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22話 交渉

仕事が忙しくなってきたので金土日曜日をメインに更新していこうと思います。



「我ら東の地より来た者だ!! ここはなんと言うところか?」




 山犬のように大きな狼に乗った、

周りに従えているヴェアヴォルフ族とは

明らかに容姿が違うメスのヴェアヴォルフが村に向かって大声で言った。


他のヴェアヴォルフとは違い、

豊かな赤毛が肩まであり筋模様の角まで生えている。



見張り台にいる村長はゴクリとツバを飲み込みながら村の前の大きな広場を見た。



 下草しか生えていない地面が森まで続く広場では、

既に勝敗が決しようとしていた。


 ボア族とヴェアヴォルフ族の異種族集団が

ガイコツ集団を森へと追い詰めていく。

ガイコツ集団の右翼は既に撤退を完了しており、残る中央部隊だけが

異種族集団と相対しながらジリジリと森へと後退していく。




(このままいけば、ガイコツ集団は村から遠ざけられ、

 森の中へと消えていくだろう。)




村長は再びツバを飲み込みながらそう考えた。




(だが、あの異種族集団が村を襲わないと誰が保証できる?)




 確かに、明らかに敵意を持って村に近づいてきたガイコツ集団は

消えていっている。

しかし、それよりも知性が高そうな、より厄介な連中が村の前に現れた。

状況だけ見ればそういう風にみえてしまう。



 村長は額から溢れ出る汗を止めることができなかった。

助かりそうな状況だからこそ判断を誤ってはならないが、

誤る判断などないのではないだろうか。

自分たちを殺す相手が交代しただけの話しかもしれない。



村長がネガティブな考えに囚われながら汗を流していると、

横に村人が肘で村長をつついた。


ハッとして村長は村人の方を見た。

村人が小声で村長に言う。




「村長、なにか言わないと。みんな待ってるぞ。

 相手を長く待たせて怒らせでもしたら‥‥」




 村長は周りを見渡した。

同じ見張り台にいる村人はもちろん、

村を囲む柵の後ろで弓を構えている村人たちが、

事の成り行きを不安げに見守っている。


村長は手汗で一杯の拳を固く握りながら自分を奮い立たせた。

自分は村長なのだ。

半ば強制的に選ばれたとは言え、みんなが自分を頼っている。

ここで怖気づくわけにはいかない。




「どうした? 聞こえないのか? ここの長はいないのか?

 話がしたいと伝えろ!!」




門からやや距離を置いて赤毛のヴェアヴォルフのメスが、また大声をあげた。

その声に興奮したのか、乗っている山犬が今まで足踏みだったのが、

数歩動いて唸りはじめた。


ヴェアヴォルフのメスは手綱でそれを御しつつ、

山犬の首の辺りをパンパンと軽く叩きながらなだめる。

山犬は手綱に従って同じところを数歩、歩きながらグルグル旋回した。




 村長は覚悟を決めて言った。




「こわ、わたしが村長だ。

 こ、ここはラビッシュ‥‥ラビンス王国の”赦免の村“だ」


「お前が村長か。

 私は東の地の長、義清様が配下、ヴェアヴォルフ族の長ゼノビアだ。」


「この村に何の用だ!?」


「我らはこの村と友好的に交流ができれば思い、この地に赴いた。敵意はない」




 村長は再び村の前の広場に目を移した。

広場では怒号と剣槍が鳴り響いているがそれは徐々に村から遠のいていっているようだ。


ガイコツ集団の中央部隊が本格的に森に入り撤退を完了させようとしている。

異種族集団も追撃しているが、本気で槍を交える距離に入らず、

追い払う形へと状況は移っていた。


村長はそれを見ながら発言しようとしたところで、村人が先に怒鳴った。




「信用できるかっ!! 

 俺たちにとっちゃ、ガイコツもお前らもかわんねえよ!!」




そう言うと村人は矢を弓につがえるとゼノビアの足元へと放った。




綺麗な赤毛に敗けないほどに目を赤くして、

明らかに敵意を持った目になったゼノビアが口をひらいて何か言う前に、

村長は村人を殴りつけた。




「勝手なことをするなっ!! 俺たち全員を殺すつもりかっ!!」


「俺は本当のことを言っただけだ! 得体の知れない連中の言うことなんて信用できるかっ!」


「だからって矢を放つヤツがあるかっ!! むこうは言葉で語ってるんだぞ」




お互いに怒鳴り合う村長と村人に、それよりも大きな声でゼノビアが割って入った。




「おいっ!! ならばアタシらは引き払ってもかまわないんだな?」


「どういう意味だっ!?」


 村人が怒鳴り返す。


「アタシらが引き払って、再びガイコツ連中が戻って来てもかまわないんだな?

 次はこの村が単独であいつらを防ぐんだな?」




 村人は黙った。

村全体が気づき始めた。

突然のことで頭が回らなかったが状況は何一つよくなっていない。

ガイコツ軍団は完全に死滅したわけではない。

単に戦闘に敗れて撤退しただけだ。


 しかも、今回は偶然にもボア族とヴェアヴォルフ族がいたから

村に到達する前に、ガイコツ軍団は消えたのだ。

今回は被害がなかったが、畑仕事の最中に村の外で襲われるかもしれない。

2つの異種族集団が不在の時に、

村に再びガイコツ軍団が現れないと誰が保証できるだろうか。



話を聞かない、言葉を理解しているかもわからないガイコツ軍団の

襲撃に怯えながら暮らす。


騙され殺されるかもしれないが、

言葉は理解している、人間ではない異種族と交流を持つ。


 前者は高い可能性で死人が出る可能性があり、後者は全くわからない。



しかし、確実に死が迫る前者よりも、話が通じるかもしれない後者のほうが断然いい。



 村人たちが自分の置かれた状況と可能性を理解し始めた。




そしてゼノビアが止めを放った。




「これがアタシらの主たる交易品だ。受け取れ!! 友好の証だ」




ゼノビアが布袋を村長に放おった。



村長と村人は拳以上の大きさがある布袋をあけて驚いた。




「銀だ!! 銀の塊だ!」


「でけえ!!

 粒じゃね銀なんてはじめて見た!! それもこんなにたくさん!!」




村人は思わず手にとって見張り台から下の村人に見えるように銀を掲げた。

村中がどよめいた。

そのどよめきは次第に大きくなり、中には自分にも見せろと見張り台の下から

声をかける者たちもいた。


そのどよめきに負けないほどの大きな声でゼノビアが言う。




「それは友好の証だから対価はいらない!! 

 信用のためにも、こちらが最初に村に入る人数は少数でかまわない」




 言葉も通じて銀もくれて、おまけに村のボディーガードにまでなるという。

こんなうまい話はどこかおかしい気がするが、村に選択肢は残っていない。

村長は覚悟を決めて言った。




「わかった。あんたらと交流を持とう。

 ただし、最初は少人数で村に入ってもらうぞ」


「約束は守るさ。スケルトンを片付けるまで少し待ちな」




そう言うとゼノビアは横にいる部下に伝令を命じた。



広場では戦闘は最終段階に入っていた。

ガイコツ軍団は完全に森の中へと消えている。

異種族集団もそれを追って森に入り、集団の後ろの方だけが村から見えた。




伝令はその異種族集団へと入っていった。





 舞台はかわって森の中、村からは見えないが、

さほど森の中に入ったところでもない。

そこでラインハルトがガイコツ軍団の総指揮官と話している。




「どうだった? 

 直前で槍を止めるように言ったが、被害がでていたら申し訳ない」


「こちラは問題ない。死者もデず。広場に寝てイる連中も動く事はナいだロう。

 それヨり、こチらの方が失礼したノではナいか? 

 ガシャ髑髏はイいが、スケルトンはそこマで器用な方ではナいかラな」


「なになに。そちらも不器用とは言え槍を止めてくれた。

 あの程度で死ぬ者はおらん。悪くてもかすり傷だけだ」


「そレはよかっタ。恩人でアる貴殿らを傷つケたくはナいかラな」




 二人の前ではガイコツ軍団が粛々と列をなして進んでいる。


列の所々にボア族とヴェアヴォルフ族の戦士たちが幾人か立っている。

彼らはスケルトンに声をかけながら森の奥へと列を誘導していく。


ガシャ髑髏は二人の指揮官が指揮して列を作らせている。


 広場から森へと入ったボア族とヴェアヴォルフ族は、

広場からの光が届かない、村からは見えない程度に森に入ると、そこで集団待機していた。



辺りの鬱蒼とした森が、先程まで戦っていた2つの集団が間近にいるのを隠している。




つまるところ狂言だったのだ。




 義清たちは、村をスケルトン軍団に襲ってもらい、

それを助けた風にして村と交流するための糸口をつくる。


何か強大な危機が差し迫った時に

横から助けに入るほど、

人の思考を停止させてこちらを信用させるのに適したことはない。


 スケルトンはこれで義清たちへの恩義を返し、

義清たちの交渉が成功すれば大主教も帰ってくる。

交渉が失敗しても、村が義清たちに関係ない存在へとなるだけだ。

そのときはあらためて村に攻め入って、力ずくで大主教を奪還すればいい。



どちらも得をする仕組みになっている。




先程の戦闘も仕込みありきの戦闘だ。



 どちらの集団も槍を振り下ろす直前に止めて、

相手にわずかに当てるようにしている。


直前に止めると言っても6メートル以上ある長槍だから、

いくら精鋭のボア族とヴェアヴォルフ族でも、

槍の穂先が震えるのを確実に制御するのはむずかしい。


 2つの種族が難しいならガイコツ軍団はなおのこと難しいのだ。

ガシャ髑髏はともかく不器用なスケルトンは、

槍を中途半端なところで止めてしまうこともある。

そうなっては周りから見て不自然なので、槍を振り下ろし気味で止めるしかない。

ガシャ髑髏よりも数が多いスケルトンで不自然な動きをすれば、

計画が失敗しかねない。


 しかし振り下ろし気味で止めては、

直前で止めるとは言え相手に当たってしまう事の方が多い。


先程のガイコツ軍団の総指揮官がラインハルトらを心配したのも、

こうした理由からだった。




 ラインハルトと総指揮官の会話に義清が加わった。





「お互い被害がなくてなによりだ。広場で寝ているスケルトンもいい感じだ。

 あとはゼノビアの交渉術次第だが、どうなることやら‥‥」


「あー!!来ましたよぉ。義清様!!」




ゼノビアが放った伝令にベアトリスが気づいて声をあげた。

エカテリーナもそれに目を向けながら言った。




「伝来が一人で、

 村の前にゼノビア達がとどまっているということは、交渉成功ですね」




ラインハルトも伝令を確認するとスケルトン軍団の総指揮官に声をかけた。




「さて、一緒に村に入るなら、

 オマエさんは捕虜ということにするのが一番だろう。

 武器を置いて、何人かのガシャ髑髏を見繕ってくれ。芝居の為にも何人か連れて行こう」


「問題なイ。世話にナる」




総指揮官はガシャ髑髏を数人呼んで、武器を置いた。

ラインハルトは部下に命じて、それを縄で縛って捕虜に見立てた。



義清は鎧の上から着ている赤い陣羽織をパンといわせて襟を正して言った。




「さーて、これからが正念場よの」



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