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23-22.洋子からの電話(3)

”加齢臭と転移する竜”本編


<<https://ncode.syosetu.com/n8898ej/>>


から「横浜編」を分離したものです。


話の並び順も、わかりやすいように入れ替えてあります。


異世界側の話も、多少入りますが、適当に読み飛ばしてください。

挿絵(By みてみん)


続きを見ると、唯は成長する。


もう胸がだいぶ膨らんでいた。

細くてかわいらしい子供の体から、少し大人になってきた。

あ、唯が中学生くらいのとき?


制服を着ている。小学生の時は制服は無かったので、中学だ。

授業風景。学校での様子だ。そんな画像はもちろん残っていない。


体育祭や文化祭の写真は有っても、日ごろの授業の様子というのは、写真が残っていなかったりする。

買い物袋を持って歩く姿。料理を手伝う姿。

反抗期だったのか、洋子と喧嘩する姿も。


洋子が見たかったのは、こういう日常の姿だった。


また見られたことが嬉しくて涙が溢れる。

この石には、洋子の見たいものがたくさん入っていた。


さらに進むと高校の様子。

中学生の時の、子供と大人の中間から、すっかり若い大人の体に変わっている。


この頃は、体は大人、精神はまだまだと言う、不安定な時期。


また授業風景。日常の授業なので、そんな画像は残っていない。

でも何か、華やかだ。洋子の高校生活と比べて、ずいぶん緩い雰囲気だった。

洋子が自分自身が送りたかった高校生活に近い。


それにしても違和感がある。

唯は、こんなに幸せそうに高校時代を過ごせただろうか?


洋子は、高校生のとき、時間や気持ち的には、余裕のないつまらないものだったが、経済的に不便はなかった。

だが、唯の場合、母子家庭。日本で母子家庭は貧しいことが多い。

洋子のところも例に漏れず、相当貧乏だった。

唯は周りと比べると、ずいぶん見劣りしていたはずだ。


ところが、この唯は、そうは見えない。


洋子の知っている貧乏暮らしと様子が違うように見える。

靴も新しい。いつも、ボロボロになっても履いてたのに……


やっぱり、洋子の知っている現実とは少し違う。

思い出のつもりで見ていたのに美化されている。


その後驚く。

入試だ!


唯は進学していない……なのに入試?


大学? 唯は大学行けなかった。

成績的には問題無かった。お金があれば……


続きを見てわかる。やっぱり大学だ。

合格発表を洋子とともに見ている。


そして、大学生活。

バイトの時間が長そうだから、裕福ではないみたいだけど、それでも楽しそうだ。


洋子は涙がボロボロ零れた。

これは、洋子が望んでいた生活。唯と共に過ごしたかった生活。


でも、経済的に無理で諦めた。その生活が、ここにあった。


でも、ここまでだ。唯はそろそろ……

寿命ばかりは、多少の経済力で何とかなる問題でも無い。

唯は元々長くは生きられない……


そう思ったとき、予想外のものが見える。


栫井(かこい)の姿だ。夢で見たので、すぐに気付く。

洋子が実際に最後に会ったときから20年ほど後の姿。


「え? 栫井(かこい)君?」


なんで栫井(かこい)君が?


そして、時間が飛ぶ。


当然、唯はもう居ないだろう……そう思う。

ところが、またもや予想外のことが。


30くらいだろうか、10歳くらい歳をとった唯の姿。

「唯! 良かった」


唯は生きていた。洋子も……少し老けて。


あれ? え? 唯が年取って、私も。10年後くらい?

唯が生きてるの?


てっきり、不治の病だと思っていた。


”病気を治す方法が有る?”


そう思ったとき、部屋の片隅に仏壇が見えた。


家には仏壇が……唯は生きてて仏壇?誰の?

お父さんか、お母さんか。10年後でも、まだ亡くなるには少し早いような気がした。


遺影には、またもや意外な人物が。


栫井(かこい)君?

栫井(かこい)君の仏壇がうちに? 唯が生きてて、なんで?


映像はそれだけだった。洋子の家に栫井(かこい)の仏壇。


最後のシーンには言葉が入っていた。

”あの人、異世界で神様やってたから。こっちでも神様だったけど”



洋子が自分で言っていた。

”あの人、異世界で神様やってたから。こっちでも神様だったけど”


「あの人というのは、遺影の……栫井(かこい)君は、神様……なの?」


『そうじゃ。人間は皆、(わらわ)のお父さんを神だと思っておった』


「石に、未来の情報まであった。なんで?」


(わらわ)のお父さんが助けてくれたのじゃ』


「うん、それはわかった。なぜ未来のことまで?」


『おお、そうか! それを知らぬからそう思うのじゃな。

 この石にとっては、全て過去のことなのじゃ。お前とは、別の時間を歩んだのじゃ』


なんか、凄い無茶なことを聞いた気がする。


でも、なんとなくわかってきた。

時を行き来する方法が有って、未来から持ってきたのがこの石。

この石に入っている内容には、これから起こることも含まれている。


唯が生き残って、栫井(かこい)君が死ぬ未来がある。

ふと疑問に思う。

”なぜ、栫井(かこい)君の娘が、栫井(かこい)君が死ぬ未来を?”


栫井(かこい)君の仏壇がうちにあるって、これじゃまるで私が栫井(かこい)君に……


「私と唯が年取って、栫井(かこい)君の仏壇があった」


作り物とは思えないリアリティーがあった。洋子自身の気持ちも感じた。

栫井(かこい)に感謝していた。栫井(かこい)のおかげで唯は生きている。

あれはたぶん、これから起きること。


『そうじゃな。うまく行けばそうなるのじゃ』


”うまく行けば”と言った。

それは、私を助けるのが目的だから?

でも、栫井(かこい)君が亡くなって、うまく行ったと言うだろうか?


石の記憶の中で、洋子が栫井(かこい)を異世界の神様と言っていた。

悪い予感がする。


栫井(かこい)君、神様なの?」


『そうじゃ。人間は皆、神様だと思っておった。

 なにしろ(わらわ)のお父さんじゃからのう。ほほほほ』


洋子は(わらわ)のお父さんの部分はスルーする。


”人間は”って、人間じゃないみたい。

神様は神様という種類の生き物がいるのだろうか?

そういえば、竜とか言ってたような気もする。神龍?


そうだ、神龍は死んだ人間を生き返らせることができる。


「神様は、唯を生き返らせることができるの?」


『死んだすぐ後ならできるのかもしらんのう』


「それじゃ唯は無理じゃない」


『死ぬ前に戻れば良いのじゃ』


そんなこと……できるのだ。

栫井(かこい)には、どうやらできるらしい。


時間を戻し、死人を生き返らせる力があるのなら、唯を助けることはできるのかもしれない。


この妙な余裕の態度と、さっきの映像が結び付く。


さっきの映像の中で洋子は言っていた。

”異世界で神様をしていた”


「神様なの?本当に?」


再度訊く。


『人間たちはお父さんを神だと言っておったぞ。

 お主も、いずれ、そう思うのじゃ。

 なんと言っても、(わらわ)のお父さんじゃからのう。ほほほほほ』


洋子は、ちょっと(だいぶ)ウザく感じた。

でも、仏壇のシーンでは本当に洋子は栫井(かこい)を神様だと思っていたのだ。


「神様だとしたら、頼めば何とかしてくれる?」


『お前が頼むのを待っておるのじゃ』


そうか。だから、この声の主は来たんだ。


「あなたは誰?」

『お前が栫井(かこい)と呼ぶ者の娘じゃ』


洋子は困る。それは知ってる。

そう言うことを聞いた訳じゃないんだけど……


栫井(かこい)君の娘さん?

 栫井(かこい)君に、娘さんが居るの?」


(わらわ)が生まれるのはだいぶ先のことじゃな』


「だいぶ先? 未来ってこと?」


『おお、お主にはそれがわかるのか。流石お父さんが選んだ女じゃ』


何故か褒められる。

洋子には、この相手の評価ポイントがどこにあるのかよくわからなかった。

ただ、価値観に相当大きな隔たりが有るのはよくわかった。


そして、それを考慮して注意深く考察すると、どうやら嘘は言っていないように思えた


(わらわ)の生まれた世界と、この世界は時間のつながりが無いらしいのじゃ。

 だから、お父さんの娘である(わらわ)が、呼びに来るのは理屈的には合ってると言うておった。


 (わらわ)にはようわからんがの、お父さんは時間を超えたのじゃ。

 流石、(わらわ)のお父さんじゃ。

 凄いと思わんかの?』


「ええ。そんなことができるのなら、神様かもしれないけれど。

 あなたとは、今どうやって話をしてるの?」


『おまえが言う幽霊みたいなものかの』


幽霊の概念があるのかと、ちょっと意外に感じた。


栫井(かこい)君……あなたのお父さんに、頼めばなんとかしてくれるの?」


『なんとかすると思うがの』


「私を許してくれるの? どうして?」


『知らぬ。何故かは知らぬがお前に頼って欲しかったようじゃ』


これは何度聞いても胸が痛む。


元旦那と離婚した後、玲子と杉に、何度も言われていた。


洋子の父親さえも、栫井(かこい)の名を口にしたことがあった。

父親と栫井(かこい)は、直接会って話しをしたことも無かったと思うが、高校生の頃、栫井(かこい)の名は時々出ていたので知っていたのだろう。

元旦那の浮気で揉めて離婚したとき、父親がボソッと栫井(かこい)の名を口にしたことがあった。

※(本人も知らないが、栫井(かこい)は、意外に父母受けは良かった様子)


『お前の娘の唯にも頼んだんじゃが、死んでしまったのじゃ』

 ほれ、お前の娘の伝言じゃ』


そう言うと、また新しい石を出す。


唯の伝言?

そんなのがあるなら、それをはじめに見せてくれれば。そう思う。


まだ新しい……そう感じた。

凄く近くに感じる。まるで唯と直接話をしているかのようだ。


----


”私は生きたかった。お母さんが頼めば神様がなんとかしてくれるって、ワンちゃんが、

『ワンちゃんではない』

ごめんね、お母さん。まだ親孝行してないのに。

あとは、このワンちゃんに聞いて。

(わらわ)をワンちゃんと呼ぶでない、このたわけが!』”


洋子には声の主の姿は見えなかったが、唯には犬に見えていたようだ。


----


唯のメッセージが、このワンちゃんのせいで台無しだった。

それでも、唯の気持ちは良くわかった。

”唯は、この声の主を信じた”


「唯……」


唯の最後の願い。


洋子は決心する。

「わかった。私、栫井(かこい)君に頼ってみる」

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