6話 耐える戦士たち
「まだ転移とやらはできんのか。矢玉が尽きるぞ」
「泣き言は聞きたくないね。なんとかしな」
文句を垂れるラインハルトにゼノビアが答えた。
既に劣勢も劣勢。すでに限界なのは誰の目にも明らかだった。
居並ぶボア族の戦士たちは、時間を稼ぐために本丸から無理な出撃をしては撤退を繰り返し、その度に鎧の上からハリネズミと見間違うほどに矢を受けている。
ヴァラヴォルフ族も必死に城壁の矢狭間から矢を射っているが、敵の方が圧倒的に数が多く、射った端からその狭間めがけ、無数の矢となって返ってくる。
「寄せ手、本丸へ突入の気配!!」
いよいよ最期の時が来たのを告げるかのように、ヴァラヴォルフ族の射手が叫んだ。
ラインハルトが大きくため息をつくと、キッと眼を見開き、覚悟を決めて言葉を吐いた。
「これにて終いだ。良き夢が見れた。むこうで会おう。ボア族全兵出撃ぃ!!」
興奮するラインハルトとは対照に、ゼノビアが冷静に答えた。
「待ちな。突入してきた敵兵を迎え撃つよ。いざとなれば天守にでも籠もるさ」
その言葉にラインハルトが怒鳴り、またゼノビアが冷静に返す。
「屋内での戦闘は性に合わん!」
「おや、大殿の命が聞けないかい?」
ラインハルトは鼻を鳴らし、それならさっさと射手を天守に入れろとゼノビアに怒鳴った。
それに対してゼノビアがシッと口の前に人差し指を置くと、ラインハルトは「今度はなんだ!」と更に怒鳴った。
「敵兵の怒号が止んだ」
「…、そう言えばそうだな。何かの罠か?」
その頃寄せ手側では、降伏勧告をしようと城へ向かう貴族が、ワインを飲んでおぼつかない足取りのまま、只でさえ慣れない山城の急斜面を登りながら、時に転んでは周りの兵士に悪態をついていた。
そのおかげで前線の兵士達は、降伏勧告の為に戦闘を停止するように命令を受け、長い待機の中、城へ向かう貴族が山の中腹をやっと越えた所だという伝令の報告を聞いて心底ウンザリしていた。
この時、貴族達がもう少し早く降伏勧告を行えていれば、この後、寄せ手側の彼らに慈悲が掛けられていたのかもしれない。