26話 学び
仕事をするのは誰しも嫌なはずと自分に言い聞かせながら
来週も仕事を頑張ろうと思います。
義清は無言でツカツカと商人との間合いを詰めると、
戸惑う商人に構うことなく,その肩に刃を突き立て背中まで貫いた。
「‥‥え?」
刺された商人は一瞬なにが起こったか理解できなかった。
すぐに肩が熱くなり、痛みを呼び起こすと商人は悲鳴大声であげた。
その悲鳴にも義清は構うことなく剣をグイグイと下げた。
商人は痛みが少しでもないようにと必死に体を剣にあわせてさげた。
やがて、商人が義清の前で両膝を付く形になる。
そこで義清は剣を下げるのを止めて口をひらいた。
「よいか、ワシからのアドバイスだ。
自分より明らかに強いヤツが目の前にいる場合、そいつに精一杯に媚びろ。
時にはそいつの靴さえ舐めてしまえ。
そして、いつかそいつの寝首でも切り裂いて
そいつから全てをいただくのだ。
話を遮るなどもっての他だ。以後、気をつけよ」
「ぐわあああ、
お、俺の肩がああああ、よくも、よくもモンスターごときがあああ あああ」
「ほれ、それだ。それがいかんと言っておる」
義清は今度は剣の刃先を下げて、柄の方だけ上げていく。
商人の正面は上に、背中は下に傷が伸びていった。
商人が最初の悲鳴に負けないほどの悲鳴をまた上げた。
義清はため息をつきながら言った。
「そこへいくとお前の護衛の方が要領を心得ている。ワシに歯向かおうとせん」
「そ、そうだ、お前達なにをしている!!はやくこいつを何とかしろ!!」
「ハハハハ、出たな“何とかしろ“。無能がほざく何の具体性もない指示だ。
言われた方が一番困惑する指示、何をするのか具体的に何一つ言わん。
命令される方には迷惑極まりない指示だ」
口の周りを無精髭で覆った軽装の護衛が、義清と商人の顔を見比べて嫌そうな顔をした。
そうすると義清の左後ろからゴトンと大きな重い音がした。
護衛と商人が驚いて音のした方に顔を向ける。
ラインハルトが右足の膝を曲げて上げると、力いっぱいカカトで地面に突いた。
有り余る太ももの筋肉を、必要以上に使って音をたてて地面を突いていたのだ。
それから腰の長い刀を抜くとニヤニヤしながら護衛の方を見た。
ゼノビアがため息を着くと腰の大きめのファルシオンを抜きながら言った。
「なんだい、そんな音をたててニヤついちゃってさ。
一言あいつらに、
剣を抜けるなら抜いてみろと言えばいいだろう。意地が悪いね」
ラインハルトはゼノビアの方を見て言った。
「それこそ無粋というものだ。
言葉に出せばビビっているから抜けないのかと、
相手を脅しているようではないか。無言で相手を思いやらねば」
「あの仕草が相手を思いやるヤツのやることかね」
そうとも、と言いながらラインハルトは再びニヤニヤしながら護衛の方を見た。
護衛はその顔から剣を抜く以外の考えも見透かされているのではないかと、
ヒヤリとしたが考えないようにしようと思い、商人に顔を向けて言った。
「旦那、悪いがあんたの判断ミスだ。俺たちまでそうなっちゃかなわねえ。
悪いが事の始末は自分でつけてくれ。あんたが死んだら馬車だけもらうよ。
中身を解き放つのが俺たちが生き残る条件みたいだしな」
「やはり、要領を心得ているな。
条件をもう1つ付けよう。何か役立つ情報があれば買うぞ。礼は期待していい」
そういうことなら役に立てるかも知れない、と言う自分の護衛を見ながら商人は顔を青くした。
護衛は商人のことを、もう見ようともしない。
完全に見捨てられている。
ひょっとして自分は今日ここで死ぬのではないか。
だいぶ遅いが商人は状況を理解しはじめた。
商人はあわてて義清に声をかけた。
「ま、まってくれ。馬車の中身は渡す。金もやる。だからお願いだ。た、たすけてくれ!!」
「ハハハハッ、お前は見ていてあきないな。
他の者より常に一歩状況を理解するのが遅い。
お前を殺して金を奪って馬車の中身をもらう。
それと、お前を生かして金をもらって馬車の中身をもらう。
どちらもかわらんぞ。
それなら、
ワシをバカにしたお前を殺した方がワシの気分も晴れていい。ハハハハハハッ」
商人は青ざめて顔から脂汗をダラダラと流している。
今日、朝起きてこんな事がはじまるとはまったく考えもしなかった。
これは悪い夢なんではないだろうか。
誰しも経験がある、最悪の事が起こって寝て起きたら全てが元通りになっていないか、
商人はそうした思いにかられた。
しかし、義清が時折動かす剣から伝わる痛みが現実に商人をもどした。
商人は目を濁して全ての気力がなくなり、カラカラに乾いた口から辛うじて言った。
「た、頼む。お願いだ。何でもする。俺に‥‥私にできることなら何でも。だから‥‥」
「やれやれ、お前みたいに金や権力で人の上に立つものは命に関する学びが鈍い。
“何でも”などと簡単にいう。普通は情報などで取引するのが相場だ。
だが、お前みたいに鈍いやつを生かして、
学ばせる機会を創るのも人を治める者の努めよの」
義清はやれやれと首を振り、ベアトリスを呼びながら剣を勢いよく引き抜いた。
引く抜かれた痛みで、商人は本日三度目の悲鳴を上げた。
手当てしてやろうとする護衛を義清は止めてベアトリスに何事かささやく。
ベアトリスは目を輝かせながら護衛のボア族のいち団の中に消えていった。
戻ってくるとベアトリスは自分の上半身より大きなリュックを重そうに担いでいる。
後ろからボア族の戦士が一人、不安げに後ろから時々支えてやっている。
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