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23-12.大鎧出現(5)

挿絵(By みてみん)


このとき、少しずつだが、大鎧を着た者の姿が見え始めていた。

石に直接顕現させる力が有るわけではない。

石に込められた情報を読んで、どれだけ皆が待っていてくれたのかが身に染みたのだ。


本当に歓迎したいという気持ちで踊ってくれたのだ。

それを考えると、この世界を去るのが難しくなる。


おっさんが、この世界の仲間に入りたいと言う気持ちと、人々のこの世界に来て欲しいと言う気持ちが通じた結果だった。


間の悪いことに、すぐ去らねばならない場面で、双方向に気持ちが通じ合ってしまった。


これは、転移する竜にとって致命的な問題となり得る。

おっさんは、この時点では、それがどれだけ深刻な問題であるか正しく認識できていないのだが。


石を読み終わって、暫くしてから、ようやく、目の前の女性に目を向ける。

気品のある女性と、作り物のように美しい女の子がいる。


石を差し出してきたのは、作り物のような子だ。


この子は?

特別な子のような気がする。

踊りを披露してくれた女の子たちは、不揃いで、リアルな肉体美があった。

おっさんは、その不揃いのところが気に入った。

汗にまみれ、暑いとはだける……あまりにリアルだった。


おっさんが生まれた世界では、完成度の高い物を多くの人々に届ける手段が発達していた。

そこには、選ばれし美しいものが映し出される。

でも、そんなものは、ガラス越しの幻。


今も触れ合うことができないという点では、ガラス越しのものと変わらないが、ここの女たちはおっさんのために踊りを披露してくれた。

その素人臭さが心に響いた。


それに対して、この子は整い過ぎて、作り物っぽい。

ずいぶんきれいな子だと思うが、雰囲気がなんだか他の女の子と違う感じだ。


お姫様か何かだろうか? でも、隣の子の方が気品がある。

作り物のようにきれいな女の子は、中身が残念な感じがする。

だが、安心できる感じもする。


何故だろうか?


とりあえず、お礼を言う。通じるかはわからないけど。

「ありがとう。助かった」


この子は俺が来るのを知ってて、待っていたようだ。

俺はいつか、この世界に終活に来る。でも、今回はまだだ。


俺は、小泉さんが生きてる時代に帰る。

申し訳ないが、そこに関してはどうにもならない。


せめて、何かを伝えておきたい。

石で、俺に情報が伝わるなら、俺のメッセージも、この石に残せるのではないだろうか?

そう考える。


今の俺は、触ることができるものさえ限られる。殆ど無いのだ。

今可能な手段など他に見当たらない。


石を握って、気持ちを込める。


「ごめん。俺は、一度帰る。そしてまた来る。

 あっちでやることが残ってるから。

 あっちの用事が済んだら、最後までこっちに居る。

 だから、どうか待っていて欲しい」


このくらいなら伝わるだろうか?


--------


【一番大きな竜】が石に触れると、ますます気配が大きくなる。


このとき、おっさんは石に気持ちを込めていたのだが、竜の遣いは、気配が強まったので、姿を現すのではないかと期待して喜んだ。


「おお、さすが【一番大きな竜】。凄い迫力じゃ。

 異界から妾に会いに来るという最強の竜、

 今こそ姿を現すのじゃ!」


言ったところで、大鎧が地面に落ちる。

”ドン、ガラガラ”

まるで中身が消えたかのように。


石も地面に落ちた。


「大鎧様?」「えっどうしたの?」

回りで見ていた女達が騒ぎ出す。


「消えた?」


「中身が消えた?

 どういうことでしょう?」


おっさんが石に触れた時、既に人々からも、おっさんの姿は朧気ながら見えていた。

多くの人の第一印象は、”とにかく見たことがないほどの巨大な老人”だった。


ところが、その直後、姿が消え、鎧は落下した。



竜の遣いは怒り出す。

「首飾りを渡せば【一番大きな竜】の妻になると言ったではないか!」

そう言って、石を拾う。


すると、竜の遣いに、おっさんの返事が伝わる。


「おお、おおおお? また来る?」

「また来ると?」 領主が聞き返す


「また来ると言うておる。妾のことをきれいな女子(おなご)だと思っておる。

 それと、お主らの踊りを大変気に入ったようじゃな」


「大鎧様!」

踊りを披露した女達が一瞬喜ぶ。


「また来るそうじゃ。その鎧は、踊りを大変気に入っておる。

 度々見せて機嫌を取っておくとよい」


「石が読めるのですか?」

イザベラが尋ねる。


「読めるようになった。

 妾は嫁故に、ほほほほほ」

大鎧に逃げられたと言うのに、竜の遣いは上機嫌だった。


「竜の使い殿は、はおかしなところに、笑いの壷があるのですね」


イザベラは石を触ってみたが、何も感じなかった。


「しばらく待たねばならぬようじゃな。次は人間に化けて出る。

 探し方は追って伝える」

竜の遣いが言うとイザベラが答える。

「私が生きているうちに現れれば」


「そうよの。妾にとっては、しばしのことも、人間にとっては一生かもしれぬ」


そう言うと、竜の遣いはさっぱりした顔で、早速どこかへ行こうとする。


「妾は迷宮の奥で待つ。

 変なのが湧いても気にすることはない。

 【一番大きな竜】は最強の竜。気にせず、よこすが良い」


竜の遣いは、迷宮に籠もるようだ。あそこには、竜が居るという。


だが、人間に化けているのであれば、本物か偽物かを確認しないとわからない。

迷宮は、それを確認するための試練として用意したもの。

そこに変なものが大量に湧いたら、偽物だったら死んでしまうかもしれない。

※変なものは、勝手に湧いてきます


「いえ、それを確認するための試練。

 入った者が死ぬのでは、確認のために行かせることができません」


「それは不便じゃのう」


「わかった。迷宮の管理はそちに任せるでな」


ここに至って、現領主イザベラは本腰を入れて、大鎧捜索の仕組みを作る。

今までは、命ずるのみで関わってこなかった。

ここに来て、イザベラの態度は大きく変わる。

イザベラ自身にとっても、大鎧捜索は重要な役目になった。

大鎧の人間の姿を見てみたくなったのだ。


……………………


大鎧の姿は、この時、数十人単位の比較的多くの人々に目撃された。

目撃した人々は大鎧の姿を正確に伝えたのだが、とにかく大きかったこととそれなりの年であったことが伝えられただけで、”老人”の部分がそぎ落とされて伝わってしまった。

というのも、美化されて話が広まってしまったのだ。


でかくて凛々しい髭のダンディーおやじとして広まってしまった。


おっさんは、毎日髭剃りしていたので、せいぜい剃り残しくらいのレベルだった。

※この世界には、鋭利な刃物があまり無いので、おっさんには髭があるのが普通です



時が流れ、おっさんがこの世界に終活に来た時には、領主イザベラは、先代領主となっている。

竜の遣いは、おっさんに付きまとい、嫌がられた挙句の果てに、火を噴く化け物の名を取ってイグニスと呼ばれるようになった。


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