23-38.死神の正体(1)
”加齢臭と転移する竜”本編
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から「横浜編」を分離したものです。
本編は、異世界から戻ってきたところから横浜編がはじまりますが、
こちらは娘が呼びに来るところからのスタートとなり、話の並び順を
入れ替えてあります。
話の並びを入れ替えただけである都合、異世界側の話も、混ざってしまいますが、適当に読み飛ばしてください。
「だいじょうぶよ。だって、わたし、石を持ってるのよ」
そうだ。小泉さんは、石を持っている。
今日、話を聞く前から知っていたのか……
『お主、石を読めるようになったのか。持って居るが読めぬと思っておった』
え? 石を持ってて読めるって話じゃ無いのか。
小泉さんはどこまで知っている?
石は回収できるのか?
「小泉さんの石は? 回収できるのか?」
『体に溶けたので取り出せないのです』
体に溶けた?
石と言うのは、人の体に溶けたりするものなのか?
持ったら最後取り出せなくなることがあるのか。
もし、時間を戻しても持ち続けていたら?
……まずくないか?
オーテルに聞いてみる。
「オーテル、石は、時間を戻しても持ってるのか?」
『それはわかりません。私の時間は戻りません』
オーテルが持つのと、小泉さんが持つのとでは意味合いが違うのか。
小泉さんは石を持っている。時間を戻しても今の話を覚えていたら?
歴史が変わってしまう。
「石の記憶は、時間を戻しても戻らないんだよな」
『石は時間を遡りません』
石の記憶のせいで、娘さんが生まれない世界に変わったら……
「小泉さん、娘さんは何年生まれ?」
「97年」
「わかった。97年より後だ。
まずいな、俺は、高校二年に戻りそうだ」
「好きな時間に戻れるの?」
そう聞かれると心配になる。
「たぶん……」
俺は、高校二年に……いや、俺は小泉さんに会いたかったんだ。
高校二年に戻れば必ず会える。そう思ったから戻りたかっただけだ。
だけど、大丈夫だ。今会ってる。
”そうだ、今会ってる。だから、高校二年に戻らなくても大丈夫だ”
自分に言い聞かせる。
ところが、そこに悪魔のささやきが!
「高校二年に行ってもいいよ。
大丈夫。唯が生きてる未来があったから。私見たから」
そこまで知ってるのか!
…………
栫井は、この瞬間、一生懸命考えた。
どの時代に戻れば良いのか。
石を持った状態で高校二年に戻ったら、もし石の記憶が読めてしまったら、
たぶん、歴史は変わって、小泉さんは幸せになれない。
娘さんと生きてきた記憶を持ったまま、別の人生を歩むことになる。
それは避けなきゃならない。
…………
洋子には、栫井が何を考えているかが、手に取るように分かった。
「大丈夫よ。だって、栫井君が居ないと唯は……」
慌ててオーテルが止めに入る。
『余計なことを言うでない。
お主の言葉で、お父さんの行動が変わったらどうするのじゃ!!』
「俺が?」
さっぱり話が繋がらない。
俺が居ないと、娘さんがどうなる?
俺はその時期、小泉さんと全く関わっていない。
俺は娘さんとの接点が全く無かったはずだ。
俺の行動に関係あるのか?
俺の行動が変わると、生まれなくなるならわかる。
俺が居ないと何があるんだ?
オーテルと小泉さんは知っていて、俺は知らない何かがあるのか。
実行する俺が知らなくて成功するのか……とも思うが、知ったら成功しない内容かもしれない。
どうする?
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栫井が、真面目に考えている間、洋子とオーテルが言い争いを始める。
『余計なことを言うでない。お主の言葉で、お父さんの行動が変わったらどうするのじゃ!!』
「ちょっと、なんで、栫井君と私で、言葉遣いが変わるのよ」
『お父さんとお主が同じになるか、このたわけが!』
横で聞いていた栫井も、さすがに、これには口を出す。
「なんだ、その言葉遣いは。酷いな」
『何を言いますか。私のお母さんが言っていたのです。
人間に対しては、このように話せと』
そう言われると、確かに聞き覚えがあるような気がしてくる。
「なんか、その話しかた知ってるような気がする」
『お父さんはもうお母さんと会っているはずです』
何だろう。思い出そうとすると、凄く残念な気持ちになる。
オーテルの母親は、凄く残念なやつなんじゃ?
「石が有れば、オーテルと話せるのか」
『はい。もし、石を持ったまま時間を戻すことができれば、話すことができるかもしれません』
話ができるなら、娘さんは助かる?
「唯は? 唯を助ける方法があるんでしょ?」
『心配せずとも問題無い。妾のお父さんが、解決してくれるのじゃ』
そうだ。これも聞いておかないと。
「なんで、前と同じ時期に亡くなるんだよ。死因は、事故じゃないのか?」
『病気です』
「病気?」
同じ病気で同じ時期に死ぬとしたら、どうやって回避するのだろうか?
「もう少し詳しく」
洋子が答える。
「心破裂。こんな症状は見たこと無いって」
「病院には?」
「それが、亡くなる少し前に検査は受けたの。
珍しい病気だから検査では、わからないの」
石があれば、何かを医者に伝えて病気を発見する方法は無いのか?
「オーテルじゃ、娘さんの死を防げないのか?」
『お父さんでないと無理です』
なんで俺でないと無理なんだ?
「病気って、不治の病なのか?」
『フジの病ですか?』
「治らない病気のことだ」
『治らない病気をフジの病と呼ぶのですね。
治りますが、お父さんにしか治すことができません』
俺には治せるのか。
俺には治療の能力があるらしい。
確かに、さっき、小泉さんの首の傷を治した気がした。
俺は既に神様になってしまったのかもしれない。
『検査など無駄じゃ、どうせ、妾のお父さんにしか治せぬ』
「どういうこと?」
「どういうことだ?」
比喩では無いのか?
『人間の病気ではありません。ある日突然心臓が破裂します。
人間の体では耐えられないのです。
お父さん。その病気はお父さんにしか治せません』
人間の体では耐えられない? 何に耐えられない?
俺にしか治せず、人間の病気ではない病気、それは、俺が原因じゃ無いのか?
「オーテル、お前、病気の正体知ってるのか」
『まだ思い出していませんか?』
思い出してないってことは、まだ読んでない石があるってことか。
早く読まないと、次も助けられずに終わってしまう。
俺は、何度も小泉さんに悲しい思いをさせたくない。
次の瞬間、くらっとした。眩暈だ。
ん? なんだか、ふわふわするな。まるで浮いているかの……
「うわっ、足が地面に着いてない!!」
「え?」
「もう、だいぶ転移が進んでる。時間切れだ」
「転移?」
「もう俺は他の人たちから見えていないと思う」
「どういうこと?」
「俺には、さっきから周りの人たちが見えない。多分、周りの人たちからも」
「私は独り言を言ってるってこと?」
洋子はあたりを見回しながら言う。
「どう見えているのか、わからない」
洋子も気になっていた。
さっきからおかしなことを話しているのに、周りの人が気にする様子が無いのだ。
まるで、何も見えていない、聞こえていないかのように……
時間切れだ。
俺は時間を戻すために、行かなきゃならない。
「ごめん、小泉さん、俺とオーテルが失敗した。今度は失敗しないようにするから」
「オーテル。俺、何度もこれやると、本当に死んじゃうかもしれないから、次は失敗しないでくれよ」
『わかっています』
「できるの?」
できるかではなく、やるしかない。
「俺は小泉さんを助けるから」
「なんで?」
あれ? 盛り上がってたのに、コケそうになる。
「へ?」
言われてみれば、その通り。
なんでだ? 俺の後悔が残ってしまうから……それだけの理由か?
「他の誰かが、小泉さんを幸せにしてくれると思ったから、俺は諦めたのに……」
「え?」
『お父さんは竜です。しかたありません』
「竜だと何なんだ? 俺は人間だろ?」
「でも、唯を助けたら」
『余計なことを言うでないぞ』
またか。俺の知らない話が有る。
「何の話だ?」
『お父さんは神様になります』
唯ちゃんを助けると神になる……まあ、普通に考えたら、和風だと死ぬことなんだけど、
オーテルが言うと、本当に神様になりそうだ。
「俺は、神様とかあんまり好きじゃないんだよな」
いや、俺は小泉さんを助ける代償として神様になる?