23-5.異世界には、終活に行く
”加齢臭と転移する竜”本編
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から「横浜編」を分離したものです。
本編は、異世界から戻ってきたところから横浜編がはじまりますが、
こちらは娘が呼びに来るところからのスタートとなり、話の並び順を
入れ替えてあります。
話の並びを入れ替えただけである都合、異世界側の話も、混ざってしまいますが、適当に読み飛ばしてください。
『関りができないと見えにくいものなのです』
ああ、なるほど。
元から居るのに気付くまでは、見えてないように感じる。
でも、気付くと見えやすくなるのか。
「まあ、そういうものなのかもしれないな。
知らぬ間に怪我したときとか、気付いてから痛くなったりするしな」
『怪我がありますか?』
「例え話だ」
『わかりました。例え話ですね』
言葉が意訳されずに、直訳で伝わっているような感じがする。
いや、”例え話”自体が苦手なのだろうか?
気配が俺の横に来て伏せた。なんというか、凄く犬っぽい。
俺は猫派なんだが。
『私が生まれた世界に行きたくなりましたか?』
「ごめん。せっかく会いに来てくれたのに、俺はまだ、その世界に行きたいと思えないんだ」
『良い森がありますよ。お母さんたちも待っています』
俺を待っていてくれる存在が居るのなら、もう少し早く言って欲しかった。
小泉さんが亡くなったことを知る前だったら俺は……
でも、亡くなったことを知った後の俺には……
小泉さんが亡くなったことを知った後の俺が、森に行こうとしたのは、新しい出会いを求めてではない。
生きていることが苦痛だったから。消えてしまいたかったからだ。
もう少し早く来てくれれば、俺は行ったかもしれない。
でも、もう無理だ。
俺にはもう、何かをしようと思う気力がない。
「悪いな。俺にはもう気力が残っていないんだ」
『それでは私が成仏する事ができません』
霊体みたいなやつだしな。成仏ってことは消えてしまうのだろう。
成仏するために、俺に会いに来てくれたなんて、なんか、俺の子って感じだ。
だが、これが俺の悩みになった。
この子はもう元の世界に帰ることはなく、ここで成仏するのだという。
この子が消えたら、俺はどうやって生きていけば良いのだろう。
俺はこの子も、小泉さんも居ない世界で生き続けたいと思わない。
うむ。なんだか、異世界に行くような気がしてきた。
俺は、この子に来てほしくて異世界に行く。俺が行かないと、この子が生まれないから。
この子も、俺に来てほしくて、ここに来る。
なんだか、美しい親子愛って感じだ。
なんだか、少し、ホントの子供のような気がしてきた。
名前はグライアスは嫌だな。もうちょっと女の子っぽい名前が良い。
でも竜は名前を付けないそうだから、一番大きな竜の家のお嬢さん……だと呼びにくいから、フローレンとかフロイラインとか呼ぼうかな。
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相変わらず、自称俺の子どもとは話ができる。
ここに来る前のことをいろいろ話してくれる。
人生の最後にやって来たので、高齢だったらしい。
人生……竜なので竜生になりそうだが、人生と言えば、そのまま通じる。
来る直前は高齢だったというが、俺には子供のように感じる。
ちゃんと、生き物としての義務を果たしてから来たので、子どもも居ると言う。
ぬぅ。”生き物としての義務”とは厳しいことを言いおる。
そうやって、俺にプレッシャーをかけようと……
まあ、別にそう言う意味で言ったわけではないだろうが。
「君には、子供は何人居たんだ?」
『3人居ます。1人はお父さんに会いました』
これが難しい。どう解釈すれば良いのか。
俺は、この子が生まれる以前に死んでいるのだ。
再度聞いてみる。
「俺は、君が生まれるより前に死んだんだよな?」
『私の娘も時を超える竜だったのです。お父さんに会いに行きました』
「会えたのか?」
『会いました。会う必要が有ります。骨を受け取ってください』
「骨?」
『お父さんの骨です』
「なんで、俺の遺骨を?」
『お父さんが忘れても、骨は覚えています』
意味が分からん。
「どういうことだ?」
『お父さんは、大事なものを捨ててどこかに行ってしまうのです。でも、骨は覚えています』
ぬう。度々失踪するダメなやつっぽいな……
最強とか聞いたから、俺じゃないと思ったけど、なんか逃げ回って落し物して孫に届けてもらうなんて、なんだか、俺かもしれないって気がしてきた。
俺は異世界に行くのだろうか?
何か決定的な理由があるのか、流されてなんとなく行くのか。
「なんで俺は異世界に行ったんだろうな?」
『その理由を私は知っています』
「ん?」
何か理由があるらしい。でも、たいした理由じゃ……あれ?
ああ!!
今、ビシっと来た。わかった、そういうことか!
有る。俺が異世界に行く理由が!
この子は、時を超える能力がある。
『骨に聞きました。だから私がここに来ました』
やっぱり、そうだ!
俺はそれが疑問だったのだ。
俺は、この世界を捨てて異世界に行くと言う。
この子が、もう少し前に来てくれれば、俺は喜んで応じたかもしれないのだ。
なのに、この子は、そのタイミングを避けて、俺に生きる気力がなくなったのを見計らってやって来た。
時を超えることができる。なのに何故このタイミングに来たのか?
俺は深い森に行きたいと思った。勝手に心臓が止まってくれることを望んだりもした。
でも、俺の本当の願いは、死にたいとか、この世界を捨ててどこかに行きたい……ではない。
その骨に刻まれた記憶と言うのは……
『お父さんは、お父さんが大事にしている人間の女を助けると、私の世界に行きます』
やはりそうだ……小泉さん。
理解した。
もし、小泉さんが死のうなんて考えなくて済むようにできるのなら、俺は、喜んで異世界に行くだろう。
元から俺は今までの生活をずっと続けていきたいなんて思っていなかった。
小泉さんのことを知って、いよいよ生きていることが嫌になった。
この後悔を消すことができるのなら、俺はその世界に行って早々に死んでも構わない。
俺は正直、俺が死んでも困らない。
俺の死後誰かが困るのは避けたい。それだけだ。
俺は、この後悔を背負い続けて前に進むことはできない。
だから、このまま生き続けても、無駄に時間を消費して、早く死期を迎えようと思いながら過ごすだけだ。
だから……死ぬとわかっていても、俺は異世界に行くだろう。
違うな。俺は、終活のために異世界に行くのだ。
俺には、誰々を救うとか、世界を救うとか、そんなのは似合わない。
やりたくない。
俺は、終活のために異世界に行くのだ。
その方が、俺らしい。
”終活をしに異世界に行くのだ”
うん。俺らしいじゃないか。
だらだら生き続けるより、俺は納得できる形で、最後を迎えたいのだ。