23-7.転移、異世界へ(2)
”加齢臭と転移する竜”本編
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から「横浜編」を分離したものです。
話の並び順も、わかりやすいように入れ替えてあります。
異世界側の話も、多少入りますが、適当に読み飛ばしてください。
『そして、それは、私が成仏するより後のことです。
私が成仏しないとお父さんは目的を果たせません』
これが、小泉さんを助けることをエサに、騙して俺を異世界に連れて行ってもダメな理由。
まあ確かに、成仏を望む娘を放置していくのは、おそらく心残りになる。
異世界に行ったところで、自力で行き来できる能力があるなら、
俺はここに戻ってきてしまうかもしれないな。
この子は、俺に転移の能力があることを教えに来てくれただけだ。
実際に行くのは俺がやらなきゃいけないのか。
「どうやって行けば良いんだ?」
『お父さんは、お父さんが転移する竜であることを知ったときに、
行けるようになると言います』
「ああ、今は知ったから行けるのか」
『お父さんが大切にしている人間の女は助かると思います。
そうでないと、お父さんは目的を果たせないからです』
「俺の目的ってなんだ?」
『全てのものを手に入れることだと聞いています』
「世界征服?」
『そんなことをしなくても、世界はお父さんのものです。
お父さんは誰にも負けることはないので、戦う必要がありません』
なるほど。目的が世界征服だったら、それは俺では無いと思ったのだ。
竜にとっては強い者が総取りってことか。
だとしたら、俺の目的は何なのだろう?
まあ、そのうちわかるのだろうが、何か罠がありそうだ。
でもまあ、この後悔を消すことができるのなら……
こんな思いをしなくて済むなら、行っても良いかもしれない。
「俺は向こうで何をすれば良いんだ?」
『今回は、何もありません。骨の記憶を読んで戻ってきてください』
行った先に骨があるのか。
ほんとに時を超えるために行くだけなんだな。
「俺は人間なんだよな?」
『お父さんは人間では無いです。
でも、お父さんはしばらくの間、人間のふりをしています。
竜になるのはずっと後です』
人間の振りじゃなくて、俺は人間のつもりでいるからだと思う。
『お父さんは人間の世界に行きます。骨の記憶を読んで戻ってきてください』
「わかった」
『お父さん、行きますか?』
「そうだな。その方がいいだろう。
だが、その前に、まずは計画を立てよう」
そう言ったときに、地面が揺れた。
あれ? 世界がずれた?
『転移が始まったのだと思います』
なんでじゃー!!
「いや、まだ心の準備が!!」
『心の準備ができたから転移できるのだと思います』
「いや、ぜんぜんできてないから!」
『転移する竜は、未練がなければ、とても簡単に飛べるのだそうです。
転移する竜のことを知り、転移する竜になろうと思えばできるのだそうです。
大きな竜が言いました』
なるほど。
いや、こう、もっと俺が決意とか、ちゃんとそう言うのをするまで待てよ!
うわ、足が着かん。
こんにゃくの上を歩いているような感覚になってきた。
『転移すると私と話ができなくなります。
戻ってきたときまた話ができます』
そうじゃねーよ。俺の準備はまるでできてないって言ったんだ。
「それと、道案内。
俺が行くのは君の世界だろ」
『私は転移する竜では無いです』
「転移する竜の力添えで、ここに来たなら、君も一緒に……」
あれ?
もう通じない?
だめか。話もできない。1人で行くのか。
俺が遠ざかったのだろう。
なんてこった。右も左もわからない状態で放り出されるとは……
行くのはかまわない。むしろ歓迎だ。
ただ、準備が。
俺は娘から聞きたいことが残ってるんだよ。
それはそうと、転移が進んでる気がしない。進みもしない戻りもしない。
嵌ったか?
ああ、わかった。転移ってフラグを立てると起きるんじゃ?
ああ、なんかわかった。理解した。
俺が転移する竜な理由はそれかよ!!
呪文みたいなもんだな。
「俺は、小泉さんを助けるために異世界に行く!」
しばらく待ってみるが、何も変わらない。
なんか、出発する気配がない。
ダメか。はじまらないようだ。
まだ足りないのかフラグが。
「せっかくだから、俺は、異世界に行くぜ?」
……何も起きない。
仕方がない。最終形態で言うか。
たぶんホントに呪文みたいなものなのだ。
「俺は俺が死んでもまわない。
だから、俺は死ぬとわかっていても、異世界に行くことができる。
俺には、誰々を救うとか、世界を救うとか、そんなのは似合わない。
やりたくない。
でも、死ぬときくらい満足して死にたい。
俺は、満足して死ぬことができるように”終活をしに異世界に行くのだ”」
いや、今回は死にに行くやつじゃないが、なんか、この言い方だとすっきりする。
変身の呪文みたいなものだな。
俺用の呪文なら、もっと”キャピキャピ・ルンルン”みたいなやつが良かったんだが。
呪文を言い終わると、体が軽くなる。
おお、何年ぶりだろう。気力を感じる。なんだろう、一時的に呪いが解けるのか?
ガンっという、軽い衝撃。
なんか、フックが外れた?……いや、逆だ。
ジェットコースターの、坂道を登る動力が接続された感じだ。牽引状態だ。
「行ってくるよ。グライアス……或いは、うちのフローレン、フロイライン……」
戻ってきたら、名前付けよう不便だから。
……戻ってきたら?
まずい、戻って来ても俺とは直接話せない。
あとは、あの子に任せるしか無かった。
「きっと戻ってくるからな!!
俺にマンガのメモを読めって、
もし俺に通じなかったら、ベスを使って小泉さんに。
それが無理なら、離婚したら、ベスの体で俺の家まで来てくれ」
くそ、これだけでも、確実に伝えたかった。
伝わったかな。頼んだぞ!!
”ガチャ!”
あ、今、ジェットコースターが坂の頂点で動力切り離された感じがした。
体が浮く……俺が飛ぶんじゃなくて地面が逃げていく……
超怖ぇぇぇぇ!!!!
うげぇぇぇぇぇ!!!
転移って、絶叫系かよ!!