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24-29.湯上りの密会

挿絵(By みてみん)


栫井(かこい)さんは、お母さんの悪戯(いたずら)の意味に気付いて倒れてしまった。


本当に、両思いだったのだ。


お母さんは、片思いのつもりで、せめて少しくらいは見て欲しくてアピールし続けた。

栫井(かこい)さんは、それには気付かず、後から知り、呼ばれる日を待ち続けた。


そして、今日知ってしまった。お母さん(洋子)のいたずらが、興味を持ってほしくて、覚えていて欲しくてやっていたことに。


その反応がこれだ。

昨日あんなに頼もしく見えた人が、こんなに、ヘナヘナになってしまった。


それほどまでにショックが大きかったのだ。

唯は、仕方ないと思った。

二人がすれ違っていた期間は、唯の年齢より長いのだ。


----


俺が、食卓でダウンすると運ぶのに苦労すると思い、咄嗟にここへ逃げ込んだ。


栫井(かこい)が倒れ込むと、顔が舐められる高さに来たので、ベスは、べろべろ舐める。


『お父さん、どうしたのですか?』

『さっき妻って言ったか』


妻という言葉を意識してしまう。


『はい。お父さんには妻の形見が必要です』


妻と言うのは、小泉さんのことだろうか?

何しろ、俺には妻というのはさっぱり思い当たらない。


他に居ないとなると、小泉さんだと思う。

俺がフラグを全部なぎ倒して、妻になるはずの女性とすれ違いまくってたのか?


栫井(かこい)君、大丈夫?」


どうってことない。こんなのただの致命傷だ。俺は全然だいじょ……ばない(大丈夫の否定形)


「ああ、ごめん。ちょっと、ショックでかかった……」


真面目な顔で小泉さんが言う。

「本当に知らなかったんだ。私が好きだったこと」


そんなに冷静に納得すなーーー!!! 致命的ダメージを受けつつも、そう思った。

俺が知っててスルーしていたと思える要素が、どこかにあったのだろうか?


なんてことを思ってしまう。小泉さんは悪くない気がするのだけれど。


そして、さらに深堀りして聞いてみる。


「修学旅行の夜。あのとき……」


----


洋子には、たったこれだけで伝わった。

もちろん、よく覚えている。洋子にとって、特別な……大切な思い出だったから。

「もちろん、覚えてる。杉がね、一人で行けって」



あの時のことは、よく覚えている。


…………


風呂の時間がおしてて、やっと部屋に戻ってきたときは時間が過ぎていた。


洋子は、焦っていた。

「早く行かないと、栫井(かこい)君たち、まだ待ってるかも」


「洋子、ごめん、一人で行ってきて。まだ待ってるから、きっと」

「え、杉は来てくれないの?」

「いいから」


ええ? どういうこと?

いかにも気を使ってみたいな言い方だった。


本当は20:30より前に会うはずだった。

時間は過ぎてしまったが、栫井(かこい)君と話をしなくちゃならない。

とにかく、行かないと。まだ待ってるかもしれないから。


すっかり静かになった廊下、部屋の中から話し声は聞こえるけれど。

行ってみると、栫井(かこい)が一人だけだった。森田君が居ない。


洋子は、ここで気付く。


杉は、わざと2人きりにした。

もしかして、栫井(かこい)君に告白とかされちゃうんだろうか?なんて思った。


ところが、栫井(かこい)は洋子に気付くと、「杉は?」と言った。


とぼけてる訳では無さそうだ。ということは、首謀者は栫井(かこい)君じゃ無い。

おそらく杉のお節介。


でも、二人きりで会うのは嬉しかった。


このとき、栫井(かこい)君は、洋子の姿を見て何かを言いかけた。

そのとき洋子の期待は頂点に達して……落ちた。

栫井(かこい)は何かを言いかけた……のに、洋子については何も言わなかった。


栫井(かこい)は、洋子に興味を示さなかった……と洋子は感じた。

※これを拗らせた結果、20年以上後に、風呂を覗いて欲しくなる


----


そして、栫井(かこい)も当時のことを思い返す。


あのとき、小泉さんは、”杉が一人で行けと言った”と言った。

確かに、そう聞いた気がする。


だが、改めて考えてみると……小泉さんが俺のことを好きだったという前提で考えると、ずいぶん違って見える。


杉も、あの時既に……だったら今井さん(今井玲子)も知ってたのだろう。


今でも鮮明に思い出せる。あのときの小泉さんは特別可愛く見えた。


「あの時の小泉さんは、特別可愛かったな」


----


”あの時の小泉さんは、特別可愛かった”

洋子はあのとき、その言葉を聞きたかった。待っていた。でも、聞けなかった。

もちろん今でもうれしい。

でも、あのとき聞けていれば……


「あのとき、そう言ってくれれば……」


----


栫井(かこい)は、凄く残念な気持ちでいっぱいになった。


あのときも、俺はフラグを折ったのか。

凄く可愛かったのに、俺はなるべくそこには触れないようにしていた。


小泉さんとの密会は、修学旅行の1泊目だったはずだ。

20時以降は部屋から出るなと言われていたのに、20時までに会えず、その後会った。

あの20時と言う時間設定に無理がある。


※実際は20:30。栫井(かこい)が間違って覚えている


2日目に班行動があるので、どうせ、小泉さんとは明日会う予定があった。

なのに、小泉さんが一人で来た。


だから、変だとは思っていたのだ。

杉と今井さんは班が一緒なので、話をするなら杉の方が都合が良かった。

でも、何か理由があって、別の用事があって杉が来なかったのだと思った。


俺はあの時、入浴後の小泉さんに会ってドキドキした。


今でも俺が一番好きな瞬間だ。


「髪が濡れてて、石鹸の匂いがした」

「うん。ドライヤー無かったから。石鹸の方が好き?」


洋子が即返したので、会話が正しく……以上に、完全にかみ合っているように感じる。


「ああ、うん。石鹸だな。あの時のイメージが残ってて」


すると、唯ちゃんの声が。

「ああ、お母さん、私ベスと、ちょっと出てるから、あとで電話して」

そう言うと、玄関の扉を閉める音がした。


唯ちゃんが、たまらず出て行ってしまった。


「唯ちゃん、ごめん」

唯ちゃんに、この声は届いていないだろう。

俺はダメだな。唯ちゃんには気を使わせないようにしようと思っていたのに……


考えていることが理解できたのか、小泉さんが言う。

「せっかく、唯が気を利かせてくれたから」


まあ、確かにそうだ。早く話を切り上げて、唯ちゃんを呼ばないと。


「そうだな」


ショックが大きすぎて、唯ちゃんに十分な配慮ができなかった。

でも、仕方がない。こうなったら、せめて、この時間を有効に使わせてもらおう。


「あの時のこと、もっと教えて」

「あの時のこと?」


俺はあの時、業務連絡的な話しかしなかったように記憶している。

何か他にあっただろうか?


「覚えてない? さっき話してた、入浴後、夜会った話」


あの時俺は、小泉さんの話はあまりしなかった。どうせ、翌日の班行動は一緒だったし。

今井さんの話を聞いて、班行動中は、森田が一緒だからなんとかなるだろう……というか、別行動だから仕方なかった。


「話した内容までは……ただ、今井さんの話ばかりした」

「うん。だから私は脈無しだと思ってた……」


そうか。でも、翌日の班行動が一緒だから話す必要があまりなかっただけなのだが。

「だって、翌日の班行動、班が一緒だったから」


俺は、用件以外のことで、小泉さんを付き合わせるのは良くないかと思って控えていたのに……


全部裏目に出た。


「私ね、班、中村さんと交換してもらったの」


なんだ? 俺の知らない話だ。


「交換? 俺は勝手に班決められたと思ったけど」

「中村さん、委員だったでしょ」


委員? そんなのあったか? ぜんぜん記憶にない。


「いや、ごめん、覚えてない」

「平和よね。班決めは凄かったのよ」


なにか激しいやり取りがあったようだ。


だが、俺はその班決めのことは全く知らない。

それに、誰かの意思で決まるものなら、俺は今井さんとセットになるか、わざと分離されるか。

たぶん、わざと離されたのだと思う。事情を知っていれば、一緒にすると思う。


「あんまり酷かったから、完全くじ引きになったの」

「玲子と、3組の前田君を除いて」

班はクラス内で、クラスを超えては組めないはずだ。クラス越えも検討されたのだろうか?


「あの2人は、人気があり過ぎて、わざと、同性の仲良し、異性は接点の薄い、第三者と同じ班にしたの」


だったら、小泉さんは、今井さんと同じ班になるはずだ。

そして、班を交換したなら、小泉さんの代わりに、中村さんは、今井さんと同じ班に居るはずだが、中村さんはいなかった。


「私の班に伊藤君が居たの。だから、ちょうど良いから代わってって言われて」


そんな話は知らない。

俺は、今井さんが心配だったけど、小泉さんと一緒でラッキーとか思ってた。

水面下でそんなことがあったなんて。


俺は知らなかった。わざわざ、交換してまで俺と同じ班になったと知っていたら。

あの夜に、わざわざ交換して同じ班になったとでも言ってくれれば、いくら俺でも理由を気にすると思う。


ひとこと言ってもらえれば……


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