23-36.再会、生還後の洋子(7)
”加齢臭と転移する竜”本編
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から「横浜編」を分離したものです。
本編は、異世界から戻ってきたところから横浜編がはじまりますが、
こちらは娘が呼びに来るところからのスタートとなり、話の並び順を
入れ替えてあります。
話の並びを入れ替えただけである都合、異世界側の話も、混ざってしまいますが、適当に読み飛ばしてください。
俺の願いは叶っていた!
俺は、小泉さんが死んで樹海に行ったんだった。
良かった。生きて会えた。
そして、ほぼ同時に思い出した。
今頃になって、俺と会う理由……
失敗してたのか!
今頃になって会う理由は、俺が助けて無いからだ……うまく行けばもっと早くに接触するはずだった。
20年間音沙汰もなく、今頃になって会う理由……
俺が助けるのに失敗したからだ。
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洋子は、栫井の表情を見て理解する。
洋子の体のどこかにある石が、栫井に記憶を伝えたのだ。
洋子は、栫井に助けられた。
あの死神は、物に触れることはできない。
そして、栫井に告げ口したとき、ロープが切れた。
前後の記憶は曖昧だったが、そこだけはよく覚えている。
死神が、告げ口したときロープは切れた。
洋子は、片手でストールを引っ張り、隙間から栫井に見えるように、首吊りの跡を見せる。
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首を見てドキッとする。
色が変わっていた。内出血の跡だ。
青あざではなく、だいぶ時間が経っているようで、青ではなく、周囲は黄土色と言う感じだ。
でもわかる。よほど強い力が掛からないとこうはならないだろう。
「その傷……」
洋子は言う。
「樹海に行った」
「樹海?」
なんでいきなり樹海?……と思うが、そのとき、栫井に、樹海で写真を見ているイメージが届く。
そして、なぜ、樹海で写真を見ているのか思い出す。
……洋子が自殺に成功したからだ。
今回も、自殺しようとしたのだ。
したけれど失敗した。
ああ……なんてことだ。未然には防げなかったのか。
でも、なんで小泉さんが知ってるんだ?
小泉さんが死んだ後の話なのに?
洋子は言う。
「ありがとう。ごめんね、私知らなくて」
知らなくて? 何をだ?
俺は、生きてる小泉さんともう一度会いたかった。
その願いが、こんな中途半端な結果を呼んでしまったのか?
俺が望んだのは、こう言うことじゃ無い。
「こんなに酷い怪我……」
洋子がストールをずらしたので、少し見えていた。
護れなかったのが無念で、首に触れる。
「俺がもっとうまくやれば……」
ところが、傷跡の痣が、見る見るうちに薄くなった。
「え? あれ?」
見間違いでは無さそうだ。
「なに?」
洋子が不審に思う。
なにが起きた?
自分で驚くが、次の瞬間、来た。
「痛てててててて」
尾骨に響く。
「どうしたの?」
「いや、なんでもない」
自分の尻に手をやる。
すると洋子が言う。
「尾骨?」
”尾骨”? 今、小泉さんは、尾骨と言った。
何故尾骨だと思った?
「痛てて」
「え?なんで? 唯も」
唯? 娘さんか?
小泉さんは泣いて下を向いてしまった。
小泉さんは知っているんだ
尾骨が痛むと何かが起きる?
そうだ。小泉さんが自殺した理由は、娘さんが亡くなったからだ。
やり直しても、死んでしまうのか。
”唯も”と言った。尾骨が痛むと死ぬのか?
スカーフに隠れて見えないが、傷跡が消えたように見えた。
※栫井の言うスカーフと洋子の言うストールは同じものです。
今俺は何かをした。そして、尾骨が痛んだ。
あれ? 尾骨痛は死亡フラグか?
俺は、小泉さんが死んだことを知った後、受け入れがたい現実から逃げた……小泉さんが生きてる世界に?
違う。俺は異世界に逃げた。
俺は逃げる能力を持っていた。でも、またここに居る。
俺には、逃げること以外にも、何か特別な力があるのか?
あれ? 異世界? 何で異世界に行ったんだ?
同時に気付く。石だ!
手を握っただけで、想いが伝わる……小泉さんは、石を持っている。
石の記憶があれば、転移を挟んでも前の記憶を繋ぐことができる。
二人で涙流して、目立ちまくりと思い周りを見ると……
人が消えていた。
さっきまでは、まばらながらも、人が居たはずだ。
店員も居ない……いや、俺には見えなくなった。
「人が……」
「人が?」
小泉さんには、見えているようだ。
「人が見えるのか?」
「見えないの?」
人が居るのに、俺にはいない世界が見えている。
なんてことだ。
人が消えた。
消えたのは、たぶん俺の方だ……
小泉さんとはまだ話せる。
特定の相手とだけは話せるのか?
転移だ。
思い出した、もう転移が始まっている。
小泉さんが自殺しようとしたということは、娘さんは亡くなっているのだろう。
一応確認する。
「娘さんは?」
小泉さんは首を振る。
……やはり間に合わなかった。
ところが、ここで、おかしなことを言う。
「娘さんが」
え?
娘”さん”ってことは、亡くなったのは、小泉さんの娘さんの話じゃ無いの。か?
「栫井君の娘さんが」
「ほえ?」
思わず間抜けな声が。
小泉さんの娘さんが亡くなって、俺の娘?
娘さん?誰の?
誰も知らないはずの俺のことを知ってるから変だと思ったが偶然か?
もしかして、誤解に誤解が重なって、俺の娘が何かしたことになってるのか?
「俺、子供いないけど」
骨を見せる。
「これを」
「石?」
石? 洋子には骨にしか見えないのに栫井は石といった?
「石に見えるの?」 洋子は訊いてみる。
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”石に見えるの?”つまり石では無い。
宝石なのか?
「見る目無くて、ごめん。俺にはただの石に見えるよ。貴重なもの?」
この声の主と栫井君には、石に見えてる?
洋子には骨に見えた。骨でなければ歯だ。
娘が死んだって、話の脈絡がわからない。
「この石を娘さんが」
俺の娘? 娘!!
今頃になって思い出した。
俺の娘は、異世界の娘のことだ。
疑問に思ったとき情報が読めるようだ。
石の記憶。小泉さんが石を持ってるということは……
『お父さん、早く石に触れてください』
やっぱり、居るんだな
「オーテル、聞こえるか」
『お父さん、もう聞こえるのですか?
やっと、その名を思い出したのですね。ずっと話をしたかったです』
「すまん、今やっと声が聞こえるようになった」
『この人間の女に触れるだけで、私と話ができるのですね。
この石は無くても良かったようです』
「この石が?」
小泉さんが持ってきた石に触れる。
触ると瞬時にいろいろ入ってきた。
一気に思い出す。転移して、過去に戻り……
あちゃー!失敗してたのか!
俺、受験失敗して浪人してるし、メモ見たの2年半後だよ!
くそう!オーテルはちゃんと教えてくれてたのに!!
「ええっ?」
このとき、石の記憶の断片が、栫井と繋いだ手を伝って洋子にも流れ込んだ。
洋子の知る2つの過去と、それとは違う過去、3つの過去が同時に見えた。
1つは、オーテルから聞いていた、栫井の今生の記憶を栫井本人の視点で見たもの。
2つ目は、それとは別の、栫井が樹海に行ったときの人生。
そして、もうひとつ……
そんな……
私が?
洋子が知る2つの過去以外にも、他にも別パターンの過去がある。
栫井が神になったのは、洋子のせいだ。