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後日談 小夜の事だけを考えていたい

という名の余談というか、蛇足というか。

なんとなく書きたくなったので。

読まなくても全く問題ありません。

とりあえず、タイトル詐欺ですすみません……。


 小夜が呑気な顔でクィントゥス侯爵邸に帰ったのを見送った翌日。

 小夜の返還が無事に済んだかの確認と、簡単な事情説明のために再び侯爵邸を訪れると、セシリィが問答無用でルキアノスに指先を突き立てた。


「聞いてないわよ、小夜が本物の聖泉の乙女デスピニスだったなんて!」


 綺麗に手入れされたその指を眺めながら、ルキアノスはやはりきたかと嘆息した。


「その台詞なら昨日も聞いたが?」


「昨日は小夜が疲れていたから続きをやめてあげたのよ。この意味が分かる? ルーク」


 事と次第によっては魔法で手加減なく叩き潰すという宣言だろうか。相変わらず、大切なもののことになると沸点の低い女である。


「お前も空間魔法を使って疲れてるんじゃないか? 立て続けに使うのは体に良くないぞ」


「ご忠告痛み入るわ。あなたが寝込んだ後にゆっくり養生するから平気よ」


「この後も、一応仕事はあるんだがな」


「どうせ始末書でしょ」


 セシリィと二人になると、どうにも皮肉の応酬が止まらない。小夜がいなければ、この二人の距離などこんなものだ。


「お二人とも。その辺でお止めなさい」


 どう説明したものかと思量していたら、傍観者に徹していたメラニア・クィントゥスが仲裁を買って出た。


「でも伯母様、小夜が」


「どこも怪我はしていないと仰っていたでしょう。それに、殿下があのお方を自ら利用して危険に晒すなど、到底有り得ないことです」


「全くだ」


「殿下も、心に決めた女性一人守りきれないことを少しは恥じねばなりませんよ」


「ぅ……」


 酷いとばっちりがきた。あまりの至言にぐうの音も出ない。

 セシリィがざまあみろとばかりに口端を吊り上げたが、それもまたメラニアの一睨みに封じられた。


「二人とも、今回のことで起きた結果を、その副次的なものまで細大漏らさず見定めなければなりませんよ。偏った物の見方は、慢心と失敗を招きます」


「「はい……」」


 二人揃って怒られ、嫌でも子供の頃を思い出す。

 レオニダスが仕事で忙しい時分には、セシリィの付き添いはメラニアが多かった。エヴィエニスはセシリィの相手をするようにと言われていたし、ルキアノスもまたよく一緒にいた。そこにレヴァンも加わるようになると、小言の回数は格段に跳ね上がったものだ。


(さっさと退散するか)


 この屋敷にいるとろくなことがない。ルキアノスはとっとと応接室を後にした。

 だが玄関ホールを出たところで、セシリィが思案げに話しかけてきた。


「……ねぇ。ファニが陛下と取引をしていたというのは、本当?」


 ルキアノスが小夜のために駆けずり回っていた間、王都ではセシリィやファニたちが色々と大変だったらしいとは既に聞いている。何だかんだと歩み寄りが出来ていなかった二人だが、今回のことで少しは心境の変化でもあったのかもしれない。


「いざとなれば罪を晒すと言われて、ファニは自分から告白すると答えたいたらしいな」


 その時の会話は想像するしかないが、ファニははっきりとテレイオスは仇と断言したとは聞いた。

 どちらにしろ、二人の願いはエヴィエニスが良き国王になるという点では共通している。

 そしてそれはルキアノスも同じなので、全力で助力するつもりではある。


(とっとと閑職もぎ取って辺境にでも行かないと、小夜が……!)


 警戒して近寄って来ない。と、死活問題に頭を痛めていると、セシリィが呆れたように嘆息した。


「最初から、猫かぶりなんてしなければ良かったのよ。そうすれば……」


「正面から完膚なきまでに捩じ伏せるだけだろ?」


 少しの自責の念を見せたセシリィに、ルキアノスは先回りして皮肉を言ってやった。実際、仲良くできたのにと言うような女ではない。まぁ、そこに小夜がいれば、また違ったかもしれないが。

 ともかく、セシリィにそんな殊勝さは似合わない。


「当然でしょう? 負ける要素がないのだから」


 瞠目したのは一瞬、意図を理解してすぐ、セシリィが実に高慢に口端を吊り上げた。相変わらず、淑女としては満点な女である。




       ◆




 エステス宮殿に帰ると、軽やかに跳ねてきたアフェリスに真っ先に捕まった。


「ルーク兄上ルーク兄上! 今度ボクの学寮に同室者が来るって本当!?」


 淡い金髪をくるくると跳ねさせて、アフェリスがルキアノスの体にしがみつく。その頬は相変わらず十四歳になったというのに幼さを残し、鉄灰色の瞳は自分と同じと思えないくらいキラキラと輝いている。

 テレイオスの面影がほとんどない弟の笑顔は基本的には癒されるのだが、今日はさすがにもう部屋に帰って休みたい気分であった。

 だがアフェリスは、一度捕まるときちんと相手をしないといつまでもしつこく食い下がる。

 ルキアノスは諦めて、髪も体もよく跳ねる末弟に向き直った。


「誰から聞いた?」


「エヴィ兄上から! ルーク兄上が知ってるって!」


(くそ、先手を打たれた……!)


 イディオの存在については、テレイオスから既に詳細を聞いているのだろう。こうなると、イディオがあの外見年齢に合わせて王立専学校に入ってくるのは確実である。

 しかし貴族でもないが平民ともくくれないイディオをどこに所属させるかという問題に、第三王子の学寮とは、これ以上の適所も確かにない。


(しかし、嫌な取り合わせだな)


 これで二度と学校に近寄る理由はなくなった。学年が被っていなくて大変喜ばしい。


「ずっと、ディドーミ大神殿で神職者見習いをしていたクソ生意気なガキが来るとは聞いたな」


「同い年なんでしょ!? ボクすっごい楽しみ!」


「同学年になるかは分からんぞ。来るのは新学期からだろうし、向こうで多少は学んでいただろうが……」


「ボク一番最初に抜け道教えてあげるんだ! それで一緒に王城ここまで探検するの! あとね!」


「待て待て! あいつは魔法は全く使えないからな!? 変なことは教えるなよっ?」


「大丈夫! ボク得意だから!」


「…………」


 こんな所で過去の悪行が巡り巡ってくるとは。まだ始まってもいないのに凄まじい不安が押し寄せた。先程別れたばかりなのに早くも小夜成分を補給したくなる。


「そう言えば、また『小夜』はいないの?」


 少し未来の楽しみを粗方数え終わったアフェリスが、思い出したように言う。

 相変わらず、アフェリスは不思議と色々なところで間が良い。本人は無自覚だから余計に厄介だ。


「小夜は帰った。また今度な」


 前回召喚された時には、舞踏会で同じ空間にいたのだが、あの時はアフェリスがトリコに夢中だったために小夜との接触を逃していた。お陰で、アフェリスはいまだに小夜と面識がない。

 しかしルキアノスとしては、これ以上小夜に誰かを会わせるのは本意ではなかった。


こいつの声までセイユウがどうのとか言われたら堪らんからな)


 父の声にまで反応した日には、油断していた分、はらわたが煮えくり返るかと思ったほどだ。

 ただでさえアフェリスは婦女子たちの間で人気が高く、陰では王家唯一の良心とか天使とか言われているのだ。小夜までほだされてはたまったものではない。


(ギリギリまで会わせない)


 ついでに二度とイディオにも会わせない。護衛のイスヒスにも会わせない。いま決めた。


「また今度かぁ。楽しみだなぁ」


 回廊を並んで歩きながら、アフェリスがうきうきと横揺れに変わる。とりあえずエヴィエニスの所に連れていって、ついでに文句も言おうと考えていたルキアノスは、また今度という単語に嫌でも考え込んだ。


(今度……今度って、いつだよ)


 小夜が帰ると、いつも次はどんな用件で喚ぼうかと考える。どんな理由なら誰にも文句を言われないかと。

 だがこれからは、小夜をどんな人間として喚ぶかも考えねばならない。

 もし本物の聖女を見たという人物に見付かれば、ややこしいことになる。

 絶望的だ、などとは言わない。


(やはり、まずは戸籍と住所だな)


 今度小夜を喚んだら、まず真っ先に小夜・畑中ではない全くの別人に仕立てあげよう、そうしよう。

 そのためには今から下準備がいるなと、どんどん具体的な手順を考え進めていたために、ルキアノスの会話能力は一時的におろそかになっていた。


「学校来る?」


「行くわけないだろ」


「じゃあ会いに行こっ」


「しまっ……」


 つい本音で返していた。再び足が止まる。

 今のは「その内な」とでも返すべきところだったのに。


「楽しみ楽しみぃっ」


「…………」


 実に嬉しそうな弟の背中に、ルキアノスは盛大な溜め息を吐き出した。これで確信犯ではないのだから、実に厄介だ。


(余計な悩み事が増えた……)


 小夜の事だけを考えていたいのにと、ルキアノスは眉間に皺を刻んで、弟の背中を追いかけた。



セシリィとアフェリスを書きたいという、ただの自己満足でした。

お粗末様でした……。

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