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203/205

200話 同情

やっと骨髄提供が終わり通常通りに投稿ができるようになりました。

更新が滞ってご迷惑をおかけしました申し訳ありません。


執筆中に聞いていた音楽です。


よければ読んでいる時に一緒にどうぞ。

https://www.youtube.com/watch?v=m_isAVgI3KE


 そんな平穏を、義清率いる大禍国は打ち砕いてしまった。

もっとも、打ち砕いたのは義清ではなくゼノビアだが。

ゼノビアはバレオゴロス家から奪取した城や領地を気前よく分配した。


 分配されたのはゼノビアと共にバレオゴロス家の居城を攻略した貴族たちだ。

ゼノビアはバレオゴロス家の居城の宝物庫からでた貴重品さえ貴族たちに分配した。

もっとも、宝物庫へは先にゼノビアの手勢が突入しており、分配前にいくらか拝借しているが貴族たちはそのことを知るよしもないだろう。


 また、バレオゴロス家の居城を含む領地もゼノビアは独断で貴族たちに分配している。

このときゼノビアはただ分配したのではなく、元バレオゴロス家の土地をゼノビアから貸し与えるという名目で。貴族たちに分配した。


 北部総督の命令もなしに土地を分配するなど越権(えっけん)行為もはなはだしいが、ゼノビアは気にしていなかった。

貸し与える帰還は99年。

99年後には土地を貸してもらった貴族はゼノビアに、貸し与える期間を延長してもらうか、土地を返さなければならない。

つまり、99年後になると再び大禍国が北部に干渉してくる理由ができてしまったことになる。


 おそらく99年後に土地を返す返さないでどこかの貴族がゴネれば、それを理由に北部に出兵でもするつもりでゼノビアは土地を全て貸し与えたのだろう。


 平穏という停滞期にある土地をゼノビア含む大禍国がもらったとしても、たかが知れた利益にしかならない。

おまけに大禍国と距離がありすぎる飛び地を領土にしても、防衛するだけの戦費だけで赤字になりかねない。

それなら北部貴族たちの心をつかむのに利用しようと、ゼノビアは考えたのだ。


 (まあ、ゼノビアの考えはそんなところだろう)


 義清は、怒鳴り声を上げて北部気貴族の城の暖炉の前で騒ぐゼノビアを見ながらそう思った。


(しかし、さすが年寄りといったところか。伊達に歳をとっていない見どころある者が数名いるようだ)


 大声で罵声を発しながら前進しようとするゼノビアを、なんとか止めようとしてしているのは中年以上の貴族が多い。

彼ら中年以上の、特に白髪が生え始めた老人たちは北部でも戦いを経験している世代だ。

中年世代も従軍経験はないといっても親から直に戦いが悲惨か聞いている。

彼らはゼノビアがバレオゴロス家に行った仕打ちを見て、再びこの北部に争いの火種が生まれないように必死になって止めているのだ。


(しかし、人の心はいったん火がつくとそうそう収まらん)


 義清は年寄衆とは対象的に目を輝かせている青年衆を見て思った。

青年衆はゼノビアを止める素振りも見せず、ただゼノビアを見ながら目を輝かせている。

彼ら青年衆の頭の中には二匹目のドジョウならぬ、第2のバレオゴロス家を見つけることでいっぱいだ。


 青年衆はもしもゼノビアが文句を言って来た貴族を、バレオゴロス家のように殺してしまえば、今度は自分たちがその領土をもらえるかもしれない。

青年衆の頭の中はこのことでいっぱいになってしまっている。


 特にバレオゴロス家の居城を攻撃する際に、その攻撃に誘われたのに進退に迷ってゼノビアに付いて行かなかった貴族たちはこの考えが強い。

彼らから見れば、バレオゴロス家への攻撃はほとんどゼノビア率いるヴァラヴォルフ族のみが行い、一緒に付いて行った貴族はなんの苦労もなく土地をもらっている。


 東部からきた異形の者を信用できない、とゼノビアに同行する貴族が少なかっただけに、バレオゴロス家が所有していた広大な土地はその少数の貴族たちが全て持っていってしまった。

つまり、ゼノビアに同行した少数の貴族たちは、ほとんどなにもしていないのにある日突然広大な土地を手に入れることができたわけである。


 青年衆はこのことを知っているから、口にこそ出さないがゼノビアを応援したい気持ちでる。

ましてやゼノビアの行く手を阻むなど考えてもいなかった。

青年衆はゼノビアに文句を言った貴族が、ゼノビアにかすり傷の1つでも負わせればこっちのものと思っている。

それを理由にみんなで寄ってたかってその貴族をこの場で殺してしまえば、あとはその貴族の土地をどう分配するかを話し合うだけだ。

デゥルキオが北部に侵入したどさくさに紛れてさえいれば王国中央も口出しはしてこないだろう。

自分の名と家を大きくするチャンスが目の前にいる。

青年組はゼノビアに文句を言った貴族に本気で、死ねと心の中で強く思ってさえいた。


 反対に年寄衆はこういう青年衆の心がわかっているから、老体に鞭打ってゼノビアを必死に止めているのだ。

彼ら年寄衆はかつて王国南部のように北部が熾烈(しれつ)な領土争いをしてきたのを、生で経験している世代だ。

やっと手に入れた平穏を孫の代まで託したいと、今日までなんとか大きな争いもなくやってきた。

それを東部から昨日今日やってきた異形の集団が1日でぶち壊してまった。


 年寄衆は知っている。

こういうときに大禍国に文句を言っても始まらないと。

こういうときは次の争いになる火種を極力潰すことに専念するに限る。

そうして平穏無事に大禍国に東部に帰ってもらうのだ。

あとは徐々に青年衆の領土的野心が収まるのを待つしかない。

争いさえなくなれば、あとは元国境の小城1つを取ったり取られたりで青年衆の野心も名誉も収まるだろう。


(まあ、実際こんなところだろうな。連中の考えていることとえば)


 義清は広間の喧騒を余所に、ゼノビアを止める年寄衆と、それに心のなかでやめろと言っている青年衆を見て思った。

年寄衆がなんとかゼノビアをなだめすかして、元の席へと導くことに成功しそうだ。

青年衆は新たな火種はないかと目をギラつかせている。


 年寄衆の何人かはゼノビアに文句を言った貴族に詰め寄ると、顔面と顔面が付くかと思われるくらい顔を寄せて何事か言っている。

その血走った目から察するに、この騒動が文句を言った貴族だけでは終わらずに、北部全体を終わりなき領土争いに導くことになると知れとでも言っているのだろう。


(いっそ年寄衆にワシが味方してさっさと軍議を進めた方が早かったかもしれん)


 義清はいつまで続くとも知れないこの軍議の場で、ため息をつきたい気持ちでいっぱいになりながら、年寄衆に心底同情した。

奇跡的にこの小説にたどり着いた方、アドバイス感想などお待ちしております。

ブックマーク・評価などしていただけると嬉しく、モチベーション維持して書くことができます!!


次回更新予定日 2023/7/23

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