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96話 祖父と孫1-2

今回で祖父と孫の語らいも一段落です。会話が多めで少し難しかったです。


評価ポイント付けてくれた方ありがとうございます。

すっごくモチベーションあがりました。やっぱりやる気がでますね

皆さんのおかげで続けることだできています。ありがとうございます。


「いったい何をお考えなのですかっ!?王国を指揮することでヴォルクス家に利はあれど、損はないのですぞ!!それを簡単にやめてしまうなど‥‥」


混乱で言葉を失うウルフシュタットにローゼンは大声で笑った。今度はローゼンがウルフシュタットを落ち着かせる番だ。


「まあ、落ち着け孫よ。何も私が自ら西方侵攻軍の総指揮官の座を降りたのではない」


「まさか、王宮から指揮権を取り上げられたのですか?」


「半分正解だ。教えてやろう。次の東方大遠征は指揮は王国が取り、助言役にファナシム聖光国が付く」


「馬鹿な!!内政干渉も甚だしいっ!!」


「ワハハハハ、お前も勝手に敵と密約を結んだのだ。これでお愛顧だな」


ローゼンはワインを勢いよく飲み干すと、大声で笑った。

 本来ファナシム聖光国はラビンス王国に対してなんら干渉する権利を有していない。王国の領土拡大を狙う一大軍事作戦に口をだすなど、王国の主権を脅かす行為だ。それが可能になったということは、ラビンス王国を指揮する王宮内にファナシム聖光国の手が、相当に及んでいることを意味している。要はラビンス王国がファナシム聖光国の操り人形になる瀬戸際にきているのだ。


「東の地にいる間に厄介な事になりました。下手をするとラビンス王国はファナシム聖光国の属国に成り果てます」


「残念ながら私がこの事を知ったのは大森林から撤退してこの地に陣を構えてからだ。知っていれば私も王宮に出向いたのだが。どうもファナシム聖光国は私が留守であるのを狙って事を企てたフシがある」


「爺様の王国への忠誠を知っていたのでしょう。敵に情報を流した者がいますね」


「ハハハ、ファナシム聖光国は敵か。目下の王国の敵は大禍国(おおままがこく)であろう」


「体内で暴れまわる病魔より、眼前で刃を交える化け物の方がよっぽどマシです!!」


「まあ一理あるが、そう怒るな。今は情報を整理し誰が東方大遠征の指揮を取るのか、聖光国から来る者が何者か、そして聖光国の目的を見極めるのが先決であろう。そう怒ると体に触るぞ」


「確かにそうですね。熱くなりすぎました。申し訳ない」


ウルフシュタットは深く息を吸って吐くと気持ちを落ち着かせた。

そんな孫にローゼンはホットワインを注ぐ。ウルフシュタットはそれをゆっくりと飲む。

孫に一息つかせると、ローゼンは自分の杯も満たした。


「今度ばかりはどうなるかと気をもんだがお前の密約もある。東部方面軍総司令官の座を降りてよかったかもしれん」


「東部方面軍ですと?」


「王国に新しくできた方面軍だ。前の遠征軍が西部方面軍の一時転用だったのに対して、今度の役職は正式なものだ。王国は今後、常時王国東部を担当する軍を新設する。それの総大将が東部方面軍総司令官だ。まあ、結局のところ西部方面軍の呼称を代えただけで中身は一緒だ。それでも王国は今後東に注力することには変わりないようだがな」


「‥‥であれば爺様が西部方面軍総司令官の座を降ろされるのは、尚の事不当ではありませんか!!東部方面軍が新設されたからと言って、西部方面軍の総司令官たる爺様になんの関係がありますか!!西部方面軍があろうが爺様が総司令官だろうが東部方面軍は新設なので、爺様が役職を追われる理由にはなりませんぞ!!」


「しまった、失言だったな。まあまあ、落ち着け。過ぎたことを言っても仕方がない。物事の良い側面を見るとしよう」


「この上で何か良いことがありますか?」


ウルフシュタットはゆっくりとワインを飲み干しながらローゼンに問う。


「まず、ヴォルクス家は行動の自由がある。今回の東方遠征は前回と違い、全体で失敗しようと我らに何ら関係ない」


「全体とは?」


「東方遠征自体だ。それが失敗しようがどうでもいい。我らヴォルクス家に被害が及ばぬのが肝要」


「以外ですね。爺様の口から王国を軽視するような発言が出るとは」


「王国に最も忠誠を持って使えるのは栄えあるヴォルクス家だ。そのヴォルクス家へ被害が及ぶのを避けたいだけだ。ここまで他国の干渉が入った王宮を盲信するのは危険なことくらい私にもわかる。いずれファナシム聖光国の影響力を排除するためにも、今は我慢の時だ。いたずらに王宮の言うことのみを聞くことがラビンス王国の為になるとは思わん」


「同感です。いやそこまで芯もってのお考えなら、喜ばしいこと。私はてっきり爺様は王宮の言うことは絶対かと‥‥」


「そう思っているなら先王崩御の際に、小粒貴族の領土をかすめ取るようなことするわけがないだろう。お前と親父はどうもその辺がわかっておらん」


「いやこれは面目ない」


ウルフシュタットは頭を下げローゼンの杯にワインを注いだ。

ローゼンはそれをうまそうに飲みながら言う。


「今度ばかりはお前の危ない橋渡りがうまいこと効いておる。私とお前が戦陣に立っても大禍国(おおままがこく)に対しては消極的に動くとしよう。自領にもならん戦いでの手柄争いなんぞ全くの無意味だ」


「兵の士気も下がります。懸命なご判断かと思います」


「その密約をより強固にした方がいいかもしれん。次の遠征までに大禍国おおままがこくと内密に連絡が取れればいいのだが」


「事が露見すれば領地没収もありえます。慎重に事に当たらなければなりませんね」


「‥‥すまんがウルフシュタットよ‥‥」


「皆まで申されなくともわかっています。爺様は今回の密約については知らなかった。事が露見した時は私が責任を取りましょう。そうすればヴォルクス家で一番大きな領地を持つ爺様の家は残ります」


ローゼンは杯に残るワインを見ながら、少し声を落として言った。


「息子や孫は数おれど、お前ほどの領主はついぞ現れなかったな。武人や執政者のどちらかならば及ぶ者もいるのだが。両方できて自領をまわすことができる領主となるとからっきしダメだ。せめて一人二人でもお前と並ぶ者がおれば‥‥。私はその事が心配でならん。」


ローゼンは杯を空にすると孫に向き直る。


「私亡き後、ヴォルクス家はお前の親父達の時代だ。そこで年若いお前が何を言っても軽く扱う者は出てくるだろう。結局はお前が合理的で早い道を示しても、それが理解できん年長者は遠まりな道を進み、お前を煙たがる。すまんウルフシュタット、私が急進的に事を進めて自領を拡大したツケを、息子たちではなく孫のお前に背負わせてしまう」


ウルフシュタットはニッコリと笑って言った。


「そのお言葉だけで十分です」


ローゼンは思わず目を(うる)ませてしまった。

続けてウルフシュタットは言う。


「それに私は一族の中でも一番爺様に似ていると思っています。いざとなれば自領だけでうまく立ち回って見せますよ」


「こいつめ、言いよるわ」


すっかりと夜になったローゼンの戦陣の中の一つののテントから明るい笑い声が陣内に響く。

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次回更新予定日 2020/11/1

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