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23-23.洋子からの電話(4)ようやく、頼る気になる

”加齢臭と転移する竜”本編

<<https://ncode.syosetu.com/n8898ej/>>

から「横浜編」を分離したものです。


話の並び順も、わかりやすいように入れ替えてあります。


異世界側の話も、多少入りますが、適当に読み飛ばしてください。

挿絵(By みてみん)


洋子は決心する。


「わかった。私、栫井かこい君に頼ってみる」


やっと、意味が繋がった。

声の主は、人の自殺を邪魔して、訳の分からないことを言うだけの、ただの迷惑な存在だと思っていた。

だが、違っていた。

本当に、唯を助けることができる人間が存在するのだ。


そして、”唯を助けるために必要だから”、手間をかけてまで、やっているのだ。


でも、同時に思う。


”説明が回りくどい”


洋子が、唯を助けたいと思っていることを、知っているなら、最初に”唯の伝言”を、聞かせてくれれば良かったのだ。


「最初に、これを見せてくれれば」


洋子は、遺憾の意を表明する。


『それができれば、最初からそうしてしておるわ。

 お前は、そのままでは石を読めぬ。

 読めるようになるには、おまえの娘の、願いが籠った石を読む必要があったのじゃ』


「石って、唯のアクセサリー?」


『確か、お前は、そんな名で呼んでおった気がするのう。

 あれは、お前が死にそうになったとき、読めるようになるのじゃ』


確かに、自殺前には読めず、死にかけた時に読めたから、そういうことなのだろう。


『この石には”中身を引き出すための条件”があるのじゃ。


 お前の娘が死ぬとき、願いを込めた石は、お前が死ぬとき、読むことができる。

 お前が死ぬとき、お父さん(栫井(かこい))が、死のうと思ったときの記憶が読める。


 そして、お父さん(栫井(かこい))が死のうとしたときのイメージが見えたじゃろ。


 石はいくつかある。

 どれか1つでも石を読めば、妾と話ができるようになる。

 それはそう決まっておる。

 お前の場合は、娘が死ぬ時の願いが籠った石しか最初に読めぬ』


最初の石を読むまで、この相手と話ができない。


そこまでは、順番の都合仕方なかったのだろう。

だが、そのあとにすぐ、これを見せてくれれば


「その後、すぐに”これ”を見せてくれれば」


『おまえが、どうやって助けるかばかり聞いて、他のことに耳を傾けん聞くからじゃろ。

 それに、はじめに読んだ石にも入っておったはずじゃ。

 お主の娘の言葉が。

 あれこそが、お前が話を聞くきっかけとなるものなのじゃ』


言われて思い出す。


確かにそうだ。


あの石を信じたくなる理由が、何かあった……


”このお守りは、私たちを守ってくれる”


そうだ。あの石から読めた最初の部分はこうだった。

だから、その続きを読む気になった、知りたくなったのだ。


洋子はあの時、生死の狭間でよく覚えていなかった。


”このお守りは、私たちを守ってくれる”

確かに、そうだった。洋子はやっと思い出した。

あれを信じていれば、覚えていれば、もっとずっと早く話が通じたのに!!

そう思う。


樹海で、写真を見ている栫井(かこい)が見えたのは、その後だった。


話しは繋がった。


「ああ、あのときのことは、記憶が曖昧で」


『そうかもしれんのう。話の順番が大事なようじゃのう。

 次は少し変えてみるかの』


次……やはりやりなおすのだ。声の主は、次回の伝え方を考えている。

今までも、こうして、改善してきた結果が今回なのかもしれない。

洋子は、そう考えると、ちょっと申し訳ない気持ちになる。


それでも、次回が有るとしたら、伝えなければならないことがある。


「樹海のシーンだけど、あれだけ見ても、時間を戻すことができるなんて、気付かない。

 もっとはっきりと、時間を戻すことができる、歴史を変えることができることを説明してくれないと」


昔の知人が、樹海で自分の写真を見ている姿を見ても、

”過去に自分が死んだ世界があって、謎の力で、自分が死ななかった世界に来たんだ!!”

とは、普通考えない。


これに関しては、洋子は自信を持っていた。

洋子が特別勘が悪いわけでは無いだろう。


この話し相手との、常識のギャップが大きすぎるのが問題なのだ。


『お前はすでに、お父さん(栫井(かこい))の記憶を見ていた故、

 時間を戻せばどうにかなることを、理解できると思っておった。


 人間というのは、不思議な生き物じゃのう。


 夢の内容と、今が矛盾しておることがわかれば、解決する手段があることがわかるじゃろ。

 考える能力は高いと聞いておったが』


不思議と言われたところで、時が戻らないと言うのが常識だ。

でも、これが、この話相手にとっての常識、認識だ。


次回に備えて、こちらの常識を伝えておく。


「ああ、それで説明してたのね。

 普通の人は、時間を遡ってやり直すことはできないと考えているから、

 それを説明しないと理解できないわ」


『ならば、そこの説明もせねばならぬのか。

 面倒じゃのう。説明しても聞かんし』


確かに、説明されても聞かないかもしれない。


「そうね。もう、そこは、仕方ないと思って諦めてもらうしか無いのかも」


説明は分かりにくかったが、とにかく分かった。


”唯が生き延びる世界が存在する”


それがあるなら、やるしかない。


「唯を助ける方法が有るなら、なんでもやる。

 栫井(かこい)君に頼めばいいのね。

 私はどうなってもいい。唯を助けてくれるなら」


『お前が不幸になったら意味ないではないか、このたわけが!』


凄く不思議に思うのが、その部分だ。

”お前が不幸になったら意味ない”


どうやら、栫井(かこい)の目的自体が、そこにあるように聞こえる。

洋子が小学生の頃なら、洋子が困ったときに助けに来てくれる、白馬の王子様かもしれないが、

今の洋子にとっては、白馬の王子様と言うよりは、何かの呪いにかかった状態に感じられた。


不気味と思うわけでは無いが、感動と言う感じでも無い。


でも、洋子が死んだあと、悲しんで富士の樹海に行った姿を見ている。

洋子が死ぬと、絶望するほど悲しむのは確かなようだ。


ただ。洋子からすると、そこまでの接点が無いのだ。

そして、唯が生きている世界では、栫井(かこい)は死んでいる。


栫井(かこい)は、このことを知っているのか?

知った上で行動しているのかが知りたかった。


今は、唯の助けを求めることに加えて、なぜ栫井(かこい)の仏壇が有るのか、そのことを知った上で行動しているのか聞いてみたかった。


========


そのときから、洋子の気持ちはガラッと切り替わり、それは態度にも現れた。

その変化には、周りが驚くほどだった。


明らかに、前向きに行動し始めたので、洋子の父母も安心し、怪我が良くなれば退院できることになった。

(退院後、自殺の可能性が高いと判断された場合、別病棟行き、または転院になってしまう)


そうなってくると、病院の居心地も、だいぶマシになる。


ただ、病院の食事は慣れなかった。味が薄くて味気ない。

洋子は決して濃い味好きではないが、病人食は味が薄い。


そのとき、ふと、イメージが浮かんだ。

”塩分不足は鬱になる”


洋子は、今まで、そんな話を聞いた覚えが無かった。

石の記憶?


========


『お前の怪我は、ほんとに治らんのう』


この話相手は、怪我はすぐ治るものだと思っているようだ。

怪我が治るには、相当長期間かかる。

それに、治るまで入院するわけでは無い。

もうすぐ退院できる。


「これ? ある程度薄くなるのにも、何か月もかかるわ。薄くなるだけで、一生残るって」


『お父さんに言えば、勝手に治すじゃろ。それにしても、この世界の月は面白いのう』


勝手に治すと言った。治す方法が有るのだろうか?

それに、時間を戻すなら、治す必要も無いだろう。

そう考える。何故治すのだろうか?


「勝手に治す? 何?」


『妾の世界に、月の単位は無かったわい』


洋子が聞きたかった”治す話”がスルーされた。

でも慣れた。こう言う生き物(?)なのだ。


「夜見える、あの月が無かったの?」


『あんなものは無かったのう。

 お父さんは、有るけど、目立たないだけだと言うておったがのう』


洋子は、単純に、”衛星は有るけど目立たない大きさ”と理解した。


実際のところ、地球の月はかなり珍しい存在だ。

地球の月は、夜見上げれば誰でも気付く特別大きく見える天体だ。

昼間でさえも、見える機会が多いという、かなり目立つもので、これだけ大きく見える衛星を持つ惑星は珍しい。

太陽系の中でも、惑星本体に対する大きさでは、地球の月は桁外れに大きい。


この栫井(かこい)の娘を自称する謎の存在は、あまり多くのことは語らないが、その割に、この世界に来た理由は良く話した。


『妾は、お父さんに会いたかったのじゃ。

 それにな、妾が呼びにこないと、お父さんは、妾の世界がどこにあるかわからんじゃろ?


 お前に話が通じるようになるまで、条件があったように、お父さんが役目を果たすためには、

 いろいろ条件があるのじゃ』


わかったのは、栫井(かこい)を呼びに来たことと、栫井(かこい)は、洋子を助けたがっていること。

栫井(かこい)は洋子を助けないと、この娘の生まれた世界に行かないのだという。


洋子を助ける必要が見当たらないので、ずいぶんおかしな話だと思ったが、そこを除けば、納得できる理由が得られた。


その部分を指摘する。

「私を助ける必要が有るように思えないのだけど」


『お前が幸せにならんと、お父さんは妾の世界で目的を果たせぬ。

 だから、こうして手伝っておるのじゃ』


洋子が幸せになることと、この声の主が来たという、こことは別の世界、

いずれ、娘が生まれると言う異世界に行く条件として、娘に唯を助ける手伝いをさせているのだ。


なんで、そこまでして……そうは思うが、栫井(かこい)と、栫井(かこい)の娘、洋子の3人は、話に聞く限りは目的が一致している。


栫井(かこい)が、なぜ、洋子を幸せにしようとしているのか理由を聞きたい。

できれば、栫井(かこい)の口から。

洋子には、知りたいことができた。


========


実は、洋子がやるべきことは、とても簡単だった。

栫井(かこい)に、石を渡すこと。


『そうじゃ。たった、それだけなのに。

 妾の石は、ここの人間には触れぬ。

 今のお主なら、持つことができる。


 これがあれば、お父さんは思い出すのじゃ』


「何を?」


『妾には読めぬ故、わからぬが、お前を助けようとしたことは思い出すじゃろ』


「それを覚えてないの?」


ようやく、違和感の一つが解決した。

何故、栫井(かこい)本人が現れないのか。


助けたいと言う割に、積極的な動きがない。

何か理由があるとは思ったが、これでわかった。


助けようとしたけれど、本人がそれを覚えていないのだ。

時を戻すことはできても、時を戻したことを忘れてしまえば、前回と大差ない行動をするだろう。


石を渡すと、何が起きるのか疑問だったが、それも解決した。


となると、新たに問題となるのが、栫井(かこい)と接触する方法だ。


連絡を待っているのではなく、連絡が来ることを栫井(かこい)は知らない。


これはけっこう厄介な問題だった。

普通に考えて、数十年間連絡の無かった知人から、いきなり連絡来たら、だいたい碌な用件では無い。


高額商品の売り込みか、宗教やマルチの勧誘と思われるのがオチだ。


いきなり連絡とっても、会ってくれるかわからない。


”どうやって、会えば良いのだろう……今更何と言えば……”


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