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24-02.河原のバーベキュー(2)火おこしの達人

挿絵(By みてみん)


すっげー自然の中の、きれいな河原のバーベキュー。

こんなのはじめてだったので感動した。


俺が就職して2、3年後のことだった。


このとき小泉さんは理由があって来なかった。

用事があったとか忙しかったとか、そういう理由ではなかった。

俺はその理由をずっと後になるまで知らなかったのだが……


そして、このときは今井さんと杉が来ていた。

人数は同級生だけで15人くらいいたと思う。同伴者入れると20人くらいだったか。


俺は、参加者に小泉さんが入っていないことを、事前に知っていた。

なのに、なぜか”小泉さんが飛び入りで来たら良いな”……なんて期待して来てしまった。

来ない理由を知っていれば、俺も参加しなかったかもしれない。

小泉さんが参加しない理由が”忙しい”だったら、来る可能性もあるが、そうでは無かった。


まあ、理由を知らなかったので来てしまった。

自分でも未練がましいと思っている。


いや、理由を知らなかったから、来ることに成功したと表現した方が正しいか……


未練がましく縋る理由、俺には俺なりの理由があった。

何かのイベントのついででも無いと、話しにくいことがあったのだ。


メモのことが聞きたかった。

そして、読み損ねたことを謝りたかった。


”たったそれだけのこと”ができれば……

そうすれば、俺の呪いは、そんなに大きくならなかったのかもしれない。

でも、呪いは大きく育って、いつか俺が何かをはじめてしまうエネルギー源になる。

だから、俺は爆発しない程度にじわじわと後悔を抱えて生きていく必要があった。

この呪いを大きく育てるために……


…………………

…………………


きれいな場所でのバーベキュー、日帰りキャンプが、この頃流行った。

以前は、無かったように思う。

あったかもしれないが、ほとんどの人は知らなかった。

触れる機会は無かったのではないかと思う。


ほとんどのメンバーは、こういうのに慣れて無いので手際が悪い。


俺は輪をかけて、手際が悪い。

何をすれば良いのかわからず、荷物運びとか手伝う。

はじめて私服見るような同級生も居るという程度の仲なので、

俺がコンビネーションを発揮できそうなのは牧田しかいない。

ところが、牧田は、何故か薪割りに夢中だ。


”そんなの、そのまま燃やせよ!!”とか思った。


なので、荷物運ぶくらいしか、やることがない。

野菜切りとかは、なんかラブラブやっていて、

俺はそんなのが視界に入るだけでダメージを受けてしまう。


高校の時は、何故か漠然と”大学に行けば彼女できる”とか思っていた。

今、過去の自分にメッセージを送れるとしたら、

”大学行っても彼女ができたりしない、何も変わらない”

と教えてあげたい気持ちでいっぱいになる。


俺に、時間を超える能力があれば!!とか、バカなことを考えてしまう。

※あります!\(^o^)/


…………………


荷物運びが終わって、バーベキューの方は、はじめは火おこし。

石で風除け作って、炭を燃やす。なかなか火がつかないようだ。


※後に炭火興し用の定番アイテムが登場しますが、

 この当時まだ無かった(或いは、普及していなかった)

 ので、なかなか火が付かず、苦戦する姿は一般的なものでした。

 (炭に点火するのは難しいということを知らないのが普通だった)


その姿を見て思う。

”皆何をやってるんだ?”

火のつけ方が分からないようだ。


難しいか? そう思い、枯草持ってきて、火をつける。

あっという間だ。

焚き付けなんて、誰でもできる簡単なことに思えた。


皆、苦戦しているようなので、声を掛ける。


「点かないなら、ここから火種移した方が早くないか?」


栫井(かこい)君のとこ、火着いたって」

「もうちょっと、あと3分待って」


自力で火熾ししたいようだ。


栫井(かこい)君凄いねー、点火慣れてるの?」


慣れてるような気もするが、俺は焚き火なんかしない。


「え? あー、たまたまうまく行った……だけ?」


俺は知らぬ間に火の達人になっていた。

皆が苦労しているのに、手際の悪い俺が、火熾(ひおこ)しだけは上手いくって変じゃないだろうか?


だが、それだけに留まらなかった……


「なんで炭が発火するんだよ」

斉藤君に、突っ込み入れられた。斉藤君は、今日は皆にタケと呼ばれている。

名前が(たけし)だからだが、高校の時は、タケとは呼ばれていなかったと思う。


「え? 炭燃えるだろ」

そう答えつつ、考える。どこにツッコミどころがあったのだろう?


「今、一気に燃えただろ」


一気に燃えた?

炭に火を移そうとしたときだった。すぐ燃えた。


変か? ……変だ。


俺は、火を移すんだからすぐ燃えると思った。だから気にしなかった。


でも、よく考えたら変だ。


……なるほど。理解した。俺は、漠然と炭は燃えるものだと思っていた。

でも、理屈的におかしい。


物が燃えるには、プロセスがある。


十分水分が抜けていると言う前提で話をすると、体積の割に表面積の大きなものが良く燃える。


枯葉とか紙一枚とか。

なぜわざわざ紙一枚と言うかというと、雑誌とか本はかなり燃え残りやすいのだ。


高温になったとき、燃える成分が揮発して、周囲の酸素と結びつく。

その時に、熱を放出し、周囲の物を温める。


温まると、燃えやすいものに変化する。そして燃える。連鎖するのだ。


なので、火事は初期消火に失敗すると、なかなか消えない。

一度温まれば、大概のものは非常に燃えやすいものに変化する。

常温時に、少々火で炙っても燃えないようなものが、一度加熱されたら非常に燃えやすいものに変化するのだ。


灯油も同じで、一度火が着いたら、もう消すのは難しいが、燃やそうと思っても案外燃えにくい。

その特性で、扱いやすく、長年暖房等の燃料として使われてきた。


ガソリンなんか、すぐに火がついて危険なので、ガソリンエンジンが発明される以前は、あまり用途の無い危険物だった。


ガソリンエンジンとディーゼルエンジンは、構造は似ていても、燃える仕組みが異なる。


ガソリンエンジンは、ガソリンが発火しにくく、点火しやすい特性を利用して、点火プラグで火花で点火する。

ディーゼルエンジンは、軽油(灯油)が、高温高圧で勝手に燃える性質を利用して、高温高圧のシリンダー内に燃料を噴射する。


引火は、火を近付けると燃えること、発火は勝手に燃えること。


灯油は、そう簡単には燃えない。

液体の灯油に、火花当てたくらいじゃ火は着かない。

ガソリンだと、簡単に火が着く。

なので、灯油は繊維質の芯に浸み込ませて、表面積を増やして燃やす。

燃えるのは気体で、液体のまま燃えてるわけじゃ無い。


ローソクだとわかりやすい。ローソクの芯は糸だが、何分も燃えるのだ。

ローソクが熱で溶けて液体になり、その液体が芯に浸み込んで気体になる。

燃えてるのはその気体であって、芯では無い。なので、芯は長持ちする。


紙一枚や、枯れ草は、少々の熱量で燃える温度まで上がる。

そして、表面積が大きいので酸素と結合しやすい。つまり燃えやすい。


本はそのまま火に投入しても、綴じ部分は表面積が少なく非常に燃えにくいものとなり、燃え残りやすい。


そう考えると、炭がいきなり燃えるのは確かに変だ。


紙や枯葉と比べると、炭は表面積が極端に小さく、油などの揮発成分も無いので常温で火を点けようとしてもなかなか燃えない。その上、炭は熱伝導も比較的良い。

なので、1点を高温にしようとしても、すぐに熱が拡散してしまう。

着火剤等で炭を十分加熱する必要が有る。


だから、一気に燃えるのはおかしい。

でも、俺にとっては、炭は燃えるものだ。


思い当たることがあるが、とりあえず誤魔化す。


「インドの山奥で修業したんだよ」

「どんな修行だよ!!」


「そんなの決まってるじゃないか。

 ヨーガ、ヨーガ」


「そっちかよ!」


インドの山奥で修行するのはレインボーマン。

遥か昔のヒーローモノだが、いろいろとおかしな話っぽい。

歌が有名なので、そこだけ知ってるが、中身は見たことが無い。

インドの山奥で修行するのはオープニングの方で平和な歌だ。


エンディングの死ね死ねソングのほうが有名そうだが。


※死ね死ね団の歌。あんなのをお子様向けに放送できるって凄いですね。

 今だと深夜でも厳しそうです。


だが、俺達の年で、インド人と火と言えば、スト2のダルシムだ。

スト2、ストリートファイター2という対戦格闘ゲームのキャラで

”ヨーガ”とか言いつつ火を吹く。

初期は弱キャラだと思われていたが、大会のチャンピオンがダルシム使いだったりと、最強キャラだった時代もある。


ヨーガヨーガで、適当にごまかしたが、俺の火の扱いは、自分でも何かおかしい気がする。

しかも、なんか懐かしい感じだ。


焚火が楽しくなってきた。


それにしても、薪が大量にある。


……………………


今回、不慣れだったので、買い出し担当が、炭と薪、どっちが良いか知らなかったので、両方持ってきていた。しかも、どっさり。

皆慣れていなかったので、火加減とか、薪や炭の量がわかっていなかったのだ。


俺は炭は分からないが、薪なら火力も燃える時間調整も楽々できた。


俺は焚き火なんか禄にしたことがない。


ところが、俺には異世界に行ったことがあるという奇妙な記憶があった。

行ったことがあるような“気がする”という程度の曖昧なものだが。


俺はインドの山奥ではなく、異世界に行っていたのだ、たぶん。

そして、そこは、燃料は薪だった。


やけに現実感のある記憶だとは思っていたが、あれは本当に体験したことなんじゃないだろうか?

薪を集めて風呂に入るのは、とても大変なことだった。

あの世界では、風呂は大変な贅沢だった。


急に風呂の記憶が蘇った。もしかしたら、前世の記憶かもしれない。

前世の記憶を思い出すと、ある日突然、焚き火の達人になるなんてことがあるのだろうか?


そんなことを思いつつ、焚火を続ける。

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