21話 近づいてくる厄災と幸運
「村長!! どうするんだ! もう矢を撃つのか?」
見張り台の上にいる村人が、呆然とする村長に大声で聞いた。
その声に村長自信が自分に問いかける
(どうする? 何をだ? あの大軍を? 素人同然の俺たちが? )
村長は気の抜けた顔で肩を落として、パイプを吹かせながら力なく村の前に広がる光景を見た。
村の前には恐ろしげなガイコツの集団が、3つに別れて横隊になり村へ近寄ってくる。
中でも中央の集団は鎧を着たガシャ髑髏で、
指揮が高いのか仕切りとオオォーと鬨の声をあげている。
村から見て左手の森からはボア族ととヴェアヴォルフ族が、
ガシャ髑髏集団よりも大きな声を張り上げながら部族ごとに隊列を組んで出てきている。
それを見ながら村長はパイプを咥えると、大きく肺に煙を入れて吐き出した。
(どうするかだって? 俺が聞きたいくらいだ。 誰か教えてくれ)
ガイコツ集団だけなら、まだ何とか抵抗できたかもしれない。
しかし、それもガイコツ集団がその辺のスケルトンの集まりのように、
適当に村に向かって突っ込んでくるようなマヌケばかりだったらの話だ。
いま村の前にいるガイコツ集団は、どうみてもそんなマヌケには見えない。
指揮官の指示に従ってキチンと隊列を組んで前進してくる。
ガシャ髑髏があんな集団でいるのも不思議だし、
鬨の声を集団で上げるなど聞いたことがない。
とどめは、左手の森から出てきた2つの異種族集団だ。
2つの種族があんなに多くの集団で行動する、
なんて話しを生まれてこの方、村長は聞いたことがない。
あれだけの集団が村に襲いかかれば、ひとたまりもないだろう。
(そんなことくらい、誰だってわかるだろう)
そう思いながら村長は再びパイプを吹かした。
横では村人が大声をあげて自分に何か言っている。
有り体に言えば、村長は考えることを放棄したのだ。
目の前に広がる光景から誰だって、どうしようも無いことくらいわかるはずだ。
それを村長だからといって、言えば何か必ず答えをだしてくれるとでも言わんばかりに
村人は村長に向かって指示を仰いでくる。
(殺されるのが早いか遅いかの違いでしかないな)
村長は死ぬ前にと、何度目かわからないパイプを吹かした。
「どうするんだ村長!! なにか言ってくれよ!! 」
村人にも村長の考えが伝わりはじめた。
村長は正気を失っているんじゃないか?
そんな考えが村人にめぐり、村人は必死になって怒鳴った。
「村長!! いったい俺たちは‥‥」
「待てっ!!」
村人に制止の声をかけると、村長はパイプを口から外しながら自分の目を疑った。
森から出たボア族とヴェアヴォルフ族の隊列は、歩測を緩めることなく突き進んでいく。
村長は最初、森からでた両部族が縦隊になって村に襲ってくると思った。
村の前には広い空間があるといっても、
ガイコツ軍団と両部族の全員が横隊になれるほどの広さはない。
だから、ガイコツ軍団だけが横隊になり、
他の2つの部族は縦隊になって村にむかって来ると思っていた。
しかし、村長の予想は大きくハズレた。
歩測を緩めることなく森から出て前進を続けるボア族とヴェアヴォルフ族。
その集団の先頭が槍の射程距離にガイコツ集団をとらえると、容赦なく槍を振り下ろした。
とたんに側面のスケルトンが地面に崩れ落ちる。
突然森から出現した2つの異種族集団に側面を突かれて、
ガイコツ軍団の左翼の部隊は大きく崩れながら、中央と後方へとスケルトンが逃げていく。
2つの異種族集団は、なおも前進を続けて容赦なくスケルトンを地面に押し倒していく。
ここでガイコツ軍団の中央部隊の指揮官が迅速に反応した。
彼は中央部隊の村への前進を停止させると、素早く部隊を左旋回させた。
ガシャ髑髏を中心とする中央部隊は整然と左に旋回していく。
村長から見てガイコツ軍団の中央部隊が縦隊になり、
2つの異種族集団の前にガイコツ軍団の横隊が1つできる形になった。
ガイコツ軍団の中央部隊は指揮官の号令のもと、2つの異種族集団へ
怒号を発しながら前進する。
異種族集団の後方では高らかに法螺貝が鳴り、押し太鼓も鳴っている。
やがて、2つの集団が激突した。
両軍が全力で槍を振り下ろす。
何本もの槍が当たり兵士が地面に崩れていっている。
勝負は短期間で決した。
数でも個の力でも勝る異種族集団が、着実にガイコツ軍団を削っていく。
しかし、ガイコツ軍団もただ破られているわけではなかった。
ガイコツ軍団の中央部隊指揮官が、唯一この戦場で行動していない、
ガイコツ軍団の右翼部隊に伝令を飛ばした。
すると右翼の部隊は崩れた左翼の部隊の兵士を収容しながら森へと後退を始めた。
2つの異種族と戦っているガイコツ軍団の中央部隊も、
右翼部隊の撤退開始を確認して、森へとジリジリ後退していく。
中央部隊は全軍を逃がすための囮として遅滞行動を行っていたのだ。
最初から相手を倒すつもりなどなかったのだ。
どうやら、ガイコツ軍団の左翼が側面を異種族集団に突かれた時点で、
形勢不利とみたガイコツ軍団の指揮官は撤退を決断していたようだ。
「‥‥助かるのか?」
ツバを飲み込みながら村人が見張り台の上から、思わず呟いた。
村長もハッとしながら我に帰るとそれに答えた。
「むこうサンの出方次第だろうな」
森へとガイコツ集団を追い詰める異種族集団の中から外れて、
数人が村へと近づいてくる。
大きな狼のようなものに乗って、頭に角を生やしたヴェアヴォルフ族と思われる者が
数人の従者を従えて村の門へと近づいてくる。
「あいつらの口から出る言葉次第で。俺たちの文字通り命運が決まるな」
村長は村人に制止の言葉をかけて以来、ずっと離していたパイプを
再び口に入れながら言った。
煙がいつもより苦く感じた。




