3話 説得
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「出陣！！父祖の名に恥じぬ戦いぶりをっ！」
「アタシらも出る。周りに流されて熱くなるんじゃないよ。最後の最後まで生き残る機会を伺いな」
ラインハルトとゼノビアがとんだ茶番に付き合わされたと言わんばかりに、それぞれの率いる種族に出陣を命じた。
ベアトリスが慌てる。
「わーわー、何でですか！？ 今よりはいい環境の場所に転移できるかもしれないでしょ！！」
ラインハルトが鼻を一つ鳴らすと答えた。
「冗談ではない、空の上か地の中か知れんが、そんなくだらん所に転移するかもしれん魔法で無様に死するなど御免こうむる」
ゼノビアもそれに同調する。
「そうよ。アタシらにも自分が納得する死に様ってもんがある。転移先が空中や土中で、その後すぐ死ぬかもしれないような魔法に命をかける気はないわ。残念だけど、死んでからならゆっくりとその話を聞いてあげる」
ラインハルトとゼノビアが戦士としての意地があるとそれぞれの種族に続いた。
しかし
「名案かもしれん」
義清が広間の一番奥から答えた。
ラインハルトとゼノビア、ベアトリスとエカテリーナが主の方を思わず見た。
冗談ではないと言いたげな二人の戦士に両手を上げながら、まあ聞けと義清は喋りだした。
「そもそもジードルの民はドコに行ったのだ？もし空中や地中に出るのなら、空中なら落下して土に還るか、地中でも同じことだろう。その痕跡が無いということは、少なくともこの大陸ではないどこかに行ったと考えられるだろう。大所帯で転移した直後に、さらに魔法を発動して空中や地中を移動可能か？エカテリーナよ」
「常識で考えれば不可能ですな。転移自体が高度な魔法であるし、それを大所帯で行った後に数秒で次の魔法を全員に行うなど、色々と無理があります」
と、エカテリーナは即座に答えたが、数秒置いた後、あの高度な技術の跡が見受けられる遺跡を見れば、あるいは可能かもしれないと、今度は自信無さげに続けた。
そのやり取りを見ていた二人の戦士が、もう問答は無用ではないか、と口に出す前に、義清はベアトリスに術の発動を命じた。
二人の戦士は血迷われたかと義清に詰め寄ろうとしたが、義清のその後の言葉でピタリと止まった。
「考えてもみよ。我らがこれから彼奴ら、憎き貴族連中の前からこつ然と姿を消すのだぞ。文字どおり跡形もなくな。そうすると今後、彼奴らは我らの影に怯えながら過ごす事になるのだ。この地で変死があれば我らの呪いだと噂し、怪死があれば我らが戻ったと戦慄するのだ」
ここにいる全員がこつ然と姿を消すからこそ、人の世に流れる伝説ができるのだ。後々の代まで残る伝説である。戦士としては勇猛な伝説と天秤に掛けてもいい、複数の種族が入り混じった珍しい伝説である。
二人の戦士はグヌヌと唸り、いいように言い包められている気がすると言いたげだったが了承した。
「そうと決まれば話は早い。ベアトリスよ、転移の魔法はどれくらいで使える？」
義清から問われたベアトリスがはじけるように答えた。
「エカテリーナさんと魔力を込めるのに若干の時間がかかりますが、すぐにでも！！」
「よし！ラインハルト、ゼノビアよ、各種族を指揮し時間を稼げ。外に打って出る気のある者を思い止まらせよ。急げ！！」
義清が命じると、即座に二人の戦士は「御意！」と答え、すぐさま外に出て指揮を始めた。
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