26-20.七つの骨の呪い(2)
「あだだだだだだっっ!!」
急に大声が聞こえて、唯は驚く。
そうでなくても、さっきから母が不妊だった話が聞こえていて、
唯は、ますます居ないはずの子、居たらおかしい子な気がしていて、肩身が狭く感じていた。
もちろん、気にする必要が無いことは、わかっているが、それでも、居ないはずと言われるのは、気持ちの良いものでは無い。
尻を痛がっていたが、そのあと、フラグがどうとか言い、どうやら方針は決まったようだ。
「時間を戻す。でも、次で最後だ。悔いが残らないように、準備を進めよう」
結局、洋子が望んだ方向に進んでいく。
唯は、栫井は、洋子の願いを聞かないという選択肢がとれないように感じた。
「不妊でも、私が生まれた理由って?」 唯はベスに聞く。
返事には期待していなかったのだが、予想外なことに、ベスはまともに答えた。
「不妊と言うのは知らぬが、子が生まれぬことのようじゃな。
妾の世界の人間は変わった生き物でな、契りを交わせば、子は必ず生まれるのじゃ」
唯の中で、一気に繋がった。
栫井が、異世界の記憶を持つ理由、唯が魔法を使える理由。
そもそも、その世界に行って戻ってきた理由……
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フラグが立った。
石にはフラグを設定できる。
条件が揃うと、電気ショックを受けるような仕組みを作れるようだ。
電気ショックは痛いので、メッセージを渡すことはできないだろうか?
七つの骨の呪いは思い出した。
俺が、かかった呪い……俺が、俺にかけた呪いは、7つの骨を集めるまで死ぬことができない呪い。
そして、俺が7つの首の骨を集めた時に、願いが叶う。
叶う願いはこれだ。
”妻と娘たちに囲まれて暮らして、そして、最期は幸せに逝きたい”
思い出した。
7つの骨を集めないと、俺は幸せな気持ちで、あっちに行くことができない。
だから、またやるしかない。
俺は、あっちの世界と行き来するたびに、首の骨が増える。これは、回数制限。
俺は、あっちの世界と往復する間に、あっちの世界の人間の能力を運んでいる。
俺はだんだん、体力が上がっているように思う。
戻るたびに俺の体は変化している。
変化する必要が有るからだ。
こっちの世界では、生殖機能のほとんどは女性側にある。
こっちでは、受精したら男は用済み。細胞分裂が始まる前に、役目は終わっている。
あっちの世界では、男は寿命という対価を払って、女性側の妊娠出産の負荷を大きく軽減する。
子供が生まれる前に、父親が死んでしまっても、サポートは自動的に継続される。
まず、流産死産がほぼ無い。こっちの人間から見ると、そこがファンタジーだ。
そして、子供は、小さく生まれてすくすく育つ。
生まれる前から、すくすく育つことが保証されているのだ。
その対価として、男は急速に老化する。
その老化は、子を作った時点で起きたことが、後追いで体に現れただけであり、
その時点で死んで居ても、子供の成長には影響がない。
男はろくに、労働力にならないという非効率な世界だ。
なんで、そんな進化を遂げたのかと、不思議に思うが、俺の呪いが効果を発揮するのが、その世界なのだ。
俺が本当に神だとしたら、俺が何かをした結果、そういう世界ができてしまったのかもしれない。
そして、俺は、そんな世界と行き来する。呪いの効果を大きくするため、そして、身体を変化させるため。
俺は戻るたびに、身体が変化している。震災の時のバカ力……
「オーテル、俺は今、どんな姿なんだ?」
「はい。とても凛々しいです。見るからに強そうです」
オーテルからは、どんなふうに見えてるんだよ。
強そうとか凛々しいで、ちっともわからない。
「栫井さん、竜に踏み潰されたことありますよね?」唯が口を挟む。
竜に踏み潰された? 未来の話だろうか?
「いや、たぶん無いと思うけど」そう答える。
竜に踏みつぶされても生きてるやつって、なんか、人間辞めちゃってるみたいな言われ方だ。
確かに踏みつぶされたシーンを、唯は見ている。今の栫井にとって過去の話ではあるが、覚えていないようだ。
※踏み潰されたこと自体に、気付いていない
「お父さんは、自分が人間だと思っていますが、人間ではありません」
「まあ、一回死んでるしな」
唯は、ベスの話に思い当たることがあった。
気になっていたので、良い機会と思い、言ってみる。
「栫井さんの手、普通の手に見えますけど、触ると、見えてるのと違う形みたいです」
するとベス(オーテル)も乗ってくる。
「唯はそこまで気付いておったか。
なぜ人間たちが、みな気付かないのかと不思議に思うておった」
栫井は自分の手を見るが、いつも通りだ。
「見える姿と、実際の姿に差があるのか。不思議だな」
『お父さんの人間の体は、もう、だいぶガタが来ています。
お父さんは不死ですが、その体は一番大きな竜の力に耐えられません。
尾骨が痛みます。心臓が破裂します。
お父さんは死にませんが、唯は死にます』
中身が竜で、入れ物が人間。無理やり押し込んで変形も進んでるような感じだろうか。
俺は、どっちにしろ、この世界に長く残るのは難しそうだ。
唯ちゃんも、中身と体が不一致なせいで、死に至ると言う感じか。
病院で、治療できないわけだ。
『お父さんが竜になるときまで、その体は残してください。
私は、人間の体を借りて、お父さんに石を渡しました。
(※12-11.ジョシュアが残したもの(前編)参照)
その女と約束したのです。
お父さんが、その体を使わなくなった時、その女の物にして良いと』
なんで俺は、そんな部品単位で最後まで活用されるんだ?
異世界ものの、素材みたいじゃないか。
獲物を素材として重用するようになるのは、モンハン……モンスターハンターというゲームの影響が強いと思う。
もともとRPGでも、モンスターの貴重な部位を素材として持ち帰って金にするようなものはあった。
ところが、モンハンでは、狩り自体が目的で、依頼内容が素材集めだったりする。
強いモンスターの素材を加工すると、強い装備が作れたりするので、素材欲しさに狩りに行く。
酷い話だ。まあ、リアルでも、人間の乱獲で絶滅した生き物はたくさん居るわけで、リアルと変わらないが。
モンハンのヒットから、害獣退治のついでに、たまに何かが手に入るではなく、素材がとれるのが普通と言う設定も多くなった。
肉食獣を倒すと牙が手に入ると言う設定だとして、100回倒して1回しか牙が手に入らないとか、おかしいだろうと思う。
特に理由が無い限り、牙みたいに、有って当たり前のものは、毎回手に入った方が自然だ。
それにしても、俺の体は、何かの素材にされてしまうのだろうか?
でも、俺の行く異世界は、もっとリアルで、強いものほど高価とか、素材が何とかとかは無かったと思う。
相手が強いほど価値が高いなんてことは無く、熊を殺しても、持ち帰るほどの価値が無かった。
そう言えば、熊を良く殺す世界だった。銃も無しに熊を殺すほど、人間が強いのか、熊が弱いのか。
熊は弱かった。でも、野生動物の中では強い方だった。人間も弱かった……俺が強かったのか?
俺が竜になった後、俺の人間の体は残り、その女の手に渡るようだ。
いったい、何に使われるのだろう?
『竜になった後、俺の体は残るのか……』
『ほとんどの人間には見えませんが、その人間の女には見えるのだと思います。
お父さんには、助手と呼ばれていました』
俺には助手が居たのか。”助手”のキーワードで、妖怪のイメージが頭に浮かんだ。
オーテルは人間の女と言ったが、俺から見ると妖怪みたいなものだったのかもしれない。
俺が行くファンタジー世界には、妖怪が居る。
「長い首と尻尾がとても凛々しかったです」 ベス(オーテル)が言う。
そうだ、俺は尻尾が生えて、迫害されまくるのに、人間の体として使っていた、その体は、俺が竜になって、使わなくなっても、最後まで活用されるらしい。
俺は異世界に行くのが、ますます嫌になった。