24-03.河原のバーベキュー(3)2万回転の市販車が消えた、最強から実用への感覚革命
牧田と男二人でさみしく焚火。
場所が広いし、計画性も無く火を増やしてしまったので、人がばらけてしまったのだ。
炭ばかり人気があって、薪はあまり人気が無かった。
俺も食べる……料理という面からは炭が良いと思う。
ただ、燃やす役であれば薪の方が良い。
牧田は、このごろバイクに凝っているらしく、話題はバイクばかりだった。
高校の時は、受験終わったらあのゲームやりたいとか、そんな話をする同志だったが、今はすっかりバイクに興味が移っていた。
「パワーバンドに入ったら、スポーンって、NSRだけ飛んで行って、
本田の怪我はたいしたことないけど、
凄い悲惨で、そのバイクが100万くらいかかっててさ……」
NSRと言うのは、ホンダの2ストレーサーレプリカで、かなり乗りにくいバイクだ。
本田がホンダのバイク全損させて、弁償という小咄ではなく、
本田君がホンダのバイク全損させた実話だ。
これは、今回の新ネタではなく、何度も聞いた話だった。
本田君が、試しに一周くらいのつもりで乗ったら、2ストの乗り方知らずに、一気に加速して、本田君は置いてかれて、バイクが無人で壁に激突した。本田君は無傷だが、バイクは全損。
ただ、そのバイクは改造も入れると優に100万はかかっている。
この頃はまだ、NSR250Rは売られていたが、40馬力にパワーダウンしていた。
実際に速いかどうかは別として、レーサーレプリカで40馬力は受け入れ難い。
旧型の方が改造もしやすい。
40馬力というのは、単気筒で最高出力控えめの2ストオフロードバイクと同程度。
4スト車でも45馬力は出せる。
それ以上を求めるから2スト車を選んだわけで、弁償して40馬力車買いますと言っても納得しない。
その後どうなったのかはわからない。
バイクは90年代から、低馬力化が進んだ。
バイクの動力源は、あの時代は100%ガソリンだった。
後にアルコールが混ぜられるようになった。
その頃からだろうか。穀物の価格が上がった。
ガソリンに混ぜられるアルコールは穀物から作られ、食糧危機に陥っている国の人達の食料を奪う結果になる。
そして、それまで貧乏人の食べ物だったインスタントラーメンの価格が上がった。
環境がどうだと言い出すと、貧乏人が被害を受ける。
そもそもガソリンが何を指しているかというのにも関わってくる。
アルコールを混ぜているのは、ガソリンエンジン用の燃料に対してだ。
ガソリンエンジンは、元々ガソリン、日本語で揮発油と呼ばれていた燃料で動くエンジンのことだ。
今のガソリンはガソリンエンジン用の燃料で元々のガソリンは、ホワイトガソリンと言う名で売られている。
同じく、ガソリン用のストーブやランタンに使う燃料で、あれはガソリンエンジン用の燃料に向かないので、元のガソリン、今ではホワイトガソリンと呼ばれる燃料を使用する。
ホワイトガソリンは白色では無い。自動車用のガソリンが赤で着色してあるので、それに対する白。
白い布に浸けても白いままの液体。自動車燃料のガソリンを赤ガスと呼ぶこともある。
赤ガスには、ガソリン税が含まれているのにもかかわらず、白ガスの方が遥かに高い。
なので、赤ガス対応のガソリン機器もあるのだが、ガソリンを買うのが少々手間なのだ。
※2022年現在は、ガソリン買うには住所名前を書かされるそうです。
車に給油して、車から抜けば済む話なので、あんまり意味が無い気がするのですが。
バイク用のガソリンエンジンは2ストロークと4ストロークの2種類ある。
昔は2ストの四輪車も走っていたが、四輪で2ストは、ほぼ絶滅した。
ストロークとは行程、ピストンの上昇で1ストローク、下降で1ストローク、この2ストロークでクランクシャフトが1回転する。
4ストは、バルブがカムによって制御されていて、吸気と圧縮で2行程、爆発と排気で2行程。行程ごとに吸排気のバルブが制御されている。
それに対して2ストの場合は、精巧な作りのバルブとか無く、はじめからシリンダに穴が開いていて、ピストンの上げ下げで吸排気される。排気穴の方が下まで開いてるので先に排気が始まって、更にピストンが上がると吸気側の穴に届く。吸気と排気が同時に開いてる時間もあるという、いい加減なエンジンだ。
こんなんで良く動くと思うが、一応動く。
回転数でピストンの上げ下げの速度は変わるが、その他は回転速度が変わっても変化しないので、基本的にはある特定の回転数に合わせて作ってある。
常に、その回転数で使えという無茶な設計だ。
2スト末期には、排気デバイスと言う、回転数に合わせて排気タイミングを変える仕組みを備えたものが主流になった。でも、基本は変わらない。
この排気デバイスがまた質が悪い。
高回転型の2スト車は、回転低い時にクラッチ繋ぐと、エンストするのだが、排気デバイスが付いてると回転が下がるが、止まらずに瀕死くらいで耐える。
アクセル開けても加速しないので、回転を上げようとしてアクセル開けても、加速しない。
ところが、ある程度回転が上がると、そこから先はロケット加速する。
その瞬間には、もうアクセルを戻すことはできない。
なので、2スト車は、低回転でクラッチ繋ぐのは危険だ。
乗り方としては、先にパワーバンドまで回転上げておいて、クラッチを緩やかに繋ぐことで滑らかに走り出す。
アクセルではなく、クラッチワークが大切だ。
いや、俺は50ccのしか乗ったこと無いのだが。
50ccのバイクも、頭おかしい乗り物だ。
50ccは、制限速度が30km/hなのに、最高速度がメーターで90km/hを超えるようにギヤが設定されていて、30km/h以下のところで走るような設定になっていなかった。
非力な50ccで90km/h出せる設定と言うのは、1速でも自力で加速できないくらいのレベルで、発車が難しいくらいの設定だった。
自分の足で地面を蹴って、発進するためにパワーバンドに入れて、クラッチを駆使して……という操作を手動でやる。
なので、俺には、パワーバンドまで回して乗ると言うのは理解しやすかった。
この頃のバイクの進化は凄かった。
俺が大学に入った頃には既に、自主規制レベルに到達していた。
どんどん馬力が上がっていたのに、あるところでメーカーが自主規制をかけてしまったのだ。
あれは1つの転換点だった。バイク離れの一因だったと思う。
まあ、死人が出るたび規制が加速するので必要だったのだとは思うが。
250ccは45馬力で自主規制かけていたが、2スト車は余力があるので、ちょっとした部品交換で簡単に馬力を上げることができる。
それと比べると4ストは回転数で無理やり馬力を稼いでいる。
馬力は、トルク×回転数なので、回転数上げれば馬力は高くなる。
その回転数が、バカみたいな数字なのだ。並のバイクが10000回転に対して10%アップで11000回転とかじゃない。
いきなり2万回転とか、頭おかしいだろと思った。
2万回転とか回るやつを、コンビニ行くのに使ってたり、こんなものがたくさん走っているクレイジーな国なのだ。
この先どこまで進化するのか楽しみにしていたが、その後、ライダーが振り落とされたり、2万回転回ったりするバイクは消えてしまった。
車も一緒だ。進化が止まった。そのせいで、AE86が人気車種になってしまった。
あれが出た頃は、車がどんどん進化してたので、発展途上の一時代に出た、比較的入手しやすいお手頃マシンだった。
それが、進化がいきなり止まって、AE86が傑作車扱いになった。
あの時代がもう少し長く続けば、AE86があんなに長く評価されることは無かっただろう。
頭文字Dで有名になったのもあるが、あの後すぐに、進化が止まってしまったからという面が大きい。
同じ作者がその前に描いていたのが、バイク版のバリバリ伝説。
そっちは、マンガはともかく、そこから先へはあまり広がらなかった。
バイクはゲームと相性が悪かった。
バイクは体で乗るものだ。車のようにハンドル回せば曲がるものでは無い。
頭文字Dは、同時期に、市販車をカスタムするレースゲームが流行ったこともあって、ずいぶん流行った。
……………………
「牧田、これ」
「ああ、配ってくる」
焼けたものを、どんどん、周りに配る。
ところが、牧田は配りに行った先で話し込んでる。
仕方なく、自分で配りに行く。
薪は鉄板。
炭は網が使えるが、薪だと焦げるので鉄板。炭火ばっかり人気があって、薪は人が集まらない……
いや、俺自身に人気が無いからだな。
人気の無い俺が、人気の無い薪を消費する作業を続けていると、なんか寂しい気分になる。
無駄な者同士が、消費を目的に動いているように感じてしまう。
小泉さんは……まあ、はじめから不参加なのは知ってたけど来ないよな……
俺はいつ”あのメモ”のことを謝ることができるのだろうか……
小泉さんは、今では人妻。呼び出して2人きりで話すことはできない。
そもそも、たったそれだけのことで呼び出されても、迷惑だろう。
だから、多数の人が集まる、こんなイベントでもない限り、会うことが出来ない。
でも、小泉さんが、来てくれないんじゃ、会えない。
俺はいつ、あのメモのことを謝ることができるのだろうか……
そんなことを考えつつ、暑いし暇なので、ビールが進む。
俺は運転しないので、飲んでも問題無い。
でも、火の番は案外嵌った。なんとなく、心が休まる。
ただ、食べるわけでもないのに、どんどん焼けていく。
皿に乗せて、配って回る。
戻ってくると、また焼けまくってる。
残りの食材に目をやる。
”モヤシ”や”焼きそば”を代表とする”鉄板でしか焼けないもの”……網では焼けないものが、大量に残っている。
嫌な予感がする。
俺は、もうたくさんは食えない。
ところが、こんなにどっさり残っているのだ。
俺が残った食材で困っていると、声が聞こえる。
「だから日本は」
「これからは世界に目を向けないとダメだ」
なにやら、留学組が騒いでいるのが聞こえる。
だんだん、ヒートしてきたようだ。
俺は就職して2年目。多くの人は3年目になる。
俺は浪人して大学入ったので、ストレート組より1年遅い。
短大、専門なら就職5年目だ。
この時点で、就職パニックは一段落していた……と思っていた。
就職パニック。この時代には凄い大事件が起きてパニック状態に陥った。
就職難は相変わらずだが、俺の同級生たちの間では、現在進行形の当事者ではなく、過去の話になりつつあった。
それが終わってひと段落すると、次は結婚だ。
誰々が別れたとか、誰々が結婚したとか子供ができたとか、そんな話題が多かった。
知らない人が居ると思ったら、同級生の彼氏彼女だったり。
高校の時マジメだったやつが、いきなり遊び人にジョブチェンジしてたりして驚く。
10年後くらいに賢者になってたら、さらに驚くが、どうだろうか。
※ドラクエは、遊び人が賢者にクラスチェンジします。
遊び人しか賢者になれないという意味深システムになってました。
学卒の俺達にとって過去の話になりつつあった就職パニックが、今も尾を引いている人たちも多かった。
まあ、学卒者でも、就職の問題は相変わらずあって、ずっとフリーターの人も居た。
そういう人達は、あまりこういう場には来ない。
多くの学卒組には過去の話になりつつあったが、院卒組、留学組にとっては、まだホットな話題だった。
※この時点では深刻化していませんが、非正規雇用の研究職も後に顕在化します。
特に留学組は荒れてた。
海外留学で自分の価値を上げて帰ってきたつもりが、ブランクに近い扱いで怒っていた。
「これだから日本はダメなんだ。不景気から抜けられないんだ」
国際的に価値のある人が、国内ではむしろマイナス扱いで気に入らないってのはわかるけど、日本はこれだからいかんと言うなら、海外で就職すれば良いのにと思う。
しかも、海外行ってると、日本の情勢に疎くなる。
相変わらず、親世代は就職は頑張ればできるものだと思っているようで、それを聞くとガンバりゃなんとかなりそうに聞こえてしまう。
でも、帰ってきて需要が無いことを知ることになる。
本人は頑張って、人材としての価値を上げて帰ってきたつもりかもしれないが、需要が無ければ、優秀であっても入るところはないってことを理解できないようだ。
学校教育自体がそういうものだから仕方ないかもしれない。
良い学校、良い学校と進めてくるが、学校は実績を上げたいだけで、進学させれば成果になる。
進学した結果、その生徒、学生がかえって不幸な結果になったとしても関係無い。
なので、学校は、学歴上げ過ぎた場合のデメリットに関しては説明しない。
髙ければ凄いという扱いをする。そのつもりで進んでいくと、実は需要が無いことに気付く。
高けりゃ良いみたいな価値観は、もう古かった。
あんなのは、成長期の話だ。
2万回転のバイクがその後消えて行ったように……
時代は成熟期に入っていた。スペックより実を取る時代に入った。
確かに高いほど良いという需要も存在している。
能力に期待して、高い人1人、残りは、それなりで安く使えたほうが良いという需要があったとする。
一番高い人は高い枠で入れる。残りは安くて若いのを選ぶ。
ハイスペックが余りやすい理由だ。
例えば、全員管理職にしてしまったら、管理する対象の存在しない管理職になる。
そんなものに価値は無いので、当然、僅かな管理職と、多くの管理される側に分かれる。
指揮官だけで、一般兵が存在しない軍隊がどれだけ強いかというと、強い弱い以前の問題で、軍隊として機能しない。
根性論だと頑張れば1番取れると言う。
募集が1人でも、1番とれば入れる。理屈上は確かにそうだ。
でも、その人以外は全員落ちるわけで、努力しても報われるのは1人だけというのが正しい考え方だ。
需要が無いところに、高級品持って行っても高く買ってもらうことはできない。
でも、そんなこと本人達もわかってる。
生まれた時代が悪いのだ。生まれる時代は自分では選べない。
俺も被害を受けた。
荒れてるけど仕方ない。放置する。
俺だって、バブル期を見て大学行って、就活の頃にはバブルが弾けてたのだ。
なるべく早いタイミングで損切りが正解だった。
今、損切りするか、回復することに賭けて、持ち続けるか。
賭けに負けただけだ。
自らの選択であるなら、潔く受け入れるべきだと思う。
でも、愚痴くらい言っても許されると思うのだ。
俺は、スルーして、そのまま一人で焚火の番。
……………………
日陰とはいえ、残り火や、河原の石からの熱で見事に暑い。
川の水で体を冷やして戻る。渓流と言うほどでも無いが、相当きれいな水だ。
泳げるほど深くはないが。
ヤキトリを貰いに行ったが、既に品切れだった。
俺は、燃やすなら、炭より薪が好きだが、炭火の焼き鳥が食いたかったのに!!
ソーセージを貰って来て焼く。
ジューシーに焼くのは、結構難しいのだ。肉は薄く切ってあるので、熱が伝わりやすい。
ソーセージは鉄板の上では、接地面積が少ない。
油を多用すると揚げ物になってしまうし、ときどき弾けて油が飛ぶ。
なんか、俺は全身オイリーになってしまった。
俺がソーセージと油と戦っていると、しばらくすると、女性が何人か、俺が見てる鉄板に移って来た。
「栫井君、食べ物もらっていい?」
院卒、留学組と、就職失敗組が固まって、雰囲気悪くなって、今井さんたちが俺の火のところにところに移ってきたのだ。
「助かるよ。食べる人が居なくて」
そう答える。
「じゃあ、いただいちゃおうかな」
俺は、食べてくれる人が増えて安心した。
遂に、焼きそばを調理するときが来たのだ。
「焼きそば食べられる?」
一応聞くだけ聞く、作る気満々なのだが。
「まだまだ行けるよ」
「あまり、食べて無くて、これからだから。ここは食べ物残ってていいね」
期待通りの答えで安心する。
「じゃあ、食べたいもの取っちゃって。焼きそば作るから」
焼きそば作り始めると、しばらく鉄板占有するので、今のうちに欲しいものを取ってもらう。
予想外に空腹だったようでソーセージが全部売れてしまった。
焼きそばの具にしようと思ってたのだが……
それはそうと、ちゃんと焼けてるのだろうか?
「ソーセージ焼くのが、こんなに難しいと思わなかったよ」
「うまく焼けてる。プリっとしてて」
おお、お世辞だとしても、苦労した甲斐があった。
ソーセージ焼くのに苦労するくらいなので、俺はセンスが無いのだと思う。