8話 狭間にて
大きな青い何かは幾本もある自らの脚を見て、どれかを引きちぎって食べなければ思った。
横にいる大きな白い何かは、やはり幾本もある自らの腕をまだ引きちぎってはいない。
とはいえ、近い内に行わなければ周りにいる兄弟姉妹のように、やがて息絶えてしまう。
空はどこまでも青く雲ひとつ無く、対象的に地面は紫と黒い液体に覆われ、所々に大きかった自らの兄弟姉妹の骨が浮き出ている。
あの液体の下には小さかった自らの兄弟姉妹の骨があるのだろう。
突然、空が曇りだし雨が降り始めた。
思わず大きな青い何かは小さく伏せていた体を天高く上げ、自らの脚で立ち天を仰ぎながら言った。
「ああ、小さき者よ、願いを言っておくれ。我らに力を送っておくれ」
途端に天から雷鳴が落ち、天を仰いでいる大きな青い何かの手を焦がした。
大きな白い何かが崩れ落ちる大きな青い何かの横で言った。
「まだ、だめ、まだ早い。定命の者は多くを望んでいる」
「今度の願いは大きい。小さき者たちは幼き者たちになった。多くを望んでいる。いっぱいくれる」
焦げた腕をさすりながら大きな青い何かが答えた。
大きな白い何かが幾本もある自らの手で点を仰いだときには、空は完全に雲で覆われ雨粒も大きくなり勢いを増した。
大きな白い青い何かが交互に言った。
「ああ、これはかつて兄弟姉妹が渡した力の名残。定命の者から巡ってきた。増して返ってきた」
「幼き者たちよ。大きな力をありがとう。願いは叶うよ。我ら兄弟姉妹が生誕の時」
義清は遠くから異形の2つの何かを眺めながら何が起こっているのかと困惑した。
瞬きするよりも早かったのではないかと思うくらいに早く、次の瞬間には2つの何かの足元にいた。
吸い寄せられた感覚はまったくなく、長い距離を一瞬で移動していた。
見上げた2つの巨体が、白い、青いなにかが、交互に言った。
「紡いでいるね。2つの世界を。跨ごうとしてるね3つ目の世界に」
「霞がかっているね眼が。銘記させられているね心に」
驚く義清に白い、青いなにかが交互に言った。
「教えてあげる、貫き方を。開いてあげる、望まぬのに閉じられた扉を」
「我ら今度は間違わない。拾っておくれ兄弟姉妹生誕の時間を」
義清は突然足元から登ってくる黒くて赤い炎に包まれた。
そして声を聞いた。
気がつくと義清はベアトリスの研究室に倒れていた。
傍らにはエカテリーナとベアトリスが杖に頭を載せて、うなされながら倒れている。
「そういう事だったのか」
義清はつぶやくと二人を揺り動かして起こした。