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202話 武辺者

執筆中に聞いていた音楽です。


よければ読んでいる時に一緒にどうぞ。

https://www.youtube.com/watch?v=BQWCc9JXIwg

 

 東部貴族たちは北部の大禍国やその他の貴族たちが集結する城に到着すると、真っ先に義清の元へと向かった。

ベッティンガーが目にしたのがこれである。


 彼ら東部貴族は王国中央からの道中で汚れた泥やホコリをはらうことなく、義清への謁見(えっけん)を求めた。

義清はそれにいちいち仰々しく応対した。


「よくぞ参られた。王国内とはいえ道中険しい場所もあったろうに、その少ない軍勢では山賊に襲われる危険もあったろうに、長い道中をこれだけの短期間でよくぞ参られた」


と、いった具合にいちいち言葉を尽くして貴族たちを迎えた。


 東部貴族たちの間では、義清を持ち上げる機運が高まっている。

首都に滞在中の間、義清は時間の許す限り首都の東部貴族の屋敷を訪れている。

目的は大禍国の地盤固めだ。


 大禍国に少しでも有効的な国を作ろうと、領主同士での付き合いを申し込んだのだ。

一番効果的だったのが大禍国からの融資だ。

最初は領主間の話題で公然と金の話をする義清は毛嫌いされたが、小中規模の領主を中心に義清への会談希望者が殺到した。


 理由は簡単で入植間もない東部では人も金も不足していた。

王国からは形ばかりの支援はあったが、それも王宮への借り入れで借金と何ら変わりない。

義清は気前よくその借金を肩代わりしてやった。

なにしろ大禍国は銀山を保有しているから、文字通り金のなる木を持っていた。

遺跡発掘により採掘が中止されているとはいえ、当面の間はなんとかなる。

すくなくとも、なんとかなるという雰囲気を義清自身が醸し出すことで、無理矢理にでも経済を回させようとしてた。


 義清はいちいち利子がかさむ借金を一括で王宮に返済すると、より低金利で貴族たちに金を貸したり、もしくは融資した。

これにより王国東部が大禍国を中心に経済的に回り始めた。

今では東部の大貴族でも義清に金を借りていることは珍しいことではない。


 おまけに義清は武辺者(ぶへんもの)といわれる人種を好んだ。

これは簡単にいえば貴族は戦場で働いてなんぼだという精神の持ち主たちだ。

良く言えば戦場働きがよく、今風に悪く言えば脳筋よりの人種と言えるだろう。


 義清としては自分の手駒になるかもしれない貴族は戦場で働いてくれたほうがよく、小賢しく権力や政治で動き回る文官気質の貴族の方が、かえって使いにくいと考えたのだ。


 いま義清の前に泥まみれで現れているのも武辺者たちだ。

付いた泥をはらうよりも先に一目義清に会おうとするその、いじらしい健気さを義清は愛したのだ。


 東部貴族たちもこれをわかっているから、着ているものを小綺麗にすることもなく平然と歩いて義清の元を訪れる。

横で見ている北部貴族たちはなんと行儀の悪い、それが貴族のすることかと思って顔を背ける者さえいる。

東部貴族はこれを知っているが鼻で笑っいる。


 東部貴族にいわせれば、もはや行儀だ礼儀だといったしきたりで凝り固まった世の中は終わったというわけだ。

王国南部ほどではないにせよ、これからは実力主義で兵力の多さがそのまま発言の大きさに繋がる。

そういう時代がくると東部貴族たちは信じて疑わなかった。


 もはや権力や称号など役に立たない、現に東部総督でもないなんの称号も持っていない大禍国が東部では一番ではないか。

いったん世が乱れて戦乱が起これば大禍国がどう動くかで、東部がどう動くか決まる。

彼ら東部貴族は顔を背ける北部貴族を見て、心の底ではそう思っていた。


 そして東部貴族たちがある意味一番に待ち望んだ戦乱は、宗教国家デゥルキオの王国北部への侵入という形で予想よりもずっとはやく始まった。


 ここで活躍の機会を得られれば東部貴族たちは、大禍国からさらなる借り入れや融資、場合によっては借金の帳消しや新たな領地をもらえるかもしれない。


 そういった一世一代の活躍の場を求めて、東部貴族たちは喜び勇みながら他の地域の貴族が到着するよりもずっとはやくに北部入りして、義清に会いに来ていたのだ。


 だから、東部貴族たちは義清に謁見を求める北部貴族たちを密かに鼻で笑っていた。

北部貴族たちは行軍してくるといったん道中で着ていた衣装を脱ぎ、新しくてきれいな衣装に着替える。

それも領主間の会談だけに使わるような豪華な衣装だ。


「そういう衣装を着ている暇があったらさっさと足を動かしてお会いすることだ。衣装が口ほどに動いてなにか言ってくれるものか」


 北部貴族の衣装を見て東部貴族は口にこそ出さないが、みんなだいたいこのような意味のことを心の中で思っていた。

もっとも、北部貴族は大禍国に接して日が浅いため名を捨てて実を取るという、とにかく本質が伝わればそれでいいというスタイルで動いている大禍国を理解できないのも無理もなかった。


(もはや東部貴族たちは北部を助けに来たのではなく、北部でいかに活躍して家を大きくするかということしか考えていない)


 また1人泥と砂塵にまみれた東部貴族が城の門をくぐり、まっすぐに大禍国の陣の方に足早に歩いていくのを見ながら、ベッティンガーはこれから起こる戦いについて一抹の不安を覚えた。


奇跡的にこの小説にたどり着いた方、アドバイス感想などお待ちしております。

ブックマーク・評価などしていただけると嬉しく、モチベーション維持して書くことができます!!


次回更新予定日 2023/9/17

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