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24-04.河原のバーベキュー(4)

挿絵(By みてみん)


とはいえ、ソーセージが無くなって、いよいよ、もやしと麺しか残ってない。


もやしと麺ばっか残して、どうするんだよ!

ぜんぜん計画性が無い。


他を回って食材見るが、肉がほとんど無くなってる。

そして、あんなにあった、玉ねぎは、網で焼きやすいのですっかり減って、もやしは手付かず。


幸い、豚肉が余ってたので貰ってくる。

網で焼くのに、味付け無しの豚肉はあまり人気が無いようだ。


俺にとっては、ラッキーだったが。


「豚だよ」

そう言いながら、並べていく。

少し焦げ色が付いたら、野菜もやしを投入。

ところが、予想外にニンジンが多い。もやしで隠れて見えてなかった。

しまった。ニンジンは先に投入すべきだった。


料理にはセンスと、意外に高度な知識が有用だったりする。

俺にはそういうのが無い。でも、火が通りにくいものから先に焼くのがルールだ。


「人参先にしとけば良かった」


「野菜は生でも行けるから」 杉のフォローが入る。

杉は口が悪かったり、余計なこと言ったりとかはするが、基本は良い子なのだ。


栫井(かこい)君、意外に細かいこと気にするんだ」

見覚えのある子に話しかけられる。木下さんだ。


とりあえず、テンプレ的に答える。

「女の子の方が気にするかと思って。焼きそばは、誰が作ってもだいたい美味いけど」


酔ってるからか、人恋しかったからか、俺にしては口が回る。


栫井(かこい)君、1年の時クラス一緒だったよね」


木下さんとは、同じクラスになったことがある。

ただ、それがいつだったかは、わからない。


「1年の時だっけ?」


木下さんは、ちょっと不機嫌だったのか、トゲのある返しをしてくる。

「私のことなんか、覚えてないよね。

 みんな、玲子のことしか見て無いし、

 栫井(かこい)君なんか(玲子の)家来みたいだったもんね」


それにしても、酷い言われようだ。俺は家来に見えていたのか。

”みんな”と言うが、俺はちょっと違う。

多くの男は、今井さんが可愛いから近付いてくる。


俺は”人避けのため”だ。

俺が居ると、人が寄って来辛くなるから今井さんと一緒に居ることが多かっただけだ。


俺自身が、人に寄りたがらないほど嫌われていたのだとは思いたくないが、

俺自身に人が寄って来るほどの魅力が無いことは承知している。


俺は中学が今井さんと一緒だった。

同じ中学ということは同じ学区内に住んでいるということになる。

学力による選別など無く、基本は一番近い学校ということになる。


一方で、高校は一番近いところに通うわけでは無い。

学区が広いのだ。


中学が同じだと高校の時は、自動的に帰る方向が一緒になることがほとんどだ。

もちろん例外はあって、家自体は近くても利用する路線が別になることもある。

俺と、今井さんは路線も一緒だ。


今井さんは、人気がありすぎて、一人の時を狙って話しかけられるのを嫌っていたので、俺も一緒に帰ることが多かった。

それが、傍から見ると家来。俺はそういう風に見られてたのか……

ちょっとショックを受ける。でも、まあ、そんなものだろう。

家来という言葉を使わなかっただけで、実際の関係はそんな感じに見えていることを俺は自覚していたかもしれない。


なので、今、家来という言葉を聞いても、そういう風に見えていたのかと思うだけだ。


ところが、今井さんが、言い返す。

栫井(かこい)君は、守ってくれてたの。私は凄く感謝してるんだから、家来なんてやめてよ」

今井さんの目がちょっと怖かった。俺に対してではなく、木下さんに対する視線だが。


「冗談に決まってるでしょ」

木下さんが言う。明らかにテンション下がってた。


俺も慌ててフォローする。

「木下さんはもちろん覚えてるよ。ただ、一緒になったの、何年の時だったかすぐに出てこなくて」


今井さんは、今でも俺に対して何か特別な配慮をしてくれるのだ。

”恋愛対象とは別の何か”として。


俺は、憧れてたんだけどな……恋愛対象としても……

俺は中学の時から、今井さんに憧れてた……まあ、同級生の多くにとって今井さんは憧れの対象だったが。


だから、俺は傍に居られるだけで嬉しかった。


……………………


「さっきだって玲子ばっかり」


なるほど。

はっきりと言わなかったが、どうも、木下さんは、中村(鉄)に気が有るらしい。


さっきまで、同じ火を囲んで、思い出話をするつもりが、留学組が荒れてしまった。

中村(鉄)は大学卒業後、海外留学して戻ってきた。


中村(鉄)は、留学から帰って来たら、『世界』、『世界』と、異世界の人に変わってた。

人は異世界に行くと変わってしまうものなのだ。


俺だって異世界に行ったら変わっていたのだと思う。

※あんまり変わってないですよね?


ついでに、中村(鉄)は、今井さんが好きだったと言ってたようだ。

言うかどうかは別として、今井さんが好きだったというのは、珍しいとか変わってるとかは感じない。

むしろ普通だ。


ところが、その先が問題だった。


今井さんにこう言った。

”相変わらず可愛いね、向こうにも可愛い子いっぱい居たけど、やっぱ、今井さんにはかなわない”


口説き文句なのだろうが、今井さんに対してそれは、

むしろ喧嘩売ってることになることを、中村(鉄)は知らなかった。


そして、その場に居た木下さんも、腹を立てた。


つまり、俺にいきなり家来とか言ったのは、ただの八つ当たりだった。

ぬう。俺は数年ぶりに会った元クラスメートの女の子に八つ当たりされるような男なのだ。


一緒のクラスになったのが、いつだったか覚えて無いだけで酷い言われようだと思ったが、

まあ、そんな感じで、今井さんの傍に居ると、巻き沿いで俺が酷い目に遭うことがあった。


それは、べつに良いのだ。俺はそういうの慣れてるし。


そんなことより、”やきそばうめぇ!!!”


俺が作るやつと違う気がする。

「すげぇ、何故か美味くなった」


木下さんが言う。

「蒸らしは重要なんだから」


俺は蒸らしを軽視したつもりはない。

そもそも俺がやるのと何が違うのかもわからない。

水の量だって大差無いように思う。


「なんで、あれだけで美味くなるんだよ」


「火加減も良かったし、ほとんど栫井(かこい)君が自分で作ったじゃない」


確かに、ほとんど俺が作った。

だが、俺が作ったら、この味にならない。

もはや魔法だ。


「あの蒸らしで、俺が想像してたのと全然違う味になった。木下さん凄いな」


俺は本心でそう思っている。今まさに実感しているのだ。

これが料理の恐ろしいところだ。おそらくポイントを押さえていれば、他はテキトーで良いのだ。

だが、そのポイントを外してしまうと残念な結果になる。


「こう言うとこで差が出ちゃうのよね」


そう言ったのは今井さんだが、俺から見ると何でも器用にこなすので、料理も上手そうな気がする。


料理は何故かわずかの差で何かが変わる。料理も芸術の一種なのだと思う。

もちろん、慣れや練習は効果がある。

でも、センスも重要なのだ。


「玲子(今井)は、料理なんかできなくてもいいじゃない。

 私なんか、他で勝負しないといけないから」


ああ、この2人、相性悪すぎだ。木下さん……それは今井さんには禁句だ。


「私は、中身を見て欲しいんだけど……」


今井さんは我慢して言い返さなかった。だが、その一言に詰まっている。

今井さんは”中身を見て欲しい”。いつもそう思ってる。

中身を見てもらえないのが、今井さんの悩みだ。


そう言えば、今井さんは料理はどうなんだろう?


「今井さんは料理は、あんまりしないんだっけ?」


「あんまりね。でも、機会が少ないだけで、それなりには」


「私のことも忘れないでね」

杉だ。なぜか、ここで割り込んでくる。


本当に忘れてた。いや、忘れて無いけど空気だった。

”焼きそばを食う座敷童的な何か”が居ると思ってたが、杉だった。


「杉は花嫁修業とか、してそうだからな」


「ふつーに就職してるから」


それは知ってる。


「杉は、喋らないと目立たないよな」


「小さいってことかよ!」


まあ、その通りだが。座敷童的な……こう、見えてるけど、気にならない存在なのだ。

でも、喋るとうるさい。そのギャップが凄い。


今井さんは、何事も無かったかのように、わしわしと食べていた。

ストレス感じると食いに走る系か?


今井さんは中身を見て欲しい人なのだ。


俺は、ちゃんと中身を見てたと思う。

俺は、見た目じゃ無くて、誰に対しても優しい今井さんが好きだった。

中学の頃の今井さんを知ってるから。


俺は、今井さんとは、中学高校が一緒で、昔から縁がある。

改めて思ったが、確かに超美人だ。


俺は近くにいすぎて感覚が麻痺してた。

そりゃ、皆、お近付きになりたいと思うのも仕方がない。


俺がそれを邪魔する役だ。



そんなところで、ラブラブムードの集団からお誘いがくる。

「今井さんたちもどう? 今みんなで……」


”今井さんたちも”と言ってるが、今井さんが主な目当てで、残りはオマケの人という意味だろう。


今井さんは、笑顔で答える。

「ごめんね。今食べ始めたばっかりなのよ」

瞬殺だ。


「だーかーらー、今井さんが栫井(かこい)のとこ居るときは……」

俺の話題が出ることは無いが、今井さんの話題で俺の名が出ることは良くある。

そうだ。皆が知ってることだ。

今井さんは俺のことが大好きなわけでは無くて、安全地帯として近くに居る事が多い。


今井さんは、目立ちすぎる。

一人にすると危ないので、(一人になるのを待って近づくことが多いため)俺はなるべく今井さんが一人にならないようにした。

俺だけじゃなく、何人かで居るようにしていた。


もちろん邪魔なので、嫌がらせを受けることがある。

それが原因で、今井さんから離れていく人も多かった。

さっき、今井さんが、感謝と言ってたのは、そのことだ。


でも、それがあったから小泉さんと仲良くなって、俺は呪いにかかってしまった。


杉も仲間だ。小泉さんは、2人と仲が良かった。

高校一年の前半は、杉……この杉じゃなくて、中学から一緒だった、ユッコの方だ。


ユッコは嫌がらせを受けて、怖がって離れていった。

そのユッコの方の杉と入れ替わるように仲良くなったのが、こっちの杉。

ユッコは杉田さん。こっちの杉は、高杉さん。

名前は蘭。見た目が、座敷童とかそっち系なのでちょっとギャップがあった。


わざとちゃん付けで呼んでみる。

「らんちゃん、前から婚約者居たんだって?」


「ちゃん付けかよ!」

名前呼びは良いのか?

高校のときは、名前呼びを凄く嫌がったのだが。


「名前呼びはいいのか?」

「結婚したら苗字変わるからいいよ」


かまわないらしい。


杉は婚約者有りだった。

つい最近まで秘密にされてたので、はじめて聞いたときは驚いた。

ただ、なんであの集団に入っていたのか納得した。


「私は高校の時に聞いてたから」 今井さんだ。

「高校の時は、玲子にしか言ってなかったから」


少し変な感じがした。

前から知ってたのは、高校の同級生だと今井さんくらいだそうだ。

ってことは、小泉さんも知らなかった?

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