくれるかな」

「ええ」

「ベスにも、会わなきゃならんし」

「ええ。ひざまくらもしたからね。覚えておいて」


”覚えておいて?”

これを聞いて唯は、何か約束があったのかなと思った。


”覚えておいて?” この言葉には、栫井(かこい)もひっかかりを感じた。

何かフラグがあったか? 何度も風呂を覗けと言った。

そして、ひざが俺の顔の横にあって……アレはトラップ?

俺は、罠に嵌ったのか?


心配になり、オーテルに訊いてみる。

『オーテル、妻って、もしかして』

『洋子に決まってます。他にも妻が必要ですか?』


やっぱりそうか。ひざまくらにはなにか意味があるのか。

『ひざまくらの話したのか?』

『いえ、私はしていません』

この返事を聞いて不思議に思う。小泉さんはどういう意味で言ったのだろう?


『形見の話は、私が洋子に話しておきます』

『妻の話も?』

『はい』


まあ、でも、妻の話もオーテルがするらしい。

予め、小泉さんに何か説明してあるのかもしれないと思った。


『そうか。じゃあ、準備もできてしまうし、俺はオーテルの世界に行かなきゃならないようだ。

 小泉さんが、妻になってくれるのなら、俺はオーテルの世界に行ってもいい』


あとは、親を看取らないと。これは俺のけじめだ。


『だいぶ先になるぞ』


『かまいません。時間の問題ではありません』


俺は、昨日までとは違って、生きてて良いこともあるのだと思った。


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