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23-3.異世界から来た娘(2)

”加齢臭と転移する竜”本編

<<https://ncode.syosetu.com/n8898ej/>>

から「横浜編」を分離したものです。


本編は、異世界から戻ってきたところから横浜編がはじまりますが、

こちらは娘が呼びに来るところからのスタートとなり、話の並び順を

入れ替えてあります。


話の並びを入れ替えただけの流用切り出し版である都合、異世界側の話も混ざってしまいますが、適当に読み飛ばしてください。


挿絵(By みてみん)


声の主は、もう丸1日ずっと俺の傍に居る。


実に馬鹿げている。声の主は、俺の”竜の子”だそうだ。

竜という生き物が存在していて、俺の子供がその竜だと言っているのだ。


俺は俺を人間だと思っているのだが。


俺が異世界に行かないと、この子は生まれない。


理屈はわかる。


普通に考えてバカバカしいと思う。

これじゃ、ドラえもんだ。


ドラえもんというのは、自分の子孫が、未来を変えるために、未来の世界の青いタヌキ型のロボットを送り込む話で、具体的には嫁を別の子に替える。

結婚相手が変われば、その子孫が生まれなくなるという指摘が当然出てくるが、雑な説明で回避されている。

舞台は現代で、その先祖のところで青いタヌキ型ロボットが活躍する話だ。

主人公は、その先祖の方で、幼馴染のある子から、別のある子に結婚相手が変化する。


主人公の男の子は、進学とか関係なく、小学生の頃の知り合いと結婚するのだ。

無茶な話だが、マンガの中だから問題ない。


俺の場合は、未来の世界から、俺の娘がマンガではなく現実にやってきたという無茶な設定だ。


実にバカバカしい。絶対にあり得ない。

なのに、釣られてしまう。


と言うのも、俺には異世界と聞いて思い当たる記憶……記憶というほどはっきりしたものではなく、漠然としたイメージがあるのだ。

なんでそんなものがあるのかはわからないし、いつからあったのかもわからない。

ただ、大きな森のイメージがあった。そして、その森は、この世界には存在しない。


そんな漠然とした記憶と呼べるかも怪しいイメージだった。

2、3歳の頃の出来事のように、なんとなく覚えているというあの感覚にも似ている。


前世の記憶みたいなものだろうか?

異世界に行ったのであれば、もしかしたら、子も居たのかもしれない。


俺的には前世の記憶だが、あれが未来の記憶だとしたら、つじつまが合う。


俺がマンガ家だったら、こう繋げるだろう。

本来俺は、あっちの世界に生まれるはずだったのに、間違ってこっちに生まれてしまった。

その間違いを正すように、俺には本来あるべき生活の記憶が届き、そして、自分の子供が呼びに来る。


そして、俺はあるべき姿であるべき生活を送るために……異世界に行く。


これならきれいに繋がる。


ただ、どうも、引っかかるのは、俺は最強の竜だったと言う割に、俺の記憶では、俺は人間だった。

竜だったという記憶は無い。

この記憶が嘘である可能性もあるし、俺に会いに来てくれた娘も、俺が頭の中で作り出した幻覚なのかもしれない。


あれこれ考えるが、あまり、きれいに繋がるパターンが思いつかなかった。

まあ、現実なんてそんなもんだ。


いや、こういうパターンはどうだ?


俺は竜の中でもスーパーヒーローみたいな、特別凄いやつだった。

周りからはそう見えていたが、俺自身は、そんな生活にうんざりしていた。

そこで、記憶を消し、姿を変えて、一般人に紛れて地味な生活を送っていた。


でも、俺はそこでも、その生活に満足できずに、もっとスリリングな日常を望んだら、ちょっとした手違いで、中途半端に記憶が戻って、ついでにトラブルに巻き込まれて、思わず左手のサイコガンを撃ってしまい、自分が宇宙海賊コブラだったことを思い出してしまう。


ああ、いや、これは俺が子供のころに読んでいたコブラというマンガの話だが、中途半端に記憶が戻って、子どもが呼びに来る。

ドラえもんとコブラが混ざったような話のような気がする。


ドラえもんもコブラも両方マンガで、現時点では存在しない架空の技術を多用した完全なフィクションだ。

現実ベースのフィクションではない。


そもそも、未来から子供が遊びに来たら、歴史が変わってしまう。

とはいえ、本人が体ごとタイムマシンでやってきたわけではなく、俺に語り掛けてくるだけというのが厄介だ。


今のところ、未来から誰かがやってきたという証拠はないが、実体無しで直接頭に語り掛けてくるのだとしたら、世界中でそんな例はいっぱいあるのかもしれない。


確認されていないだけで、案外たくさんそんな経験を持つ人も居るのかもしれない。


そんなことを考える。


……………………


腹が減ったので、コンビニに行く。


『お父さん。なぜ食べ物を貰えるのですか?』

「買ったんだよ。お金と交換したんだ」


この子は、どこにでもついてくるっぽい。見えないけど。


単なる幻聴に思えないのには、こんなところにも理由がある。

幻聴は、こんなこと言ってこない気がするのだ。

この子は竜なので仕方ないような気もするが、通貨の概念が無い。


『食べ物は食べられますが、お金は食べられません。なぜ交換できますか?』


俺は子供の頃から金で食べ物を買えるのが普通だったからなんとも思わなかったが、金を使う習慣が無いと、確かに不思議に思えるかもしれない。この子の常識的には、食べられるものと、食べられない物を交換することが無いのかもしれない。


「確かに金は食べられないけれど、このお金を受け取った人は、

 別の人と食べ物と交換できるからね」


『また食べ物と交換するなら、何故お金を受け取りますか?』


「そうだな、簡単に説明するのは難しいけれど、少なくとも、お金は腐らない。

 お金と新鮮なものを交換できるなら、食べるときまでお金として持っておく方が便利なんだ」


『ああ、わかりました。余った食べ物は腐っても、お金は腐らないからですね』


竜と言うのは、ほんとに竜という自然の中で生きる生き物っぽい。

竜族みたいな感じで、擬人化された種族の一つで、人間とも商取引があるとかそういうライトなやつでは無いようだ。


社会とかインフラのことを話しても通じない。

概念自体が無いように感じる。


食べ物とか、腐る腐らないに繋げると納得してくれる。

頭が悪いわけでは無いようなのだが、あまりそういう視点で物事を見る必要が無い存在だったようだ。


少なくとも群れて高度な社会を形成するような種類の生き物では無いようだ。


俺はそんな生き物に生まれ変わって、まともに生きて行けるのだろうか?

1つ安心なのは、排泄物問題があまり無い世界らしい。


その点は良い。異世界とか行ったら、ゼッタイ困ると思うのだ。

だから、俺は、ウ〇コ問題のある世界には行きたくないのだ。


いや、俺はそこに行こうとは思っていないのだが、俺が”行かない”と決めたら、この子が消えてしまうような気がして怖いのだ。


だから、”絶対に行かない。何度も言わせるな!!”とは言えないでいるのだ。

返事を引き延ばすだけ。


それは、この子にとっては迷惑なことかもしれない。

ただ、迷惑しているようには見えないのだが。

時間制限は無いようなので、そのせいなのだろう。


『お父さん。それは美味しいのですか?』

「うん。まあ美味いかな」


こうして話ができるが、姿は見えない。

それでも、話していると情が湧く。


実際のところ、俺の頭がおかしくなって、幻聴が聞こえるだけかもしれない。

脳内家族かもしれない。


それでも構わない。


俺は家族が欲しかったのだと思う。

本物かどうかはわからないけれど、子どもが会いに来てくれたことは、正直嬉しかった。


『私も食べてみたいです』


そう言うと思った。


実は、コレも、俺が自分で食べたかったのではなく、この子にあげたかったのだ。

ホイップクリームの挟まったパンだ。実は、あんまり俺の好みの食べ物ではない。


「食べられるなら、あげるけど」

『この体では無理ですが、食べられる方法があります』


ん? あるのか?


「どうやるんだ?」

『私は、この世界のベスと言う生き物に宿ることができます』

「ベス?」

『こういうやつです』


なぜか、何となくイメージがわかった。

なんというか、凄く犬だ。ただの犬。犬種までは分からないけど。


「ベスは名前で、生き物の種類としては犬だと思うけどな」

『違います。ベスという生き物です』


何故断言するのだろうか?

変なことろに拘りポイントが有るようだ。


とりあえず、犬の味覚を共有できるとか、そんな感じだろうか?

それはそうと、室内飼いの犬だったら、俺が接触するのは難しそうだ。


「で、そのベスはどこに居るんだ?」

『今はどこにも居ません』

「どういうことだ?」

『ベスは寿命が短いのです』


寿命が短いから居ない。

つまり、もう死んでしまったってことか?

「もう死んでしまった後ということか?」

『はい。ベスは、この時間には生きていません』


「だったらもう無理なんじゃないか?」

『私にはできませんが、お父さんはできます』


ああ、またそれか。

コイツは、俺のことを神か何かだと思っているのだ。


「うん。まあ、機会があればな」

『とても楽しみですね。お父さん』


ぐふっ(エア吐血)

俺は、お断りの意味で言っているのに……

なんか、あまりに純粋なので、俺は自分が悪人のような気がしてきてダメージを受けてしまう。


俺は俺が嘘つきのように思えてしまうのだ。


=======


『お父さんは、はじめ人間達が居る森に行きます』

「また、その話か」


……………………


同じ話を何度もする。まあ、目的が、俺をそこに行かせることだから当然なのだが。


異世界には、富士の樹海より良い森があるという。

そこまでは、魅力的な提案に聞こえたが、俺はそこで人知れず死ぬことはできないらしい。

期待外れだ。


死にそうになるだけで、死なないのだそうだ。


俺は苦しまず、誰にも知られずにひっそりと死にたかっただけだ。

死にそうになって生き残るのは、俺が望まないパターンだ。


「死なないんだろ」


『はい。でも、遭難をしたと言います。

 人々はそれを行き倒れと呼んだのです!』


なんか、得意げに言ってるけど、それって俺が森で迷ったけど、地元民からは遭難未満の行き倒れにしか見えなかったってことじゃないか!!


そんな経験、俺はしたくない!!


俺は、その程度の困難にも立ち向かう気力がない。


俺にはもう、何かをする気力が無いのだ。

もう何もできないと思う。


このまま、後悔に後悔を重ねて生きていくしかない……


そう思っていたのに、意外に持ち直してきた。


何日もしないうちに、俺はこの子を気に入ってしまったのだ。

この子が消えてしまったらどうしようと思う。


案外、俺は、この子が居なくなったら嫌だと言う理由で、その世界に行ってしまうのかもしれない。


ただ、この子の話はよくわからないことが多い。


そもそも、名前がないので不便だ。この子が言うには竜には名前は無いのだそうだ。


「君の名前は?」

『私は竜です。竜に名前はありません。何度も説明しました』


竜には名前が無いらしいが、俺は”一番大きな竜”と呼ばれている。

名前じゃなくて特徴で呼ばれるようだ。


「ああ。聞いた。竜は竜に名前を付けないんだろ」

『そうです。知っているのに、なぜ聞きましたか?』


「ほんとに名前が無いのかと思って」

『人間は、なぜ名前を付けますか?』


「個人を識別するために必要だから」

『必要ですか?』


まあ、目の前に居る相手と話すのに、名前を呼ぶ必要は無い。

例えば、この世に俺とこの子の2人しかいないなら、名前を付ける必要はない。


逆に言えば、多いから名前で区別する必要があるのだ。

つまり、竜はあまり数が多くないのだろう。


「人間は、たくさん居るから、名前付けないと、識別できないよ」

『人間の識別は難しいかもしれませんが、お父さんは簡単です』


「人間の時も目立つのか?」

『とても大きな老人です』


老人? なんで老人なんだ?

「なんで老人なんだ?」

『人間の男の老人は珍しいです』


歳をとってから行くということだろうか?

だとしたら、子供は残せないように思う。


そもそも、なんで男の老人が珍しい?

戦争行って死ぬとか?

男の仕事が死亡率の高い狩猟とか?


まあ、でも、希少性ってだけで、特に目立つ特徴は大きいだけらしい。


「今の俺は大きく無いし、年齢的にもそこらに、いくらでもいるくらいだ。

 これじゃ目立たないだろ」


『今もすぐわかります』

「目立つのか?」


『凄く目立ちます。何故わかりませんか?』


さっぱりわからん。

俺は、人混みで目立ったりはしないと思うのだが。


どうやって区別するんだ?


『見ればすぐわかります。”一番大きな竜”です』


竜の時の話か。俺は、今も目立つのか聞いたつもりだったのだが。


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