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20話 ラビッシュ王国になるまで

忙しかったため投稿が遅れたことをお詫び致します。

申し訳ありません。


今回は説明多めかと思いますが、義清たちと村の関係を進める予定ですので

読んでくださいますと幸いです。


 義清たちがいる大森林から西にいったところに

ラビンス王国とよばれる大国がある。 



 現在、ラビンス王国は複雑な立場にある。



 大陸東方やや中央寄りにあるこの国は

現在のカード・ペヨンド・デゴルイス5世から数えて3代前から

急激にその領土を広げた。


3代前、現在のデゴルイス5世からみて祖父にあたる

デゴルイス3世は国内改革を成功させた。


 当時のラビンス王国は貴族の自治が強く

王を交えた貴族会議で国政の行く末を決めていた。

貴族は、普段は自らの領地に留まり必要があるときだけ王都に(おもむ)いていた。


 月に一度は開かれる貴族会議も王都に向かう理由の一つだが

貴族の目当ては、社交界での人脈づくりが一番の目的であり、

それによって自分の治める領地にいかに利益をもたらすかが、一番の関心事だった。

しかも、王都へ送るはずの税を、

あれやこれやの理由をつけて年々減らして自分の懐へと入れていた。

それに文句を言えないほど王の権威は堕ちていた。


当然のことながら国政は遅々として進まず、国内整備は

その土地を治める貴族の人脈や財力、果ては気分と言った具合でバラバラだった。


 それを統一したのがデゴルイス3世である。

彼は王の権力が薄れゆく中で、手元に王直属の兵力が残る自分の代が

最後のチャンスであるとして国政改革に打って出たのだ。



 彼の改革は兵力頼みとあって強引を極めた。

まず、貴族には王都に住むことを強制した。

しかも王都に住む条件として、

貴族の親族の中から人質を提出するように求めた。

留守になった貴族の領地管理は貴族の部下が行い、

王都から派遣された役人が常時それを監視する。



 無理やり王都へと移住させられた挙げくに人質まで出して

自分の懐に入る金は減ってゆく。

当然のことながら貴族は反発した。


しかし彼らはデゴルイス3世を甘く見ていた。

今までの王がそうだったように、

貴族たちは貴族会議で王を糾弾すれば元に戻ると思っていたのだ。



貴族たちが会議で王への糾弾をはじめると、王の親衛隊が議場へ乱入した。



 戸惑う貴族たち構うこと無く、司法長官が入場すると場は一変した。

司法長官は貴族たちの中から、

王都へ送る税の不正が特に目立つ貴族を何人か選ぶと死刑を宣告した。


親衛隊が即座に貴族の首を跳ねる。


一応は司法に基づいて行っていることが

王より宣言されたときには、誰も王への糾弾など口にしなくなった。


 デゴルイス3世の国内改革が本格化した。

それぞれの貴族領で乱立していた法の統一。国内インフラの均一。貴族の外交特権の廃止。

強力な中央集権の元、デゴルイス3世は歯向かうものを容赦なく血祭りにあげて

短期間の内に国内改革を成功させた。


 デゴルイス3世が次に着手したのが軍事改革だった。


 元々ラビンス王国は立地には恵まれている方だった。

国の北と南に、長く続く山脈を有していたので、

外敵の侵入は東西どちらかだけだった。

しかも東は前人未到の大森林で

こちらからは王国の有史以来、一度も大規模な攻撃を受けたことがない。


のこる西も運に恵まれていた。


 西には、ラビンス王国の南北にある山脈ほどではないが、

それなりに険しい山々がある。

そのため、この地方の統一は行われておらず、

小さな国々が乱立して、それぞれに争っていた。


ラビンス王国が貴族の腐敗で腐って行く中でも崩れ落ちないのは

外敵がいないか、自分たちよりも小さな存在でしかないおかげだった。


 デゴルイス3世はこのことに着目し

常備軍を含む軍事改革を行い、貴族に軍役を課した。




 そして西への侵攻を開始した。




西方諸国は複雑な地形を生かしてこれに粘り強く対抗した。


しかし、デゴルイス3世は焦っているわけではなかった。


 西方諸国はそのさらに西にある、

大陸中央に位置する宗教国家ファナシム聖光国と

ラビンス王国の緩衝地帯でもあった。


友好国とはいえ、宗教色の強い大国と

直接国境を接するリスクをデゴルイス3世は理解していた。


時に施し、時に裏切り、時に味方に組み入れ、デゴルイス3世は時間をかけながら

着実に西方に領土を広げていった。


 結局彼が死の床にあるとき西方諸国の半分がラビンス王国に組み込まれていた。




そしてラビンス王国はデゴルイス4世へと引き継がれた。




 彼はデゴルイス3世ほど才能を有していなかった。

特に軍事については絶望的で完全な軍事音痴だった。

そうかといって内政の才があるわけでもなく、

彼がデゴルイス3世ほど内政で力を発揮するのは

じっくりと時間をかけて熟慮する必要があった。


 しかし、デゴルイス4世は人に対する才はデゴルイス3世以上にあった。

彼は適材適所に人を配置し、温厚なその性格から人から信を置かれやすかった。

彼は軍事の才能はなかったがデゴルイス3世の置き土産である軍と将軍たちが彼を支えた。


彼は苦手な軍事を将軍たちに任せて内政に専念し国内整備に集中した。


デゴルイス4世が死の床にあるとき西方諸国は、

デゴルイス3世が死の床にあったときの半分になっていた。


 デゴルイス親子はその生涯をかけて西方諸国の四分の三をもぎ取り

国内整備に尽力したのだ。




 そして、デゴルイス5世にラビンス王国は引き継がれた。




彼はデゴルイス4世以上に軍事音痴だった。

デゴルイス3世が残した将軍たちはみんな、尊敬する王の元へと旅立っていた。

彼はデゴルイス4世がやらなくて済んだ、軍の再編を、

その乏しい才能でやらなくてはならなかった。



 デゴルイス5世は何にでも首をツッコミたがり、自ら指揮を取りたがった。

自尊心とプライドが高く、酒と女が好きで何の才能もない典型的な無能。

それを人に指摘されないために必死に本人は隠しているつもりだった。


隠すために無闇に部下を怒鳴って、よく理解もできていないことに口を出しては失敗させた。

そして、それを部下の責任にして罰をあたえ、ときには殺しその領地を奪った。


 どの組織や会社にも一人はいる無能なのに、なぜかその地位にいる上司が、

国のトップにいる状況を想像するのが、いまのラビンス王国を想像するのに最も簡単な方法だろう。




当然ラビンス王国は急速に傾いていった。




 貴族たちは王へ疑心暗鬼になり、税を出し渋りはじめた。

軍役にも非積極的で、何かにつけ理由をつくり王都から領地へ居を移したがった。

将軍たちや政務官たちは事態を打開すべくデゴルイス5世へ進言した。


その度に彼は知ったかぶって命令をだした。

彼の命令は朝だされたものが昼には付け足しがあり、夜には全く別の方向を向いていた。


将軍たちや政務官たちがそのことに苦言を呈すると、自分の無能さが露呈するのを恐れて罰した。

罰した者の妻まで強引に自分のものにしたとき、彼は誰からも文句を言われなくなった。


 デゴルイス5世に歯向かうものはいなくなった。

それはデゴルイス3世のときと同じだったが、理由は完全に真逆だった。

デゴルイス5世はデゴルイス3世が、最も憎み嫌った貴族たちと同じ存在になっていた。




 そしてこれらの出来事は西方諸国にとって待ちに待ったチャンスだった。




 小さな西方諸国は連合軍となってラビンス王国に襲いかかった。

早期にこの自体を解決すべく動こうとした、ラビンス王国の将軍たちは

デゴルイス5世の朝令暮改の命令に嫌気が差して、兵力の消耗を避けて後退した。


西方諸国とラビンス王国の国境線は、

デゴルイス3世が西方侵攻を開始する前の状態、

完全に元の状態へともどった。


デゴルイス5世は彼の父親と祖父が、

血のにじむような努力で獲得した西方諸国の領土を、

彼一代で失ったのである。



 ここにきてデゴルイス5世はようやく事の重大さを理解した。

彼は必死に解決策を探ろうとしたが、頼れる人間は彼に嫌気が差して王宮を離れている。




そんな時に忍び寄ってきたのが宗教国家ファナシム聖光国である。




 ファナシム聖光国はラビンス王国に対して、

西方諸国との争いに調停を行うことができると持ちかけたのだ。


この調停は西方諸国にしてみれば脅しに近かった。


西方諸国ははラビンス王国との争いに全ての兵力をつぎ込んでいる。

背後からファナシム聖光国が調停の名のもとに攻撃すれれば、ひとたまりもない。


西方諸国は失地を完全に回復したこともあり、調停会議に参加するしかなくなった。


 ラビンス王国と西方諸国の争いは停戦し、一応の事態解決をみた。



当然、ファナシム聖光国が何の見返りもなく調停役を買って出たわけではなかった。


ファナシム聖光国はラビンス王国に、ラビンス王国の東に広がる大森林に侵攻することを要請した。


理由は二つある。


 まず、ファナシム聖光国からすれば、ラビンス王国が西方諸国を飲み込み大きくなった状態で、

直接国境を接するのは国防上避けたいことだった。


ラビンス王国と違い、ファナシム聖光国は大陸の中央に位置しているため複数の国と

国境を接している。

複数の国家が同時侵攻する事が可能な立地条件ならば、なるべく接する国境線は少ないほうがいい。


 ファナシム聖光国からすれば1つの統一された国家であるラビンス王国よりも

寄り合い所対の、ファナシム聖光国からすれば東だが、西方諸国と国境を接する方がよかった。

仮に戦争になっても寄り合い所対である西方諸国は連合軍を組むだけで時間がかかるし、

それぞれの国主の利害が衝突するのは目に見えている。



 2つ目の理由はシンプルで宗教だった。

彼らの信じる宗教では、神の次に位置するのは人間でありその下がモンスターだった。

モンスターは人間を襲い、神に奉仕する人間の邪魔になる下等生物、これが彼らの信じる宗教だった。


そんなモンスター多く生息するラビンス王国の東の大森林を侵攻することは

彼らにとって十字軍と同等の偉業であった。


 西方諸国は失地を回復し、ラビンス王国は失った土地を東の大森林から取り返す。

野蛮な下等生物であるモンスターは討伐されて、神に奉仕する人間がその地を統治する。

ファナシム聖光国にとって誰もが得をする最高の計画だった。




「クソ忌々しいいラビッシュ王国め」




村長は見張り台に行くために家を出ながら悪態をつく。

唇を隠すように鼻と唇の間に生やした立派なヒゲを整えながら扉を閉める。

所々が破れて袖はほつれている服から苦労がうかがえた。

パイプを加えた人のいいおじさんに見えるこの男が、

人一人を殺しているとはとても思えない。


無能な王が西方で戦争に負けた挙げ句に宗教狂い共にそそのかされて

東に大軍勢で実費で侵攻している。


民衆はそんな王が統治するラビンス王国を、

ゴミ同然のくだらないものを意味するラビッシュとかけてラビッシュ王国と呼んでいた。


とりわけ、ラビンス王国の中で一番東に位置するこの村ではその気持が大きい。


村長は自宅の鍵を閉めて通りにでた。


家々はいわゆる高床式ではなかった。


 地面に接するほど低い床。軒先が大きく張り出してその上にはバルコニーがある。

軒先を支える柱は多く左右に1つづつと入り口近くに2つ。

家々の入り口は引き戸、扉様々だが酒場は両開きのスイングドアになっている。

枯れてちぎれて、軽い玉となった草が転がるのが似合う西部劇を思わせる家々がそこにはあった。


村の地面も乾燥しており、時々吹く風が砂埃を巻き上げている。


 村の周りは青々とした森が広がっているのとは対象的に

村の中だけが西部劇に出てくる荒野にポツンとある村のようになっていた。


村長は時折吹く風で巻き上げる砂埃が、目に入らないように顔に手をかざして通りを進んでいく。


見張り台までつくとパイプを加えながらハシゴを昇って見張りに話しかけた。




「どうだ。何かかわったコトはあるか?」


「なにもねえ。畑に作業に行った奴らがもうすぐ帰ってくるはずだ」




見張りは弓を持ち、前に義清たちが城の大広間で見た木の鎧をつけている。


村長はパイプを吹かせながら村から続く細い道の先の森を見ながら言った。




「護衛と一緒に今日も無事に帰ってくるといいがな。周りに頼れないこの状況じゃな」


「クソッタレのラビッシュ王国め!! 俺たちをこんな場所に置き去りにしやがって!」




見張りが悪態をつくのを村長はなだめた。





「まあまあ、さっきは俺も悲観的になったが案外なんとかなるもんだ。何とかここで生活しようや」


「他に行ける場所もないしな‥‥‥ん?」




見張りが村の細道から続く森の奥を目を細めて見た。

村長も何事かと思って目を細める。


森の中は暗かったが、所々からさす木漏れ日が人影が数人迫ってくるのを見せてくれた。

それを見張りが見て呟く。



「どうやら今日も無事に畑仕事を終えて帰って来たみたいだな」


「そうらしいな。畑仕事するだけで命がけだ。‥‥いや、待て」




村長は見張りに言ってから再度目を細めた。



 森から畑仕事を終えたであろう労働者が出てくる。

男も女もいるがみんな血相をかえて必死に村まで走っている。


その様子から何かに追われているのは一目瞭然だった。


数人が森から出てくると護衛の若者達が数人その後に続き、労働者達を村へと大声で誘導している。

みんな転がるようにしながら村を目指して走ってくる。



 最初の労働者が村に辿りついて、最後尾が森といくらか距離が離れたとき追跡者が姿を現しはじめた。

森から村へと続く細道に数体のスケルトンが現れた。



 正直それをみて村長はホッとした。

あの程度のスケルトンなら対処できそうだ。

村は柵で囲ってあるし門もある。

距離をとって弓も撃てるし数に任せて村人で袋叩きにしてしまえばいい。



しかし、少しして村長は青ざめた。


 森から続く細道から更に数体のスケルトンが出てきた。

その数はどんどん増えていく。


やがて細道からだけではなく森のヤブからもスケルトンが現れ始めた。

最後には鎧を着たガシャ髑髏たちと、その集団を指揮する髑髏の指揮官が3人も骨馬に乗って現れた。




そこには立派なスケルトンの軍団がいた。




 労働者と護衛たちはあの軍団に追われて村まで逃げてきていたのだ。


見張りが歯を鳴らしながら怯えて叫んだ。




「な、なんだよアレは!! あんな数を相手にできるわけないだろ!! 死んじまうよ!!」


「落ち着け!! こっちには柵も櫓もある!! あいつらを村に入れる前に倒すんだ!!」



村長は怯える見張りを叱咤すると見張り台から下にいる者たちへ指示を飛ばす。




「女子供は集会所に避難させろ!! 男は全員、急いで鎧を着て武器を取って持ち場につけ!!」




村長の指示で村はハチの巣を突いたような大騒ぎになった。

村長自身もあんな大軍を相手にできるのか自信がない。


村長が再びスケルトン軍団へ目をやった。

スケルトン軍団は3人いる骨馬に乗った指揮官が指示を飛ばして隊列を組んでいる最中だった。




(スケルトンがあんなに連携して動くなんてありえるのか?

 それともこの東の大森林ではあれが普通なのだろうか?)



村長はこれから戦う敵の知識が全く無いことに恐怖した。


やがて隊列を整えたスケルト軍団が前進を開始する。




(やるしかない!! やらなきゃやられるんだ!!)




村長は自らを奮い立たせると周りを見た。


 見張り台と柵の後ろから村人が鎧を着て弓を構えている。

素人集団の自分たちでモンスター相手にどこまでやれるかわからない。

しかし、こちらには柵も武器もたっぷりある。

やってやれないことはないはずだ。

みんなに何か言ってやろうと村長は口を開こうとした。



ドンドンドンドン!!


プウオォォォォー!!



突然、太鼓と法螺貝の音が鳴り響いた。


その音はスケルトン軍団の左手の森の奥からしてくる。


するとオオオォォォー!!という怒号と共に

ボア族とヴェアヴォルフ族が槍を手に森から大勢でてきた。


それを見ながら村長はポツリと呟いた。




「終わったな。あんな数を俺たちが相手にできるわけがない‥‥‥」

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