89話 侍女長
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つたない文章ですがこれからも読んでいただけると嬉しいです。
ラファルノヴァ帝国第三皇女ナタリア・ラファルノヴァは幼いときに両親を失っている。
ナタリアの父は前ラファルノヴァ帝国皇帝である。そして現皇帝デューラー王により殺害されている。
つまりナタリアは現政権において、前皇帝の血を引く唯一の人物ということになる。ナタリアには3人の兄弟がいるが、これは全てデューラー王の連れ子でありナタリアとの血縁関係はない。
母は前皇帝の妻であり、前皇帝死亡後は現皇帝デューラー王と結婚させられている。
ナタリアは血縁上は最も次代皇帝の座に近い。前皇帝の血を引き母の女王も健在で、3人の兄弟は前皇帝とは全く違う血筋となれば当然だ。しかし現皇帝であるデューラー王からすれば、当然次代皇帝の椅子には自分の息子を座らせたい。
ここに悲劇が生まれる。
ナタリアが10歳になる誕生会の時の話である。デューラー王はナタリアに毒を盛ることを画策する。ナタリアが飲むはずの杯に注がれた毒を、女王は直前にこれに気づき、一気に飲み干した。実はこれ以前にもデューラー王は事あるごとにナタリア排除の動きを見せており、その度に女王によって阻止されていた。
我が子が10歳という節目を迎えられた喜びが油断を生んだのか、今度ばかりは女王の負けだった。
女王は杯を飲み干してから少しの間、ナタリアのことを深く愛していることを告げると化粧直しに別室入った。
次に部屋から出てきた時、女王は人形と我が子ナタリアの区別がつかなくなっていた。
以来女王は塔の一室に閉じこもり、人形をナタリアと呼んでは日がな一日それをあやしている。女王は完全に正気を失い誰かが部屋に入ろうものなら、例えそれがナタリアでも、物を投げつけ激しく罵り人形を必死に守ろうとする。そして最後には決まって人形に向かいこう言うのだ。
「ああ、起こしてしまったね。ごめんなさい。お前のことは誰にも渡さないよ。ナタリア」
幸いなことに女王には優秀な侍女集団がいた。これを束ねる侍女長は女王錯乱を殊の外嘆き、事あるごとに「予期でき防ぐことのできる事だった」と漏らした。侍女長は悲劇を繰り返すまいとナタリアの幼い時から厳しい教育と武道を施した。そして幼い子には残酷とも言える女王錯乱の真実を、ナタリアの王宮内での立場がどれほど危険なものかを教えた。
同時にナタリアの身辺警護に異常とも言えるほど気を使った。前皇帝派の中から選びぬかれた屈強で鍛え抜かれた騎士をナタリアの周りに常に配置し、侍女長自身もナタリアの側を片時も離れなかった。
王宮内を装甲騎兵が闊歩する様は異様であり、様々な苦情に罵倒あらぬ噂まで飛び交った。
「恥も外聞も全ては姫様を成人させるため。それらを我が一身で受ける覚悟あり」
侍女長はこう言って全ては自分の責任とし、王宮内で幼いナタリアに向けられるドス黒い部分を全て背負った。
幼いナタリアはこうした侍女長の背中を見て育ち、特に侍女長が男女は元より階級の垣根を超えて装甲騎兵さえもまとめ上げる様に憧れた。
武道だけを鍛えただけでは決して手に入らない人としての魅力を、幼いナタリアは侍女長の背中から感じ取ったのだ。そしてナタリアはそれを侍女長から受け継ぐことができた。
そのせいかナタリアが成人後に持つことになる帝国第三軍は、ナタリアに対する個人崇拝が凄まじく、彼らは帝国の兵士というよりナタリア個人の兵士としての側面が強い。
帝国のどの軍団よりも指揮官に対し絶大な信頼を置く第三軍は、ナタリアの兄弟は言うまでもなく王といえども無視できない存在となった。ナタリアが戦場に立つだけで兵士たちの士気は最高潮に達し、ナタリアもその兵士たちの信頼に答えるかのように遺憾なくその卓越した戦術手腕を発揮した。
ナタリアが成人して三年後、侍女長は帰らぬ人となった。暗殺されたとも心労からくる早死とも言われるが詳細は不明だ。ナタリアが侍女長の死の詳細を帝国年代記に書くことを禁じたため、その活躍とは裏腹に年代記には死亡した期日しか記されていない。
侍女長の葬儀は国葬並みに盛大に行われた。ナタリアを先頭に帝都近辺の手空きの第三軍兵士は残らず参列しその死を悼んだ。彼女の遺体は火葬後に装甲戦艦に乗せられ、その灰は帝都上空に撒かれた。
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次回更新予定日 2020/9/13




