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13話 戻ってきた日常


義清の治める城内は忙しいが明るい雰囲気に包まれていた。



いたるところにある敵兵の残した物資の回収、城壁の修繕、負傷者の介抱、残った物資の確認と分配、それぞれの作業への割り振り、やることは山のようにあった。


しかし誰もが明るく元気に作業している


もうダメだと思い死を覚悟したあとに起こった、嘘のような奇跡。

それによって拾った命のありがたみを噛み締めながら誰もが元気にそれぞれの作業をこなしていた。


そんな中ラインハルトだけが浮かない顔しながらコソコソとしている。


やがてラインハルトは城内の一角に来ると不思議そうに首をかしげた。





(はて、こんなところが城内にあったかな?)





そう思いながらラインハルトは建物へと入っていった。


建物の中はヒンヤリとしており、活気があり騒がしい外とはちがってシンしている。

奥まで行ってラインハルトは扉を開けた。

そしてなぜ自分がこの建物を覚えていなかったか納得がいった。




(なるほど、書物庫かここは)




はしごを使って本を取るほど高い本棚がズラリと並んでいた。

魔術書から歴史本、あらゆる本が所狭しと本棚に並んでいる。




(別に嫌いというわけではないんだがな)




扉を閉めて中に入るとラインハルトは奥へと進んでいった。

ラインハルトは本が嫌いと言うわけではなかった。

ただ自分は外で体を動かしている方が性にあっている。

だから自然と考えも体を使って何かする方へと向き、室内で何かする事へと考へが向かなかった。




(どれ、久しぶりに読んでみるか)




ラインハルトは何気なしに一冊の本を取り出すと

窓を開けて、奥の隅の椅子に腰掛けると、久しぶりの読書にはいった。




(これは、いわゆる神々の戦いかな?)




文章の中では信濃の()と越中の()という神々がそれぞれの兵を率いて戦っている様子が描かれている。





(おお、これは義清様の覚え書きか)




本の最後を見ると義清の印があった。

義清は時々、前世の記憶が薄れてしまう前に、と覚えていることを口頭で伝えて書記官に書かせている。

偶然手にとった一冊がそれだったようだ。




(神々が戦った土地の名残なのかな、ちょくちょく神々の名が出てくる)

(なるほど、きっと形骸化したとは言え神々の名を名乗ることで、それの恩恵を受けようというわけか)




読んでいく内にラインハルトは興味をひかれて面白くなっていき思わず声に出した。




「いや、たまにする読書もいいものだ。特に興味を惹かれる本ならなおさらだな」


「そりゃあ、サボりながらすることは、何でもいいものに感じるだろうよ」




ビックリして本から目を上げると目の前にゼノビアがいた。

額に怒りマークをつけてゼノビアが続けて言った。




「ぃよお、旦那、この忙しい時に読書とは大層な御身分だこって。さぞかしアタシなんかより仕事が進んでるんだろうね」


「ゼノビア‥‥‥違うのだ。これはその‥‥‥多少調べものをしていたというか‥‥決してサボってるわけでは」


「やかましい!! あんたのとこの副官が現場作業の指揮は取るのに、書類仕事はしないあんたを探してアタシの部屋まで泣きついて来たんだよ」


「クソッ、あいつめ、少しは自分で探してから他に頼ればいいものを」


「そもそもあんたがサボらなけりゃいい話なんだよ!!」




ゼノビアは鎧を着たラインハルトを物ともせず襟を掴むとズルズルと引っ張って出口に向かった。




「たのむゼノビア、見逃しくれ。あとできっと仕事は終わらせるから」


「あんたのその言葉を信じて、何回アタシがあんたの仕事を手伝ったと思ってるんだい!!

 さっさと終わらせな。近い内に外働きがあるんだよ」


「しかし、俺はどうも書類は苦手で」


「苦手もヘッタクレもあるかい!! それぞれの種族の仕事はそれぞれの長が仕切る。そういう決まりだろう。あんたもしっかり自分の種族の面倒みな」





騒がしい騒音が徐々に書物庫から離れていった。

わずかに開いた扉からラインハルトが閉め忘れた窓へと風が流れてゆく。

優しい風が置きっぱなし本を撫でてページがめくられていった。


最近まで殺し合いがあっていたとは全く感じさせない、穏やかな城内でのふとした一コマであった。




 夕飯時になると食堂は混雑が頂点に達する。

普段はある程度余裕のある大きさの食堂も、昨日の攻撃を受けて修復途中であり、

使えるスペースには今は限りがある。



その一角だけは混雑とは無縁でテーブルには二人しか座っておらず一人の話声だけが聞こえる。




「それですごかったんですよ。私、初めてだったんですけど、超はげしくて、口も使ってもらって」




声の主はベアトリスで向かいにいるエカテリーナに義清に子種を貰ったときの話をしている。

時折自分の後ろにハートがチラついているんじゃないか、というくらい幸せそうにベアトリスは話している。

対象的に、エカテリーナはうつむいて唇を噛んでは血を流し、若干だけ黒と紫のオーラを漏らしながら聞いている。




「流石に後ろの穴までは使わなかったですけど、文字通り宙に浮くほど気持ちよくて」




ベアトリスが言葉を続けるほどエカテリーナは唇を深く噛み、漏れるオーラが増してゆく。

周りの者はエカテリーナの異様な雰囲気にどこか開いているテーブルはないか、と急いでその場を離れてゆく。




「そのくらいにしときな。ここにいる全員が溶けちまうよ」




ゼノビアがベアトリスの横に食べ物を持って座りながら話を遮った。




「あ、聞いてくださいよ。ゼノビアさん。私、義清様の子供、ここにいるんですよ!!」




ベアトリスが自らの下腹部を撫でながら言った。

チラリとそれを見てゼノビアは




(アタシも義清様に体を品定めされるように見られたんだ。チャンスがないわけじゃない)




という思いを口に出そうと思った。

しかし、ベアトリスの言葉で目まで真っ赤にしながら唇をより深く噛みオーラの増すエカテリーナを見て

慌てて、ゼノビアはその言葉を飲み込んだ。


しかし、飲み込んだ意味はなかった。




「ゼノビアよ、負けてはおれんぞ。お前も義清様が子種が欲しいかと言われて体を見ておられたのだ。次はお前の番だな。」




ラインハルトがどっかりとエカテリーナの横に腰を降ろすとうまそうに酒を飲み、骨付き肉にかぶりつきながら言った。




「このバカ、余計な事を言うんじゃないよ。心配しなくても順当にいけば次は私が子種をもらえ‥‥‥」




反射的にラインハルトの言葉に答えたゼノビアがしまった、とエカテリーナの方を見ると

その赤くなった目がこちらを凝視して無言の圧力をかけていた。




「まってくれよエカテリーナ、義清様は別に私にくれるとは言ってないんだ!!私もこんな容姿だけど努力すればいつかはって話で‥‥‥」




必死にお茶を濁そうとするゼノビアだったが

ラインハルトは無情だった。




「そうだなゼノビアよ。考えてみれば体は二人とも狼に近いし

お前は角を気にしているのかしれんが、それを言うのならば義清様は顔が骨だ。

別にお互い気にする必要もあるまい。その体型ならばオス受けもする。

うむ、ゼノビア、次はお前に決まったようなもんだ」


「アタシが必死こいて違う方向に話しをそらそうとしてんのに、余計なこと言うんじゃないよ!!このサボりバカ!!」




更に強くなったエカテリーナの眼力に睨まれながらゼノビアがラインハルトにゲンコツを見舞った。

やられたラインハルトはなぜだ、俺は真実を言ったし、お前を褒めたのにと言って頭を押さえた。




そこでベアトリスが助け舟を出した。





「落ち着いてください、エカテリーナさん。すいません、あなたも義清様の子種が欲しかったんですね。気づきませんでした。大丈夫ですよ、努力が認められれば貰えるチャンスはあります」





屈託ない笑顔、毒気ゼロのキラキラとした笑顔でベアトリスはエカテリーナに笑いかけた。

そのやさしさに当てられたのか、エカテリーナからオーラが消えて頬も上がって笑顔になっていく。





「あ、でも、古代語は私の方が専門的なものは読めるし、直前で大失敗してますからゼノビアさんの方が先かもしれないですね」




キラキラとした悪気ゼロのベアトリスの言葉だったが、エカテリーナから笑顔が消え、出るオーラが先程の二倍になり唇をより深く噛んだ。




夕飯時の混雑が頂点に達した食堂。


その一角の混雑とは無縁のテーブルからラインハルト叫んだ。




「おい、なんだ、足元にある黒と紫のこの液体は!!」


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