プロローグ 落城
執筆中に聞いていた音楽です。
よければ読んでいる時にどうぞ
https://www.youtube.com/watch?v=rg7DcX3V3o8
「どうにもならんな」
義清は骨がむき出しになった自分の鼻をかきながら、城の窓から外の敵の大軍を見て呟いた。
鍵をかけただけの大手門は時間稼ぎにもならず突破され、防戦もままならないまま、敵は本丸の間近まで迫っていた。
「200年生きてきて最後がこれか」
義清はいわゆる転生者だ。
生まれた地球からこの世界へと転生し、迷宮の中から己の才覚だけでどうにか這い出してきた。
200年かけて信頼するに足る仲間を集め、徒党を組み、小さいながらも領地と城を持つに至った。
しかし義清にとって長く思える200年というその年月は、他の者にとってはあまりに急進的すぎた。
ダンジョン出身のモンスターである義清が迷宮の外に出た事だけでも珍事と言えるが、
そこから自分と違う種族と交流して徒党を組むなど、常識外もいいところだった。
そんないきさつから領地持ちとなった義清は、ある時、王都へ行かなければならなくなった。
それは王都にて年に一度開かれる祝賀会に参加する為であり、その祝賀会には、例えどんな小さな領地の貴族でも、なかば義務として参加する事が通例となっていたからだ。
そして祝賀会の場、そこで他の貴族からの向けられた反応は予想通りと言えた。彼らはそこかしこで義清の異様な出で立ちを侮蔑し、無遠慮に目を向けてきたのだ。
「獣にも劣る化け物が、よくもここに顔を出せたものだな」
と、あからさまな罵声を浴びせる者までいた。
義清の容姿が良くなかった。
義清の頭部は狼だ。しかし耳から上しか毛皮がなく、それ以外は目から鼻先まで骨がむき出しになっている。
本来目玉がはまるはずの位置には、頭蓋の奥から赤い眼光だけが灯っており、薄くなった毛皮で隠せていない腹筋の割れ目は、文字通りの割れ目となっており、その内部からは僅かに赤い光を放っていた。
おまけに首と胴が繋がっておらず、鎖骨から首にかけてはポッカリと漆黒の闇が覆っていた。さらに手の爪はむき出しで、これが靴を履いているとはいえ二本足で歩いているのである。
後になって家臣から、王都の貴族達が、義清の首と胴体の間にある闇の中からこちらを見ている何かに怯えながら義清と話したと噂していたと聞き、義清は思わず苦笑したものだ。
もちろん義清は体内にそんな化け物を飼ってはいない。
「余程ワシの事が怖かったのだろうな」
手足と胸にだけ銀色の鎧をつけ、その上から陣羽織を着て立つ義清は、ふと感慨に耽りながら、そっと己の襟元を撫でて笑った。
「よくまあ、この状況で笑っていられることですの」
その声に振り返ると、老ダークエルフで宰相のエカテリーナが呆れながらこちらを見ていた。
背丈が義清の3分の2ほどしかなく、丸めた背中にローブを纏っている。
「さては何か策がおありでは?」
濁った瞳をしているとはいえ、エカテリーナの瞳からは一縷の望みを期待しているのがわかった。しかし、エカテリーナの質問に義清は首を振った。
「すまんが、門を突破された時点でどうにもできない」
一瞬で先程の希望を砕かれたエカテリーナが表情を翳らせるが、一瞬の逡巡の後、階下の家臣に最後の言葉をかけるように言うと、一緒に部屋を出るように促してきた。
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次回更新予定日 2020/2/16
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