23-4.異世界から来た娘(3)
”加齢臭と転移する竜”本編
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から「横浜編」を分離したものです。
本編は、異世界から戻ってきたところから横浜編がはじまりますが、
こちらは娘が呼びに来るところからのスタートとなり、話の並び順を
入れ替えてあります。
話の並びを入れ替えただけの流用切り出し版である都合、異世界側の話も混ざってしまいますが、適当に読み飛ばしてください。
「”一番大きな竜”って、それだけで通じるのか?」
『もちろん通じます。”一番大きな竜”は1人だけです』
一目見れば、一番大きいとわかるサイズってことだろう。
生き物は基本的には、大きいほど強い。相手が戦意を無くすような、大きさなのだろう。
体がどうであろうと、中身が俺じゃ、どうせ、戦わないと思う。
なので、たぶん、相手が勝手に避けてくれるような、見た目なのだ。きっと。
「君は?」
『”一番大きな竜の娘”と呼ばれることがあります』
俺は”一番大きな竜”と言えば、だれでもわかるようなやつで、そいつの娘と言えば通じるのか。
娘って、この子、やっぱり女の子だったんだな。
「それで、人間と竜はどういう関係なんだ?」
『関係無いです』
関係無い? どういうことだ?
…………
…………
なるほど。俺が思ってるのとは、ぜんぜん違っていた。
この子の世界では、人間と、竜の住むエリアは、明確に分かれていて、接する機会は滅多に無いと言う。
人間と竜は敵同士でも無いが、そもそも会う機会もないのが普通らしい。
ところが、俺と、その子孫は、人間と接触する機会があるのだそうだ。
それはわからないでもない。
だから、人間の俺が異世界で竜になるのだろう。
俺以外の人間であっても良いと思うのだが。
『お父さんは間違っています。
竜が人間の世界に行くのは、お父さんを捜すためです』
この子の主観では、俺が世界の中心みたいになっている。
でかいからといって、中心にはならんだろうと思うのだ。
まあ、よほどのことが無い限りは、人と竜は接触しないようだ。
竜にとっても、人間との接触にはリスクがあるのか?
不可侵条約……いや、この子には、条約の概念無いと思う。
それに、俺は自分が人間だと思っているから、竜でも人間の世界に行ってしまうかもしれない。
それを探しにくる? 連れ戻しにくるって感じか?
俺が老人だとか言ってたから、ボケて人間だと思って、人間の世界を徘徊とかだったら嫌だな。
まあ、俺を探しに竜がくるのだとすれば、俺の娘なら、人間とも直接会ったこともあるのではないかと思う。
会えば、人間は、名前で呼びそうな気がする。
「君は、人間には会ったことあるんだよな?」
『あります』
「人間が付けた名前とか無いのか?」
『凄いです。なぜわかりますか?』
やっぱり、あるのか。
「いや、人間は、名前付けて呼びそうだな、と思っただけだけど」
『お父さんは、とても頭が良いです。強いだけではありません』
これ……素で言ってるんだよな……
「さすがです、お父様」、「ふっ」系のラノベの中みたいな気がしてきた。
「で、なんて呼ばれてたんだ? 人間には」
『グライアスです』
グライアス! 女の子なのに、強そうな名前付けられちゃったんだな。
でもまあ、人間から見たら相当怖いのだろう。
「グ、グライアスか。強そうな名前だな」
『人間から見れば、竜はとても強いですが、私は竜の中でも、とても強いです』
”竜の中でもとても強い”
この子は、ときどき、これを言う。
どうやら、竜の中でも、相当強い部類らしい。
最強の竜の娘だから、強い要素を、それなり受け継いでいるのだろう。
とりあえず、名前がわかった。試しに呼んでみる。
「グライアス」
ところが返事がない。ガン無視だ。
名前の概念が無いから仕方ないのか?
それとも、グライアスって呼んじゃダメなのだろうか?
========
ゴールデンウイーク開け、俺はなんとか無事、社会復帰できた。
今回は、【五月病】の威力が良くわかった。
今回は危なかった。危うく、サラリーマン人生リタイヤするとこだった。
もしかして、この子は、社畜の神様が派遣してくれたのだろうか?
純粋に、助かった。
ところが、そのまま通勤にまで、付いてくる。
気になるじゃないか。
「電車乗るから、家で待ってろよ」
『私はいつも一緒に行きます』
今まで気付いてなかっただけで、元々ついてきてたようだ。
※実際に声は出していません。脳内会話みたいな感じです。
『なぜいつも、この箱に入るのですか?』
「通勤と言って、修行の一種だな」
『修業とは何ですか?』
「心を鍛えることとか、そんな感じかな?」
『さすが私のお父さんです。とても強いのに、更に強くなろうとしているのですね』
関心のポイントが、人間とは異なる気がする。
異世界で、竜になったときの俺は、強いのかもしれないが、今の俺は軟弱なおっさんだ。
でも、精神鍛えて、強い肉体持てば、ますます強くはなるのかもしれない。
まあ、それにしても、出勤できて良かった。
一度無職に転落すると、生きることが、ますます面倒になる。
この年で無職から今の生活レベルを取り戻すのは極めて難しいと思う。
この世界は、俺に優しくない。
俺が社会復帰できたのは、正直、この子のおかげだと思っている。
小泉さんが、あんなことになって、俺はもう生きていることが、心底嫌になっていた。
ところが、そんなところに、自称”俺の子供”がやってきた。
俺の頭が、おかしくなって、脳内に本当は存在しない”何か”が住み着いたのかもしれない。
それでも俺はかまわない。
俺にとって事実はあまり重要では無い。
俺は、今となっては、この子が居なくなってしまうことが怖い。
いつも通り、仕事をするが、しばらくしたら、あの子は居なくなってしまった。
どこに行くのだろうか?
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『とても美味しそうです』
「これは、焼き鳥。鶏の肉焼いただけ」
『焼き鳥ですか。私も、いつか食べてみたいです』
この子は、どこかの犬に乗り移ることができるらしく、乗り移っている状態で食べてみたいと言うのだが、時系列的に無理がある。2021年時点では、その犬は既に死んでしまっているのだ。
他に乗り移れる、動物は居ないのだろうか?
「今生きてる動物で、乗り移れるようなやつはいないのか?」
『私がこの世界で宿ることができるのは、ベスと言う生き物だけなのです』
「他の動物じゃダメな理由があるのか?」
『はい。私はこの世界の生き物に干渉することはできません。
この時のために、用意されたのが、ベスと言う特別な生き物なのです。
お母さんが言っていました』
ああ、干渉できないのか。確かに。触れないしな。
でも、この時のためって、既に死んでる。なにか手違いがあったのか。
「お母さんってのは、俺の妻なんだよな?」
『そうです。私のお母さんは、一番大きな竜の妻です!!』
うーん。なんか、ドヤ顔で言われると……いや、表情は分からないんだけど、一番大きな竜って、俺だから、俺に勝ち誇られても困るんだが。
正直、俺はそういうのに慣れて無いし、ちょっと困るのだ。
…………
…………
うええ? 衝撃の事実が!!
この子の話は、かなり刺激的だ。
全然盛ってないのに、いろいろ突っ込みどころが!
あちこち、いっぱいあるけれど、これは酷い!
なんと、俺はすぐ死んでた!
最強とか無敵のやつじゃ無いのかよ!! 思わず突っ込みを入れる。
『私が生まれた時には、お父さんは既に死んでいたのです』
別に長生きしたいと思っているわけでも無いけど、この子が生まれる前に死んだそうだ。
ちょっとびっくりだ。じゃあ、俺はその世界に行っても、この子と触れ合えない。
なんかテンション下がった。
その割には、この子は、俺に会ったことがあるとか、妙なことを言う。
やはり、俺の妄想力では、辻褄の合う設定は、作り出せなかったのだろうか?
「異世界で、俺を見たことがあるって言ってなかったか?」
『竜の世界に居た時のお父さんを、見たことが無いのです』
ん? ますますわけがわからない。
「君が生まれた時には、俺は既に死んで居ないんじゃないのか?」
『私は時を超える竜です』
おお、なんか凄い設定が出てきたぞ。
ああ、だから、既に故人だった俺を見たことがあったのか。
故人って、人じゃ無いかもしれないけど。
この子は、竜も人で数える。
どうも、他の言葉に置き換わって翻訳されている気がする。
それはそうと、声が聞こえる方向が、けっこう変わるような気がする。
「近くから話しかけてるのか?」
『私はお父さんに会いに来ました。とても近くに居ます。ここに居ます』
会いに来たって、ここに居るのか?
声の方を見ると、確かに何かが居るようだ。
うっすら見える。幽霊みたいなものだが、恐怖を感じない。
「あれ?いつの間に」
かわいい生き物……かわいいと言うよりは、むしろ親しみを感じる。
犬みたいな感じかな。
今までこんなの見えなかったと思うのだが。




