口裂け女について
「口裂け女!」
「どうしたんだ急に」
「口裂け女って居るじゃん?」
「居ないよ」
「え?」
「口裂け女は都市伝説だから、居ないよ」
「いや、そうだけどさあ!話させてよ語らせてよ」
「何を話したいんだ?」
「アイツ速いんでしょ?」
「うん?」
「足が」
「足?」
「そう。足。なんでも100m3秒とか。すごいんじゃないですの奥さん?」
「俺は奥さんじゃないが」
「はい」
「はいじゃないが」
「速くない?」
「そだね」
「そうだよ!しかも、口裂けてるのに100m3秒だよ?」
「口裂けてるの関係ないと思うけど」
「100m3秒って言ったら時速120㎞だよ?」
「そうなるねえ」
「高速ならオービスに撮られてもおかしくないよ?」
「高速走ってたんならな」
「むしろ、そのスピードで突進されたほうが致命傷になると思うんだけど」
「『口裂け女』の特徴ゼロになるわ。そしたら別な名称の都市伝説になってるわ」
「ジェットババアとか?」
「もう居るわ。『ターボばあちゃん』っていう方が有名だけど」
「え、居るの?何キロ出すの?」
「時速140㎞以上らしい」
「負けてるじゃん!口裂け女何やってんの!?」
「口裂け女はスピードがメインじゃないんだよ」
「じゃあ、何がメインなのさ!」
「マスクして『アタシキレイ?』ってとこから始まる、あのお馴染みのやり取りだよ!」
「あんなの喋ってる最中に硫酸とか塩酸とかいっぱいかけりゃ良いじゃん!」
「そんなの普通持ってないだろ!」
「じゃあ、洗剤とかで良いよ!」
「洗剤も持ち歩くやつあんま居ないだろ!」
「じゃあもうペットボトルのお茶とか、何でも持ってる液体かけりゃ良いじゃん!」
「何で液体にこだわるんだよ!」
「びっしょびしょで俊敏に動けるやつ居ないでしょ!」
「そうかもしれないけどさ…」
「もう、油とか周りに撒いちゃえば良いんだよ。走ろうとしたら滑るだろうし」
「ポマード…」
「火とかもつけちゃえ燃やしちゃえ」
「いや、せめてポマードを出せよ…」
「口裂け女!ツー!」
「何なんだ急に」
「編集点だよ」
「何だよそれ?」
「番組ならCM!コントならオチまでいった合図!小説やドラマなら『一方その頃』的な場面の挿入を入れられるの!」
「良くわかんないんだけど…」
「ポマード?そいつ速いの?」
「何?続きやんの?今のやり取りは無かったことになるの?」
「突っ込んで!『ポマードは整髪剤だよ!』って突っ込んで!」
「知ってるんじゃねえか」
「口裂け女を整形手術した医者がポマードベッタリつけてたから、口裂け女はポマードが苦手うんぬんのトリビアを言って!」
「経緯も全部知ってるんじゃねえか」
「ええ!?それがホントだったら口裂け女って都市伝説どころかただの常人じゃん!」
「どうなってるの?今お前が言ったことは、俺が言ったことになってるの?」
「都市伝説抜きで人類最速っていったらウサインとボルトだよね」
「分けるな。同一人物だ」
「そのウサイン・トボルトなんだけど…」
「くっつけんな。多分そんな人は居ない」
「え?都市伝説だから?」
「違うわ!人名!」
「とりま、その人って100m9秒58なのさ」
「ああ、そうなの?」
「単純に時速に直すと37.58㎞」
「計算早いな」
「瞬間最高速は44.17㎞らしいよ」
「すごいじゃん」
「おっそい!」
「遅くねえよ!」
「口裂け女に負けてんじゃん!」
「その人は都市伝説じゃねえんだよ!」
「多分アタシより遅い!」
「世界記録だよ!」