23-29.玲子の後悔(2)
”加齢臭と転移する竜”本編
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から「横浜編」を分離したものです。
話の並び順も、わかりやすいように入れ替えてあります。
異世界側の話も、多少入りますが、適当に読み飛ばしてください。
玲子は、小さな頃から、気をつけて生きてきたので、その時点で既にお断りには慣れていた。
そこが、洋子と違うところだった。
慣れてしまえば、どうということがなかったとしても、慣れない者には、お断りと言うのはけっこうハードルが高い。
だいたい、このくらいの年の女の子は、はっきりお断りすることに慣れていない。
なので、狙われやすい。
高校が真面目な学校で、男から積極的なアプローチを受けたことの無かった洋子は、いきなり短大でフィーバーかかってしまって、考える間もなく付き合うことになってしまった。
それが、悪い方向に作用した。
玲子は、洋子が短大行ってすぐの頃は、栫井と洋子は付き合っていると思っていた。
実際は付き合っていたわけではなく、玲子の勘違いなのだが。
このとき玲子は、栫井と付き合っていながら、進学早々に、他の男に乗り換えたと思い、洋子に対しても不信感を抱いた。
穂園は、見た目はさわやかな好青年に見えた。まあ、見た目的には良い方であることは確かだった。
洋子は激しいアタックに陥落しただけで、自分で選んだわけではなかったし、はじめての恋人のつもりだった。
見た目的にも好みではあったので、”容姿も好み”と言ったのだが、玲子は”容姿が好み”と言う意味で受け取った。
玲子は見た目で判断されることを非常に嫌っていた。
中身を見てもらえないと言うのが、玲子の悩みだった。
近づいてくる男は容姿重視で中身を見ていない。
だから、容姿で判断する人間も嫌いだった。
そのため、洋子に不信感を抱く。
さらに、玲子は栫井を高く買っていた。
(玲子自身の恋愛対象ではないが)
そこに、さらに追い打ちをかける事件が起こる。
…………
人付き合いにおいて、初対面の印象と言うのはとても重要だ。
普通は、そこで好印象を与えるように努める。
普通であれば……
ただ、好かれて困っている玲子の場合は、対応が逆になる。
なので、少々印象悪くなるのも仕方なく、デフォルトお断りオーラ全開で挑んでいた。
相手からすると、”なんだよ、あの高飛車な女!”となるが仕方が無い。
そんな時に、洋子から穂園を紹介された。
洋子の恋人というので、彼女持ちなら安心だろうと特別に普通に接したら、何日もしないうちに声をかけてきたのだ。
「今井さん、このあいだはどうも。○○大(○○大学)の穂園です」
玲子が一人のタイミングに声をかけてきた時点で、嫌な予感がした。
しかも、はじめに洋子の名を省いて自己紹介。
恋人の同性の友達に声を掛けるのなら、恋人を絡めて自己紹介するのが普通だ。
”○○大(○○大学)の”という言い方だと、恋人をすっ飛ばして、自身の紹介だ。
わざわざ学校名言うのも、それが売りになると思っているからだ。
脈ありと思うから、声をかけてきたと考えると、友人の恋人を横取りする女だと思われたと言うことになる。
極めて心外である。玲子は、強い怒りを感じた。
鋭い相手ならこの時点で気付いたかもしれない。
玲子は慣れているので、顔色も変えず軽く相手をするが、胸の中は既に不信感でいっぱいだった。
「ええ。こちらこそ。今日はお一人?」
「はい。先日お会いしたとき、ずいぶんカワイイ子が居るなと思ってたら、今日、偶然見かけたので、思わず、声を……」
何処が偶然だ! 心の中で、突っ込みを入れる。
玲子はこの時点で、幻滅する。
玲子は、その外見でむしろ今まで苦労してきているのだ。
お前みたいなやつが居るから!!
ますます、腹が立つ。
「そうだ。洋子さんも呼ぶから、これからご一緒にどうですか?
必要なら車取ってきます。良いところがあるんですよ」
玲子は知っていた。洋子は来ないはずだ。
だから、この男が一人でほっつき歩いているのだ。
玲子は先日、たまたま今日用事があるという話を先に聞いていた。
狙ってか、偶然かはわからないが。恐らく狙ってのことだろう。
どちらにしろ、答えは決まってる。
「ごめんなさい。これから、お友達と用があるので」
「じゃあ、今度暇なときにでも」
「そうですね」
そうですねと言いつつも、玲子は、その機会は永遠に訪れることは無いと思う。
玲子が嫌いなタイプだ。
まあ、いきなり連絡先を聞いてきたわけでも無く、挨拶がてらに、あわよくば程度に手応えを探って来たのだろうが、下心がはっきりと見えた。
洋子が居ない日に、わざわざ来たのだ。おそらく、学校からつけてきたのだろう。
※この当時、まだ携帯電話の普及前。アナログな方法しかなかった
恐らく、玲子が乗ってくれば、玲子に乗り換えか、下手したら二股のパターンに陥るだろうと思えた。
まあ、大凡、信頼できる人物ではない。
玲子は、恋人を大事にしないような人物は大嫌いだったので、以降避けまくった。
洋子から連絡が来た時も、穂園が同伴しそうなときは全部断った。
当然、穂園も避けられていることに気付いていただろう。
むしろ、わざと玲子から洋子を遠ざけたかもしれない。
そして、洋子にも腹を立てる。
なんで、よりによってあんなのと付き合うのかと。
玲子は、穂園には、それ以来直接会ったことは無かった。
それでも、玲子の耳にも洋子の彼の噂として、いろいろ聞こえてきた。
まあ、女関係に難ありだ。
玲子は、さすがに、これだけ酷ければ、洋子も結婚前に本性に気付くだろうと思っていた。
だから直接伝えなかった。……その結果、こうなってしまった。
洋子は早々と結婚した。高校の友達の中で一番早かった。
玲子が就職してすぐの頃だ。
結婚式には行かなかった。
招待されなかったからだが、招待されても行かなかったと思う。
あの男を祝うなんて嫌だったし、洋子が浮気に悩まされる未来が見えていたから。
あのとき、もっとはっきり伝えて反対していれば……
洋子の離婚原因も、穂園の浮気なのだ。
離婚の際には、相談に乗ったりサポートしたが。まあ、予想通りのことが起きただけ。
離婚の時も、洋子はダメだった。離婚するかしないかで迷うのは分かる。
でも、事実上既に破綻していた。
そして、離婚すると決めたら、しっかり決めるべきことを決める必要が有る。
離婚の処理は、ちゃんとやらないと、洋子だけでなく、娘の唯も辛い目に遭うのだ。
だから、ちゃんとやらなければならないのに、洋子は大事な時に弱い。
日頃は賢く行動的なのに、いざと言うとき弱い。だから、いざと言うとき頼りになる人と一緒になって欲しかった。
洋子の人生であり、玲子がどうこう言うのは良くないと思った。
でも、今、この状況を見て思うのは、言った方が良かったということだ。
なぜあの時、はっきり言わなかったのだろう。
もう少し玲子が大人だったら、洋子はもう少し幸せになれたんじゃないかなんて思う。
離婚後も同じだ。
洋子には、栫井に連絡とれと何度も言ったが、洋子は連絡を取らなかった。
洋子は栫井に合わせる顔が無いと思っていたのだ。
玲子はそれは知っていた。
でも、栫井は、きっと受け入れてくれる。玲子はそう思っていた。
洋子は栫井をもっと信用して良いのに……
そう思った。
だから、洋子がその気になるのを待った。
でも、それも間違いだったかもしれない。
むしろ、栫井を呼び出して、無理やりにでも会わせれば良かったのかもしれない。
そう思うと、自分にも責任があるように感じて、玲子は洋子を放っておけなかった。
今更と思うところもあるけれど、洋子はようやく栫井と連絡を取ったようだし、今度こそ、うまく収まるところに収まると良いなと思った。