お披露目イベント開幕!
別室に連れて行かれた私たちはいきなり、この衣装に着替えろといわれて服を着替えていた。白いブラウスに、私は赤、結那は紫、あかりは白、茉莉は緑、加奈は青のひらひらとしたお嬢様のようなスカートを身につけた。髪型もそれぞれメイクさんにしてもらうことになり、私は髪が腰まであるロングなので髪の横の毛で三つ編みのカチューシャを作って髪はおろした。結那はななめくくりを綺麗にまとめ直してもらい、あかりはポニーテールの髪の毛をふわふわにしてもらっていた。茉莉はおろしたままだったが、鎖骨下くらいの髪はそれでも綺麗にまとまった感があり、特別なことをしなくても綺麗だった。加奈も同じで、ボブのまま少し整えただけだった。茉莉以外それぞれイヤリングをつけるのだが、私は月、結那はリボン、あかりは雫、加奈は花。着替え終わったことを伝えると向井はすぐに車に乗せ、そこで説明を始めた。
「今日のお披露目会は本当にただのお披露目会だ。集まってくれた人に自分をアピールしてくれ。一部と二部があるんだが、一部はトーク、二部は集まった人がそれぞれ気になった子に握手しに行く握手会だ。今まで知らない人と握手なんてしたことないだろうが、仕事だから自分の色を出して頑張れ」
「はい」
六人の声は緊張でまた上ずる。ただの私服のような衣装を着てもあまりアイドル!という気分にならず、とても微妙な感じだ。本当にこのグループは大丈夫なのだろうか。不安になっていたとき向井が声を発した。
「一応このお披露目会は前々から宣伝していて抽選、ってことになってるからある程度来場人数はこっちでわかるんだけど、聞きたい?」
退屈そうに言う向井。きっとそんなにいないんだろうな。十人とか、二十人とか。
「お願いします、聞きたいです」
そういったのは、加奈だった。えっ?と加奈の座席に振り返る。あまりに熱のこもった声に驚いた。
「そうか…。ざっと三百人。かき集めてこの人数だからもう少し少ないかもしれない」
まさか、百を超えているとは思わなかった。思わず変な声が出そうになって慌てて口を閉じる。
「結構いるんですね」
茉莉が私と同じようなことを思ったのか呟き、ホッとしていた。
「そろそろ十時だな。開演は十一時予定だが、会場内には相手がもうたくさんいる。不安だと思うが楽屋で少し握手の練習でもしておいてくれ」
会場につき、裏口から入る。なんだか急に芸能人になったみたいで、ドキドキしてきた。楽屋には『新グループ六名』と書いてあり、まだ名前決まっていないのか、とようやく気付いた。
楽屋に入ると席ごとに手書きでそれぞれの名前が書いてあり、その通りに席につく。メイクが最終チェックとメイク直しをしてくれている間に隣になった加奈に話しかけた。
「緊張する?」
「ううん、今はまだ。なんか夢を見てるみたいで」
まっすぐ鏡を見る彼女がかっこよくて、また見惚れてしまう。また口を開こうとするとスタッフと思わしき人が話しかけてきた。
「今日限りだけどリーダーを久保さんにするのでステージ上がるときはこれ持って行ってね」
そんなにすることはないから大丈夫だよ、といっているが無理に決まっている。すでに心臓はバクバクなのに、口から内臓が出てきそうだ。
「うん、気楽に頑張ってね」
「…はい」
一気に気が重くなった。加奈がにこにこしながら背中をさすってくれる。
「大丈夫だよ、支えるからさ。頑張ろう、月歌」
「う~、なにかあったらよろしくね、加奈」
そういえば私はまだメンバーについてほぼ何も知らない。名前くらいなら知ってるけど、そんな私がみんなを引っ張るなんて無理だ、と心が折れかけた。
「泣くとメイク崩れるからあんまり泣かないでね」
後ろからメイクさんの声が聞こえてすみません、と慌てて目を乾かした。
がやがやとした会場の空気、忙しなく動くスタッフさんの緊張感、メンバーの不安感。このあとは注意事項を初めて茉莉と結那が言い、進行の声優さんが進行表通りに名前を読み上げ、一人ずつステージに出て行く。緊張で場が張り詰める中、開演十分前を迎える。
「皆さん、本日は向井プロデュースアイドルグループお披露目会にご来場いただきまして、誠にありがとうございます」
茉莉が声を発すると会場が静かになった。
「開演に先立ちまして、注意事項を申し上げます。携帯電話はマナーモードにしてカバンの中へお願いいたします。また、今回のイベントでの撮影・録音は固く遠慮させて頂きます。もし見つけた場合は会が進行できなくなる恐れがありますのでご注意ください」
マイクを渡して結那の番。
「初めてのイベントで緊張しているので、温かい目で見守ってください。罵倒などの汚い言葉を聞いた場合退場していただく場合があります。アイドルの前に一人の女の子ですので、悪口を言いたくなったら可愛い!と口に出していってください?え?あっ、以上のことを守り、楽しいイベントにしましょう!以上、星野結那と」
「河合茉莉でした」
パチパチと拍手が聞こえる。詰まりながらもかなり上手に言えていて、私も小さく拍手した。
そして、十一時になり音楽が流れる。落ち着くために、息を吸った。
「皆さん、お待たせいたしました。これから新アイドルグループ六人が、ステージへあがります。大きな拍手でお迎えください!」
観客からの拍手が聞こえたのを確認し、深呼吸をする。
「まずは、六人の中で一番お姉さん。弾けた笑顔で黒髪ポニーテールがよく似合う、清水あかりちゃん!」
あかりがゆっくりと歩いていく。ステージ上に出ると、たくさんの可愛い、や推すぞ、という声が聞こえた。
「このグループの圧倒的妹、まだ中学一年生の立石天ちゃん!」
にこっと笑顔で私たちに手を振ってるんるんでステージ上へ歩いていく。
「圧倒的美少女!お嬢様な大和撫子、先ほどはアナウンスも頑張ってくれました星野結那ちゃん!」
一際大きな歓声があがり、結那が歩き出す。光に照らされた結那を観客が笑う。そして、右手と右足一緒に出てるよー、という掛け声まで飛んだ。なんとか定位置にたどり着けていた。
「モデル顔負けのスタイル、おっとりしたみんなのお姉さん、河合茉莉ちゃん!」
綺麗な姿勢で歩いていく。観客からも指笛が聞こえた。
「グループ唯一のボブ、クールビューティー担当塩月加奈ちゃん!」
今までのメンバーで一番の歓声だった。すぐに加奈、と名前を呼ぶ声が聞こえる。
「そして、最後は色素薄い系女子、親はアメリカとのハーフ、久保月歌ちゃんです!」
頑張れ、と声が聞こえた。定位置に立って会場を見渡す。…なかなかに狭い会場だ。
「えっと、じゃあまずは自己紹介をしていきたいと思います。」
今まで何度も考えてきた自己紹介を頭の中で反芻する。
「誰から聞きたいですかー?」
私はアイドル、私はアイドル、私はアイドル!!暗示をかけて心を落ち着かせる。
「なるほど、じゃあ茉莉ちゃんから!」
「えぇ!はい、東京都出身、高校三年生十七歳の河合茉莉です。かわいいまつりちゃんって言ってください」
まるで語尾にハートマークがつきそうな甘い話し方だ。観客もめろめろで、はーい、と叫んでいる。
「じゃあ次は立石天ちゃんお願いします!」
「はぁい、みんなの妹になりたいからお兄ちゃんって呼んでもいいですかー??」
観客の男性が全力ではい、という。
「えへへ、ありがとうございますっ。秋田県出身、中学一年生の十三歳、誕生日は3月の、立石天です!よろしくね~!」
なんだか一番すごい気がする。アイドルっぽい子だ。
「じゃあ星野結那ちゃん、お願いします!」
「は、はい…っ。えっと…」
言葉が出てこない結那に観客が頑張れ、と背中を押す。
「宮城県出身、高校二年生十六歳の、星野結那です…、緊張しいだけどアイドルは大好きです、よろしくお願いします!」
歓声と拍手が聞こえた。
「じゃああかりちゃん!」
「雑ちゃう??大阪府出身、最近十九歳になりました清水あかりです!好きなもんはたこ焼きです、よろしくお願いします!」
にぱっとした笑顔が可愛い。とにかく相手を元気にさせる子のようだった。
「じゃあ塩月加奈ちゃん!」
「福岡県出身、高校一年生十六歳の塩月加奈です。よろしくお願いします」
さすがクール、とてもクール。でもこの微笑みが見える一番前の席の人は、何人も見惚れていた。
「じゃあ最後私、千葉県出身、高校一年生十五歳の久保月歌です。ずっとアイドルになりたいという思いを持っていて、今までずっと頑張ってきました。今日皆さんの前にアイドルとして立てることがとても嬉しいです。これから先も、よろしくお願いします!」
頑張ろう、や名前を呼ぶ声がした。その言葉が心に来て、早くも泣きそうになったが加奈が背中に手を添えてくれたおかげでなんとか持ち直すことができた。
「では、こちらで準備した質問をメンバーの皆さんに聞いていきたいと思います」
声優さんがこちらに目を向ける。大丈夫です、とうなずくとすぐに進め始めた。
「では一つ目、皆さんの好きなアイドルは?じゃあ、久保さんからいきましょうか」
「はい、私は神宮歌47の、阪口史緒里さんが大好きで、憧れです」
「大人気な神宮歌47のセンターを経験されたことがあるメンバーですよね、どんなところがすきですか?」
「とにかく可愛くて、謙虚で、センター映えするところです!」
「なるほど、久保さんもそんなアイドルになれるように頑張ってくださいね」
そして全員に一つ目を聞き終わると、水飲んでいいよの合図が入った。リップを落とさないように飲み、椅子に座る。
「じゃあ二つ目です。皆さんの夢は何ですか??」




