表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
100/115

26-10.妻の許可下りず(4)

挿絵(By みてみん)


洋子の家では、さっき見えた記憶のことで、ベスがまだ、はしゃいでいた。

「どうじゃ、すごいじゃろ。さすが妾のお父さんなのじゃ。ほほほほ」


その様子を見て、洋子は声を掛ける。


「何か読めたの?」


唯とベスは、栫井(かこい)を軟禁する娘達や、(りゅう)の妻の記憶を見たが、洋子はダウン中で見ていなかったので、なんの話か興味を持ったのだ。


唯が反応する。

「あ、お母さん、大丈夫?」


「ごめんね。でも、もう大丈夫。何が凄いの?」


ベスは自慢したかったので、すぐに答える。

「妾のお父さんは、大きくて強いのじゃ。洋子、お前も見たくなったか?」


それじゃ、何の話かわからない。唯がフォローに入る。

(りゅう)って、凄く大きな犬で……」

「犬では無い、人間が(りゅう)と呼ぶ生き物じゃ」


唯が説明しようとするのに、ベスが邪魔する。


(りゅう)って呼ばれてる、ゾウより遥かに大きな生き物で、

 栫井(かこい)さん、踏まれても”今のは、ちょっと痛かったぞ”って」


「え?」

「人間の時から、そのくらい丈夫だったみたい。

 ……でも、もしかしたら、あの世界の人って丈夫なのかな?」


ベスが凄い勢いで否定する。

「そんなわけあるか、このたわけが!!」


「その後、(りゅう)になって、それがものすごく大きくて、他の(りゅう)が小さく見えるくら……」

「お父さんは、最強の(りゅう)、”一番大きな(りゅう)”なのじゃ。さすが妾のお父さんなのじゃー!!」


「え? (りゅう)に?」

「でも、またすぐ人間に戻ったみたいだったけど」

「お父さんは、人間の世界に居る時は、人間、(りゅう)の世界に行くと(りゅう)になるのじゃ。

 ゲートの上では(りゅう)になれるようじゃの」


どうやら、ベスと唯は栫井(かこい)が、ベスの世界に居る時の様子を見たようだ。

気になるのは誰が読んだのか。


「唯は、異世界の記憶を読めるの?」


洋子の問いに対し、唯が返す。


「こっちの記憶が読めなくて、フジの樹海のことだけ」


つまり、読めるのだ。何故だろう?

洋子は、石を読める人間(ベスも含むため、正確には人間だけでは無いが)は、限られることを知っていた。

そして、ベス(オーテル)も、石の内容を、あまり読めないことを知っていた。

逆に言うと、ベスは石の内容を少しだけ読めることができることを知っていた。


石は元々栫井(かこい)のもので、次に洋子のものになった。

だから洋子は石を読めるのは、主に洋子と栫井(かこい)だけで、それ以外の人には、細かくは読めないと考えていた。


ベス(オーテル)が、少し読めることを考えると、唯も少し読める可能性があるとは思っていたが、そんなに読めるとは考えていなかった。

読める条件とは何なのだろうか? 洋子は、読める条件が気になる。


そこに、唯が割り込む。

「ああ、栫井(かこい)さん、どんな子と一緒に暮らしてるかわかった」


そこまで読めることに、さらに驚く。

……が、洋子は、話の内容の方も気になった。


栫井(かこい)が、誰と暮らしているか知りたかったのだ。

異世界にも、洋子に相当する人物、つまり、所有権を主張する妻が居るか知りたかったのだ。


「どんな子?」


「娘さんが5人くらいいるみたい」


娘は居るかもしれないが、ベスの中の人、オーテル以外に人間の娘も居るのだろうか?

しかも、5人というのは、洋子の予想とだいぶ違っていた。


「娘さん? オーテルさんじゃ無くて?」


「人間の女の子。私と同じくらいの年の子。

 栫井(かこい)さんの世話をしたり、逃げないように見張ってるみたい」

「逃げないように?」


洋子の想像と、だいぶ違っていた。


幸せに暮らしているわけでは無く、神様は捕らえられている?

捕らえられていて、世話役に5人の娘を付けられているのかと思う。


「よくわからないけれど、神様が逃げないように……あ、もしかして、

 今も栫井(かこい)さん、逃げてきたのかな?」

「ああ、だから”返せ”ってこと?」


「そうかもしれない」

唯は自分でそう言いつつも、違和感を持っていた。

栫井(かこい)が、本気で逃げだしたいと思っているようには、見えなかったのだ。


「でも、変ね? さっき、誰と住んでたのか思い出せなかったのに……」


確かにそうだった。むしろ、唯が読みたい情報の方がさっぱり読めなかった。


そこに、絶妙なタイミングで、それらしい情報がもたらされる。

「妾の持っている”石”が、読めたのではないかの?」


「ベス、石持ってるの?」


「もちろん持っておる。妾が持たぬと、都合が悪いのじゃ。

 時間を戻して最初から、お父さんが持つと不都合があるでの」


確かにそうかもしれない。洋子は、納得した。

余計な情報を知っているために、行動が変わって変えたくない過去が変わってしまうかもしれない。


「その石はいつ読むもの?」

「洋子、お主も読んだことがあるじゃろう」


洋子も読んだことがあるようだ。

てっきり、今洋子が持っている石の情報を読んだものだと思っていた。


「え? 見せてくれる?」

「お主が読んだのは、コレじゃな」


ベスが石を出す。


洋子には、その石を読んだという記憶は無かった。

とは言え、石を読んで何かを思い出したと言う記憶はある。


いったい何が入っているのだろう?

洋子は、いきなり石を読む。


----


唯は驚く。力は使うと無くなってしまう。

「え? お母さん、力使っちゃったら」


だが、もう、その声は届かない。


何が読めているのだろう?


触れていれば、読んでいる内容がわかるかと思い、洋子の肩に手を置く。

……が、何も伝わってこない。

栫井(かこい)が居ないと、読めないようだ。


仕方が無いので、見守る。


母(洋子)は動揺しているように見える。

「そんな……妻の形見を渡す?」


「お父さんが、妾の世界に行くとき、妻の形見が必要なのじゃ。

 お父さんが持ち帰った情報を見てわかったたのじゃが、

 お前の股の布を持って行ったようじゃな」


「なんで?」


「お前が、あの臭いやつで髪を洗ったからじゃ」

※臭いやつ=シャンプー


下着を渡すことは知っているはずなのに、なんの話だろうと不思議に思う。

栫井(かこい)は、髪を欲しがっていたが、髪は持って行かないのだろうか?


なんで、そんなことを深刻に話しているのかが、唯にはよくわからない。


「私、まだ、あの人を手放さない。

 だって、時間を戻しても唯は生まれない」


「おお、お前は、そういうところには気付くのじゃのう。不思議じゃ」


え? 唯は固まる。

深刻な感じでパンツの話をしている多と思えば、いきなり、唯の出生の秘密に。

しかも、時間を戻しても唯は生まれないと言う。


唯が知りたかった情報は、ベスが持っていたのに読めなかった。

それが、母(洋子)には読めている。


「どうやって?」


「お父さんに頼め。お前が言えば、聞いてくれるじゃろ」


時間を戻しても唯は生まれない。

栫井(かこい)も同じようなことを言っていた。


いったい、自分は何者なのだろう?

唯は怖くなる。


========

(上のシーンの洋子視点です)


「お主が読んだのは、コレじゃな」


洋子は、いきなり石を読む。


「え? お母さん、力使うと」


もう、その声は届かない。


…………

…………


小学生の頃の唯が見える。

洋子が知らない家で、父母(唯の祖父母)と同居している。


洋子は両親とは同居している。

そして、犬が居る……言葉を話す犬ベス。


ベスの助言によって、いくつかの困難を乗り越え、洋子は今のように疲弊していない。

唯には足長おじさんがいる。


唯は大学に行けた。

私が賢ければ(賢く動けば)、唯は大学に行けるのね。


でも、不治の病?


そして、栫井(かこい)君?


次のシーンでいきなり時が飛び、栫井(かこい)の仏壇が……


…………

…………


洋子は、自分の役目を思い出す。死神。


「そんな……妻の形見を渡す?」


栫井(かこい)と再会してから、それほど経たずに、形見を渡している。

つまり、洋子は自分で、栫井(かこい)を送り出している。


なんで?


「お父さんが、妾の世界に行くとき、妻の形見が必要なのじゃ。

 お父さんが持ち帰った情報を見てわかったたのじゃが、

 お前の股の布を持って行ったようじゃ」


「なんで?」


妻の形見を受け取った栫井(かこい)は、この世界を去ってしまう。

なのに、洋子自身が納得して、渡している。


「お前が、あの臭いやつで髪を洗ったからじゃ」

※臭いやつ=シャンプー


※因みに、ベスと洋子の話は、噛み合っていません。


「私、まだ、あの人を手放さない。

 だって、時間を戻しても唯は生まれない」


「おお、お前は、そういうところには気付くのじゃのう。不思議じゃ」


私は元々不妊だった。若い頃から。診断したのは24のときだったけれど。

だから、時間を戻したから唯が生まれたわけじゃ無い。


「どうやって?」


そして、唯は尾骨痛が出た。


※”出た”と言っているが、石の記憶の中での話で、未来の話


「お父さんに頼め。お前が言えば、聞いてくれるじゃろ」


「ダメ。私はまだあの人を手放さない」


「それでは困るのじゃ。

 お父さんがここに戻れる回数は、おそらくあと一回だけじゃ」


「でも、私のお父さんお母さんと同居している世界が見えた。

 私は、同居してない。この石に入ってる歴史と違ってる」


========


「私が見た記憶で、なんか、栫井(かこい)さん、しょっちゅう倒れてたみたい」


どうせ死なないから、倒れてても問題無いのだと唯は思ったが、ベスが妙なことを言いだす。

「女に弱くなければ困るではないか」

「え?」


「”最強の(りゅう)”は、力で倒すことができぬ故」

「色仕掛けってこと?」


「そう言えば、お母さんと一緒に居て、倒れてるときもあったみたいだけど」

「色仕掛け?」

※洋子は、色仕掛けが好きみたいですね


「ううん、違う、ヤドカリ食べさせようとしてた」

「あ」


洋子は何かとても大事なことを、思い出した気がした。

巨大なヤドカリが頭に浮かんだのだ。


唯は、洋子に何か思い当たることがあることに気付くと、

嫌がる栫井(かこい)に無理やりヤドカリを食べさせようとするシーンを思い浮かべる。


「なんで、嫌われるようなことするの?」


「やっぱり、もう一度やり直さないと。

 まだ、ヤドカリ(タラバガニ)食べてない」


※タラバガニはヤドカリの仲間です


唯は凄く驚いた。唯には、ぜんぜんさっぱり、大事なことに思えなかったのだ。

「え? 何? 大事なことなの?」


そして、それに対する答えがコレだ。

「フラグが立ってない」


「え?」

唯にはさっぱり意味が分からない。


「それに、納得して送り出さないと、あの人の願いが叶わないから」


「あの人……って、栫井(かこい)さん?」


せっかく時間戻すと記憶無くなるんだから、それを利用して演出して、

願いを叶えてあげないと……妻としての使命を全うできない……

アクージョ様は、ようやく、ヤドカリ食いに行く気になったようです。


気の長いお話ですね!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ