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24-22.オーテルとの再会(2)

挿絵(By みてみん)


犬にお父さんと言われた。しかも、念話みたいなやつで。


小泉さんの家に来て、いきなり犬に”お父さん”と呼ばれるとは思わなかった。


どういうことだ?

もしかして、俺はこの犬に呼ばれて来たってことか?

黒幕は犬? 新しいパターンだ。


俺はこの犬に見覚えは無い。


『いつも忘れるってことは、俺は、何度も君に会ったことがあるんだな』

『はい、あります』


そう言いつつ、抱き着いてくる。

犬の抱き着きというのは、前足でドンドン……やっぱり襲われていると表現するのが適切な気がする。

まあ、犬に襲われて何か思い出す。


”お父さん?”

俺に子供は居ないが、そんな呼ばれ方をしたことがあるような?

なんだか知っているような気がしてきた。


……あれ? 俺は今まで何かを忘れていたような。


『お父さん、私です』


あれ? 俺知ってるか? いろいろ思い出してきた。


俺が知ってるのは、こういう姿の生き物じゃない気がするが……


そうだ。小泉さんを助けるために飼い犬として潜入した!


『オーテル、お前、オーテルか!』

『良かったです。思い出しましたか。洋子も唯も生きています』


おお!思い出した。

良かった。小泉さんも、唯ちゃんも生きてる。


上手くやったのか!

細かいことは、思い出していないが、前回は唯ちゃんが既に亡くなった後だった。


俺が、時間を戻して歴史を変えた……


俺は人間を辞めてしまった。俺は人間で居たかった……

でも、神にならないと救えなかったのだ。


唯ちゃんを見る。元気だ。


そうか、この子か。良かった、

あのとき亡くなってた唯ちゃんて、この子だったのか。


こんな良い子が死んでしまったら、小泉さんも死にたくなるかもしれない。


良かった。今度は成功したのか……


親を看取ったら、オーテルの世界に行ってもいい。そう思えた。



神か……ずいぶん、すっ飛んだ話だ。

人間を辞めた自覚はあるが、その結果神になったとは思うのが難しい。


前回は唯ちゃんが亡くなっていた。

だから、俺が時間を戻した……その結果、神になってしまった?


神って何だ? 俺は何も変わっていないと思う。俺は人間を辞めたのだろうか?


『俺は時間を戻したのか……』

『はい。お父さんは、唯が生まれた後に戻ると言っていましたが、大学受験の前に戻りました』


俺は戻る時を間違えたけど、なんとかなったようだ。


でも、良かった。

おお、俺のクソゲー生活が終わったのか。

それに、俺のクソゲー人生にも意味があった。良かった。

自発的に早期離脱しなくて良かった。


『これで安心してオーテルの世界に行けそうだ』


『私が成仏するまで待ってください。

 私はお父さんと触れ合ってみたいのです』


なんか、今、凄い勢いで触れ合ってる気がするのだが。

なんか、ヨダレがいっぱい付いた。


なんだろう?


凄いデジャブ感がある。

俺はいつも、涙とか鼻水とかヨダレとか、顔から出る液体を付けられるのだ。


栫井(かこい)君、どうしたの?急に」

「え、あ、いや、犬久しぶりだったから」

「ごめんね。ベス、栫井(かこい)君のこと好きみたい」


「ああ、でも、ちょっと歓迎が過激だな」


なんとか答える。

念話と、普通の会話を切り替えるのは、かなり難しかった。


『オーテル、成仏のこと、またあとで教えてくれ』

『はい』


唯は殆ど固まっていた。ベスのテンションがあんなに上がると思わず、いつもつまらなそうにしているのがベスだと思っていたから。

そして、もしかてたらベスが喋るかもしれないと思って、心配で心配で……結局固まってた。

あまりのベスの興奮振りと、その割に喋らないところが、却って印象に強く残った。

唯はこのとき、ベスと栫井(かこい)は知り合いかもしれないと思った。


========


唯と同様に、洋子も違和感を持った。


ベスは栫井(かこい)を知っているように見えた。

その後、少し静かになったと思ったら、栫井(かこい)のベスに対する態度が変わったように見えた。


やはり、ベスと栫井(かこい)には何かがある。


と言っても、ベスと会わせるために(栫井(かこい)を)連れてきたつもりはなかった。

ついうっかりベスのことを忘れていて、わざわざ来てくれたのに……と家に誘ってしまっただけだった。


洋子は、栫井(かこい)に会いたかった。40のときに会えると思っていた。

ところが、栫井(かこい)は同窓会に来なかった。


寂しくて、心細くて、みじめでもう生きていることがいよいよ辛くなった時、会いたかった人が来てくれた。

体調が悪くて、ろくにお礼も言えなかった。化粧も崩れて酷いところを見られた。

でも、家まで連れてくることに成功した。


唯には悪いが、いつか埋め合わせすることにして、今日ばかりは、やりたいようにやらせてもらおうと思った。


「ごめんね、散らかってて、人が来ると思わなかったから」

「いや、俺こそ、急に来たから」


----


俺から見ると、特に散らかっているようにも見えないが。

うちなんか、俺一人専用みたいになってる。俺一人が歩いて食事するスペースと寝るスペースだけがある。

あとは、おもちゃと言うか、昔のゲーム機とか、もう使わないモノ、つまりゴミで溢れている。


小泉さんの部屋は不思議な間取りだ。

小さな個室みたいなのがある。たぶん、部屋にカウントされない部屋だ。

部屋には条件があって、区切られたスペースが有っても、窓が無いと部屋としてカウントされない。


「紅茶で良い?」

「ああ、ありがとう」


「ありがとう、来てくれて」


この部屋にじゃないよな?


「ああ、いや、困ったときは気軽に呼んでくれれば」

「…………」


気軽に……

洋子は、結局自分から連絡を取ることができなかった。


----


話が途切れてしまった。気まずい。

俺を呼ぶには、相当抵抗があるようだ。嫌われているわけでは無さそうなのだが。

「二人暮し?」

そう言って、話題を変える。

唯ちゃんと二人暮らしなのは、既に電車で唯ちゃんから聞いていた。


「ええ。離婚して、それから……」


こんなに痩せるまで一人で抱え込んで……

ご両親は健在なはずだが


「実家には帰らなかったのか」


「仕事、子持ちには厳しいのよ、次が見つかるか分からないから。

 でも、助かったわ。また不景気になるって知ってて」


ああ、子持ちには厳しいって、独身男の俺でも知っているくらいだから、相当厳しいのだろう。

それにしても、不景気知ってて? リーマンショックのことか?


『お父さんが、不景気になると言いました』


なるほど。

オーテルの助言が何か影響を与えて、俺がこのタイミングで呼ばれたのか。


『小泉さんは、どこまで知ってる?』

『洋子は石を持っていますが、読んでいないようです』

『石?』

『石も忘れたのですか。後で話します』


石? 何か特別な道具だろうか?

まあ、でも良かった。小泉さんは、やせ衰えてるように見えたけど、見た目の割に、なんか元気そうだ。


「紅茶どうぞ」

唯ちゃんがお茶を出してくれた。

連係プレイで、あっという間に出てきた。


「ありがとう」


女の子ってのは、この歳でこれだけ動くものなのか。

俺が高1の頃は……ゲームできずに悶々としつつ、学校と塾と家を移動してただけだった。


勉強しかしなかったが、あれは、結局凄く無駄だった。

成績は上がったかもしれないが、それだけだ。結局、ほとんど役に立っていない。

そして、俺はあの時やるべきだった大事なことをやらなかった。


まあ、大事なことをやれなかったのは、それよりずっと前の時点で躓いてた。

満足するまで遊べなかったのは、小学校の時からだが。

ドラクエは、せっかく買ったのに、制限されて満足するまで遊ぶことができなかった。


だが、高校の時に、俺はあの時行動を変えていれば、こんなことにはならなかったような気がする。

あのとき俺がもっと積極的に……


小泉さんは、笑顔だけど、ずいぶんやつれてしまった。


メモの方ばかり気にしていたが、もっと前、高校の頃、もう少し積極的に動いていたら何か変わったのだろうか?


俺の後悔は、だいたい遊ぶタイミングを間違えたことと、小泉さんとのことだ。


「今日は遅いから、話は明日にしましょう」


「せっかく送って来たのに、俺が負担になったら意味無いから」


栫井(かこい)君、年とったら、頼れるようになったね」


ああ、まあ、見た目は少し変わったか?

いや、あんまり変わって無いな。まあ、でも、中身なんか、まるで変わっていない。

「中身は進化してないんだけど」


「違うの。高校の時は、玲子の……」


そういえば、俺は今井さんの下僕みたいに見えてたらしい。


「ああ、下僕のつもりは無かったんだけどな」


----


「違うの。私は……」


洋子は、褒めたつもりなのに、うまく伝わらなくて悲しい。


洋子はずっと勘違いしていた。栫井(かこい)は玲子のことが好きだと思っていた。


今もあまり自信は無いけれど、玲子も杉も、栫井(かこい)は洋子のことが好きだったと聞いた。


ずっと後になって。


それを知っていたら……


本当は、羨ましかった。玲子のように、大事に守って欲しかった。

そんなに力強い必要は無い。

一緒に帰るだけでよかった。あんなふうに、大事にしてもらえたら、それだけでどれだけ心強いか。


そう思っていた。ところが、栫井(かこい)は、とても力強かった。


お姫様抱っこしてもらったのだ。

確かに、今の洋子は痩せ細って、本当に軽いのだけれど、それでも大人の女だ。

軽々持ち運べる重さでは無い。


洋子のお姫様抱っこの写真が残っている。

カッコ良くて素敵な新郎のはずの元旦那は、写真ではカッコ良かったが、あれは見せるためのお姫様抱っこだった。


撮影前に練習した。だから、洋子にはよくわかった。

あれは、洋子が首にぶら下がるようにして一時的にポーズを保っているだけで、お姫様抱っこしたまま100mだって歩けやしない。


※そのポーズ(見た目重視のお姫様抱っこ)では全く移動できませんが、

 重量物抱えるような見た目になってもよければ少しは歩ける程度です。


洋子は何もしていないのに、そのまま運ばれたのだ。

見かけによらず栫井(かこい)は、とても力強く頼りになる。


あのとき捕まえて、手放しちゃいけなかった。

栫井(かこい)は今でも待っている。何度も玲子に言われた。


でも、年を取り過ぎた。自信が無い。

もう少し、栫井(かこい)が、積極的に動いてくれないと、どう思っているのかわからない。


…………


相変わらず、両思いなのに踏み出せない二人だった。


「明日。お話ししましょう」


洋子は思う。


まだやることがある。

せっかく、家に招くことができた。この機会に、もう少し近付きたい。

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