表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/115

24-10.ベスが来た(1)

挿絵(By みてみん)


2004年

遂にこの世界にベスがやってきた。

栫井(かこい)と洋子が最後に話をした2年後のことだった。


オーテルは、直接この世界の生き物と接触することができないが、例外的にベスの体だけは操ることができる。

オーテルの母が作ったダミーのひとつだ。


ダミーというのは、人工的に作られた生き物で、ベスは、この世界に送り込まれた唯一のダミーであり、人型をしていないと言う点でも、唯一のダミーであった。


全てのダミーは、【一番大きな竜】を捕獲することを目的に生み出されたものである。


【一番大きな竜】は、人間の女を好む(と、竜達が考えている)ため、【一番大きな竜】と直接接触することを目的としたダミーは全て人間の女の姿をしていた。


ベスは、人間ではない4本足の獣の形で生み出された。

この世界の人間に干渉するために生み出されたためだ。


【一番大きな竜】にとっては、一番最初に接触するダミーであり、作った者の時系列的には、一番最後に作ったダミーであった。

※ダミーを作った竜の視点では、その順番になります。


それは【一番大きな竜】の死後、オーテルが生まれたよりも、さらに後のこと……



オーテルは、石の記憶で、ベスの存在を予め知っていた。

そして、栫井(かこい)が暮らす、この世界にやってきた。

オーテルは、てっきり自分が来る時代にベスが居るものと思っていたが、来たときには既にベスは死んでいたのだ。


そのため、【一番大きな竜】が時間を遡って、はじめて会うことができる。


前回の転移でも会っていたので、オーテルにとっては、これが2回目だった。

父が再び時を超えたおかげで、また会うことができた。


会うと言っても、ベスはオーテルの存在を認識していないので、オーテルが一方的にそう感じるだけなのだが。


ベスの見た目は、人間にグライアスと呼ばれた竜に似ていた。

※おっさんは、ディアガルドやグリアノスを見て、巨大な子犬と表現していました。


オーテルという名は、父がそう呼んでいただけで、人間にはグライアスと呼ばれていた。

その竜とよく似ていた。


ただしサイズが小さく、寿命は人間よりもずっと短い。

竜から見ると、人間は寿命が短くすぐ死んでしまう生き物なので、その感覚としては、とても短い時間だ。


ベスが死ぬ前に、全てを済ませなければならない。


やることはわかっていた。

異世界で竜だったころに、このときの骨の記憶を読んだのだ。

【一番大きな竜】が大事にしている人間(洋子)の娘のところに行く。

唯という名の女の子だ。


人間は、ベスを犬という種類の生き物だと思うようだった。

前回、人間に捕獲された時、犬という生き物の一種だと言っていた。


今回は、唯のところに着く前に、他の人間に捕まったり、他の動物に襲われないように、注意しながら行く。


オーテルが石の記憶で見たベスは、もっとしっかり歩くことができたが、それは、もっと後のことで、この時点のベスは子犬で、体力が弱く、ちょっとした距離の移動に一苦労という状況だった。


前回は、唯に会う前に、他の人間に捕まってしまったのだ。

一度捕まると、唯のところに行くのは容易なことではない。


前回は、家出に成功したあと、あっさり車と呼ばれる動く箱に轢かれて死んでしまった。


父を、オーテルの生まれた世界に行かせるためには、唯のところに潜り込んで、洋子の行動を変えさせる必要がある。

失敗する度、父が転移しなければならない。


何度も父に時間超えをさせるのは避けたい。

なんとしても、唯の家の飼い犬にならなければならない。


天敵は、なんと言っても人間。数が多く、捕まると大変だ。

次は大きな黒い鳥。そして、前回の死因となった、大きな箱。

人間が車と呼ぶ不思議な乗り物だ。


オーテルは、ベスから離れて俯瞰して上から見ることも出来るので、どこに何が居るかはわかる。

ただ、ベスの移動力が低く、手こずる。酷く体のバランスが悪く、前足が辛い。


唯が、家に入る前に辿り着かないと、唯は家に入ったら、次の日まで外に出てこない。

ベスのこの体は、翌日まで食べ物無しに、耐えられるかわからない……


慣れない体を使って、なんとか、唯が通る道まで辿り着く。


しばらくして唯が通るが、子供が何人もいる。

クラスメートと一緒に下校中だった。


唯が居る場所と、一緒に居る人間の数は、ベスが到着する時間で変わる。

他の人間に捕まると、唯の家で飼われなくなる可能性が高まる。


唯が1人になるのを待つ。


ようやく一人になるが、唯は逃げる。


唯は、後ろから、子犬が付いてきていることに気付いていたのだ。


唯は、本当は、子犬に興味津々で撫でてみたかったが、犬や猫は、相手にするとついてくると言うので触るのを諦めたのだ。


ところが、触って無いのに付いてくる。

唯は困って逃げた。


唯は1年ほど前、捨て猫を拾って、怒られたことがあった。

それから母にずいぶん長く繰り返し言われてきたので、捨て犬捨て猫には近寄らないようにしていた。

※この時点での唯は猫派です。


----


唯が逃げた。

”この小娘が!! なぜ逃げるか!!”

そんなことを思いつつも、オーテルは見た目は小さくて可愛い体で、頑張って追いかけるものの、体力がない。追い付けない。


唯は決して早いわけではないのに追い付けない。

この体が弱すぎるのだ。

前回は酷使しすぎて、すぐ動けなくなって、他の人間に捕まった(拾われた)ので、無理はしない。


が、見事に逃げられた。

唯が一人になるときを狙って、やっとその時がきたと思ったら逃げる。

あまり走ると、この体がバテて動けなくなる。制約の多さにイライラする。


幸い、唯は回り道をして逃げた。

オーテルは、巣……唯の家がどこかは知っている。先回りする。


視点が低く、見える景色がいつもと違うので少し迷うが辿り着く。


ギリギリ何とか先回りできた。


そこに、後ろばかり気にしながら、唯がやってきた。


「わ、なんでうちに居るの? うち、動物は飼えないんだよ」

唯は、なぜか人間の言葉で言い訳をする。


慣れてないので、聞こえ方が変だ。


飼えないというのは嘘だ。

ベスはこの家に住んでいた。石の記憶では、そうなっていた。

だから、そんなことはない。


そもそも、飼わないと不幸になるのだ。

不幸を避けるために潜入するのだ。


仕方ないので、いきなり喋る。

「わわな……不幸…」

思った通りに声が出なかった。


「なに?」

唯には、犬の鳴き声にも聞こえたが、なにか喋ったようにも聞こえたので驚いた。


オーテルは戸惑う。声が出ると思ったのに、上手く喋れなかったのだ。

この体は、人間に指示を伝えるためにある。

人間の言葉を話すことができるようにできているはずだ。


今度は力を入れて話す。

不幸だと小娘にはわかりにくいかもしれないので、幸運に変える。

「妾は幸運の使者じゃ!」

ちゃんと喋れた。


唯は、無茶苦茶驚いた。

「ええ? コーウン? 犬が喋った」


「このたわけが! 妾を犬と呼ぶでない!」


喋った上に、言葉が変。こんな子犬が”わらわ”とか言い出した。


怒っているようだ。


思い当たることがあった。

ペットの犬を指して”犬”と言うとあまり良くない。

”ワンちゃん”と言う方が良いという話を思い出した。

「あ、そうだ、犬じゃなくて、ワンちゃん」


「同じじゃ、このたわけが!」


いきなり犬が喋って、さらに怒られ、唯はどうすれば良いかわからなくなる。


「わーん」


「ん? これしきのことで泣いてどうするのじゃ

 心配するでない。妾が助けてやる。

 お前は大きく育つが良い。

 お前にどのような困難が有ろうとも、お父さんが解決する。

 気にする必要などない。

 お前の母が悲しむことを避けたいなら、妾を家に置くが良いぞ」


「お父さん?」


唯にはお父さんが居なかった。何年か前に両親が離婚してしまったのだ。

今のお父さんと言うのは自分のお父さんのことかとちょっと考えたけどわからなかった。


どういう意味か聞きたかったが、それより早く、犬が喋る。


「それはそうと、お前はヤキトリを知っておるか?」

「ヤキトリ?」


オーテルは、使命も大事だと思っているが、ヤキトリにはそれ以上の興味があった。


※まあ所詮畜生(しょせんちくしょう)ですし、神と崇める父が美味しそうに食べていたものなので仕方ありません

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ