序章
第二章を始めることにしました。
のですが、相変わらずの適当な感じで、好きなことを好きなように書く予定です。
思い付くままに書くので、そのうち破綻するかもしれませんが、ラブ<<<<<コメにはまず変わりはないでしょう……。
良ければお付き合いくださいませ。
燃え盛る火と、国土を踏み荒らす軍靴と馬蹄と、剣戟の音が絶え間なくこだましていた。
「お前たちが、悪魔であれば良かった。……今、俺の方が悪魔に見えるのだろうな」
突然炎と共に現れて鬼のような巨躯で立ち塞がった男が、最後に籠城した砦の広間に立ってそう言った。ごぉうごぉうと唸る火勢にも負けるような声なのに、不思議とよく聞こえた。
そうして。
まるで約束された結末のように、父の首は落ち、母は身を投げた。
そしてともに逃げるはずだった姉は――。
「いつか国を……わたくしの怨みを晴らして……!」
その叫びを最後に、山中に置き去りにした。その末路を、十二分に承知しながら。
泣いて泣いて泣いて、それでも涙はしつこく枯れなかった。
その時から、可愛いだけの弱い女は、やめた。
弱い少女は、幸せな日々の中に置き去りにする。それは未練で欺瞞で自己満足で、誓いだった。
いつか必ず、少女を迎えにいくから。
でも。
ふと見てしまった鏡の中に姉の面差しがちらつくと、どうしても押さえきれない情動が顔を出す。
(あなたのために、生きたいだけなのに――――)
願いは、いつだって叶わない。
◇
「わたくしが誰なのか、よく分かっているのでしょうね?」
薄暗くカビ臭い空間に、問いというには脅迫的な声が響く。それに応えたのは、至極穏やかな声であった。
「えぇ、勿論。見捨てられたお嬢さん?」
くつくつと、愉快そうに喉を鳴らす。けれど鼻につく魚油の灯りに浮かぶその瞳も口許も、少しも笑ってなどいないと知っている。だが生憎、そんな態度に臆する殊勝さなど半年ほど前に捨てていた。
「だったら、わたくしが誰にも隷属しないことも知っているでしょう」
「えぇ。ですから、やりようは考えてあります」
「そう、それは愉しみね」
嫌味に屈せず、笑う。あくまでも上品に、穏やかに。
ギィギィと鳴る床板に隙間風、上級貴族の笑みを彩るにはあまりに華やかさに欠けるが、ここが社交場でも断頭台の上でも、やることは変わらない。
自分が自分であり続けるためなら、選択肢を作り出すなど造作もない。
しかし表面上は穏やかだった会話は、もう一人の闖入者によって呆気なく瓦解した。
「……気高さなんて、クソの役にも立ちはしない」
「あら、あなた、社交界に出たことがなくて?」
バチン!
頬が熱い、と思った時には、床に転がっていた。頬を強打されたのだとは分かっても、反論する時間はなかった。襟首を捕まれ、何度も何度も執拗に平手を食らう。口の中に鉄臭い血の味が滲む。
「おやめなさい」
最初の声が、やっと制止する。床に放置されたままなのは、屈辱を植え付けるためか、温情か。
二人は部屋から消えたが、どちらにしろ、やることは変わらない。
(……あぁ、でも)
こんな時、浮かぶ名前が一つあった。
けれど今は、何故かもう一つの名前が、胸をよぎった。
何の力もなく、知識もなく、役には立たぬと分かっているのに。
『ずっと信じてるから』
そう、能天気に言ったあの声が、幾度もこの身を奮い起たせるから。
(えぇ。わたくしもよ――)
独り、呟く。絶望など、まだお呼びではないのだ。
書き忘れていた一文を追加しました。




