23-22.洋子からの電話(3)
”加齢臭と転移する竜”本編
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から「横浜編」を分離したものです。
話の並び順も、わかりやすいように入れ替えてあります。
異世界側の話も、多少入りますが、適当に読み飛ばしてください。
続きを見ると、唯は成長する。
もう胸がだいぶ膨らんでいた。
細くてかわいらしい子供の体から、少し大人になってきた。
あ、唯が中学生くらいのとき?
制服を着ている。小学生の時は制服は無かったので、中学だ。
授業風景。学校での様子だ。そんな画像はもちろん残っていない。
体育祭や文化祭の写真は有っても、日ごろの授業の様子というのは、写真が残っていなかったりする。
買い物袋を持って歩く姿。料理を手伝う姿。
反抗期だったのか、洋子と喧嘩する姿も。
洋子が見たかったのは、こういう日常の姿だった。
また見られたことが嬉しくて涙が溢れる。
この石には、洋子の見たいものがたくさん入っていた。
さらに進むと高校の様子。
中学生の時の、子供と大人の中間から、すっかり若い大人の体に変わっている。
この頃は、体は大人、精神はまだまだと言う、不安定な時期。
また授業風景。日常の授業なので、そんな画像は残っていない。
でも何か、華やかだ。洋子の高校生活と比べて、ずいぶん緩い雰囲気だった。
洋子が自分自身が送りたかった高校生活に近い。
それにしても違和感がある。
唯は、こんなに幸せそうに高校時代を過ごせただろうか?
洋子は、高校生のとき、時間や気持ち的には、余裕のないつまらないものだったが、経済的に不便はなかった。
だが、唯の場合、母子家庭。日本で母子家庭は貧しいことが多い。
洋子のところも例に漏れず、相当貧乏だった。
唯は周りと比べると、ずいぶん見劣りしていたはずだ。
ところが、この唯は、そうは見えない。
洋子の知っている貧乏暮らしと様子が違うように見える。
靴も新しい。いつも、ボロボロになっても履いてたのに……
やっぱり、洋子の知っている現実とは少し違う。
思い出のつもりで見ていたのに美化されている。
その後驚く。
入試だ!
唯は進学していない……なのに入試?
大学? 唯は大学行けなかった。
成績的には問題無かった。お金があれば……
続きを見てわかる。やっぱり大学だ。
合格発表を洋子とともに見ている。
そして、大学生活。
バイトの時間が長そうだから、裕福ではないみたいだけど、それでも楽しそうだ。
洋子は涙がボロボロ零れた。
これは、洋子が望んでいた生活。唯と共に過ごしたかった生活。
でも、経済的に無理で諦めた。その生活が、ここにあった。
でも、ここまでだ。唯はそろそろ……
寿命ばかりは、多少の経済力で何とかなる問題でも無い。
唯は元々長くは生きられない……
そう思ったとき、予想外のものが見える。
栫井の姿だ。夢で見たので、すぐに気付く。
洋子が実際に最後に会ったときから20年ほど後の姿。
「え? 栫井君?」
なんで栫井君が?
そして、時間が飛ぶ。
当然、唯はもう居ないだろう……そう思う。
ところが、またもや予想外のことが。
30くらいだろうか、10歳くらい歳をとった唯の姿。
「唯! 良かった」
唯は生きていた。洋子も……少し老けて。
あれ? え? 唯が年取って、私も。10年後くらい?
唯が生きてるの?
てっきり、不治の病だと思っていた。
”病気を治す方法が有る?”
そう思ったとき、部屋の片隅に仏壇が見えた。
家には仏壇が……唯は生きてて仏壇?誰の?
お父さんか、お母さんか。10年後でも、まだ亡くなるには少し早いような気がした。
遺影には、またもや意外な人物が。
栫井君?
栫井君の仏壇がうちに? 唯が生きてて、なんで?
映像はそれだけだった。洋子の家に栫井の仏壇。
最後のシーンには言葉が入っていた。
”あの人、異世界で神様やってたから。こっちでも神様だったけど”
洋子が自分で言っていた。
”あの人、異世界で神様やってたから。こっちでも神様だったけど”
「あの人というのは、遺影の……栫井君は、神様……なの?」
『そうじゃ。人間は皆、妾のお父さんを神だと思っておった』
「石に、未来の情報まであった。なんで?」
『妾のお父さんが助けてくれたのじゃ』
「うん、それはわかった。なぜ未来のことまで?」
『おお、そうか! それを知らぬからそう思うのじゃな。
この石にとっては、全て過去のことなのじゃ。お前とは、別の時間を歩んだのじゃ』
なんか、凄い無茶なことを聞いた気がする。
でも、なんとなくわかってきた。
時を行き来する方法が有って、未来から持ってきたのがこの石。
この石に入っている内容には、これから起こることも含まれている。
唯が生き残って、栫井君が死ぬ未来がある。
ふと疑問に思う。
”なぜ、栫井君の娘が、栫井君が死ぬ未来を?”
栫井君の仏壇がうちにあるって、これじゃまるで私が栫井君に……
「私と唯が年取って、栫井君の仏壇があった」
作り物とは思えないリアリティーがあった。洋子自身の気持ちも感じた。
栫井に感謝していた。栫井のおかげで唯は生きている。
あれはたぶん、これから起きること。
『そうじゃな。うまく行けばそうなるのじゃ』
”うまく行けば”と言った。
それは、私を助けるのが目的だから?
でも、栫井君が亡くなって、うまく行ったと言うだろうか?
石の記憶の中で、洋子が栫井を異世界の神様と言っていた。
悪い予感がする。
「栫井君、神様なの?」
『そうじゃ。人間は皆、神様だと思っておった。
なにしろ妾のお父さんじゃからのう。ほほほほ』
洋子は妾のお父さんの部分はスルーする。
”人間は”って、人間じゃないみたい。
神様は神様という種類の生き物がいるのだろうか?
そういえば、竜とか言ってたような気もする。神龍?
そうだ、神龍は死んだ人間を生き返らせることができる。
「神様は、唯を生き返らせることができるの?」
『死んだすぐ後ならできるのかもしらんのう』
「それじゃ唯は無理じゃない」
『死ぬ前に戻れば良いのじゃ』
そんなこと……できるのだ。
栫井には、どうやらできるらしい。
時間を戻し、死人を生き返らせる力があるのなら、唯を助けることはできるのかもしれない。
この妙な余裕の態度と、さっきの映像が結び付く。
さっきの映像の中で洋子は言っていた。
”異世界で神様をしていた”
「神様なの?本当に?」
再度訊く。
『人間たちはお父さんを神だと言っておったぞ。
お主も、いずれ、そう思うのじゃ。
なんと言っても、妾のお父さんじゃからのう。ほほほほほ』
洋子は、ちょっと(だいぶ)ウザく感じた。
でも、仏壇のシーンでは本当に洋子は栫井を神様だと思っていたのだ。
「神様だとしたら、頼めば何とかしてくれる?」
『お前が頼むのを待っておるのじゃ』
そうか。だから、この声の主は来たんだ。
「あなたは誰?」
『お前が栫井と呼ぶ者の娘じゃ』
洋子は困る。それは知ってる。
そう言うことを聞いた訳じゃないんだけど……
「栫井君の娘さん?
栫井君に、娘さんが居るの?」
『妾が生まれるのはだいぶ先のことじゃな』
「だいぶ先? 未来ってこと?」
『おお、お主にはそれがわかるのか。流石お父さんが選んだ女じゃ』
何故か褒められる。
洋子には、この相手の評価ポイントがどこにあるのかよくわからなかった。
ただ、価値観に相当大きな隔たりが有るのはよくわかった。
そして、それを考慮して注意深く考察すると、どうやら嘘は言っていないように思えた
『妾の生まれた世界と、この世界は時間のつながりが無いらしいのじゃ。
だから、お父さんの娘である妾が、呼びに来るのは理屈的には合ってると言うておった。
妾にはようわからんがの、お父さんは時間を超えたのじゃ。
流石、妾のお父さんじゃ。
凄いと思わんかの?』
「ええ。そんなことができるのなら、神様かもしれないけれど。
あなたとは、今どうやって話をしてるの?」
『おまえが言う幽霊みたいなものかの』
幽霊の概念があるのかと、ちょっと意外に感じた。
「栫井君……あなたのお父さんに、頼めばなんとかしてくれるの?」
『なんとかすると思うがの』
「私を許してくれるの? どうして?」
『知らぬ。何故かは知らぬがお前に頼って欲しかったようじゃ』
これは何度聞いても胸が痛む。
元旦那と離婚した後、玲子と杉に、何度も言われていた。
洋子の父親さえも、栫井の名を口にしたことがあった。
父親と栫井は、直接会って話しをしたことも無かったと思うが、高校生の頃、栫井の名は時々出ていたので知っていたのだろう。
元旦那の浮気で揉めて離婚したとき、父親がボソッと栫井の名を口にしたことがあった。
※(本人も知らないが、栫井は、意外に父母受けは良かった様子)
『お前の娘の唯にも頼んだんじゃが、死んでしまったのじゃ』
ほれ、お前の娘の伝言じゃ』
そう言うと、また新しい石を出す。
唯の伝言?
そんなのがあるなら、それをはじめに見せてくれれば。そう思う。
まだ新しい……そう感じた。
凄く近くに感じる。まるで唯と直接話をしているかのようだ。
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”私は生きたかった。お母さんが頼めば神様がなんとかしてくれるって、ワンちゃんが、
『ワンちゃんではない』
ごめんね、お母さん。まだ親孝行してないのに。
あとは、このワンちゃんに聞いて。
『妾をワンちゃんと呼ぶでない、このたわけが!』”
洋子には声の主の姿は見えなかったが、唯には犬に見えていたようだ。
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唯のメッセージが、このワンちゃんのせいで台無しだった。
それでも、唯の気持ちは良くわかった。
”唯は、この声の主を信じた”
「唯……」
唯の最後の願い。
洋子は決心する。
「わかった。私、栫井君に頼ってみる」