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23-2.異世界から来た娘(1)

”加齢臭と転移する竜”本編

<<https://ncode.syosetu.com/n8898ej/>>

から「横浜編」を分離したものです。


本編は、異世界から戻ってきたところから横浜編がはじまりますが、

こちらは娘が呼びに来るところからのスタートとなり、話の並び順を

入れ替えてあります。


話の並びを入れ替えただけである都合、異世界側の話も、混ざってしまいますが、適当に読み飛ばしてください。


挿絵(By みてみん)


『お父さん、聞こえますか?』


『お父さん。私は会いに来ました。話がしたいです。聞こえますか?』


返事がない。声が届かない。


目の前に居るのに、話しかけても、気付いてもらえない。


この声の主は、元々、住んでいた世界では、人間に”竜”と呼ばれる生き物だった。

”竜”として生き、全てのことをやりきって、最後に父に会いに来た。


ずっと楽しみにしていた。

そして、最後、その時が来て、”大きな竜”に導かれ、父の居る世界にやってきた。


すぐに会えると思っていた。


確かに会えたが、話が一方通行だった。

これでは、目的が果たせない。


もう30日近く……この世界で言う、1月ほど前から話しかけていたが、声は届かなかった。


父は、この世界に絶望したとき、別の世界に行く。

この”竜だった者”は、そのことを知っていた。


この、”竜だった者”は、父があまり野心的ではなかったことを知っていた。


父が絶望し、”父が生まれたこの世界で生きることを辞めたくなる時”を選んでやってきた。

そのとき、父は話を聞き、向こうの世界に、行くことになっていた。


だから、必ず話しができるはず。なのに、耳を傾けてはくれなかった。


『お父さん、聞こえますか?』


声が届くのは確実だった。

なぜなら、この男は、この”竜だった者”の父親であり、この”竜だった者”の誘いに応えて、あの世界に行かないと、自分が生まれないのだから。


……………………


しばらく、父について回るうちに、その行動にパターンがあることに気付く。


父は、何日か周期で、同じ行動を繰り返していた。

いつも同じ布を身に着けて、人間がたくさん詰め込まれた、動く箱に入って離れたところまで行く。

夜になると、また巣に戻る。


何日かすると、箱で行かない日が2日ある。

そのあとはまた、あの布を身に着けて、箱に入って離れたところに行く。

この動く箱は、恐ろしい数の人間を運ぶことができる。


不思議なことに、父はこの動く箱が嫌いなようだった。

嫌いなのに、なぜ毎日この箱に入るのだろうか?


食べ物は、自分で捕りに行かなくても、食べ物がたくさん置かれた場所があり、そこで手に入れる。

食べ物を探す時間は、ほとんどない。


この世界には、人間が大量に居て、どう考えても食料が足りないはずなのに、いつもたくさん用意してあった。どこかから無限に運ばれてくる。

不思議な場所だった。


何のために、あの箱に入って、毎日同じ場所に行くのだろう?

この、”竜だった者”にとって、父の行動や、この社会はとても難解なものだった。


今日は、いつもと違って、あの布を着て出かけなかった。

もう、3日か4日経っている。


父は、酷く落胆しているように見えた。今なら、通じるかもしれない。


いつも通り、声掛けを続ける。


『お父さん、会いに来ました』


通じなかった。


『今日は、あの布を着けないのですね』


いつもどおり、話しかけてみるが、通じない。

早く話してみたいのに、いつになれば気付いてもらえるのだろうか?


そのとき、父が独り言を漏らす。


「富士の樹海もダメか」


”富士”が、具体的に、何を意味するかは、分からなかったが、自然の厳しい土地のようだ。

樹海の意味はわかった。深い森のことだ。

深い森なら思い当たる。


父は、はじめに森に現れる。

この竜と呼ばれる生き物だった者は、父を、森に呼ぶために、やってきたのだ。


恐らく父は、”樹海では足りず、森にやってくる”そう考える。


何と言って誘えば良いかは、知っていた。父が聞いたという言葉が伝わっていたからだ。

つまり、このとき自分が言った言葉が、伝わっていたためだ。


『富士の樹海より、もっと良い森がありますよ』


「は? 誰だ?」


やはり、この言葉で合っていた。やっと耳を傾けてくれた。

はじめて言葉が通じた。


喜びのあまり、飛びつくが、通り抜けてしまう。

直接触れることは、できなかった。これがとても悲しかった。


「もっと良い森?」


父は確実に、森に興味を持っている。


父は、深い森を求めているのだ。

父には……この偉大な父に見合う森が、この世界には無いのだ。

この竜と呼ばれる生き物だった者はそう思った。


『その森に行くと、あなたは、死にそうになります』


この話をすれば、父は森に行くはずだ。

偉大な父は、この世界の、ちっぽけな森では満足できないのだ。


父ほどの存在には、相応の場所が必要なのだ。

この、人間に竜と呼ばれる存在だった者は、そう考えていた。


ところが意外にも、父は乗り気ではなかった。


「死にそうになるだけは困るな」


……………………

……………………


言葉が通じても、簡単ではなかった。


最後に一言、父と話をして、満足して消える……父の言葉で”成仏”というのをするつもりだったが、思っていたのと違っていたようだった。


でも、話ができたのは嬉しかった。

次は、血のつながりを知ってほしかった。

娘として受け入れてほしい。


この、竜だった者は、呼びかける。


『お父さん』

「お父さん?」


『あなたが、私のお父さんです』

「俺がお父さん?」


----


『お父さん』

「お父さん?」


森の話をしたと思ったら、今度は、お父さん言い出した。

この声は何なのだろうか?


『あなたが、私のお父さんです』

「俺がお父さん?」


……………………

……………………


なるほど。幽霊にしては妙なことを言うと思ったが、ファンタジーの世界からやってきた、俺の子供らしい。

いきなりスケールの大きなことを言い出したが、それを今の俺に話しても意味はない。

確かに、俺には微かに、こことは違う世界に居たような記憶がある。


俺の子供と言うが、俺には子供がいたという記憶はない。

女性っぽい感じなので娘だろうか?


ただ、いきなり、”お父さん”言われても、全く自分がお父さんのイメージが湧かない。


お父さんと娘。


”宇宙家族カールビンソン”の、お父さんを思い浮かべる。


”げしょげしょ”


これなら、しっくりくる。

かわいい娘と、異形のお父さん。


”宇宙家族カールビンソン”というのは、不慮の事故で両親を亡くした女の子を、星間劇団の皆が家族役をして育てる話だ。

お父さん役をしているのは、普段は温厚なロボットだが、何かあるとすぐに銀河大戦級の装備を持ち出してくる。

戦闘力が無駄に高いキャラなのだ。


”人間と竜が幸せになる”とか言われたので、イメージが戦闘力の高い方向に引っ張られてしまったか。


「いきなり俺がお父さんとか言われても、無駄に強い何かみたいなイメージしかわかないな」


こんな変なこと言っても、通じないよなと思いつつ、思いついたイメージをそのまま言ってみる。


ところが、意味は通じて、変な言葉が返ってきた。


『そうです。お父さんは、誰も敵わない最強の竜、”一番大きな竜”です』


さっきも”竜”とか言ってたけど、”人間の俺が、人間と竜を助ける”スペハリみたいな話かと思ったのに、俺が竜らしい。

※スペハリ:スペースハリアー。2Dの拡大縮小で3Dっぽく見せているセガの昔の似非3D体感ゲーム。


「最強の竜?」

『そうです。世界最強の竜です』


萎えた。猛烈に萎えた。

俺は最強とか、そういうのは、ぜんぜん好きじゃない。


世界を救うヒーローにもなりたくないし、世界を征服したり、滅ぼしたりするのも望まない。

俺は静かに死にたいのだ。


そもそも、そんな話で、俺が釣られると思われることも心外だ。


「それは俺が好きなやつとは違うやつだ」

そう答える。


すると声の主が返す

『最強の竜は嫌ですか?』


簡単に言うと嫌だ。

声の主には悪いが、俺はそういう最強とかに興味ない。

俺は救世主になって、人に感謝されたりしたくない。

そういうのは、もうちょっと恵まれた人の希望だと思う。


俺はただ、普通に家庭を持って、普通に死にたかった。

そんな、ある程度多くの人が達成できそうな生活でさえも達成できなかったのだ。


「好きじゃない。俺はただの村人とかが良い」


すると、少し間が空いた。考えているようだ。

そして、返事が来る。


『…………わかりました。私の勘違いです。

 お父さんは、ただの村人です。最強の竜、一番大きな竜ではありません』


ぶほっ……

思わず吹き出す。


……? 嫌な予感がする。

今、俺が話してる相手は、人間ではない気がしてきた。


幻聴と話しをしているんじゃないかなんて疑っていたが、急に現実味が増してくる。

会話する幻聴なら、俺の想定外のことは言ってこないような気がするのだ。


思わず、まともに返してしまう。

「なんだよそれ、絶対嘘だ。俺はその”一番大きな竜”なんだろ」


『さすが、私のお父さんです。嘘をついてもバレてしまいます』


うわっ、やっぱり、素でアレなやつだ。

俺の子供は、素でアレなやつだったのだ。


呆れつつも、根気よく聞いてみる。


「なんでバレないと思ったんだ?」


『まさかバレるとは思いませんでした』


ぬぅ。

……人間じゃない何か? 或いは、そういう人間の世界?

疑問が増えて、なんだか少し興味が出てきた。

試しに聞いてみる。


「君は人間なのか? それとも別の生き物?」

『お父さん。私は竜です』


そっちかよ!! エルフとかオークとか魔族です、みたいなやつじゃ無いようだ。


スペハリのさらに変形版だ。

竜が頼みに来るけど、自キャラが人間じゃなくて竜だという。


(おれ)(りゅう)で子供が(りゅう)なら、(おれ)には(りゅう)の妻が居るのだろうか?


レトロな物語だと、名前を与えることができるのが人間だけで、

親と言っても単に名前つけただけなんてパターンがあるので、

それかと思ったが、もしかしたら同種族の妻が居るのだろうか?


「ああ。なるほど。

 まあ、俺が最強の(りゅう)なら娘も(りゅう)だとしたら、

 お母さんも当然、(りゅう)なんだよな」


『はい。偉大な(りゅう)です』


偉大な(りゅう)……なるほど。

どんな状況なんだかよくわからないが、俺には(りゅう)の妻が居て、子供が生まれるらしい。

正直、妻には少し惹かれるものがある。


少し前の俺だったら喜んだのかもしれない。

人生消化試合の俺だったら、”樹海より良い森”に行って、

(りゅう)になって、(りゅう)の妻をもらって、(りゅう)として

生きるという選択をしたのかもしれない。


でも、少し遅かった。

今の俺は、それ以下だ。人生消化試合ですらない。

廃人だ。

俺は新天地を求めるよりも、もう生きていることを辞めたいのだ。


ただ、死ぬのも面倒なのだ。

生きるというのは辛いものだ。


でも、こんなわけのわからない話をしていたら、気が紛れてきた。

俺は案外、簡単な生き物なのかもしれない。


俺は、異世界で最強とか、そんなのより、この自称俺の子供としばらく暮らしてみたい。

そう思った。


俺が欲しかったのは家族だ。


特に、妻が欲しかった。


でも、どういうわけか、妻には会えないが、子供が遊びに来てくれたのだ。


まあ、でも良い。


これが幻聴であっても……俺の妄想であったとしても、俺はちょっと嬉しかった。

すぐに心臓止まらなくても良いかもしれない。そんなふうに思えてきた。


この、自称俺の子供は、本当は、俺を謎の森に行かせるために来たのではなく、ひとまず、今死なないように、話し相手にやってきたのかもしれない。そう思った。


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